男性至上主義な世界で女が権力を持って何が悪い!

塚本麗音

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第一章

女が権力を持って何が悪い!(3)自由への旅立ち

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自室に戻ったソラーナは頭を抱えて、本日何度目かになるタメ息をついた。
「ソラーナ様…お紅茶でも、お持ちいたしましょうか?」
そんなソラーナに侍女が声をかける。
「……いいえ、結構よ。 下がってちょうだい…ちょっと、一人にして…」
振り返らずに侍女にそう言うと「はい」と静かに返事をし、
彼女は部屋を出て行った。
窓辺まで移動すると空を見上げると、大きな満月があった。
ソラーナは髪をまとめている髪留めを外すと、ヴェーブのかかった紅の美しい髪が白いワンピースドレスに映えた。
細工の細かい金の髪留めを見るとそこには、レティのティアラ風の髪飾りにも
あったサファイアブルーの宝石が1つだけあった
その髪留めもレティの髪飾りもエドワードが自分の瞳と同じ色の宝石が付いている物を送った物だった。

ソラーナはそれを手に目を瞑ると、幼い頃から今までの記憶が蘇がってきた。

『お父さま、私ね冒険者になりたいの!』
まだ5歳だった無邪気なソラーナが父にそう言うと、
『何を言っている。 お前はこのエール領の次期領主の妻になるんだ』
父はまだ幼かったソラーナにそう冷たく吐き捨てた。
そんなソラーナを慰めたのが母だった。
『ソラーナ、男に逆らってはいけないのよ』
母は悲しそうに言った。
『でも、私…自由に生きていきたい』
前世の過ちを繰り返さない、そんな気持ちのソラーナは諦めきれなかった。
『ソラーナ…あなたが自由に生きていきたい気持ちは、母にもよく分かります。 でもね、あなたが自由に生きていったら、この領の民たちは困ってしまうのです。 あなた1人のワガママの為に多くの人たちは犠牲になってしまうのです。 
分かりなさい』
自分が領地を収める訳でもないのに、と納得は出来なかった。

納得が出来ないまま、ソラーナは毎日を過ごした。
どうにか自由になる方法は無いか、模索していた。
領主の妻として勉強しながらも諦めきれずに、何年も何年も自由になる方法を
探し続けた。
勉強の為、領地の為と冒険者登録もし、冒険者の真似事もしていた。
エドワードとの婚約が決まっても、彼なら自由にしてくれるかも、
と決められた結婚に意欲出すも、結果は変わらず。
どんなに、もがいてもあがいても、自由に生きる方法が無かった。

ソラーナは、とうとう自由になることを諦めた。
その矢先にこの騒ぎ。


ソラーナは、その髪留めを地面に叩き付け、踏み潰して壊した。
その瞬間、ソラーナの感情が爆発した。

ドレッサー所にあったハサミで長かった自分の髪を切り始めた。
この世界では、女は男に逆らわず、男を立て、髪が長く、スカート履いているのが常識。
髪の毛の短い女なんて、平民どころか冒険者だったとしても1人っていない。



翌日の朝。
侍女がソラーナ起こそうと部屋を訪れると、そこにはもう誰もいなかった。
そんな侍女の目に飛び込んできたのはソラーナの紅な髪の残骸だった。
ベッドは使われた痕跡はなく、昨日着ていた白いワンピースドレスもベッドの上に無造作に置かれていた。
侍女は、慌ててセバスチャンにそのことを伝えると、セバスチャンはそれを
リチャードに伝えた。

リチャードが急いでソラーナの部屋を訪れると驚愕した。
無残に切られた髪の毛、破壊された元婚約者からの髪留め、一見して何かの事件に巻き込まれたかのように見えたが部屋の中をよく見ると、テーブルの上に置かれた
1枚の手紙を発見した。
セバスチャンがその手紙をリチャードに渡した。
『私は、自由に生きることにしました。 私のことは死んだ者としてくださって
結構。 どうぞそちらで好きにしてください。 その方が、そちらとしても
都合がいいでしょう?』
リチャードはその手紙を握りつぶした。
部屋の中をよく見ると、ソラーナの荷物がいくつか消えていることに気づいた。
幼い頃から、魔法や剣を学んでいたので、魔法書や訓練と言う名目で
集めたアイテム、装備、剣などの荷物が無くなっていた。
ソラーナは家を捨てて冒険者になったのだと、リチャードは理解した。
しかしそんなことが表沙汰になれば当然、家の恥であると思ったリチャードは、
ソラーナの手紙に書かれていたように、彼女を死亡したものとして
王家に届出を出した。


それから一か月。
エール領内の冒険者ギルドのギルドマスターの執務室。
「……信じられない、本当に死亡届を出しちゃったよ…」
ギルドマスターは手元の書類を見ながらボヤいた。
琥珀の瞳に背中まで伸びた銀のストレートの髪を後ろで1本に束ねた、
30後半の中年なのに青年のような端正な顔立ちの男性。
ギルドマスターは母、メリッサの兄チアーノ・バイカウント・エファー子爵だ。
奥さんにベタ惚れのこの人は、この世界において女性に優しい、数少ない男性の1人でソラの1番の味方をしてくれている。
「だから言ったじゃない。 それにしても一か月か…思っていたより早く出たわね」
ソラーナの姿はエール領内の冒険者ギルドのギルドマスターの部屋の中にあった。

身体の線がハッキリと出る黒いハイネックのタンクトップに、同じく黒いズボンを履いていた。
腕や足にはドラゴンの鱗で作った、グレーのサポーターに同じくグレーの腰にあるベルトには二本の剣が左右にある。
背中までしかない短いオレンジ色のフード付きマントで顔を隠していた。
「お嬢様……」
「ギルマス、私はもうお嬢様じゃない。 ただのソラーナ…いいえ、今日からは
ただのソラよ。 雲が空を自由気ままに流れるように、私も自由気ままに生きる」
そう言ってソラが部屋を出ようとした時、ギルマスが呼び止めた。
「ソラ。 ちょっと待て…お前、冒険者になるんだろう? ソラーナの冒険者登録はもうすでに抹消されてるから、新しく登録しなおさなきゃいけない。 
冒険者登録は偽造できないように魔法でセキュリティーがかかってるんだ、
ここで俺が新しく発行してやるよ」
ソラはそう言われたので、もう一度ギルマスの元に戻った。

ソラーナの冒険者登録カードを返却し、新しくソラと言う名前の冒険者として、
新規登録しなおした。
「頑張ってCランクまで上げたのに…ランクはやっぱり落ちるわね」
「しかないさ。 名前の偽造も出来ないから省略の『ソラ』だけ見えるようにしておくのが精一杯だからな、ランクの偽造は出来んよ。 まっ、お前さんの実力ならすぐ上がるだろう? 前もCランク止まりだったのも、勉強の合間に冒険者やってたからだしな!」
「ありがとう、伯父様」
ソラはお礼を言って、今度こそ部屋を出て行った。
街に出ると、そこかしこでソラーナの死亡を嘆く領民たちがいた。
それもそのはず、勉強の合間にソラーナはよく家を抜け出して領民たちと触れ合うことが多かったからだ。
勉強の為なんて言うけど、単純な息抜きと自由探しと言う自分勝手な目的だった。
それでも、領民たちの生の声を聞いたり改善に役立てたりと、ソラーナ・マーキス・エールは領民に寄り添う良い人だったと、みんなが嘆く。

だから今、領内に居るのはマズい。
そう思ったソラは、後ろ髪を引かれながらもソラーナに別れを告げエール領を後にした。

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