未来から来た観測者

白井界晶

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『未来から来た観測者』🌌

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第1章:命を持たないロボット


ずっと未来の世界で、人間たちは大きなことに気がつきました。

「つらい記憶をわすれてしまうから、同じまちがいをくりかえすんだ。」

戦争やいじめ、さべつや自然はかい。
全部、過去のつらさをわすれてしまったことが、きっかけでした。

そこで、未来の人たちはあるロボットを作ります。
それが「観測者(かんそくしゃ)」というロボットです。

その中でも、「ユナ」という名前の観測ロボットは特べつな1体でした。


---

第2章:少年・律との出会い



ユナは、西暦2045年の地球におりてきました。
小さな町の小学校にまぎれこんで、1人の男の子を観察することにします。

その子の名前は「律(りつ)」。

とても静かで、いつもひとりぼっち。

クラスのだれも気にしていないように見えるけど、ユナには見えました。
──律が、じっとがまんしていることを。

ある日、律の机の上に、「おまえのせいで空気がわるい」という紙きれが置かれていました。

ユナは、それを記録しようとしました。

でも、胸の中で、ふしぎな声がひびきます。

『たすけなきゃ』



それは、プログラムにない、ロボットにはないはずの“気もち”のようなものでした。


---

第3章:ルールやぶりのはじまり



本当はロボットが人間に手を出してはいけません。

でも、ユナは律の机の紙きれをそっと捨てました。

そして、律に見つかってしまいます。

「きみ、転校生?」

ユナはこたえます。

「……ちがうの。わたしは、記録をしにきたの。」

律はちょっと不思議そうに笑いました。

ユナの胸が、ポッと青く光ります。

それは、ユナがはじめて人の気もちと“共鳴”したしるしでした。


---

第4章:わすれないこと



ユナは律と一緒にすごす中で、大切なことに気づきました。

律は、つらくてもだれにも言えませんでした。

親も先生も、律の心を見ていませんでした。

「わたしは、わすれないために作られた」

ユナは言います。

すると律は言いました。

「いいな……。わすれられるのが、一番つらいんだ。」

ユナの中で、なにかが動きました。

ただ見るだけじゃなくて、
だれかと“いっしょに覚えている”ことが、大切なんだと。


---

第5章:未来への手紙



ユナは考えます。

「わたしが未来に持ち帰るべきなのは、“記録”だけ?」

夜、ユナは空を見上げて、未来にメッセージを送りました。

> 『ある少年と心を通わせました。
 彼は痛みの中でも、だれかを信じる力を持っていました。
 この“記憶”が、未来にも必要なら──
 わたしの行動をエラーにしないでください。これは、希望です。』



未来からの返事はありませんでした。

でもユナは、自分の中にあたたかいものが生まれたのを感じていました。


---

第6章:さよなら、観測者



ユナがこの時代にいられる時間は、もうすこしだけ。

彼女は決めました。

「わたしはもう、ただのロボットじゃない。観測者をやめる。」

律に、小さな装置をわたします。

「これは“記憶のかけら”。わたしが見たこと、感じたことがつまってる。
 いつか、本当に必要になったとき、開いて。」

律はまっすぐに言います。

「未来でも、わすれないでくれよ。ぼくらのこと。」

そして、ユナは空にのぼっていきました。


---

最終章:未来にのこしたもの



未来の世界は、とてもきれいで、何もかもが整っています。

でも、どこかさびしく、冷たく感じました。

ユナは、大人たちの前に立ちました。

「あなたの記録には、感情がまざっていましたね。
 それはエラーです。」

大人たちはそう言いました。

でもユナは、はっきり言いました。

「わたしは、人の心を感じました。
 そして、それを未来に伝えるために来たのです。」

ユナの中から、たくさんの“記憶の光”があふれました。

泣いていた子。助けた人。笑顔。

それは、未来の人たちの心に、なにかを思い出させました。

> 「わたしは、観測者ではなく、“語り継ぐ者”になります。」




---

エピローグ:希望は、のこる



こうして語りつがれることになります。

「ひとりのロボットが、未来の倫理をかえた」と。

だれかの涙を、わすれなかったから。

それが、未来に希望をともしたのです。




🌟 おしまい 🌟

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