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番外編

27 可哀想な平民なんていない5

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「ちゅーまでじゃぞ?」

「ひゃい!?」

 大旦那様はこういう時だけ気配がなく、背後に回り込む!!怖い、この方は本当に怖い!!気が付くと私とカレリオ様の様子を見ていたり……な、何をどこまでお知りになられているんだ!?

「んー……大体全部じゃね?大旦那様を本気で裏切ろうなんてしない方が良い。あの人、本気マジで怖いよ」

「……だよな……レベル的には低いのに、なんだろうあの迫力」

「あれがさあ、長年社交界とか言う化け物がいっぱいいる所で生き抜いてきた歴戦の猛者ってやつなんだろ?なんせ大旦那様だからね」

「肝に銘じる……」

 リドリーに大旦那様の事を聞いてみたらこんな答えが返ってきた。本当に底知れないお人だ。

「でもよ、ちゅーはしていいって事だろ。アル、大旦那様にカレリオ様の旦那として認められてるって事じゃん」

「え?」

「え、じゃねえだろ。誰が可愛い孫をどこぞの馬の骨に渡すかよ。あの大旦那様に認められたんだよ、お前」

「え?」

「だーかーらー! え?じゃねえだろって。もう!」

「え?」

 もーしらん!とリドリーは行ってしまったが、私はリドリーの言葉の意味が上手く頭に染み込まなくて呆然としていた。


「アル!どこ行ってたの!?」

「あ、カレリオ様……」

 カレリオ様専用の執務室にフラフラと戻るとどうも私を待っていたようで、ぱっと可愛い顔が輝いた。ああ、この方が好きだ、大好きだ。その大好きな人の顔が心配で歪んでしまった。誰だ、こんな可愛らしいご令息に心配をかける悪党は。

「アル!?熱でもあるの?顔が赤いよ。今日はもう休んだ方が良い、仕事は明日にしよう」

 悪党は私だった……でも貴方と少しでも一緒に居たい。自室のベッドで寝ているより、貴方の執務室で貴方の隣にいる方が私は安らげますから。

「いえ、大丈夫です。お傍に居させてください」

「……ほんとに大丈夫?アルが倒れたりしたら私はどうしたらいいか分からないよ。心配で私も倒れてしまいそうだ」

「それは、カレリオ様の為にも私は倒れるわけにはいきませんね」

「うん……」

 心配をかけさせてしまった。けれども、私を気にかけて下さっている事が嬉しくて不謹慎にも頬が緩みそうだ。

「ねえ、アル……」

「何でしょう?カレリオ様」

「あ、あのね……」

 言いづらそうに執務机の椅子に腰掛けたまま、私を見上げるカレリオ様。何でしょう?よく見ればカレリオ様も少しお顔が赤い気がします。熱でも出たんでしょうか?!は、早くお休みいただかなくては!

「わ、私はアルの事を….アルって呼ぶでしょう?だ、だから……」

 下を向いてしまう。カレリオ様?そんなに声が小さくては聞き取り難いです。

「だから、わ、私の事も……カ、カレン……と。よ、呼んでほしい……な、って……」

 消え入りそうな、小さな恥ずかしげに震える声。良く聞こえない、なんてことは許しませんよ私の聴覚!全身全霊を持って一字一句を噛みしめる。あああ、なんて、なんてこと!

 俯くカレリオ様の横に跪き、少し震えている手を取った。

「カレリオ……カレン、様」

 愛しい人。あの秀麗な顔が真っ赤に染まっている。

「さ、様とか……い、要らない、から……」

「カレン」

 真っ赤だった顔が更にぽん!と音を立てたかの様に赤くなる。ああ!なんて、なんて可愛いんだろう!

「私のカレン!」

 思わずぎゅっと抱きしめてしまった!驚いてきゅっと全身が強張ったカレンだったけど、その後おずおずと両手を私の体に回して抱きしめ返してくれた。

「私は、カレリオ様……カレンの事が好きです」

 顔は見えなかった。けれど答えは強く返って来た。

「私も、アル、あなたの事が、す、好き」

 回った腕に力が篭るのが嬉しくて嬉しくてカレンを抱えたまま、踊り出したい気分だった。

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