報われない私は、窓から落ちて夢を見た。

シュノ

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私が見るもの。~ 消えた記憶 ① ~

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「おめでとう、君が今度の当店代表で出てもらおうかな」

「ありがとうございます!期待に応えられるよう、がんばりますね」

「うん、期待してるよ!」

ああ、なんというか、どうというか。

店の端っこで、うずくまる私。
聞かないようにイヤホンの音量を上げては、ブランケットを頭からかぶる。
私じゃなかった。別に目指してたわけじゃない。
だが、こんな屈辱には耐え難いのだ。

自分の後輩が、私よりも早く上に行くのだ。
そのタイミングで、スマホの電話が鳴る。自分だった。

『◯◯さん、お仕事ですー。
詳細送るのでご確認お願いしますね』

「はい、ありがとうございます」

このタイミングで仕事が入ったのは運が良かったのか、
この精神状態で何ができると言うのか。
それでもやらないといけないのがこの仕事なのだ。
酷なのは随分前から分かっていた。

ニコニコと笑う後輩の横顔を見ないようにして、
洗面台へ向かう。
ヘアアイロンの電源を入れては、寝起きのひどい顔の
自分が鏡に写っていた。
目のクマも、消えかけてしまっていた眉毛も。
メイクポーチを開く、スマホが鳴る。

午後11時、これからにしては遅すぎる。
何も考えたくない今日この頃。
死にたくて仕方ない日々の1ページに過ぎない。


~~~


「これは………」

「思い出しましたかな。
これが現実の、あなたです。佐々木 祐さん」

「現実の、私…」

老婆はそう言いながら、水晶を時計回りに1度回す。
そうすると場面変わって、雨降る夜のマンション外観が映し出された。
覚えている、これは自分の住んでいた8階建てのマンションだった。

「これが、あなたの家で」

「………」

「覚えてますか?」

「………」

覚えている、とも覚えていないとも言わなかった。
仕事のことを思い出して、色んなことが駆け巡っていた。
仕事に向かい、仕事が終わってはパソコンに向かって、
そうして絶望しては………

「混乱しているだけです。きっといずれ、全て思い出しますよ。
ただ、あなたは死んだ訳ではないので、まだ生きております」

「え?」

そうしては、水晶を右にひと回しし、病院のベッドの上に
切り替わった。そこで横たわるは、全身包帯まみれの自分の姿。
両腕を点滴で繋がれ、顔の全ては見えずとも、
何度も見た自分の姿がそこにあった。

「もっとも、生きている、とは言い難い状態ですがね」

「こんな、こと」

「あの夜、あなたは自宅の窓から飛び降りた。
6階ですよう、その下のコンクリートに打ち付けられても
奇跡的にあなたは生き残ってしまった」

「こんな状態で………」

「虫の息とは言いませんよう、でも意識不明の重体状態が
現実では既に3日続いております」

「3日!?この世界ではそんなに経っていないはず…
そもそもこの世界は」

そこまで言いかけて、ハッとした。
この世界のことを無意識に”夢”だと自分が言わないこと、
この世界の真相を。

「ふふふふ、思い出したようですね」

「この、この世界は、夢だけど、夢ってだけじゃない…」

「そう、この世界は」

「私の書いた、小説の世界…」

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