銀の髭、黄金の眼

遠影此方

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剣の鍛錬

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この街についてから、一月ほどの時間が経った。

ぼくはといえば、日ごとにハインリヒさんにいたずらを仕掛けては怒られ、町外れの草原まで逃げては、そこで剣の鍛錬をする毎日だ。

街に来たばかりの頃は鍛錬と言ってもそう思っているのは僕ばかりのようで、対するハインリヒさんはいたずらを受けたいらだち半分、こいつには何を言っても通用しないという諦め半分みたいな表情で木の棒を持っていた。

それでもぼくの鍛錬に付き合ってくれるのは、ぼくに少しでも強くなってほしいと思うからだろうか。それとも単なる遊びに付き合ってやっているからなのだろうか。ぼくが何をしても微動だにしない姿からは察することができなかった。まるで大木を相手にしているようだ、と思った。

もしかしたらハインリヒさんはこうすることで、数日もすれば変わり映えしないことに飽きてしまうだろうと踏んでいたのかもしれない。

しかし、その目論見よりも長く、ぼくはハインリヒさんにいたずらを仕掛け、挑戦する日々を続けた。

なぜなら、ぼくの本心としてはハインリヒさんに勝ちたかったわけでも、その反応を見たかったわけでもない。ハインリヒさんはただそこにいてくれるだけでよかった。決してハインリヒさんをもの扱いしているわけではない。ハインリヒさんと共に過ごす時間がどれほどぼくにとって得難いものなのか、二年前にハインリヒさんがいなくなって痛いほど知っていたからかもしれない。

じゃあいたずらなんてしなくてもいいのかもしれなかったけれど、それはそれ、これはこれなのだ。トリシャはそんなぼくを見て笑ったりもしたけれど、ぼくのいたずらに対してやめるようにいうことはしなかった。
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