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54 元いた国では
「ごほっ……ごほっ……」
「かぁちゃん……ごほっ苦しいよう」
その質の悪い風邪はもう国に蔓延していた。
元竜騎士も消え、腕の立つ魔導士たちも消え。奇跡の神殿と言われた中央神殿も今は明りすらともっていない。それなのに、奇跡と癒しを求めて、国中からいや、近隣国家から人々は詰めかける。
「神官様……助けてください……」
「く、苦しい……苦しい、癒しを……」
「痛い……傷が痛い……ああ、神官様……」
ふわりと暖かい空気に包まれていた神殿は今はただの石の建物に過ぎない。勿論入り口に偉そうに座り込んでいた子犬たちもいないし、さらさらときれいな水が流れていた噴水もどんよりと濁った水が溜まっているだけ。
奇跡の中心地と言われた中庭も暗く、生い茂っていた緑も枯れ果て白茶けた土くれがあるだけだった。
「無理です、私達では中央神殿のような御業は使えませぬ」
奇跡の神殿の噂を聞き、長い旅をしてきた者は東西南北にある神殿へ助けを求める。しかし、無情にも断られるだけだ。そして神殿も急激に増えた怪我人や病人の世話で忙しい。
「おかしい、秋の内はあんなに豊かだったのに……」
「ネズミに倉庫がやられたよ、一体あんなにどこから湧いて来たんだ?」
「一時期凄く減ったのに、一体なにがあったんだ?」
キキキ……チチッ……。夜ともなると街の至るところにネズミは駆け回り、ごみを漁り、フンをまき散らす。特に貧民街は酷い有様で、病気が蔓延していた。
「どうして……苦しい……苦しいよう……」
怨嗟の声を渦巻き始める。
「やはり邪神を排除したのはまちが……」
言いかけて、ギロリと睨まれ、男は首をすくめる。レイシャルの兄である王太子のギゼルはイライラと執務室に向った。上がってくる苦情苦情苦情、そして陳情書の多い事。
「ええい!どうなっておるのだ!中央神殿の神官共はどこへ行った!」
「邪神と共にどこかへ消えたとしか……その後の足取りは一向に掴めませぬ」
ルベルトは遠い。そしてルベルトに入った人間はあまりの住みよさに出てこない。だから話も広がらない。春が来て行商人が活発に行きかうようになれば、ルベルトの現状は伝わるかもしれないが、今はまだ冬なのだ。
「元竜騎士と魔導士どもは!?」
「それも……わかりませぬ」
「元聖騎士達はどうした!?」
「近隣の街にて魔物を討伐しており……」
王太子は頭を抱える。ネズミの異常増殖、病の増加、魔物の活発化。全てがいっぺんに襲い掛かってきたのだから。それに伴って犯罪者と餓死者の増加、違法に流入してくる者たちの対応。全て後手後手に回って、もはや収拾をつける事などできない。
「くそっ!」
今日もどこかで暴動が起き、領主が倒される。魔物の暴走が置き村が潰れる。災厄が加速度的に王都を取り囲んでいた。
「何故……こんなことに……私は最大の脅威を取り除いたはずなのに!」
その呟きに同調する者は一人、また一人と減って行っている事に王太子は気づいてはいない。
「私は間違ってはいない、間違ってなどいないのだ!」
自分自身に言い聞かせるように何度も何度も繰り返すが、状況が改善されることも、王太子が望む状況になる事も決してないのである。
「かぁちゃん……ごほっ苦しいよう」
その質の悪い風邪はもう国に蔓延していた。
元竜騎士も消え、腕の立つ魔導士たちも消え。奇跡の神殿と言われた中央神殿も今は明りすらともっていない。それなのに、奇跡と癒しを求めて、国中からいや、近隣国家から人々は詰めかける。
「神官様……助けてください……」
「く、苦しい……苦しい、癒しを……」
「痛い……傷が痛い……ああ、神官様……」
ふわりと暖かい空気に包まれていた神殿は今はただの石の建物に過ぎない。勿論入り口に偉そうに座り込んでいた子犬たちもいないし、さらさらときれいな水が流れていた噴水もどんよりと濁った水が溜まっているだけ。
奇跡の中心地と言われた中庭も暗く、生い茂っていた緑も枯れ果て白茶けた土くれがあるだけだった。
「無理です、私達では中央神殿のような御業は使えませぬ」
奇跡の神殿の噂を聞き、長い旅をしてきた者は東西南北にある神殿へ助けを求める。しかし、無情にも断られるだけだ。そして神殿も急激に増えた怪我人や病人の世話で忙しい。
「おかしい、秋の内はあんなに豊かだったのに……」
「ネズミに倉庫がやられたよ、一体あんなにどこから湧いて来たんだ?」
「一時期凄く減ったのに、一体なにがあったんだ?」
キキキ……チチッ……。夜ともなると街の至るところにネズミは駆け回り、ごみを漁り、フンをまき散らす。特に貧民街は酷い有様で、病気が蔓延していた。
「どうして……苦しい……苦しいよう……」
怨嗟の声を渦巻き始める。
「やはり邪神を排除したのはまちが……」
言いかけて、ギロリと睨まれ、男は首をすくめる。レイシャルの兄である王太子のギゼルはイライラと執務室に向った。上がってくる苦情苦情苦情、そして陳情書の多い事。
「ええい!どうなっておるのだ!中央神殿の神官共はどこへ行った!」
「邪神と共にどこかへ消えたとしか……その後の足取りは一向に掴めませぬ」
ルベルトは遠い。そしてルベルトに入った人間はあまりの住みよさに出てこない。だから話も広がらない。春が来て行商人が活発に行きかうようになれば、ルベルトの現状は伝わるかもしれないが、今はまだ冬なのだ。
「元竜騎士と魔導士どもは!?」
「それも……わかりませぬ」
「元聖騎士達はどうした!?」
「近隣の街にて魔物を討伐しており……」
王太子は頭を抱える。ネズミの異常増殖、病の増加、魔物の活発化。全てがいっぺんに襲い掛かってきたのだから。それに伴って犯罪者と餓死者の増加、違法に流入してくる者たちの対応。全て後手後手に回って、もはや収拾をつける事などできない。
「くそっ!」
今日もどこかで暴動が起き、領主が倒される。魔物の暴走が置き村が潰れる。災厄が加速度的に王都を取り囲んでいた。
「何故……こんなことに……私は最大の脅威を取り除いたはずなのに!」
その呟きに同調する者は一人、また一人と減って行っている事に王太子は気づいてはいない。
「私は間違ってはいない、間違ってなどいないのだ!」
自分自身に言い聞かせるように何度も何度も繰り返すが、状況が改善されることも、王太子が望む状況になる事も決してないのである。
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