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30 また次の誰かへ
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きれいな家、きれいな部屋、きれいな床。その床をじっと見ているだけしか許されていない。
「なるほど」
「戦場でも使える、とのことですが」
「分かった。こちらで使おう」
どうやら俺はこのきれいな屋敷に残されるらしい。一体何をさせられるんだ……?
「良し、磨き上げろ」
「はっ」「失礼します」
人の気配がして、ほんの少しだけ目を上げると、男と……若いメイド数人に囲まれていた。
「ひっ!?」
こわいこわいこわい!俺の体は恐怖に震え、気を失ってしまった。若い女を見るだけで倒れるって、かなり重症だな……。
「う……」
気が付くと柔らかいベッドの上に寝かされていた。フワフワと柔らかくて、俺が寝た事があるベッドの中でも最高級だったが、途端に不安になる。どこもかしこもきれいになっていて、磨き上げられたのが俺自身だったとやっときがついた。
爪もきれいに整えられ、マニキュアのように色までついていたし、耳の中やら尻の穴まで洗われているようだった。
「なにこれ……」
自分の手をじっと見る。色は白いが、扱っているものは色々汚れたものが多いので、黒ずんで汚かった指先はどれだけ丁寧に洗われたのだろうか、すっかりピカピカになっているし、いい匂いがする。ほんの少し前まで汚れと垢まみれだった俺のパーツと同一の物か悩んでしまうほどだ。
呆然としていると扉が急に開き、きちんとした服を着たおじさん……執事とか言う感じだろうか、がこっちを見ている。
「起きたようだ、旦那様にお知らせしろ」
「はい」
後ろに控えていたのだろう人にそう言いつけて、執事さんらしき人は足音を立てずに近づいてくる。お、俺は何をさせられるんだ……。
「立って。着替えをします。どうせ自分で着る事は出来ないのでしょう、手伝います。若い女を呼ばれたくなければすぐに立ちなさい」
俺はビッと床に降りてしっかり垂直に立った。
言われた通りに手を上げ、足を上げして今までこの世界では着たこともないような立派な服を着せられる。あちこち締まって苦しいが、礼服なんかはこんな感じだろう。靴も固くてあちこち痛む。これで長時間歩くのは無理だろうな、そんな感じがした。
「どうだ、セバス」
「見た目なら、この通り」
「そうだな、見た目は良いな、ヴェールでもかぶせておけ、行くぞ」
一度顔を見た偉い人が身をひるがえす、執事さん……名前はセバスと言うのだろう……セバスさんに「ついてきて」と言われ、素直に後ろについてゆく。足が痛いな……地獄街に落ちてから靴なんて壊れかけのサンダルしか履いてなかったから、普通の靴を履くのは辛い。
それでもなんとか後ろをついてゆき、行った玄関先には馬車が止まっている。
「乗れ」
「ひいっ」
押し込まれ、動き出す。どこへ行くかなんてわかる訳もないし、柔らかいようでいて、そんなに柔らかくない座席の隅に座る。小さな窓から外を覗けば、中々きれいな街並みが見えた。ここはどこかの街なんだろうな、勿論ごみ捨ての地獄街なんかじゃなくて、普通の人達が普通に暮らす、普通の街だ。
石畳の道をある程度の早さで馬車は進んでゆく。通りも大きいので、人々は端を歩き、馬車を避けている。本当に大きな街みたいだ。馬車は街の真ん中へ進んでいるようで、大きな尖塔がある建物が見えて来た。なんだかお城に見える立派な建物だ。
「お城みたい……」
俺が驚いて小さく独り言を漏らすと
「みたいではない、セヴィリー城だ」
と、馬車に腕を組んで座っていた偉い貴族の人が詰まらなさそうにつぶやいた。え、お城?俺、どうしてそんな所に向ってるの??
「あ、あの……」
「黙れ、口を開くな」
聞いてみたかったけれど、それは却下された。恐ろしいので俺は慌てて口を閉じる。俺みたいな死体漁りを城に連れて行ってどうするんだろう……。
馬車はやっぱりお城に到着して、俺はこの偉そうな貴族の後ろをついて歩いている。靴が痛い……ついでに頭にかぶされたヴェールで前が良く見えないし、貴族は足が早くてついて歩くのに必死だ。
「ちっ……見苦しい」
どたどたと歩く俺の事だろうけれど、そんなこと言われても……こんなツルツルで顔が映りそうなほど磨かれた床を履きなれないかかとのある靴を履いて早足で歩けという方が無理なんだ。
「なるほど」
「戦場でも使える、とのことですが」
「分かった。こちらで使おう」
どうやら俺はこのきれいな屋敷に残されるらしい。一体何をさせられるんだ……?
「良し、磨き上げろ」
「はっ」「失礼します」
人の気配がして、ほんの少しだけ目を上げると、男と……若いメイド数人に囲まれていた。
「ひっ!?」
こわいこわいこわい!俺の体は恐怖に震え、気を失ってしまった。若い女を見るだけで倒れるって、かなり重症だな……。
「う……」
気が付くと柔らかいベッドの上に寝かされていた。フワフワと柔らかくて、俺が寝た事があるベッドの中でも最高級だったが、途端に不安になる。どこもかしこもきれいになっていて、磨き上げられたのが俺自身だったとやっときがついた。
爪もきれいに整えられ、マニキュアのように色までついていたし、耳の中やら尻の穴まで洗われているようだった。
「なにこれ……」
自分の手をじっと見る。色は白いが、扱っているものは色々汚れたものが多いので、黒ずんで汚かった指先はどれだけ丁寧に洗われたのだろうか、すっかりピカピカになっているし、いい匂いがする。ほんの少し前まで汚れと垢まみれだった俺のパーツと同一の物か悩んでしまうほどだ。
呆然としていると扉が急に開き、きちんとした服を着たおじさん……執事とか言う感じだろうか、がこっちを見ている。
「起きたようだ、旦那様にお知らせしろ」
「はい」
後ろに控えていたのだろう人にそう言いつけて、執事さんらしき人は足音を立てずに近づいてくる。お、俺は何をさせられるんだ……。
「立って。着替えをします。どうせ自分で着る事は出来ないのでしょう、手伝います。若い女を呼ばれたくなければすぐに立ちなさい」
俺はビッと床に降りてしっかり垂直に立った。
言われた通りに手を上げ、足を上げして今までこの世界では着たこともないような立派な服を着せられる。あちこち締まって苦しいが、礼服なんかはこんな感じだろう。靴も固くてあちこち痛む。これで長時間歩くのは無理だろうな、そんな感じがした。
「どうだ、セバス」
「見た目なら、この通り」
「そうだな、見た目は良いな、ヴェールでもかぶせておけ、行くぞ」
一度顔を見た偉い人が身をひるがえす、執事さん……名前はセバスと言うのだろう……セバスさんに「ついてきて」と言われ、素直に後ろについてゆく。足が痛いな……地獄街に落ちてから靴なんて壊れかけのサンダルしか履いてなかったから、普通の靴を履くのは辛い。
それでもなんとか後ろをついてゆき、行った玄関先には馬車が止まっている。
「乗れ」
「ひいっ」
押し込まれ、動き出す。どこへ行くかなんてわかる訳もないし、柔らかいようでいて、そんなに柔らかくない座席の隅に座る。小さな窓から外を覗けば、中々きれいな街並みが見えた。ここはどこかの街なんだろうな、勿論ごみ捨ての地獄街なんかじゃなくて、普通の人達が普通に暮らす、普通の街だ。
石畳の道をある程度の早さで馬車は進んでゆく。通りも大きいので、人々は端を歩き、馬車を避けている。本当に大きな街みたいだ。馬車は街の真ん中へ進んでいるようで、大きな尖塔がある建物が見えて来た。なんだかお城に見える立派な建物だ。
「お城みたい……」
俺が驚いて小さく独り言を漏らすと
「みたいではない、セヴィリー城だ」
と、馬車に腕を組んで座っていた偉い貴族の人が詰まらなさそうにつぶやいた。え、お城?俺、どうしてそんな所に向ってるの??
「あ、あの……」
「黙れ、口を開くな」
聞いてみたかったけれど、それは却下された。恐ろしいので俺は慌てて口を閉じる。俺みたいな死体漁りを城に連れて行ってどうするんだろう……。
馬車はやっぱりお城に到着して、俺はこの偉そうな貴族の後ろをついて歩いている。靴が痛い……ついでに頭にかぶされたヴェールで前が良く見えないし、貴族は足が早くてついて歩くのに必死だ。
「ちっ……見苦しい」
どたどたと歩く俺の事だろうけれど、そんなこと言われても……こんなツルツルで顔が映りそうなほど磨かれた床を履きなれないかかとのある靴を履いて早足で歩けという方が無理なんだ。
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