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ワインの名前と恐ろしい予感
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真夜中過ぎ、開け放たれた窓からは、まだ冷めやらぬ真昼の太陽に晒された砂漠の風がそよいでいた。
ベッドで寝煙草をふかしながら、ノーランマークは何とも言えない心地悪さに苦虫を潰していた。
隣を見れば金持ちの女が横たわっている。
今までだって女を利用する為だけに抱いた事もあるのに、この胸のつかえは一体何事だ。
こんな事をするべきではなかった。
この歳になって初めて、今までした事もない後悔と後ろめたさがノーランマークを責め立てていた。
「素敵だったわよ、ノーランマーク。貴方に約束のご褒美をあげなきゃねぇ」
ノーランマークの思いとは裏腹に、隣に横たわっていたダイアナは情事の後の多幸感を纏いながら、気だるい様子でノーランマークの煙草を指から奪い己の唇にさした。
気を取り直したノーランマークが煙を吐きながらダイアナに尋ねた。
「それ、特別ボーナスだと嬉しいけど」
「これを話せば私の身も危なくなるのよ?ブラックタイムの始まる前に決して口外しないって言う誓約書まで書かされたのよ?特別に決まってる」
「それはそれは、ビッグボーナスだ!」
「ふざけた男ね」とダイアナは嗤うとようやく重い口を開いた。
「出品されていたワインの名前は「メリザンドの涙」と「王女の涙」。どちらも赤ワインよ。この国では知っての通りお酒はご法度。
呑んでもいけないし造ってもいけないの。でも、宮殿の地下では密かに密造酒が造られているのよ。
今回出品されていたワインもオークションが成立していたら果たして値段はいくらになっていたかしらね。欲しい人なら何十億でも欲しい人がいるのじゃないかしら」
そう言うと、ダイアナは勢いよく煙を吐いた。
「億だって?そんな馬鹿な!世界一高いワインは今のところサザビーズで五千万で落札された1945年物のロマネコンティだ。それより高いワインとは一体なんなんだ?」
「ふふっ、ワインの名前にピンと来ない?ノーランマーク。私の口から言えるのはこれだけよ。これ以上は言えないし言う気はないわ。これでも破格なんだから」
ワインの名前?「メリザンドの涙」と「アミーラの涙」
アミーラ…。
何処かで聞いた名前だ。
アミーラ…アミーラ…。
アミーラ…王女…?
ラムランサンが探しているあの王女の事なのか?!
不意に胸騒ぎがノーランマークの心臓を突き抜けて思わず勢い良く起き上がった。
「やだ、急にどうしたの?ノーラン…」
しなだれようとするダイアナの手を振り解きノーランマークはベッドを飛び降りていた。
「ありがとう!助かったよ!ダイアナ!」
急いでいても流石ノーランマーク、ダイアナにお礼のキスを一つ残すと下着のまま自分の服を引っ掴んで部屋を飛び出していた。
その有り様を眺めているだけのダイアナは閉まるドアに呆れた顔でため息をついた。
「まったく、情報が欲しいだけなのは分かってるけど…それにしても分かりやすい男ねノーランマーク。最後までロマンチックな気分でいたかったわね。
ふふ…、貴方は不合格よ、ノーランマーク」
王女の失踪と怪しげなワインは絶対に繋がってる!
しかも何やら最悪な事態が待っている気がする!
だとしたら、ラムランサンのやつ、とんでも無く危ないものに首を突っ込んでいることになる!
にわかにラムランサンの事が心配になったノーランマークはホテルの廊下を闇雲に走っていた。
ハッキリとは見えない靄のかかった巨大な何かが、ノーランマークの眼前に立ちはだかっているように感じられ、居ても立っても居られなくなっていた。
◆◆◆
一方、ドバイからヤバイへと帰ってきたラムランサン達はホテルに戻っていた。
ジオマンシーからの信書がある旨を王宮に伝え、謁見の許しが下りるのを今か今かと待ち構えていた。
だと言うのに、ラムランサンの心の中は王様よりもノーランマークの事で占められていた。
アスコットの策略にはまるまいと思っても、どうしても心から彼のことが離れないのだ。
「なあ、イーサン、お前に頼みがある」
お茶を運んできたイーサンにこっそりとラムランサンは耳打ちをした。
「あのバカが何処かの病院にでも担ぎ込まれてないか調べてくれないか」
「…やっぱりノーランマークの事が気になるんですね」
「生きてるか死んでるかくらいは知らないとな。葬式も出せない」
この期に及んでまだラムランサンは意地を張っていたが、賢い従者は主の気持ちが良く分かっていた。
「分かりました。では行って参ります」
そう言って離れて行こうとするイーサンをラムランサンが呼び止めて一言だけ「頼む」と囁いた。
そんな時のラムランサンの顔は気丈に見えても何処か心許なげで、だからこそイーサンはラムランサンを支えたいと心から思うのだった。
「待ってて下さいね。きっと大丈夫ですよ。だってあのノーランマークの事ですから」
「ファッション!!」
裸でホテルの廊下を走った罰か、何処かで己の悪い噂でもしているのか、水煙草店のテラス席でノーランマークは勢い良くくしゃみをしていた。
さっきから濛々と立ち昇る煙の中でごちゃついた頭を整理して居たのだ。
「待てよ待てよ、ラムランサンが失踪した王女の依頼を受けた。で、王女はまだ見つかっては居ない。
気持ち悪い双子の王子が怪しげな密造酒を作って、そのラベルに王女の名前を入れている。
それが高値で取引される理由はなんだ?
そうだ、もう一人メリザンドという名前は誰なんだ?
ノーランマークは携帯を取り出すとメリザンドという名前で検索をかけてみた。
ところが当然の如くメリザンドと言う言葉は死ぬほどヒットした。
「うわあ!いっぱいあるぞ!そりゃそうか、情報が足りないよな。どうやって絞り込むか、いやそれよりその王宮の酒蔵に潜入した方が…」
ノーランマークがブツブツ言いながら思案している時だった。
手元に影が差してノーランマークは顔を上げた。
「ノーランマーク!何処にいたんだよっ!探したんだからな!」
ノーランマークの目の前に仁王立ちしていたのはイーサンだった。
「イーサン!いや良かった良かった!お前が居るって事はラムもいるんだろう?ラムに急いで知らせたい事が、、」
そう言うノーランマークのテーブルをイーサンが不機嫌を露わにバン!と叩いた。
「死ぬほど探したんだからな!何処の病院にもいないし、ラム様にどう言って良いか悩んでたんだぞ!」
「び、病院?…なんでオレが病院なんだ?」
「アスコットだよ!アスコットがお前の映像送りつけて来たんだ!
お前、なんでアスコットなんかと連んでるんだよ!爆発したとこで映像途切れてるし、ラム様がどれだけ心配してたと思うんだよ!」
涙ぐみながら怒鳴り散らすイーサンの後ろにラムランサンの痛みが見えた気がしてノーランマークの胸がキリキリと痛んだ。
アスコットがどんな映像に仕立てたのかは想像できた。
「すまん…、イーサン。弁解の余地もないよ、オレが悪かったんだ。ラムに会ったら心から謝る」
ノーランマークは本心からそう思っていた。
口喧嘩の事、何よりダイアナの事。自分の軽率さがこれほど身に染みた事はなかった。
「そうだ、それよりラムランサンは今何処にいるんだ?イーサン。急いで知らせたい事があるんだが…」
「ラム様は今、ヤバイ国王に謁見する為にホテルで宮殿に行く支度してる」
「なんだって?!宮殿へ?!マズイぞイーサン!ラムが危ない!」
禍々しいあの影が、その触手を伸ばしてラムランサンを捕まえようとしている。
そう感じたノーランマークは勢い良く席を立ち上がっていた。
ベッドで寝煙草をふかしながら、ノーランマークは何とも言えない心地悪さに苦虫を潰していた。
隣を見れば金持ちの女が横たわっている。
今までだって女を利用する為だけに抱いた事もあるのに、この胸のつかえは一体何事だ。
こんな事をするべきではなかった。
この歳になって初めて、今までした事もない後悔と後ろめたさがノーランマークを責め立てていた。
「素敵だったわよ、ノーランマーク。貴方に約束のご褒美をあげなきゃねぇ」
ノーランマークの思いとは裏腹に、隣に横たわっていたダイアナは情事の後の多幸感を纏いながら、気だるい様子でノーランマークの煙草を指から奪い己の唇にさした。
気を取り直したノーランマークが煙を吐きながらダイアナに尋ねた。
「それ、特別ボーナスだと嬉しいけど」
「これを話せば私の身も危なくなるのよ?ブラックタイムの始まる前に決して口外しないって言う誓約書まで書かされたのよ?特別に決まってる」
「それはそれは、ビッグボーナスだ!」
「ふざけた男ね」とダイアナは嗤うとようやく重い口を開いた。
「出品されていたワインの名前は「メリザンドの涙」と「王女の涙」。どちらも赤ワインよ。この国では知っての通りお酒はご法度。
呑んでもいけないし造ってもいけないの。でも、宮殿の地下では密かに密造酒が造られているのよ。
今回出品されていたワインもオークションが成立していたら果たして値段はいくらになっていたかしらね。欲しい人なら何十億でも欲しい人がいるのじゃないかしら」
そう言うと、ダイアナは勢いよく煙を吐いた。
「億だって?そんな馬鹿な!世界一高いワインは今のところサザビーズで五千万で落札された1945年物のロマネコンティだ。それより高いワインとは一体なんなんだ?」
「ふふっ、ワインの名前にピンと来ない?ノーランマーク。私の口から言えるのはこれだけよ。これ以上は言えないし言う気はないわ。これでも破格なんだから」
ワインの名前?「メリザンドの涙」と「アミーラの涙」
アミーラ…。
何処かで聞いた名前だ。
アミーラ…アミーラ…。
アミーラ…王女…?
ラムランサンが探しているあの王女の事なのか?!
不意に胸騒ぎがノーランマークの心臓を突き抜けて思わず勢い良く起き上がった。
「やだ、急にどうしたの?ノーラン…」
しなだれようとするダイアナの手を振り解きノーランマークはベッドを飛び降りていた。
「ありがとう!助かったよ!ダイアナ!」
急いでいても流石ノーランマーク、ダイアナにお礼のキスを一つ残すと下着のまま自分の服を引っ掴んで部屋を飛び出していた。
その有り様を眺めているだけのダイアナは閉まるドアに呆れた顔でため息をついた。
「まったく、情報が欲しいだけなのは分かってるけど…それにしても分かりやすい男ねノーランマーク。最後までロマンチックな気分でいたかったわね。
ふふ…、貴方は不合格よ、ノーランマーク」
王女の失踪と怪しげなワインは絶対に繋がってる!
しかも何やら最悪な事態が待っている気がする!
だとしたら、ラムランサンのやつ、とんでも無く危ないものに首を突っ込んでいることになる!
にわかにラムランサンの事が心配になったノーランマークはホテルの廊下を闇雲に走っていた。
ハッキリとは見えない靄のかかった巨大な何かが、ノーランマークの眼前に立ちはだかっているように感じられ、居ても立っても居られなくなっていた。
◆◆◆
一方、ドバイからヤバイへと帰ってきたラムランサン達はホテルに戻っていた。
ジオマンシーからの信書がある旨を王宮に伝え、謁見の許しが下りるのを今か今かと待ち構えていた。
だと言うのに、ラムランサンの心の中は王様よりもノーランマークの事で占められていた。
アスコットの策略にはまるまいと思っても、どうしても心から彼のことが離れないのだ。
「なあ、イーサン、お前に頼みがある」
お茶を運んできたイーサンにこっそりとラムランサンは耳打ちをした。
「あのバカが何処かの病院にでも担ぎ込まれてないか調べてくれないか」
「…やっぱりノーランマークの事が気になるんですね」
「生きてるか死んでるかくらいは知らないとな。葬式も出せない」
この期に及んでまだラムランサンは意地を張っていたが、賢い従者は主の気持ちが良く分かっていた。
「分かりました。では行って参ります」
そう言って離れて行こうとするイーサンをラムランサンが呼び止めて一言だけ「頼む」と囁いた。
そんな時のラムランサンの顔は気丈に見えても何処か心許なげで、だからこそイーサンはラムランサンを支えたいと心から思うのだった。
「待ってて下さいね。きっと大丈夫ですよ。だってあのノーランマークの事ですから」
「ファッション!!」
裸でホテルの廊下を走った罰か、何処かで己の悪い噂でもしているのか、水煙草店のテラス席でノーランマークは勢い良くくしゃみをしていた。
さっきから濛々と立ち昇る煙の中でごちゃついた頭を整理して居たのだ。
「待てよ待てよ、ラムランサンが失踪した王女の依頼を受けた。で、王女はまだ見つかっては居ない。
気持ち悪い双子の王子が怪しげな密造酒を作って、そのラベルに王女の名前を入れている。
それが高値で取引される理由はなんだ?
そうだ、もう一人メリザンドという名前は誰なんだ?
ノーランマークは携帯を取り出すとメリザンドという名前で検索をかけてみた。
ところが当然の如くメリザンドと言う言葉は死ぬほどヒットした。
「うわあ!いっぱいあるぞ!そりゃそうか、情報が足りないよな。どうやって絞り込むか、いやそれよりその王宮の酒蔵に潜入した方が…」
ノーランマークがブツブツ言いながら思案している時だった。
手元に影が差してノーランマークは顔を上げた。
「ノーランマーク!何処にいたんだよっ!探したんだからな!」
ノーランマークの目の前に仁王立ちしていたのはイーサンだった。
「イーサン!いや良かった良かった!お前が居るって事はラムもいるんだろう?ラムに急いで知らせたい事が、、」
そう言うノーランマークのテーブルをイーサンが不機嫌を露わにバン!と叩いた。
「死ぬほど探したんだからな!何処の病院にもいないし、ラム様にどう言って良いか悩んでたんだぞ!」
「び、病院?…なんでオレが病院なんだ?」
「アスコットだよ!アスコットがお前の映像送りつけて来たんだ!
お前、なんでアスコットなんかと連んでるんだよ!爆発したとこで映像途切れてるし、ラム様がどれだけ心配してたと思うんだよ!」
涙ぐみながら怒鳴り散らすイーサンの後ろにラムランサンの痛みが見えた気がしてノーランマークの胸がキリキリと痛んだ。
アスコットがどんな映像に仕立てたのかは想像できた。
「すまん…、イーサン。弁解の余地もないよ、オレが悪かったんだ。ラムに会ったら心から謝る」
ノーランマークは本心からそう思っていた。
口喧嘩の事、何よりダイアナの事。自分の軽率さがこれほど身に染みた事はなかった。
「そうだ、それよりラムランサンは今何処にいるんだ?イーサン。急いで知らせたい事があるんだが…」
「ラム様は今、ヤバイ国王に謁見する為にホテルで宮殿に行く支度してる」
「なんだって?!宮殿へ?!マズイぞイーサン!ラムが危ない!」
禍々しいあの影が、その触手を伸ばしてラムランサンを捕まえようとしている。
そう感じたノーランマークは勢い良く席を立ち上がっていた。
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