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1月1日 午前3時の結び
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ルナ・ロッソの客が帰ったのは午前2時の事だった。
まだ騒ぎ足りない常連さんをやんわりと追い出たてて、テーブルに散乱する食器や床に散らばる紙吹雪を八神と秋山はせっせとかき集めた。
「疲れだろう先生は。理髪店と両方の掛け持ちになっちまったもんな」
八神が気遣わしげに秋山を見ると、目の下にはクマができ、髪は幾分ボサボサで、なんとなく目の焦点もあっていない感じだ。
今や完全に秋山は疲れのピークは超えていた。
それもその筈、秋山の本当の仕事は理髪師だ。
この日、そんな秋山は自分の店を早仕舞いしてまで、八神の店であるこのルナ・ロッサを手伝っていた。
あと少し、あと少し、二人はそう念じながら片付けていた。
1月1日、午前3時。
ようやく全てが片付いた。
「…おーい、生きてるか先生ぇ…」
「何とか…。八神さんも生きてます?」
「まあまあだ。ホストの時はこの時間はまだ接待していたもんさ」
綺麗になった床に足を投げ出し並んで座り込んでいた二人は、もうここで寝てしまいたいくらいにクタクタだった。
「今頃皆んな初詣してるか寝てるかですね。僕らには当分、そんなお正月は望めませんね。でも、かなりいつもよりマシでしたよ」
「うん?」
「だって考えても見て下さいよ。去年の年末年始は僕らは雪山で遭難しかけて元旦から病院食でした」
「ふむ、確かに…」
「その前の年なんて、ヤクザに僕の店をメチャメチャにされて八神さんは全治三ヶ月だったじゃないですか。
それに比べたら…今年は平穏な…良いお正月……、ホント…嘘みたいに…幸せな……」
秋山の語尾が段々と途切れ途切れに薄れ、ズルズルと八神の肩へと頭が凭れた。
「…先生?こんな所で寝ちゃダメだ。ほら、起きろ…」
だが秋山は精魂尽き果てたように八神の肩口で寝息を立てていた。
その端正で優しい寝顔に八神の目元が和らいでいく。
「……ま、いっか…」
そんな秋山に癒されて、ついには八神も眠気に襲われていた。
戦いを終えた戦士のしばしの休息。
互いを支えるように、寄り添い、折り重なる二人の寝顔は安らかで幸福に満ちていた。
八神の有り余る煩悩も、今は入る余地は無さそうだった。
一方、ここは末広神社。
それがこの繁華街一帯の鎮守様だった。
何でも末広と言う名前からして縁起が良く、商売繁盛の神様だという事で、この町の商店街や繁華街の参拝客で、この寒空にもかかわらず賑わいを見せていた。
「まったく、ラム様達は遅いですね!ロンバードさん、ちゃんと地図も渡して来たんですよね!」
「勿論ですイーサン。抜かりは有りません」
そう、いつも抜かりないラムランサンの執事ロンバードは今回は抜かっていたのだ。
なんせ渡したのは地域猫の猫マップ。
なかなか出会えない猫には会えるかもしれないが、神社となると話は別だ。
現にまだここに二人は追いついてこないのだから。
目立つようにと朱塗りの鳥居の前で二人の従者が主人の到着を今か今かと待っていた。
と、そこへ聞き覚えのある声で聞き覚えのない言葉を叫ぶ声がした。
「オニハーソトーーー!!
フクハーーウチー!」
叫んでいたのはラムランサンとノーランマークだ。
従者二人はギョッとしたが、周囲の参拝客もギョッとした。
そして更に周囲を騒然とさせたのは、鳥居の外から遠い賽銭箱に向かって小銭が豪速球で投げ入れられた事だった。
チャリンと景気良い音がして小銭は奇跡的に賽銭箱にヒットした。
おお~と、思わず周りはどよめいた。
「やった!見ろ!ラム!金があの箱に入ったぞ!」
「良くやった!では次は私も…」
そう言って振りかぶった時、その手を慌ててロンバードが止めに入った。
「ラム様!小銭はこんな所から投げてはなりません!それに、オニワソトと言うのは二月の節分の時に豆を撒きながら唱える言葉ですよっ!」
お互いようやく会えた四人組だった。
「ロンバード!探したぞ!お前何処にいたのだ!」
「それはこちらが聞きたいですよ。ラム様。知らない土地ですからハラハラいたしました」
そう心配そうに言うロンバードは、今度はノーランマークに向き直り、途端に厳しい口調。
「それよりノーランマーク、ちゃんとラム様をお連れしないとダメじゃないですか!」
急に自分のせいにされたノーランマークは瞬時にムカっ腹が立った。
「はあ?何でオレが悪いんだよ!お前らはいつもいつも…っ!」
「もうっ!こんな所まで来て揉めないでくださいっ!恥ずかしいじゃないですか!」
一番年下のイーサンが一番大人だ。
神社の境内でさっきからこの四人組は相当悪目立ちだった。
「ねえ、李仁さん。あの方達凄い目立ち方してますね」
初詣の済んだ棗と李仁は仲睦まじく玉砂利を踏んで歩いていた。
縁起物の熊手をいそいそと胸に抱えた棗は、目を丸くしてラムランサン達一行に気を取られた。
「お賽銭、あんな遠くから良く入りましたね」
参拝客にぶつかりもせずにナイスヒットの光景に内心二人とも拍手だった。
「観光客には珍しい風習だろうからね。はしゃいでいるんだろう」
「ふふっ、色んな人達がいるものですね」
「どんな国からのお客さんだろうな」
「ホントですね。楽しい1日でしたね。何だか今年は素敵な一年になりそうな気がします」
見知らぬ人同士、不思議な縁で今日この日にすれ違う。
それは一期一会かもしれないし、また会う事もあるかもしれない。
だがそれは、作者のmono黒に全ての運命は握られているのだ。
『明けましておめでとうございます。2022年、皆様に素敵な出会いがありますように』
終幕.
まだ騒ぎ足りない常連さんをやんわりと追い出たてて、テーブルに散乱する食器や床に散らばる紙吹雪を八神と秋山はせっせとかき集めた。
「疲れだろう先生は。理髪店と両方の掛け持ちになっちまったもんな」
八神が気遣わしげに秋山を見ると、目の下にはクマができ、髪は幾分ボサボサで、なんとなく目の焦点もあっていない感じだ。
今や完全に秋山は疲れのピークは超えていた。
それもその筈、秋山の本当の仕事は理髪師だ。
この日、そんな秋山は自分の店を早仕舞いしてまで、八神の店であるこのルナ・ロッサを手伝っていた。
あと少し、あと少し、二人はそう念じながら片付けていた。
1月1日、午前3時。
ようやく全てが片付いた。
「…おーい、生きてるか先生ぇ…」
「何とか…。八神さんも生きてます?」
「まあまあだ。ホストの時はこの時間はまだ接待していたもんさ」
綺麗になった床に足を投げ出し並んで座り込んでいた二人は、もうここで寝てしまいたいくらいにクタクタだった。
「今頃皆んな初詣してるか寝てるかですね。僕らには当分、そんなお正月は望めませんね。でも、かなりいつもよりマシでしたよ」
「うん?」
「だって考えても見て下さいよ。去年の年末年始は僕らは雪山で遭難しかけて元旦から病院食でした」
「ふむ、確かに…」
「その前の年なんて、ヤクザに僕の店をメチャメチャにされて八神さんは全治三ヶ月だったじゃないですか。
それに比べたら…今年は平穏な…良いお正月……、ホント…嘘みたいに…幸せな……」
秋山の語尾が段々と途切れ途切れに薄れ、ズルズルと八神の肩へと頭が凭れた。
「…先生?こんな所で寝ちゃダメだ。ほら、起きろ…」
だが秋山は精魂尽き果てたように八神の肩口で寝息を立てていた。
その端正で優しい寝顔に八神の目元が和らいでいく。
「……ま、いっか…」
そんな秋山に癒されて、ついには八神も眠気に襲われていた。
戦いを終えた戦士のしばしの休息。
互いを支えるように、寄り添い、折り重なる二人の寝顔は安らかで幸福に満ちていた。
八神の有り余る煩悩も、今は入る余地は無さそうだった。
一方、ここは末広神社。
それがこの繁華街一帯の鎮守様だった。
何でも末広と言う名前からして縁起が良く、商売繁盛の神様だという事で、この町の商店街や繁華街の参拝客で、この寒空にもかかわらず賑わいを見せていた。
「まったく、ラム様達は遅いですね!ロンバードさん、ちゃんと地図も渡して来たんですよね!」
「勿論ですイーサン。抜かりは有りません」
そう、いつも抜かりないラムランサンの執事ロンバードは今回は抜かっていたのだ。
なんせ渡したのは地域猫の猫マップ。
なかなか出会えない猫には会えるかもしれないが、神社となると話は別だ。
現にまだここに二人は追いついてこないのだから。
目立つようにと朱塗りの鳥居の前で二人の従者が主人の到着を今か今かと待っていた。
と、そこへ聞き覚えのある声で聞き覚えのない言葉を叫ぶ声がした。
「オニハーソトーーー!!
フクハーーウチー!」
叫んでいたのはラムランサンとノーランマークだ。
従者二人はギョッとしたが、周囲の参拝客もギョッとした。
そして更に周囲を騒然とさせたのは、鳥居の外から遠い賽銭箱に向かって小銭が豪速球で投げ入れられた事だった。
チャリンと景気良い音がして小銭は奇跡的に賽銭箱にヒットした。
おお~と、思わず周りはどよめいた。
「やった!見ろ!ラム!金があの箱に入ったぞ!」
「良くやった!では次は私も…」
そう言って振りかぶった時、その手を慌ててロンバードが止めに入った。
「ラム様!小銭はこんな所から投げてはなりません!それに、オニワソトと言うのは二月の節分の時に豆を撒きながら唱える言葉ですよっ!」
お互いようやく会えた四人組だった。
「ロンバード!探したぞ!お前何処にいたのだ!」
「それはこちらが聞きたいですよ。ラム様。知らない土地ですからハラハラいたしました」
そう心配そうに言うロンバードは、今度はノーランマークに向き直り、途端に厳しい口調。
「それよりノーランマーク、ちゃんとラム様をお連れしないとダメじゃないですか!」
急に自分のせいにされたノーランマークは瞬時にムカっ腹が立った。
「はあ?何でオレが悪いんだよ!お前らはいつもいつも…っ!」
「もうっ!こんな所まで来て揉めないでくださいっ!恥ずかしいじゃないですか!」
一番年下のイーサンが一番大人だ。
神社の境内でさっきからこの四人組は相当悪目立ちだった。
「ねえ、李仁さん。あの方達凄い目立ち方してますね」
初詣の済んだ棗と李仁は仲睦まじく玉砂利を踏んで歩いていた。
縁起物の熊手をいそいそと胸に抱えた棗は、目を丸くしてラムランサン達一行に気を取られた。
「お賽銭、あんな遠くから良く入りましたね」
参拝客にぶつかりもせずにナイスヒットの光景に内心二人とも拍手だった。
「観光客には珍しい風習だろうからね。はしゃいでいるんだろう」
「ふふっ、色んな人達がいるものですね」
「どんな国からのお客さんだろうな」
「ホントですね。楽しい1日でしたね。何だか今年は素敵な一年になりそうな気がします」
見知らぬ人同士、不思議な縁で今日この日にすれ違う。
それは一期一会かもしれないし、また会う事もあるかもしれない。
だがそれは、作者のmono黒に全ての運命は握られているのだ。
『明けましておめでとうございます。2022年、皆様に素敵な出会いがありますように』
終幕.
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