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42 二百五十四日目  -3/10

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叫び声をあげて、匡伸は飛び起きる。

「はー、はー、はー」

 シャツと布団が寝汗でぐっしょり濡れている。
 手で顔を覆って、俯く。

(時雨が死んだ) 

 首を枝に突き刺され、事切れた時雨の顔が浮かぶ。

(俺のせいだ……)

 寒気がする。
 顔をあげ携帯を見る。

(また朝に戻っている……)

 祭りに行く日の朝だった。時雨の死んだ顔を思い出して、体が震える。

(あ、あいつは死なせられない……どうにかしないと……)

「匡伸さん」

 襖の向こうで声がした。

「匡伸さん、どうかしたんですか? 声が聞こえたんですが……」

 匡伸の叫び声を聞いて、やって来たらしい。

「し、時雨……」
「失礼します」

 襖を開いて時雨が入って来る。
 時雨は匡伸の顔を見て、驚いた顔をする。

「匡伸さん、どうしたんですか! 顔が真っ青ですよ」

 肩と手を握られる。

「体温も低いし、体も震えている……具合でも悪いんですか……?」

 匡伸はじっと時雨の顔を見た。
 時雨は生きている。

(よかった……生きてる……よかった……)

 時雨の顔や体を確かめるように撫でる。

「匡伸さん……?」

 時雨が驚いた様子を見せる。

「本当に大丈夫ですか?」

 時雨も匡伸の顔や体を撫でる。
 匡伸は何かを言おうとしたが、動揺で言葉が出なかった。
 時雨を死なせなたくないと言う思考だけがぐるぐると頭で回っている。

「今日のお祭りはやめておきますか……?」

(祭りはダメだ……時雨が死ぬ……)

 首を縦に振る。

「わかりました……」

 時雨から少し気落ちした気配を感じる。
 時雨が、今日の日を楽しみにしていたのは、よく理解している。
 けれど、絶対に祭りには行けなかった。

「匡伸さん、横になってください。体温計持って来ますね」

 促されて、匡伸は布団に横になる。時雨が部屋から出て行く。

(以前は時雨に殺される事を怯えてたのに、今度は時雨が死ぬ事を怖がる事になるのか……)

 しかし、匡伸の中で時雨は『大事な人』になっていた。

(時雨が死ぬところはもう見たくない……)

 時雨が戻って来て、体温計を差し出す。
 熱を計ったら、三五度台だった。

「毛布出しましょうか?」
「すまん」

 少し厚い毛布をかけて貰う。

「食欲ありますか?」
 匡伸は首を横に振った。その代わり、時雨に抱きついた。
 時雨は黙って匡伸を抱く。

「大丈夫ですよ」

 子どもなだめるように、優しく背を撫でてくれた。
 時雨の胸から心音がする事に、安心した。

(これで時雨が死ぬ未来は回避出来たはずだ……)

 起きて早々精神的にぐったりと疲れてしまった。
 時雨に抱かれたまま、いつの間にか眠ってしまった。

***

 目を開けると、目の前に壁がある。

「起きましたか」

 顔を上げると時雨が匡伸を抱えて、一緒の布団に横になっていた。

「い、一緒に居てくれたのか」
「うなされていたみたいなんで」

 時雨が匡伸の髪を撫でる。

「すまん……」
「謝らないでください、僕は匡伸さんの為になりたいんです。貴方の役にたてる事は嬉しい事です」  

 時雨はふにゃっと笑う。

「食欲ありますか? 雑炊作りましょうか?」

 言われて少しお腹が空いているのを感じる。

「あぁ、腹が減った気がする……」
「雑炊を作って来ますね」

 時雨が立ち上がる。しかし無意識にそのシャツを引っ張ってしまう。

「……一緒に行きますか?」

 頷いて時雨と台所に向かった。
 時雨が料理を作っている間、ずっと側をうろうろした。

「ぼ、僕は凄く嬉しいんですけど、本当に大丈夫ですか匡伸さん?」

 心配しつつも、しかし嬉しそうな笑みを浮かべて何度も時雨が匡伸を振り返る。
 時雨の体に後ろか抱きついた匡伸は、口を開いた。

「……おまえが死ぬ夢を見たんだ」
「えっ!」

 時雨が驚く。

「だから、生きてて嬉しい」

 時雨が振り向いてきゅっと抱きしめ返してくれた。

「僕は匡伸さんを残して絶対に死にませんから、安心してください」
 時雨がそう言うと、本当にそうなるように感じるのだった。


つづく

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