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第二章 幼な妻のデビュタント
02
しおりを挟む王都フレアはヴィリテ王国最大の城郭都市であり、裁判所、役所、国立図書館などの国の機関から、歌劇場、市場、花街に至るまでありとあらゆるものが建ち並ぶ。
アーネストはリリアに手持ちの中では質素な服を選ばせ、実家から馬車を手配させて中央通りを東へ向かった。
アーネストの実家ビュッセル伯爵家は元々家格の割に力のない家であったが、先代の長女であるイリッカが王弟に嫁いだのち、存分に発揮される手腕でみるみる豊かにしていった。
マティアスの身内に甘い性格はイリッカに似たと思われるが、マティアスの受難を見続けているアーネストは、イリッカの甘さは時に相手にとって青汁よりも苦いことを知っている。
「マティアスはさぁ、軍に知り合いが多くて、訓練とか演習とか可能な限り混じってるんだ。唯一の趣味みたいなもんだから、怒らないでやってね」
「はい」
「リリアちゃんは何か趣味あるの?」
「王都に来てからは余裕がなくて。
結婚式からは時間ができたので、お勉強じゃない本がたくさん読めて嬉しいです」
「『本番なしでも大満足』とか?」
「? それは勉強の本です」
「そうですか」
そう言えば、昨日の茶会以外に、令嬢たちの集いに参加したという話を聞かない。
「……昨日のお茶会では、友達はできた?」
リリアは少し萎れたようになる。
「どうでしょうか。わたくし、元々ご令嬢のお友達がいなくて……話題も難しいし、笑顔で頷いていることしかできませんでした」
「難しい話題?」
「ロハヌ?の?オートクチュールの?新作の帽子が、ラム・アルフィン?の舞台衣装に……ナントカ……とか」
『?』が多い。
「あー、舞台と服の話かぁ。
まだそれやってる筈だから、観に行こうか。
ロハヌはなー、今人気あるけど、あんまりリリアちゃんテイストじゃないと思うな」
「アーネスト、物知りですね」
「まぁね、マティアスやリリアちゃんが国を動かす勉強をしている時間、俺はずっと女性を喜ばせる勉強をしてる」
「え、かっこい、い……?」
中央通りを進むと両脇に数々の社交界話題の店が犇く。アルムベルク領の中心地とは比べ物にならない華やかさに、普通の令嬢なら目を輝かせるところだが。
「気になってる店とかあったら寄るよ?」
「知らない店ばかりなので、どこでも嬉しいです。マティアス様やアーネストのお気に入りの店はあるのですか?」
「マティアスのお気に入りは武具屋かなぁ」
「ではそこに」
「……武具屋は、ちょっと、裏通りにあるから、また今度ね?」
リリア嬢の趣味が分からん。
そういえば、学園の存続が悲願だったんだっけ。
「国立図書館行ってみる?
多分学園より大きいよ」
「国立図書館……蔵書目録を閲覧したいです! 閉架の!」
閉架の……蔵書目録……?
「……ごめん、それ閲覧できるものかよく分かんないから、今度確認してから改めてでいいかな」
「あ、ごめんなさい、お手数でしょうし、結構です」
「いやいや、俺が言い出したんだし案内させて。その代わりマティアスに次のデートの許可取っておいてよ。
今日は、市場をちょっと散策して、その後歌劇場でいいかな」
「はい」
アーネストが小窓から御者に指示を出すと、馬車は十字路を右に進路を変えた。
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