子爵令嬢は溺愛前に罠を仕掛ける。

鏑木 うりこ

文字の大きさ
19 / 36

19 仲が良いのか悪いのか

しおりを挟む
「だ、だって……パトリシアは私の姪なのよ! それなのにあなたが勝手に連れて行こうとするから……」
「その件については説明しましたよね? とにかくこちらの国に連れてくることが先決だって」
「で、でもぉ……」

 なにか行き違いのお話でもあったんだろうか……こういう時、頼りになるのは執事のアレックスだ。

「アレックス、一体どういうことですか?」
「お嬢様に内密で進めていたことは申し訳ございません。しかし、この方法が一番お嬢様のためになると愚考いたしました」
「……そう……だったんですか」

 ダニエル様に婚約破棄をされ、レーゼン家を離れることを私が決意した後にアレックスはリオネル様と考えてくれたんだろうとは思うけれど、やはり相談はして欲しかったわ……。

「いち早くレーゼン家から離れることが重要と考えました。しかし想定外のことが起こり、心よりお詫び申し上げます」
「想定外とは叔母様のことね?」
「申し訳ございません」

 でも少し納得がいった気分だった。国家間の人の移動は、貴人になれば成程手続きが面倒になる。だからこそ、アレックスとリオネル様は私がレーゼン家から除籍され、平民となった所で移動を考えた。しかし、叔母様は私をミズリー家の養子とする書類を出してしまったのね……そうなると私は今はミズリー伯爵家の娘……貴族だ。貴族ともなれば時間がかかって当たり前になる。

「ミズリー夫人が余計なことをするから、こんな恥知らずな盗人どもがやってくるんですよ!」
「リオネル! あなたが私の許可なくパトリシアを連れて行こうとするからです!」
「許可は求めました! ミズリー伯爵にも許しを頂いています!」
「私とセルジオは許していませんよ!」
「ですからそれは国についてからゆっくり説明するつもりでした!」

 叔母様とリオネル様が激しく言いあっている……。激しい口論のはずなのに、何故か二人がとても仲良く見えて不思議な気がした……何故かしら?

「セルジオ様とリオネル様は仲の良いご親友でして、リオネル様は良くミズリー夫人に叱られておりましたよ」
「えっセルジオお兄様と仲が良いなんて聞いたことがありませんでした」

 セルジオお兄様は叔母様の息子のセルジオ・ミズリー伯爵令息になって、私より5つ年上のの立派な方です。私が叔母様に助けを求めに行ったときにも色々気にかけてくれたり、アドバイスを下さった頼りになる方。よく冗談で妹にならないか? といってくださっていたけれど、あれは本気だったのでしょうか。

「せっかくできた可愛い娘をすぐにリオネルに渡すなんてイヤぁ~~~!」
「隣の邸宅でしょうが! 我慢してくださいっ」
「セルジオも怒ってるのよ!」
「あいつめ……!」

 邸宅が隣? ミズリー家の家とリオネル様の家は隣同士で建っているんでしょうか? 不思議に思いアレックスを見ると、今度はにっこり笑っている。

「隣同士ですよ、生け垣の扉を抜ければすぐです」
「まあ」

 そんな近くに家を建てるなんてことは通常あまりないこと。よっぽど仲が良い家同士でなければしないはず。リオネル様と叔母様はああ見えてとっても仲良しなのですね。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄を突き付けられた方の事情 わかってます?

里中一叶
恋愛
学園の卒業パーティーで婚約破棄を高らかに発表する公爵子息。 された側の事情わかってますか?

その支払い、どこから出ていると思ってまして?

ばぅ
恋愛
「真実の愛を見つけた!婚約破棄だ!」と騒ぐ王太子。 でもその真実の愛の相手に贈ったドレスも宝石も、出所は全部うちの金なんですけど!? 国の財政の半分を支える公爵家の娘であるセレスティアに見限られた途端、 王家に課せられた融資は 即時全額返済へと切り替わる。 「愛で国は救えませんわ。 救えるのは――責任と実務能力です。」 金の力で国を支える公爵令嬢の、 爽快ザマァ逆転ストーリー! ⚫︎カクヨム、なろうにも投稿中

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

『二流』と言われて婚約破棄されたので、ざまぁしてやります!

志熊みゅう
恋愛
「どうして君は何をやらせても『二流』なんだ!」  皇太子レイモン殿下に、公衆の面前で婚約破棄された侯爵令嬢ソフィ。皇妃の命で地味な装いに徹し、妃教育にすべてを捧げた五年間は、あっさり否定された。それでも、ソフィはくじけない。婚約破棄をきっかけに、学生生活を楽しむと決めた彼女は、一気にイメチェン、大好きだったヴァイオリンを再開し、成績も急上昇!気づけばファンクラブまでできて、学生たちの注目の的に。  そして、音楽を通して親しくなった隣国の留学生・ジョルジュの正体は、なんと……?  『二流』と蔑まれた令嬢が、“恋”と“努力”で見返す爽快逆転ストーリー!

私の事を婚約破棄した後、すぐに破滅してしまわれた元旦那様のお話

睡蓮
恋愛
サーシャとの婚約関係を、彼女の事を思っての事だと言って破棄することを宣言したクライン。うれしそうな雰囲気で婚約破棄を実現した彼であったものの、その先で結ばれた新たな婚約者との関係は全くうまく行かず、ある理由からすぐに破滅を迎えてしまう事に…。

お望み通り、別れて差し上げます!

珊瑚
恋愛
「幼なじみと子供が出来たから別れてくれ。」 本当の理解者は幼なじみだったのだと婚約者のリオルから突然婚約破棄を突きつけられたフェリア。彼は自分の家からの支援が無くなれば困るに違いないと思っているようだが……?

【短編】花婿殿に姻族でサプライズしようと隠れていたら「愛することはない」って聞いたんだが。可愛い妹はあげません!

月野槐樹
ファンタジー
妹の結婚式前にサプライズをしようと姻族みんなで隠れていたら、 花婿殿が、「君を愛することはない!」と宣言してしまった。 姻族全員大騒ぎとなった

婚約者を奪っていった彼女は私が羨ましいそうです。こちらはあなたのことなど記憶の片隅にもございませんが。

松ノ木るな
恋愛
 ハルネス侯爵家令嬢シルヴィアは、将来を嘱望された魔道の研究員。  不運なことに、親に決められた婚約者は無類の女好きであった。  研究で忙しい彼女は、女遊びもほどほどであれば目をつむるつもりであったが……  挙式一月前というのに、婚約者が口の軽い彼女を作ってしまった。 「これは三人で、あくまで平和的に、話し合いですね。修羅場は私が制してみせます」   ※7千字の短いお話です。

処理中です...