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 第二十二ステージで表れたボスは、レッドウルフだった。巨大なオオカミが、三匹ゲートから現れる。
『敵は巨大なレ、レッドウルフです!! は、はやい!! うわああああ!!!』
 伝令兵からの通信が途切れる。
「ミオ、レッドウルフの気配は探れるか」
 美桜は探知魔術で周囲の敵を探知する。
「一匹こちらに走って来ています。遭遇まで二十秒」
「歩兵は矢を構えろ。出現後すぐに打て。敵がひるんだら槍兵は攻撃を仕掛けろ。騎馬兵は、死角からの攻撃を行う」
「レッドウルフ来ます!!」
 レッドウルフが巨大な身体を現す。すぐに矢が放たれる。
「ーー!!」
 レッドウルフは小さく呻く。矢は刺さっていない。 しかし不意は突く事が出来た。槍兵達が走りより、長い槍でレッドウルフをつつく。
「ウウウウウ!!」
 オオカミの唸り声が響く。
「怯むな!」
 シメオンの怒声が響く。槍兵が前方を攻撃する間、シメオンと美桜は側面と後ろからレッドウルフを攻撃した。槍が深々とレッドウルフの身体に刺さる。しかしレッドウルフは倒れない。レッドウルフの様子を見ながら、何度も槍で突きを繰り返した。
「死ね!」
 シメオンがレッドウルフの首を刺し貫くと、レッドウルフは白目を剥き血を吐いて倒れる。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
 シメオンが息を乱している。彼が、戦闘で息を乱す姿を美桜は初めて見た。
『カミロ隊レッドウルフ撃破!』
『魔道士部隊レッドウルフ撃破!』
「……シメオン隊、レッドウルフ撃破」
 シメオンの声が、伝達機から聞こえる。
『ゲートが閉じました! 敵勢力は全て撃破を確認! 我々の勝利です!』
 遠くで兵士達の歓声の声が聞こえる。
『負傷者の報告をしろ』
 カミロ王子の声に、他の班の者達が次々報告を行う。美桜も自分の隊の兵たちの負傷報告をして、魔法で応急処置をする。シメオンは、何かを考えるように空を見ていた。



 シメオンに、部屋に呼び出される。三時のおやつには、まだ早い時刻である。
「どうなさいましたか、シメオン様」
「おまえに、頼みたい事がある」
「は、はい!」
 シメオン王子から、直接何かを頼まれる事は少ない。大概は、美桜が勝手にやっている事ばかりである。シメオンが美桜を真剣に見る。
「私を鍛えろ」
 その言葉に美桜は驚いた。
「シ、シメオン様をですか……!?」
「何を驚く必要がある。おまえが、兵達を鍛えている事は私も知っている。歩兵精鋭部隊の話を聞いているぞ。素晴らしい成果を出したようだな」
「あ、ありがとうございます」
 美桜は混乱している。
(シメオン様を助ける為に、私と他の兵士の育成には尽力した! けど、シメオン様自身を鍛えると言う発想は無かったな! だって、プライド高い方だから絶対了承してくれなさそうだもん!)
「その才能で、私にも鍛錬をつけてくれ」
 美桜は頭を上げてシメオンをじっと見る。彼も真剣に美桜を見ている。全く、冗談では無いらしい。
「わ、私の鍛錬は厳しいですよ」
「構わない。カミロにも鍛錬を付けているのだろう。ならば、私にはより厳しい鍛錬を頼む。弟に負けるのは、我慢がならないからな」
(さ、さすがプライドが高い方……)
「わかりました。シメオン様を鍛えさせていただきます。私と一緒に限界を超えましょう」
 シメオンにも必ず、上位ジョブが存在するはずなのだ。
「あぁ、頼む」
 彼は小さく頷いた。

***

 美桜は荒野で、シメオンと向き合う。互いに剣を構えて、対峙する。
「本気でかかって来てくださいね」
「あぁ、おまえを倒すつもりでゆく」
 しばらくの睨みあいの後、二人は駆け出した。シメオンの突く攻撃が来る。美桜は左手の、鉄甲でそれを防ぐ。そして彼の喉元に剣を付けた。
「!」
 彼が目を見開く。勝負は一瞬でついた。
「強い……な。貴様、私の前では実力を隠していたな」
「……将をたてるのも、部下の務めです」
 美桜はそっと剣を下ろして、鞘に収める。
「おまえの見立てで、私は強くなる見込みはあるか」
 美桜はシメオンをアナライズする。
『現在のジョブは魔法剣士、経験値の獲得で上位ジョブ【ルーンナイト】に進化が可能』
 美桜は目を見開く。今まで何度もシメオンをアナライズしても、上位ジョブの表示は無かった。それが、今はあるのだ。
(心の変化。更に上を目指す彼の変化のおかげだわ!)
 美桜は笑みを浮かべる。
「可能です! シメオン様なら、今よりもっと強くなれます!!」
「そうか、それは良かった。では、鍛錬を行おう」
「はい!」
 美桜は浮かんだ涙を、笑顔で打ち消した。

 基礎体力の向上、基礎攻撃力の向上、そして美桜と打ち合う実戦訓練。どの兵士よりも厳しいノルマを課したが、シメオン王子は弱音を吐く事もなくこなした。汗を流し、荒く息をして、身体の疲労に耐えながら彼は懸命に美桜に剣を打ち返して来た。
(シメオン様! あぁ、やっぱり素敵!!)
 美桜はそんな彼の姿を見て、ますます惚れ込んで行くのだった。
「はぁ!」
 シメオンの剣をはじいて飛ばす。すると彼が飛びかかって来て、美桜を押し倒そうとした。それを美桜は腕を掴んで、背負って投げた。
「ぐっ!」
 彼の首に短剣を突きつける。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
 彼が反撃しようとしていた拳を下ろす。
「……貴様は強いな……」 
「努力いたしましたから」
「……必ずおまえを追い越してやる」
 美桜は笑みを浮かべる。
「そのいきです!」
 辺りは既に暗く、明かりに松明を置いている。
「シメオン様、今日はこの辺りにしましょう」
「……おまえは何故、そんなに強いんだ」
 美桜は瞬きする。
「もちろんそれは、シメオン様の為です!」
「以前にもそう言っていたな」
「はい! 私には、これ以外の答えはありません!」
「……理解しがたい……」
 彼は起き上がる。
「おまえに負ける男のどこが良いんだ」
 美桜は笑みを浮かべる。
「貴方のプライドの高さが好きなんです。シメオン様は山のように高いプライドをお持ちなので、それを実現する為に努力なさいます。そう言う所が好きなのです」
 地を這う事を良しとせず、瀕死でも立ち上がり、敵に一矢報いるプライドの高さ。そこが、美桜は好きだったのだ。そんな彼に生きていて欲しい。
「……」
 シメオンは暫く美桜をじっと見た後に、立ち上がり剣を腰にさして、一人先に歩いて行ってしまった。
「あ、お待ちください、シメオン様!!」
 美桜は慌てて、その後を追いかけた。



 第二十三ステージは、再び敵が一巡してグリーンゴブリンがやって来る。攻めて来る敵に、パターン性がある事を認めたカミロ王子はゴブリン用の陣地を作る。歩兵を前に出して基本戦力を削る作戦である。美桜達は、歩兵の後ろで戦いの様子を見る。弓が槍兵の後ろから攻撃し、その攻撃を逃れたゴブリンを槍が刺し殺す。そして、側面から騎馬兵隊がゴブリンを叩く。更に、歩兵の後ろで詠唱をしていた魔導部隊が、定期的に敵を攻撃する。
 ゲート前に埋められた地雷爆弾も敵を攻撃している。ゴブリンを倒しながら、美桜はシメオンの様子を見る。彼は息を乱さずに、ゴブリンを槍で刺殺している。そして、美桜のいる方向の敵は完全に美桜に任せてくれるようになった。以前よりも、だいぶ戦闘での連携をとってくれるようになったのだ。美桜は笑みを浮かべて、敵を倒した。
 グリーン・ゴブリン戦は、今の戦力で問題無く倒せた。


つづく
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