【完結】シュガーのどくやく屋さんへようこそ〜うかつに触ると死にますよ?〜

鏑木 うりこ

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人族の街

19 王子side

 真っ直ぐに俺は侯爵家に向かった。美しい令嬢であったが、いつもおどおとしているアイリーンのことはどうでも良かった。
 だが、そのアイリーンが結婚の話をした途端、顔を青くし倒れ、しかも自ら毒を煽ったと言うのだ。

馬鹿にされた!

 かっとなって絶対に治して、しつけ直してやる!そう思った。

 アイリーンの毒の入手経路はなかなか分からなかったが、侯爵家の引退した老執事がやっと重い口を開いた。

「必ず、合言葉を使いますよう!決して無礼を働きませんよう!相手は素人ではないのです!」

「何度も言うな、しつこいぞ」

 所詮下町の下賤の者。金さえ積めばすぐに引き渡すだろう。シュガーという毒使いの名前をそこで始めて聞いた。

 その汚い店はすぐに見つかったが、逃げられた。次は衛兵を連れて行ったがまた逃げられた。

「なんという事を!何という事を!!」

 老執事は次の日に自ら命を断っていた。
 そこからピタリとなんの情報も入らなくなった。金をつんでやっとシュガーが来るという酒場の情報を手に入れた。
 アイリーンが毒を飲んでから6日目だ。彼女の執事という男が同行を申し出て来たので了承した。

 シュガーという男はまだ若い。少年と言っても良いくらいだった。酷く不愉快な男だった。王子を何だと思っているのだ。腹が立って仕方がない、しかも解毒剤の値段が馬鹿げている!600万だと…しかし、侯爵家が持たせてくれた金で払う事が出来た。

 今、その瓶を持ってアイリーンの前に立っている。アイリーンは頬を赤らめ、幸せそうに微笑んでいる。あの毒使いが言ったように、1番幸せな夢を見ているんだろう。
 無性に腹が立った。俺がこんなに苦労して手に入れて来てやったのに、こいつは呑気に寝ていやがる。
 にやけた頬を一発平手打ちしてやろうかと思った時、一緒に行った執事がとんでもない事を言い出した。

「このまま、幸せなまま…眠らせて差し上げては如何でしょう……」

「何を馬鹿なことを!600万もしたのだぞ!」

「しかし!しかし、お嬢様はこんなに笑っていらっしゃる!この数年見たこともない程、幸せそうに!」

 アイリーンの寝室には俺と、執事、侯爵夫妻、医師と護衛が数人いた。
 アイリーンの執事は苦しそうに吐き出す。

「お嬢様は…ここずっとふさぎこんでいらっしゃった!旦那様と奥様のご期待に答えようと。いくら冷たくされても、お妃教育も休むことなく頑張られていました!」

 侯爵夫妻は静かにうつむいた。

「黙れ!執事の分際で!このまま馬鹿にされたままにしろというのか!結婚が嫌で婚約者が毒を飲んで死んだ王子と罵られたままにしろと言うのか!」

 俺は解毒剤を持ってパキンと蓋を開けた。アイリーンの口に突っ込めば良い。

「おやめください!王子!あの薬師は申しておりました!お嬢様が大事なら飲ませてはならないと!おやめくださいっ!」

 俺にすがりついて、解毒剤の瓶に手を伸ばす執事を蹴り飛ばす。

「黙れ!アイリーンには起きて貰わねばならぬ!俺の為にな!」

 しゃっと腰から剣を引き抜き、執事を斬りつける。

「ぎゃっ!」

「護衛ども!そいつは邪魔だ!」

 慌てて護衛の騎士は執事を押さえつける。

「おやめください!やめ、やめろーーーー!」

 暴れる執事に騎士は剣を振り上げた。執事は肩からざっくり斬られ致命傷になっただろう。

 侯爵夫妻は顔を真っ青にして、見ていた。俺はアイリーンの口に瓶を入れ、中身をすべて注いだ。中身といっても小瓶なので大した量はない。
 細い首が微かに動き、薬を飲み込んだようだった。

「おじょ…さ、ま……」

 執事の切れ切れの声が聞こえる。アイリーンの目がうっすら開いた。あの毒使い、嫌な奴だが腕は確かなようだ。

「アイリーン!アイリーン?!」

 侯爵夫人がアイリーンに抱きつく。アイリーンは

「いやああああああーーーー!」

 絶叫した。

「痛いっ!痛いっ!痛いっ!!!頭が割れる!痛い!全部痛いっ!!!助けっあーーーっ!」

 ベッドの上で髪を振り乱す。

「ああああああーーー!痛いっ苦しいっのどが焼けるっ!!!痛いっ!あの幸せはどこなのっ助けて!助けてーーー!」

「アイリーン!お母様はここよ!」

 夫人はアイリーンに抱きついた。

「お母様っ!痛いっ痛いの!どこもかしこも痛いのおおお!さっきまで私、幸せだったのに!痛いのっ!どうして!どうしてなの?!助けて!おかあさまっ!助けて!助けてっ!」

 ボロボロとアイリーンは涙を零す。

「どういう事だ!解毒剤ではなかったのか!」

 俺は医師に怒鳴りつける。

「おじょ…さま…すみ、ませ」

 執事はまだ息があった。
衛兵に取り押さえられ、ながらもアイリーンは動くところの全てを動かして叫んだ。

「助けて!痛いっ痛いーーーーー!」

「これは……」

 医師は首を傾げる。

「殿下、その薬師は何か言っていませんでしたか…?」

「そいつは何も言わなかった。ただ酒場のゴロツキどもは深度がどうとか……」

「深度……もしかして、毒の深度……?だとしたら大変です、このままではアイリーン嬢は苦しみながら死ぬ事になります」

「は?どういう事だ……?」

 この間にもアイリーンのヒステリックな叫びは屋敷中に響く。とうとう血反吐を吐きながらアイリーンは

「王子!あなたが!あなたが、私を起こしたのですか!!なぜです!なぜこんな非道な仕打ちを!ゆるしません!ゆるしませんっ!!楽にすら死なせてくれないなんて!恨みます!いやーーーー」

 ぞくりとした。目は血走り、髪を振り乱し、貴族令嬢の面影はない。

「おじょ…さま……すみません……私がお守りで、き、ず…」

 そのまま執事は息絶えた。俺は恐ろしくなった。

「王子、もう1度その薬師を訪ねなされ、何か教えてくれるかも知れません!決して、決して怒らせぬように!」

 俺は数人の騎士を伴って、下町と貧民街の境目にある汚い酒場を訪ねたが、店は閉まっていた。店の前に男が1人立ってニヤニヤしている。

「よぉ!あんときのボンボンじゃねーか。聞きたい事、あんだろ?」

 そう言って手を出してきた。金を寄越せのサインだ。騎士の1人に目配せすると、男に幾らか渡したようだ。

「マジでお前相場しらねーのな。早く帰ってかーちゃんに抱っこして貰えよ?」

「きさーーー」

「いけません」

 俺が叫ぶ前に騎士が止める。

「すまなかった。私が主人の意を汲めなかったのだ、主人に非はない。これでかたがつくとは思わんが許して欲しい。」

 大金貨を握らせる。大金貨は10万ギルになる。俺は驚いた。それが相場なのか?!

「話が分かる騎士様で嬉しいぜ。「深度」だろ。教えてやる」

 汚い男は俺も聞いた話しだがな、と前置きしてから

「毒には「深度」ってものがあるらしい。飲んで速攻なら解毒剤も良く効くし、1本で良いそうだ。……でも飲んでから時間が経つと、分かるな?全身に毒が回るんだと。」

「たった一滴だと聞きましたが」

「一滴でも調合した奴がやべぇなら、やべぇ効果が出んのさ」

 男はやべぇやべぇと繰り返す。

「でだ、死にかけの奴だと全身に回っちまってるから、何本も飲まねぇと治せねえって話だ。1週間で逝っちまう毒で6日目なら、まず3本は要るってよ」

「3本だと?!600万の解毒剤が3本など!ありえん!」

 うるせーガキだ。男は耳に指を突っ込んで不機嫌になる。

「ご主人さま、お黙ください!」

「ほんと、できた騎士さんだよ。そこのボンボンが最初からちゃんとしてりゃこんな事にならなかったのにな?次の日にちゃんと薬屋に行ったんだろ?馬鹿だねーあんた。そんとき買えりゃ100万で済んでたのによ」

 ゲラゲラと下品に笑った。

「どう…いう…」

 値段が全く違うではないか!

「迷惑料とか色々だよ。あと3倍で良いって言ったのアンタだろ。みんな聞いてたぜ?」

 確かに俺は言った。金なら払うと…しかしこんな高額とは知らなかったのだ。

「過ぎてしまったことはどうしようもありません。して、今後の治療はどうしたら?」

「無理だな。完全に切られた。俺たちも連絡がつけられん。何度も言われたろ?もう2度と会わないって。あんたにゃもう信用も義理も何にもねぇってことだ」

 俺もそろそろおさらばするぜ、と男は手を振る。

「待ってください!毒を飲んだ人はどうなってしまうのですか!」

「確か1本飲めば1日命が伸びるってよ。後は知らないな。」

「非常に苦しんでいるんです!どうすれば!」

「俺ぁ薬師じゃねーから分からんな。偉いお医者様に調合してもらえばいいんじゃね?」

 それっきり、男は姿を消した。


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