【完結】虎の威を借りたつもりはないが、何か取られる狐の男子

鏑木 うりこ

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5 俺はβ、だ

「うっわ、最悪ー……」

 俺はちょこっと遠くの本屋まで一人で来ていて、雨に降られた。


「なんか体だるいな~風邪かな?」
「……風邪薬」
「お、サンキュー忠臣。水ねえな、あとで飲んどくわ!」

 思えば朝から調子は悪かった。ちょっとだるくて熱っぽいけど学校は行ったし最後まで授業も受けた。そんでいつも読んでる漫画の新刊を買ってないことに気が付いたんだ。

「忠臣ー帰るぞーって……そいやあいつせんせーに進路の事で呼ばれてるんだっけ」

 いつもなら忠臣を待って一緒に帰る所だったんだが、どうしても本屋に寄りたかったから先に学校を出ることにしたんだ。

「本屋寄って帰るっと」

 メッセージアプリでメッセージを飛ばしてから近くの本屋に寄るも、売り切れっていうね。だからちょいと遠くの駅前の本屋まで足を伸ばしたら、通り雨にやられた。そしたらぞくぞくっと寒気が這い上がって来ちまった。

「うええ……そういや、もらった風邪薬も飲み忘れた……やばいな、これ」

 濡れたままはきっと悪化する。近くの適当な店に飛び込んで適当なTシャツを買って着替えた。この方がまだましだろう!

「……ん??」

 なんだ、何か変な匂いがする……?甘ったるい匂いすっぱい匂い、苦い匂い……ケーキみたいのからみかんみたいのまでいろんな匂いが鼻に飛び込んできた。

「な、なんだろ……これ……」

 いろんな匂いに俺は驚いた。えっと?なんで今までこの匂いに気が付かなかったんだろう??驚いて近くにあった公園のベンチに腰を下ろした。俺、思い起こせば匂いなんて一つしか知らない。

「あー……忠臣ィ……」

 俺の傍にはいつも忠臣がいて、本当にずーっと一緒にいるもんだから、忠臣の匂いしか知らないんだ。あいつどんだけ匂い強烈なんだ??あいつの匂いに全部負けて他の匂いなんて嗅いだことなかったとか!?信じられない。

「雨に当たった上に着替えたからか……忠臣だもんなぁ」

 風呂上がりとかでさえうちにいるもんだから忠臣の匂いが染みついてても仕方がないのか。そしてスマホがやけに震えている……画面を見ると忠臣ィ……。

〈薫、どこ〉〈本屋いない〉〈どこ?〉〈なんで駅前?〉〈すぐ行く〉〈待ってて〉

「どんだけ……」

 あいつはメッセージを長く打つ方じゃないから、いつも2.3語なんだけど立て続けに送り付けるなんて珍しい。

「てか、なんで駅前って分かったんだろ?あいつ、名探偵の才能あるんじゃね?」

 すぐ行くって言っても俺がどこにいるか分かってんのかなあ?名探偵忠臣ならお見通しなのか??それともまさか追跡アプリとかいれてねーだろうなー!?へへ、漫画かっての……しかし、ちょっと熱が上がってきたかもしれない。なんだか目の前がクラクラしてきたし、呼吸もしづらい。

「うー……名探偵早く来てくれぇ」

 思わずベンチで鞄を抱えて丸くなってしまった。

「ねえねえ、君ィ大丈夫ぅ?」
「……いや、大丈夫ッス」

 なんだか知らないが、俺より少し年上っぽい野郎に肩を叩かれた。ツン、と鼻に刺さる嫌なにおいがする。どっか行ってくれないかな……こういう時忠臣がいてくれればらくなのになあ。早く来い、名探偵忠臣。

「あっれー?意外と可愛いじゃん?狐ちゃんなんだ、へえ結構美人って言われるっしょ?俺のタイプー」
「はあ?」

 美人?言われたことねえし、俺男よ?男に美人はねーだろ、Ωでもあるまいし。ていうかこいつの匂いやだな、鼻が曲がりそうだ……。この匂いを嗅いでるだけで気持ち悪くなってきた、どっか行ってくれないかこいつ。それなのにその男はベンチの隣に座り込んで距離を詰めてくる、臭いっ。

「へえ……いいね、やっぱりいい。狐はさあ、こうスレンダー美人多いんだよね、俺、大好き。てか……良い匂いさせちゃってさあ……どうしたの?相手探し中?決まってないなら俺と遊ぼうよ」
「は……?」

 コイツ何を言ってるんだ?ほんの少し顔を上げて隣に陣取る奴の顔を見た。なんか狼?とかそっち系の獣性なのか……口の中に並ぶ歯が尖っているから肉食系なんだろう……しかも、多分αだ。

「いや、俺、具合悪いンス。遊んだりしないっす、見てわかんねーんですか?」

 服は乾いてるのに、寒気が止まらない。息苦しくて口で呼吸をしたくなる。手と足が重くて重くて動かしたくないっつーのに。

「いやぁ?見て具合悪そーだから遊ぼうって言ってんのぉ、君それヒートだろ?いー匂いしてんよ?エッチな遊びをしたら楽になれるじゃん?」

え?そんな訳ない。俺は、βだぞ。
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