幼馴染しか見えない婚約者と白い結婚したので、夜明け前にさよならしました

ゆぷしろん

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10.

 リュミエールの冬は風が強く、海鳴りが夜遅くまで聞こえます。

 私はその冬、初めて“何も我慢しない日常”を覚えました。

 朝、起きたい時間に起きること。
 自分の好きなパンを選ぶこと。
 誰の機嫌も伺わずに笑うこと。
 寒ければ暖炉のそばに寄ること。
 疲れたら素直に椅子へ座ること。

 そんな当たり前のことに、一つひとつ救われていきました。

 ノア先生との距離が縮まったのも、その頃です。

 ある日、買い出し帰りに私が木箱を抱えてよろけた時、彼はさっと駆け寄って箱を受け取りました。

「危ない。あなたまで転んだらどうするんです」

 真っ先に私の手元を見て、怪我がないか確かめる目。

 それだけのことなのに、胸がきゅっと締めつけられました。

 心配されることに、私はあまりにも慣れていなかったのです。

「ありがとうございます。少し重かっただけです」

「重いとわかっているなら、人を呼んでください」

「その程度で?」

「その程度だから、です。無理をする人は、だいたい自分では無理だと思っていない」

 私は思わず笑ってしまいました。

「先生は説教がお上手ですね」

「患者にもよく言われます」

 彼も笑います。

 その笑顔は、誰かと比べることも、勝手な役目を押しつけることもなく、ただ私を一人の女性として見てくれるものでした。
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