18 / 48
18 さざなぐ夜会へ
オスカーが指定した夜会当日。ラヴァール伯爵にエスコートされ入って来たキャロラインはざわめきと好奇の目に晒された。しかしそれに少しも怯むことなく、品の良い微笑みを浮かべる。
「ラヴァール伯爵、宜しいのですか?」
オスカー様の悪だくみに乗ってしまって、そこまでは言わずに問いかける。
「なぁに、年寄の暇をつぶしてくださると殿下がおっしゃるのだ。そしてキャロライン嬢をエスコートできる栄誉を手放すのは惜しいじゃろう?」
と、茶目っ気たっぷりにウインクするのでキャロラインも笑い返す。
開会の挨拶があり、ラヴァール伯爵は自分の旧知にキャロラインを紹介する。
「故あって我が家でお預かりしているお嬢さんだ。名前はキャロライン。家名は……訳ありでの、勘弁してもらえるか?」
伯爵より少し下がった位置で、きれいにお辞儀をする。口は挟まず、笑顔を浮かべるだけだ。
「ほう、そうですか。今宵は楽しまれていかれよ」
和やかな会話は流れているも、滲む侮蔑は隠しきれていない。キャロラインが隣の国で王太子に婚約破棄され、公爵家を追い出されたという事実は、ここに居る貴族ほぼ全員が把握済みだと言っても過言ではない。しかし、それもあまり夜会にはでないミシェール王女とオスカー王子が来ると話はガラリと変わった。
「キャロライン」
ミシェール王女は挨拶をすべき人に軽く済ませると、すぐさまキャロラインを名指しで呼びつけたのだ。
「伯爵、行ってまいりますね」
「おお、そうじゃの。わしは皆と話をしているからゆっくりしておいで」
「お気遣い感謝いたします」
体にぶれもなく、ケチのつけようもないきれいな礼をして、キャロラインは人ごみの中を滑るように歩いてゆく。ぶつかりそうになるも、するりするりとまるで踊るように抜けてゆくのだ。
その後ろ姿を満足そうに眺めているラヴァール伯爵に、彼の旧知は声をかける。
「伯爵、あの美しい令嬢はミシェール王女と懇意にしているのですか?」
完璧な王女と何かつながりが?そう聞きたいのだろう。
「懇意どころか、キャロライン嬢を我が家でお預かりするのは、ミシェール様から直接お願いされた事ゆえ。彼女とミシェール王女はとても仲の良い友人関係を築いておられます。良く我が家に王女様が来られますぞ」
「な、なんですと……?あの傷物令嬢がまさか王女様と……」
「お声を小さく。傷物などと……王女とキャロライン嬢は友人と申したではないですか。友人を悪く言う者を王女は快くは思わないでしょうな」
はっと慌てて口を噤む友人に、ラヴァール伯爵はにやりと笑って見せる。
「キャロライン嬢はただの令嬢に非ず、ですぞ。ワシは思うのですがあれほどの令嬢が理由もなく婚約破棄をされるものでしょうか?もしや、何か自分から婚約破棄をさせたくなるほどの何かがあるのでは?と年寄は勘ぐってしまいたくなるのです」
「ほう?伯爵はあの令嬢自らそれを望み、そうさせたのではないかとお考えなのですね?」
ラヴァール伯爵はそれに白とも黒とも答えずに、好々爺の表情を崩さない。
「聞くところによると、件の王太子。公爵令嬢を手酷く捨て、子爵令嬢を婚約者に据えたとか。子爵令嬢について悪い噂は聞きませぬが……王太子たるものの後ろ盾としては……」
「然り……」
「かの子爵令嬢、実はミシェール様とご友人と噂もありますな」
別の貴族が口を挟む。情報は夜会の花だ。
「子爵令嬢は、あのシャンプーの開発者であるらしいと」
「だが身分が足りぬのではないか?王太子の婚約者としては……」
真実はともかくとして、噂は広がってゆく。それはミシェールとオスカーが意図した方向へと、広く広く浸透していった。
「ラヴァール伯爵、宜しいのですか?」
オスカー様の悪だくみに乗ってしまって、そこまでは言わずに問いかける。
「なぁに、年寄の暇をつぶしてくださると殿下がおっしゃるのだ。そしてキャロライン嬢をエスコートできる栄誉を手放すのは惜しいじゃろう?」
と、茶目っ気たっぷりにウインクするのでキャロラインも笑い返す。
開会の挨拶があり、ラヴァール伯爵は自分の旧知にキャロラインを紹介する。
「故あって我が家でお預かりしているお嬢さんだ。名前はキャロライン。家名は……訳ありでの、勘弁してもらえるか?」
伯爵より少し下がった位置で、きれいにお辞儀をする。口は挟まず、笑顔を浮かべるだけだ。
「ほう、そうですか。今宵は楽しまれていかれよ」
和やかな会話は流れているも、滲む侮蔑は隠しきれていない。キャロラインが隣の国で王太子に婚約破棄され、公爵家を追い出されたという事実は、ここに居る貴族ほぼ全員が把握済みだと言っても過言ではない。しかし、それもあまり夜会にはでないミシェール王女とオスカー王子が来ると話はガラリと変わった。
「キャロライン」
ミシェール王女は挨拶をすべき人に軽く済ませると、すぐさまキャロラインを名指しで呼びつけたのだ。
「伯爵、行ってまいりますね」
「おお、そうじゃの。わしは皆と話をしているからゆっくりしておいで」
「お気遣い感謝いたします」
体にぶれもなく、ケチのつけようもないきれいな礼をして、キャロラインは人ごみの中を滑るように歩いてゆく。ぶつかりそうになるも、するりするりとまるで踊るように抜けてゆくのだ。
その後ろ姿を満足そうに眺めているラヴァール伯爵に、彼の旧知は声をかける。
「伯爵、あの美しい令嬢はミシェール王女と懇意にしているのですか?」
完璧な王女と何かつながりが?そう聞きたいのだろう。
「懇意どころか、キャロライン嬢を我が家でお預かりするのは、ミシェール様から直接お願いされた事ゆえ。彼女とミシェール王女はとても仲の良い友人関係を築いておられます。良く我が家に王女様が来られますぞ」
「な、なんですと……?あの傷物令嬢がまさか王女様と……」
「お声を小さく。傷物などと……王女とキャロライン嬢は友人と申したではないですか。友人を悪く言う者を王女は快くは思わないでしょうな」
はっと慌てて口を噤む友人に、ラヴァール伯爵はにやりと笑って見せる。
「キャロライン嬢はただの令嬢に非ず、ですぞ。ワシは思うのですがあれほどの令嬢が理由もなく婚約破棄をされるものでしょうか?もしや、何か自分から婚約破棄をさせたくなるほどの何かがあるのでは?と年寄は勘ぐってしまいたくなるのです」
「ほう?伯爵はあの令嬢自らそれを望み、そうさせたのではないかとお考えなのですね?」
ラヴァール伯爵はそれに白とも黒とも答えずに、好々爺の表情を崩さない。
「聞くところによると、件の王太子。公爵令嬢を手酷く捨て、子爵令嬢を婚約者に据えたとか。子爵令嬢について悪い噂は聞きませぬが……王太子たるものの後ろ盾としては……」
「然り……」
「かの子爵令嬢、実はミシェール様とご友人と噂もありますな」
別の貴族が口を挟む。情報は夜会の花だ。
「子爵令嬢は、あのシャンプーの開発者であるらしいと」
「だが身分が足りぬのではないか?王太子の婚約者としては……」
真実はともかくとして、噂は広がってゆく。それはミシェールとオスカーが意図した方向へと、広く広く浸透していった。
あなたにおすすめの小説
魔力ゼロと捨てられた私を、王子がなぜか離してくれません ――無自覚聖女の王宮生活――
ムラサメ
恋愛
伯爵家で使用人同然に扱われてきた少女、エリナ。
魔力も才能もないとされ、義妹アリシアの影で静かに生きていた。
ある日、王国第一王子カイルの視察で運命が動き出す。
誰も気づかなかった“違和感”に、彼だけが目を留めて――。
やさしい・悪役令嬢
きぬがやあきら
恋愛
「そのようなところに立っていると、ずぶ濡れになりますわよ」
と、親切に忠告してあげただけだった。
それなのに、ずぶ濡れになったマリアナに”嫌がらせを指示した張本人はオデットだ”と、誤解を受ける。
友人もなく、気の毒な転入生を気にかけただけなのに。
あろうことか、オデットの婚約者ルシアンにまで言いつけられる始末だ。
美貌に、教養、権力、果ては将来の王太子妃の座まで持ち、何不自由なく育った箱入り娘のオデットと、庶民上がりのたくましい子爵令嬢マリアナの、静かな戦いの火蓋が切って落とされた。
すみっこ婚約破棄同盟〜王子様による婚約破棄のすみっこで〜
まりー
恋愛
ある夜会で王子とその側近達の婚約破棄が行われた。腕に恋人をぶら下げて。所謂、王道断罪劇である。
でもこのお話の主役は麗しのヒロインでも、キラキラ王子でも、学園一の秀才や騎士団期待のホープでもない。これは王道のすみっこで行われた、弱小貴族と商人の子息たちの婚約破棄のお話である。
_ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _
「もう俺ら、恋なんてしない!」と言う小学生の息子の話を参考に書きました。登場人物の男子たちの頭は小学生レベルだと思って読んでください。
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
婚約破棄を突き付けてきた貴方なんか助けたくないのですが
夢呼
恋愛
エリーゼ・ミレー侯爵令嬢はこの国の第三王子レオナルドと婚約関係にあったが、当の二人は犬猿の仲。
ある日、とうとうエリーゼはレオナルドから婚約破棄を突き付けられる。
「婚約破棄上等!」
エリーゼは喜んで受け入れるが、その翌日、レオナルドは行方をくらました!
殿下は一体どこに?!
・・・どういうわけか、レオナルドはエリーゼのもとにいた。なぜか二歳児の姿で。
王宮の権力争いに巻き込まれ、謎の薬を飲まされてしまい、幼児になってしまったレオナルドを、既に他人になったはずのエリーゼが保護する羽目になってしまった。
殿下、どうして私があなたなんか助けなきゃいけないんですか?
本当に迷惑なんですけど。
拗らせ王子と毒舌令嬢のお話です。
※世界観は非常×2にゆるいです。
文字数が多くなりましたので、短編から長編へ変更しました。申し訳ありません。
カクヨム様にも投稿しております。
レオナルド目線の回は*を付けました。
幸せなお飾りの妻になります!
風見ゆうみ
恋愛
私、アイリス・ノマド男爵令嬢は、幼い頃から家族のイタズラ癖に悩まされ、少しでも早く自立しようと考えていた。
婚約者のロバート・デヴァイスと、家族と共に出席した夜会で、ロバートから突然、婚約破棄を宣言された上に、私の妹と一緒になりたいと言われてしまう。
ショックで会場を出ようとすると引き止められ、さっきの発言はいつものイタズラだと言われる。
イタズラにも程があると会場を飛び出した私の前に現れたのは、パーティーの主催者であるリアム・マオニール公爵だった。
一部始終を見ていた彼は、お飾りの妻を探しているといい、家族から逃げ出したかった私は彼の元へと嫁ぐ事になった。
屋敷の人もとても優しくて、こんなに幸せでいいの?
幸せを感じていたのも束の間、両親や妹、そして元婚約者が私に戻ってこいと言い出しはじめて――。
今更、後悔されても知らないわ!
※作者独自の異世界の世界観であり、設定はゆるゆるで、ご都合主義です。
※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。
【完結】悪役令嬢だったみたいなので婚約から回避してみた
22時完結
恋愛
春風に彩られた王国で、名門貴族ロゼリア家の娘ナタリアは、ある日見た悪夢によって人生が一変する。夢の中、彼女は「悪役令嬢」として婚約を破棄され、王国から追放される未来を目撃する。それを避けるため、彼女は最愛の王太子アレクサンダーから距離を置き、自らを守ろうとするが、彼の深い愛と執着が彼女の運命を変えていく。
あなたのおかげで吹っ切れました〜私のお金目当てならお望み通りに。ただし利子付きです
じじ
恋愛
「あんな女、金だけのためさ」
アリアナ=ゾーイはその日、初めて婚約者のハンゼ公爵の本音を知った。
金銭だけが目的の結婚。それを知った私が泣いて暮らすとでも?おあいにくさま。あなたに恋した少女は、あなたの本音を聞いた瞬間消え去ったわ。
私が金づるにしか見えないのなら、お望み通りあなたのためにお金を用意しますわ…ただし、利子付きで。