【完結】シュガーのどくやく屋さんへようこそ〜うかつに触ると死にますよ?〜

鏑木 うりこ

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人族の街

20 王子side+

 俺たちは手ぶらで戻るしか無かった。男に払った10万ギルがただ無駄になった。
 侯爵家に戻るとアイリーンの叫び声が聞こえてくる。

「あいつを!あいつを殺してぇえええ!痛いっ!痛いいいい!あいつのっあいつのせいよぉおおお!なんでわたしだけ!わたしだけ!こんなめにいい!」

「アイリーン!」

「あんたたちも!あいつの味方なんでしょ!いつもわたしだけ!苦しい!どこまでわたしを!苦しめるの!見て見ぬふり!呪われろ!呪われろ!死ね!みんな死んでしまえ!!!」

 ぞわりと恐怖が湧き上がった。大人しく言う事を聞くアイリーンはどこへ行ったのか。別人だ、違う気のふれた女が叫び声を上げているのだ。

そして、俺ではない誰かを呪っている。そうだ、そうに違いない。

「あいつだ!あいつのせいだ!セイクリッド!あのわがまま王子のせいで!私は私はーー!」

 俺は…俺の名前はセイクリッド……。

「セイクリッド王子、侯爵に報告に行きましょう。」

 後ろから声をかけられ、びくりと飛び上がった。

「俺は……俺は……帰る!お、お前!報告に行けっ!俺は城に帰るっ」

 俺は残りの騎士を連れ、侯爵家から逃げ出した。何かが俺の後を追いかけている気がして、夜の闇が恐ろしかった。

 騎士は事実を侯爵夫妻に語ったようだ。もうアイリーンには関わりたくない。

 悪いのはアイリーンだ!
 悪いのはあの薬師だ!
 俺は、俺は何も悪くない!!




「助けて…助けて…お父様もお母様も……誰も誰も助けてくれない…痛い…痛いよ…」

 アイリーンの喉は潰れて、髪は自分で引きちぎった。自分の爪で自分を引っ掻くからボロボロだ。
 両手両足を縛られ、指先さえ動かないように固定されている。それでも辛くて辛くて涙が止まらない。誰か、私を殺してください……。

「助けて……助けて……

 アイリーンの祈った。救いの手を!アイリーンの命の火はまだ消えない。解毒剤が注がれたのが、前日の夜遅く。今日のその頃まで死は訪れない。

殺して 殺して 殺して 殺して

 何度もお願いした。いざという時に気が弱い両親は叶えてくれない。こんなに痛くて苦しいのに、誰も誰も助けてくれなかった。忠実に仕えてくれた執事も死んでしまった。
 直前までみていたゆめが美しすぎた。だいぶ昔に失われた兄が、美人になったね、アイリーンは自慢の妹だよ。と心地の良い丘で花冠を編んでくれた。
 僕が可愛い妹を守って上げる。王子なんてクソくらえだ。どこで覚えて来たのか、おにいさまの言葉遣いはいただけない。

「おにいさま、アイリーンをたすけて……」

 日はまだ高く、アイリーンの寿命は尽きない。もう楽にして…お願い……。

 かちゃり、と窓のカギが空いた様な気がした。入ってくる風さえ、喉を焼き、頬がただれるように痛む。

「アイリーン…可愛い俺の妹」

「おに…いさま」

 パキンと薬瓶を折る音がする。

「今、楽にして上げるから…なんだか分かるかい?」

 今開けた薬瓶を鼻先に持って行く。すーっと鼻の痛みが嘘のように治った。

「ああ……ああ……分かるわ、おにいさま。あのお薬ね?」

「そうだ。君を死に誘う悪い薬だ」

 1嗅ぎしただけなのに、アイリーンの痛みは止まる。苦しみではなく、安堵ですうっと涙が落ちる。

「違うわ、おにいさま。私の望みを叶えてくれる優しいお薬よ、ああ、もう苦しくないわ」

「君はもう助からない。1瓶飲むと良い」

 アイリーンを戒めていた布やベルトを外して行く。全身から圧迫がなくなり、アイリーンはほぅとため息をついた。

「ええ、そうね。もう目も見えないのよ。手も動かないの……でも少しならあの夢は見られるかしら…?」

「あの毒屋は腕は良いし、良い子には優しい。願いは叶うだろう」

 目は落ち窪み、ボロボロの顔だったが、幸せそうにアイリーンは笑った。

「嬉しいわ。私の願いを叶えてくれるのは王子様じゃなくて、おにいさまと毒屋さんなのね、ふふ。やっぱり王子なんてクソくらえなのだわ」

 令状に相応しく微笑むとアイリーンは

「甘くて美味しい可愛い毒をくださいな。毒屋さんにありがとうと伝えてくださいませ、おにいさま」

 そっとアイリーンの唇に瓶をつけ、傾ける。薄い桜色の液体がとろりと流れ込む。痛めた喉にも優しいその味は叫び疲れたアイリーンの体を潤してくれた。

「ああ、なんだか気持ち良いわ」

 動かないはずの手に血が通う。自分で傷つけた皮膚が滑らかさを取り戻し、引き抜いた髪の毛までは元には戻らなかったが、剥がれた頭皮は戻り、髪に艶がでる。
 見えなくなった目のかすみも取れ、数年前に行方不明になったアイリーンの兄が目の前にいた。

「女の子は可愛いくないといけないそうだよ。サービスだって」

「まあ!毒屋さんって素敵な人なのね」

 剥がれた爪も元通りになっている。兄に頼んで鏡を持ってきてもらったアイリーンは笑った。これなら大丈夫、ちゃんと行けるわ。

「ありがとうおにいさま。そろそろお別れの時みたい、眠くなってきたわ」

 とろんと、アイリーンの目が薄く細められる。

「良い夢を」

「素敵ね、絶対良い夢が見られるって保証されてるんですもの」

 そうだな。もう2度と目を覚さないが。

「会えて嬉しかった。おにいさま…」

「ああ、俺もだよ」

 すぅっとアイリーンの瞳は閉じた。涙はなく、ただ微笑んでいた。

 静かに美しく眠るアイリーンをメイドの1人が見つけ、侯爵夫妻を呼びに行ったのはまだ日が高いうちだ。
 アイリーンはただ幸せそうに眠り、その日の夜中に心臓の鼓動が止まった。16歳だった。


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