幼馴染しか見えない婚約者と白い結婚したので、夜明け前にさよならしました

ゆぷしろん

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 彼が去ったあと、ノア先生は黙って温かい薬草茶を淹れてくれました。

「ありがとうございます」

「礼を言うのはこちらです。勝手に入ってきてしまった」

「助かりました。あのままでは、少し呼吸が苦しかったので」

 私が苦笑すると、彼は神妙な顔で言いました。

「無理をなさるでしょう、あなたは」

「そんなことは……」

「あります。とても」

 きっぱり言われてしまい、私は言葉に詰まりました。

 すると彼は少しだけ視線を和らげます。

「でも、今日はちゃんと断れた。よかった」

 たったそれだけで、また泣きたくなりました。

 認めてもらえることが、こんなにあたたかいなんて。

「先生は……いつも、私が欲しかった言葉をくださいますね」

 気づけば、そんなことを口にしていました。

 ノア先生は驚いたように目を瞬き、それから困ったように笑います。

「それはたぶん、あなたが今まで受け取るべきものを受け取ってこなかったからです」

 沈黙のあと、彼は意を決したように続けました。

「急がせるつもりはありません。けれど、ひとつだけ伝えてもいいですか」

「はい」

「あなたがこの町に来てから、私は毎週、薬舗へ来るのが楽しみでした」

 胸が高鳴りました。

「薬草が必要だから来ていたのは本当です。でもそれだけではない。あなたと話したかった。笑ってほしかった。元気でいてほしかった」

 まっすぐな言葉でした。

 言い訳も、逃げ道も、私に理解を強いる気配もない。

「だから、焦らなくていい。でもいつか、あなたが過去ではなく未来を見られるようになった時……その未来に、私も並べたら嬉しいと思っています」

 私はしばらく言葉を失いました。

 昔の私なら、誰かの好意を前にしてまず“役に立てるか”を考えていたでしょう。でも今は違います。

 この人は、私に役目を求めているのではない。
 私という人間を、そのまま大切にしようとしてくれている。

 それが、わかりました。

「……ありがとうございます」

 ようやく絞り出した私の声は、少し震えていました。

「すぐに上手なお返事はできません。でも」

「でも?」

「あなたが来るのを、私も楽しみにしておりました」

 その瞬間、ノア先生の表情が、春の日差しみたいにほどけました。
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