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水煙草会議
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ヤバイの王宮シャマロイ宮殿の良く見えるこのアウール広場はヤバイの観光名所の一つだ。
近代的な街にあって王宮は、黄金のアラベスク模様を美しく施されたモスクドームを冠し、さながらアラビアンナイトの宮殿のような佇まいを見せていた。
昼下がりともなると、広場に面したどのカフェからも水煙草の様々な甘いフレーバーが漂い、太陽に輝くドームを眺めながらの一服を愉しもうと言う観光客で賑わいを見せるのだった。
ラムンサンとノーランマークも御多分に洩れず王宮の良く見えるこのカフェテラスで観光客に溶け込むように喫煙を愉しんでいる。
かのように見えるが、実は二人でヤバイのヤバい情報について密談中だった。
「なるほどね。そう言う依頼だったのか。この国の元王女が半年も行方不明となると、そろそろ噂になってもおかしくはないな」
これまでの依頼の経緯をラムランサンから聞きながら、美しいガラス瓶から伸びたパイプをノーランマークは口に運んだ。
それはミントの香りのする水煙草だった。
深く吸うと、鼻から清涼感のある甘い香りが抜けていく。
「出来る事なら騒がれる前に家に戻してやりたいが…、不思議な神託を受けたのだ」
様々なフレーバーで香り付けされた煙草の葉は下から炙られ、その煙が水の入った瓶を通り泡となって細いパイプから吸われていく。
手元のガラス瓶の中でポコポコと泡立つ煙を見つめながら、ラムランサンの表情は優れなかった。
「お前がそんな顔をするなんて、いったいどんな神託なんだ?」
立ち昇る紫煙の向こうからノーランマークがラムンサンの険しい表情に気がついた。
「この国から王女は出ておらず、そして王女はあちこちにいる。どう思う?妙だろう?こんな神託。王女は双子の現王の息子の何方かと婚約し結婚をするはずだった。
だが、何かを感じて私に占いを依頼しようとしていたのだ。
そしていなくなった。何か陰謀めいたものを感じないか」
「…なあラムンサン。そんな物に手を出すのは止めろ。きっとろくなことにはならないぞ」
テーブルの上に置かれたラムンサンの手を心配げにノーランマークが引き止めるように握りしめた。
正義感と使命感。これらをラムランサンは信条としていた。
その為に今まで行く度もこの一族は危険な目に遭い、実際皆殺されてきたのだ。
ノーランマークが心配するのも無理のない事だった。
「だが無視する事は出来ぬ。既に依頼を受けたのだ。今ロンバードに二人の王子に接触出来るよう手筈を整えさせている」
「ダメでございました」
ラムンサンの背後から音もなくいきなり声がして二人は一瞬ギョッとなった。
振り返るとそこに立っていたのはロンバードだ。
「あーもう!ビックリさせるなよロンバード!仮にも国家的秘密を相談している時に、背後からいきなり近づくのは止めろ!」
「なら、貴方様もラム様に煙草を勧めるのはおやめ下さい!お体に悪うございます」
そう言うが早いか、ロンバードは既にラムンサンの手から水煙草を奪っていた。
「水煙草は普通の煙草よりもニコチンもタールも少ないのだ!少しは中東らしい雰囲気を味わっても良いであろう!
ああいや、それよりも何がダメなんだロンバード!」
ラムンサンは咳払いを一つすると、ロンバードに姿勢を正した。
「その王子様達への謁見の件でございます。
そんな怪しげな占い師に挨拶などして頂かなくても結構との仰せで、にべもなく断られました」
「なっ…!怪しげだと?!我がタカランダの神託の事を知らぬのか!古より王侯貴族や国のトップの未来を占い、世界を陰で導いて来たこの、タカランダの神託の事を知らぬとは!無礼な!」
俄に激昂して立ち上がるラムンサンを「まあまあ」と宥めながら2人がかりで椅子に落ち着かせ、ノーランマークがすかさず肩を引き寄せた。
「ヤバイなど所詮は成金国家さ、君達の事を知らないのも仕方ない。こうなったらオレが一肌脱いでやるから安心しろラム!」
「もしかして疾しい手を使うのでは無いだろうな!」
察しのいいラムンサンは、嫌な予感が走って肩に置かれた手を払い除けた。
「大丈夫だって。向こうから会いたいって言わせてやるさ」
そう言うノーランマークの顔つきは既に何か企む愉快そうな表情へと変わっていた。
「やれやれ、貴方にそんな顔をされると私は嫌な予感しか致しませんよ」
そう言うロンバードは口ではこう言ったものの、己の一言でノーランマークのエンジンに火をつけてやったのだと内心ほくそ笑んでいるのだった。
「ついては用意して欲しいものがある」
ノーランマークが周囲を見渡しながらロンバードを己の近くへと呼び寄せた。
一つテーブルに固まって声を顰める様子は、どう見ても悪巧みをしている一味にしか見えない。
「こいつの着るアラビアンなドレスと化粧品。それからタロットカードと水晶玉だ」
ノーランマークの言葉に引っ掛かるものを感じてラムランサンの眉間に皺が寄せられる。
「ちょっと待て…。何か良からぬ事を考えているのではあるまいな」
嫌な予感に怪訝な顔でノーランマークを睨んだ。
「例えば?」
「例えば…私に女装させる気なのでは無いか?」
「流石ご名答!君には世界一の美人で当たると言う評判の占い師になってもらう。まあ、そうそう嘘でもないだろう?高名な占い師だし、美人だし、男って所がちょっと違うだけだ」
真面目なラムンサンは青筋を立てて激昂した。
「そこが違えば大違いだろう!それに私をそんな安っぽい占い師に仕立てるなんて、なんて恥知らずなヤツなのだ!断る!断じてことわる!」
今にもノーランマークに飛びかかる勢いのラムンサンをロンバードが羽交い締めにして食い止めた。
「まあまあ、ラム様落ち着いて…当たって砕けるのも一つの手では無いですかな?」
「砕ける?砕けてどうするのだ!」
「まあまあ、落ち着けラム、言葉のアヤだって」
こうしてカフェでの密談は目立たぬようにと心掛けたつもりが皆の衆目を集める結果となっていた。
近代的な街にあって王宮は、黄金のアラベスク模様を美しく施されたモスクドームを冠し、さながらアラビアンナイトの宮殿のような佇まいを見せていた。
昼下がりともなると、広場に面したどのカフェからも水煙草の様々な甘いフレーバーが漂い、太陽に輝くドームを眺めながらの一服を愉しもうと言う観光客で賑わいを見せるのだった。
ラムンサンとノーランマークも御多分に洩れず王宮の良く見えるこのカフェテラスで観光客に溶け込むように喫煙を愉しんでいる。
かのように見えるが、実は二人でヤバイのヤバい情報について密談中だった。
「なるほどね。そう言う依頼だったのか。この国の元王女が半年も行方不明となると、そろそろ噂になってもおかしくはないな」
これまでの依頼の経緯をラムランサンから聞きながら、美しいガラス瓶から伸びたパイプをノーランマークは口に運んだ。
それはミントの香りのする水煙草だった。
深く吸うと、鼻から清涼感のある甘い香りが抜けていく。
「出来る事なら騒がれる前に家に戻してやりたいが…、不思議な神託を受けたのだ」
様々なフレーバーで香り付けされた煙草の葉は下から炙られ、その煙が水の入った瓶を通り泡となって細いパイプから吸われていく。
手元のガラス瓶の中でポコポコと泡立つ煙を見つめながら、ラムランサンの表情は優れなかった。
「お前がそんな顔をするなんて、いったいどんな神託なんだ?」
立ち昇る紫煙の向こうからノーランマークがラムンサンの険しい表情に気がついた。
「この国から王女は出ておらず、そして王女はあちこちにいる。どう思う?妙だろう?こんな神託。王女は双子の現王の息子の何方かと婚約し結婚をするはずだった。
だが、何かを感じて私に占いを依頼しようとしていたのだ。
そしていなくなった。何か陰謀めいたものを感じないか」
「…なあラムンサン。そんな物に手を出すのは止めろ。きっとろくなことにはならないぞ」
テーブルの上に置かれたラムンサンの手を心配げにノーランマークが引き止めるように握りしめた。
正義感と使命感。これらをラムランサンは信条としていた。
その為に今まで行く度もこの一族は危険な目に遭い、実際皆殺されてきたのだ。
ノーランマークが心配するのも無理のない事だった。
「だが無視する事は出来ぬ。既に依頼を受けたのだ。今ロンバードに二人の王子に接触出来るよう手筈を整えさせている」
「ダメでございました」
ラムンサンの背後から音もなくいきなり声がして二人は一瞬ギョッとなった。
振り返るとそこに立っていたのはロンバードだ。
「あーもう!ビックリさせるなよロンバード!仮にも国家的秘密を相談している時に、背後からいきなり近づくのは止めろ!」
「なら、貴方様もラム様に煙草を勧めるのはおやめ下さい!お体に悪うございます」
そう言うが早いか、ロンバードは既にラムンサンの手から水煙草を奪っていた。
「水煙草は普通の煙草よりもニコチンもタールも少ないのだ!少しは中東らしい雰囲気を味わっても良いであろう!
ああいや、それよりも何がダメなんだロンバード!」
ラムンサンは咳払いを一つすると、ロンバードに姿勢を正した。
「その王子様達への謁見の件でございます。
そんな怪しげな占い師に挨拶などして頂かなくても結構との仰せで、にべもなく断られました」
「なっ…!怪しげだと?!我がタカランダの神託の事を知らぬのか!古より王侯貴族や国のトップの未来を占い、世界を陰で導いて来たこの、タカランダの神託の事を知らぬとは!無礼な!」
俄に激昂して立ち上がるラムンサンを「まあまあ」と宥めながら2人がかりで椅子に落ち着かせ、ノーランマークがすかさず肩を引き寄せた。
「ヤバイなど所詮は成金国家さ、君達の事を知らないのも仕方ない。こうなったらオレが一肌脱いでやるから安心しろラム!」
「もしかして疾しい手を使うのでは無いだろうな!」
察しのいいラムンサンは、嫌な予感が走って肩に置かれた手を払い除けた。
「大丈夫だって。向こうから会いたいって言わせてやるさ」
そう言うノーランマークの顔つきは既に何か企む愉快そうな表情へと変わっていた。
「やれやれ、貴方にそんな顔をされると私は嫌な予感しか致しませんよ」
そう言うロンバードは口ではこう言ったものの、己の一言でノーランマークのエンジンに火をつけてやったのだと内心ほくそ笑んでいるのだった。
「ついては用意して欲しいものがある」
ノーランマークが周囲を見渡しながらロンバードを己の近くへと呼び寄せた。
一つテーブルに固まって声を顰める様子は、どう見ても悪巧みをしている一味にしか見えない。
「こいつの着るアラビアンなドレスと化粧品。それからタロットカードと水晶玉だ」
ノーランマークの言葉に引っ掛かるものを感じてラムランサンの眉間に皺が寄せられる。
「ちょっと待て…。何か良からぬ事を考えているのではあるまいな」
嫌な予感に怪訝な顔でノーランマークを睨んだ。
「例えば?」
「例えば…私に女装させる気なのでは無いか?」
「流石ご名答!君には世界一の美人で当たると言う評判の占い師になってもらう。まあ、そうそう嘘でもないだろう?高名な占い師だし、美人だし、男って所がちょっと違うだけだ」
真面目なラムンサンは青筋を立てて激昂した。
「そこが違えば大違いだろう!それに私をそんな安っぽい占い師に仕立てるなんて、なんて恥知らずなヤツなのだ!断る!断じてことわる!」
今にもノーランマークに飛びかかる勢いのラムンサンをロンバードが羽交い締めにして食い止めた。
「まあまあ、ラム様落ち着いて…当たって砕けるのも一つの手では無いですかな?」
「砕ける?砕けてどうするのだ!」
「まあまあ、落ち着けラム、言葉のアヤだって」
こうしてカフェでの密談は目立たぬようにと心掛けたつもりが皆の衆目を集める結果となっていた。
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