天鳴地動

彩夏

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カウンセリング

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俺は英雄になりたかった訳じゃない。
みんなのせいで俺は英雄になろうとしたんだ。
英雄になるしかなかったんだ。

天鳴地動。
そう呼ばれた事件が起きたのは五月十日午後二時三十分三十三秒のことだった。
それは天が鳴き、地が動く出来事だった。
勿論、本当に天が鳴いたわけでも、地が動いたわけでもないのだが、実際、人々はそう聞こえ、そう感じた。
それを今になってアンケートを取ろうとて、聞き込み調査をおこなったとて、情報提供を求めたとて、それを聞いていたであろう世界中の人々は消えてしまったのだから意味はない。ただ七七八人の例外をのぞいて。

七七八人。

全世界の人間が消えているのだから、その例外が七七八人もいるのは奇跡であり、数も多いととるか、世界人口が約七十六憶人から七七八人まで減ったのだから、それはあまりに少ない数であり、あまりに不運だととるものもいるだろう。これは人それぞれだ。

ただ俺はそれを多いとは思っただけだ。それだけだ。

◆◆◆◆

「という俺のこの考え方は異常だと思いますか?原先生、七十六憶という数の人間が一瞬にして、いやこの言い方は語弊があるけれど、天鳴地動が起こった二分前から三分後のこの五分間の間で人々が消滅し、七七八人にまで減少されたことを多かったととらえることに」

十七歳の青年、柊助ひいらぎたすけは、向かい合って座る眼鏡のスクールカウンセラー、原和はらかずに対して、自分の思ったことを率直に言葉にした。
いつも通りの教室にすみに、机をよせ中央に二組だけを向かい合わせ残す形、そんな二者面談を思い出させるこの空間は、柊を少しばかり緊張させながら。

原和はその話を関心深く、考え深く、興味深く聞いている。それが彼の仕事なのかもしれないが、仕事という概念がもはやなくなった世界で今もなをこうして一個人ではなく、仕事ととして聞いてくれるのはとても有り難いことだと柊は思う。

「なんというか本当時々なんですけど自分たちは世界に選ばれたものなんじゃないかって思うことがあるんですよ。時々ですけど。それならこの人数も多いんじゃないかって思うんです。ノアの方舟に乗るには多すぎると」

「ノアの方舟、か……」

原和は柊の言葉を繰り返す。

「ノアの方舟、それはあながち間違いではないかもね、神の選定とも言えようその行いの基準は不確かだが、それで言うとこの一橋高校にいた人間七七八人は選ばれた、ということになるね。それならばこの世界はいい方向に向かっていくと思うか?」

「いえ、そういう感じではなくて、ただそう思っただけで、実際は思っていないと言うか、なんというか」

柊は言葉を選ぶ。こういうスクールカウンセリングというやつを受けたのは初めてのことで、イメージでは「悩みを気兼ねなく相談にのってもらえる場所」だと思っていたのだが、こうして質問に対して反論や質問で返されるところをみると、そういうわけではないみたいだ。

でも、それは柊にとっていいことだった。

こんな話を、柊はしてみたかったから。

天鳴地動があってからずっと、したかったのだから。

「ただ、なんというか……あんな事件があったのに、もうみんなの心が前向きになってると言うか、普通になってるというか、風化してるというか、天鳴地動のことも、人の消滅のことも、まだなにもわかっていないに……。俺は剣道部に入っているんですけど」

「剣道か。珍しいね」

ここらでそろそろ話を進めようと、具体的な話のきっかけを作ったほうがいいと思い言うと、原和は案の定興味を示してきた。学生時代にやっていたという感じか?それとも、今でも師範かなにかとしてやっている感じだろうか。どれも話を簡単に進めるためのただの期待だ。

「この高校の剣道部。その中でも団体戦は特に強いらしいね」

「はい、俺はまだ二年生で団体戦のスタメンではありませんが、県三位がこの学校の実力です。自分がスタメンになるとしたら恐らく副将でしょうね。それでつい昨日も部活の練習があったんですよ」

つい脱線仕掛けた話の路線を戻す。この人はたぶんわかっていて毎回話をそらそうとしている。意地悪な人だ。

「こんなことになってからも部活動があって、学校が学校として授業やなにもかもが通常通り機能しているのは人がいなくなっても尚、なぜか絶えていない電力と水道水があってのことなんですが、そんな部活であった一幕なんですけど、先生とスタメンの先輩が言い争っていたのを偶然聞いてしまったんですよ」

「言い争っていた?なにを」

あこがれている先輩と特に嫌っているわけでない先生のプライベートなことを密告している気分になって気後れはするが、ここまできたので言うしかあるまい。

「『こんなことになってまで部活やるとか頭おかしいんじゃないですか?やる意味ないでしょ』

『こんな時だからこそ、精神の統一が……必要で』

『人に勝手に自分の意見を押し付けんじゃねえ!俺は部活をやめる。というか部活事態なくなってんだよもうな、あんたも早く天鳴地動で消えることを望むよ』と先輩は言ったんです」

「……」

「俺はその話を横耳して思ったんです。次の天鳴地動ないしは消滅はいつなのかと……二回目はあるのかと。あるならばそれは明日かもしれないし、最悪今日かもしれない。でも、そんなことはみんなが当たり前のように頭の片隅に入れてあることで、風化してゆくと言ってもその可能性を捨てることではないんで、絶対誰もが抱え、怯えている問題だと俺は思うんです。でも彼はそれを自慢気に脅し文句として言ってみせた、先生が消えればいいと、早すぎるでしょうまだ一ヶ月しかたっていないんですよ?風化と言っても……早すぎる」

別に彼らのことを悪いとは言っていないけれど、それにしたって七十六憶という数字の人間が消えてしまったというのに、それをもうジョークなどのネタとしてできてしまうのだ。それが、それがなんというか……

「許せない、かい?それなら君はいつ、彼らを許せる。彼らが現実から逃避し、それを笑うのを、君が彼らを許さなくても世界がそれを許しているんだよ」

そう言われて柊はドキッとした、俺はいつ許せるのかと、そうして思った、俺は何様なのかとも。

「君の意見は確かにわかるがこのカウンセリングを有意義なものにするなら、こんな不毛な会話より君の言った天鳴地動と消滅の話をしよう。いやかい」

また、スクールカウンセリングに対してのイメージがかわった。まさか不毛なんて言葉をスクールカウンセラーから聞くとは思わなかった。次からは慎重に言葉を選ばないと。

「沈黙は了承ととらえるよ。では話を変えよう。一つたずねたい。君は天鳴地動と消滅を別々に考えているのかい」

「別々というか……みんなは天鳴地動=消滅、だと思っているみたいですが、俺はそうは思わない。もしかしたら二つは別々かもしれないじゃないですか」

「そうかもしれないね。実際、天鳴地動と消滅の関係は何一つわかっていないんだから。その時一緒に起こっていたから、天鳴地動=消滅、なんていう固定観念ができてしまったんだろうね。固定観念、今の場合はそれでよかったのかもしれないね。もし、今の彼ら生き残りがこの可能性に気づけば、もう少しパニックになり、ストレス量も今の比ではなかっただろう。なんせ突如全世界の人を消し去ることの出来る勢力と、今だ未知数ではあるが、自分が最大震度の地震にさらされる錯覚を味あわせ、もしかしたら本当にそれが錯覚ではなくなるかもしれない勢力の二つの勢力に怯えながら生きなければいけないのだから」

それもそうなのだろうと先程まで言っていた風化やら現実逃避なんていうものは人間にとって必要であり、それは一種の生きるすべなんだろうと考えを一変させる。これがスクールカウンセラー原和のなせる技だろうか。
そうして柊は思う。自分はただ羨ましいだけなのだと。だから意見をすぐにかえてしまう。

「君は恐ろしいほど現実を受け入れる能力が高いらしい。悪く言えば現実逃避の仕方をしらないのだろう。それが君の強みであり弱味でもある。君は人とは違った考え方の持ち主であるが故に、人の考え方との不一致が多々あった口かな」

確かに、自分の考え方のせいで人との関係が拗れたことは数えられないほどあるので、はいと答える。

「君のその考え方に理解者はいないのかい」

「いえ、一人だけいます」

「それは誰かな?どんな人かな」

「その二つの答えになるのはたぶんこう答えた方がいいですね。二年生にして生徒会長の座についた男、俺のただ一人の理解者とも言える新倉進です。原先生を紹介してくれたのも彼です」

冷静沈着、容姿端麗、成績優秀、三拍子が整う完璧な男、それが柊の唯一の理解者だ。

「一人だけかい?」

やはりこの言い方は誤解を生んだので、柊はそれを払拭する。

「理解者は一人だけですけど、それで友達がいないわけではありませんよ。俺にも友達の十何人くらいいます。俺は所謂高校デビューなんですよ。この自分の性格というか特性というか、それのせいで高校までは友達は一人しかいなかったんですよ」

「それが生徒会長かい?」

「いえ、進とは高校からです。その一人だけの友達は理解者ではないんですけどなぜか友達なんですよ」

「理解者や友達がいるのはいいことだよ。大切にしたほうがいいよ」

「はい」

なんか、すごいスクールカウンセリングって感じの会話をしている気分になったけれど、それも非現実的な話に戻ると終わった。

「話を戻そう。君は天鳴地動や消滅を起こしたものはなんだと思う」

もの、この場合は人などを指す“者”が正解だろう。そうすると、原和は天鳴地動や消滅を起こした原因を人間を含む知的生命体だと考えているんだろう。

「一番納得しやすい原因はやはり人間ですけど、今の人間に全世界の人間を一瞬で消滅させるなんてことが出来るとは思えませんが……宇宙人と言うよりは信憑性が高いんじゃないでしょうか」

残った人間七七八人を納得させるのに宇宙人では半分も納得はしないだろう。

「宇宙人、私はあながち間違いではないと思うがね」

驚いた。原和という男から、スクールカウンセラーから「宇宙人なんじゃないかな」なんていう言葉を聞くとは思わなかった。

「それは少し非現実的でないか、と言いたいだろうが、そもそも天鳴地動や消滅事態が非現実の塊だ、それに一つや二つの非現実が重なったって生き残りは驚きはしないんじゃないかな」

柊の事を現実を受け入れる能力が高い人間
と原和は表現したが、彼は現実をあまり重視しないが軽視もしない人なのだろう。すべてが中立、客観的にも主観的にも物事をみる、そんな人なんだろう。

だから、この突飛な非現実的発想を自ら考え、納得できる。

「君は事実としての現実を受け入れる能力は長けているのに、確証のない不確実な現実は受け入れられないようだね」

不確実な事実……今の状況は全くその通りだ。自分たちは一応大人の手を借りて、関東の都道府県すべては回った。そうして人の姿が確認できなかったという小規模な事実とインターネットの更新がないという確証の得ない事実をもとに、世界中の人間が消えたと言っている。ほとんどの生き残りはこれを信じている。原和が信じているのかはわからないが、少なくとも柊は信じてはいない。どこかに生きている人はいると、希望的考えや祈りや懇願ではなく、本当にそう考えているのだ。そこだけ切り取ればやはり自分は原和の言う通り不確実な事実を受け入れられない人間なのだろうか。

「宇宙人として考えた時、その宇宙人はなぜ人間を消さなければならなかったんでしょう。なぜこの一橋高校だけを残したんでしょう」

そう。今の議論で結局、最も重要な事とは一橋高校がなぜ消滅から逃れられたのか、この一点につきる。

「君の言ったノアの方舟とやらを選ぶ神のような存在が宇宙人であり、本当にこの一橋高校だけが選ばれたかもしれない。もしくは一橋高校、いやもしかしたら場所で区切られているのかもね、この一橋高校敷地内だけが消滅の範囲からなんらかの形でもれてしまったか……」

「宇宙人が意図せずここを消滅させなかったということですか」

「その方が考える時に都合がいいだけさ、意図して、よりも納得しやすいだろ」

「それもそうですね」

原和という男は逃げ道を作るのがうまい。それも話の本筋から大きく逸脱せずに、障害物だけを避けていく。それは柊も感じており、原和自身もそれを自覚し、悪く言えば人を丸め込むのがうまいという能力を最大限使い、人と接する。

これは結局、件の出来事を起こした者に聞いてみない限りはわからないことだと、そういう結論に至り、話は過去の話から現在の話へと切り替わった。

「今この生き残った人間の派閥、いや勢力が三つに別れてしまっている現状をどう思う。この生き残った七七八が生徒、あの日来ていたPTAを含む教師からなる大人たち、あの日演習でこの学校に来ていた自衛隊の者に別れているこの状況を」

天鳴地動の後、この三勢力の分断状態はすぐに起きた、生徒のストレス緩和のためとして形だけやっている授業だが、これは大人側と生徒側の妥協だ。

大人は件の出来事の後、より一層の生徒への干渉、支配を望んだ。それは国が国民をいいように扱いたがるのと同じ発想だろう。無論、生徒側はそれを拒んだ。最初の一週間程度は生徒と大人のいがみ合いが続き、とてもリラックスはできていなかった。それをみかねたスクールカウンセラーである原和と、大人と生徒のどちらにも属さない中立な立場である自衛隊側の提案により、いがみ合いや干渉しあいを一時中断とし、生徒のストレス緩和のために少ない時間ではあるけれどもとの生活に近い、授業の時間をもうけることとなった。

例に上げた件の剣道部だが、これは顧問の先生の意向であり、生徒を支配したいという大人側の意見に積極的ではない部活動の顧問を持つ教師はボランティアとして、部活動の時間をもうけた。だから正直柊は天鳴地動のことを脅し文句にされ、良くしようとやっていることを暴言で否定された顧問の先生を少し気の毒に思った。

「勢力という表現はやはり、数、年功、武力とそれぞれの側で別々の種類の力を持っているから使っているのですよね」

「ああ」

「俺たち生徒側六八四人という数の力があり、PTA教員含めた大人側が八十一人、これは年功、つまりは生き方を知ってるぶんこういう状況下での順応性と頭の部分ではやはり生徒よりも少し上をいっています。そしてただ単純な力なら数こそ十二人と少ないですが、自衛隊が一番でしょう。対人格闘もさることながら彼らには武器があります。演習のために持って来ていた銃や特別に見せていた戦車なんかもある。いくら数がいるとはいえ、その気になれば大人側と生徒側が協力しても彼らには勝てません。なんせ人を殺す明確な手段を持っているのは彼らだけですから」

「そして私が質問したことは君がそこまで理解できている力の分け方がこの先、あるかないかはさておいた、先という未来にどう影響を与えるのかだ」

原和は断言しない。できない。することが無責任だと今この世界で最も愚かな行いであることを知っているから。

先があると。

将来があると。

未来があると。

後があると。

「俺は、いや、俺たち生徒側のリーダーである生徒会は、生徒会長という一人の人間はこの状況を力の分け方を好ましく思ってはいません。かといって大人側の下にも、自衛隊側の下にもつくわけにはいきません。あくまでも対等な立場で選択権、発言力、欲を言えば主導権を握りたいと思っているんです」

「それはそれは、とても難しいことだね。私には今このままではできるとは思えない」

これは生徒会と同じ意見だ。

「柊くん。君は人が、あるいは国が何かの主導権を獲得するとき、どんなことが、どんな条件が揃っていると思う」

「条件ですか……やはり力のバランスが崩れた時じゃないですかね。相手よりも優位に立たないと主導権なんてものは握れません。人間、優位に立つために最も簡単な手段は力で、暴力的手段で勝つこと、だと理解していることだと思います。それから弱味を握るというのもありますが、実質人目を気にせずすむ世界になったわけですからよほどのことがないかぎり主導権を得られるほどの弱味は握れるとは思えません」

「同感だ。弱味はこの世界ではあまり機能しない、有効ではないんだ。側のトップがもし殺人や今の世界で殺人の次に重くとらえらるであろう性犯罪なんかを犯したとしても、それは相手からしたらトップを切ればいい話だ。グループとしての弱味にはならない。まあ一番の指導者がいなくなるわけだから戦力的には隙が生じるのかもしれないが、さして問題にはならないだろうな。そして暴力的手段だが、これも見込みがあるとは思えない。なんせさっき君が言った通り、暴力的手段を最も得意とし、専門とし、他二勢力と釣り合うための道具としているのが自衛隊だ。彼らを見方につければ考え方は変わるが、あくまで彼らは中立の立場は変えないだろう。自衛隊の鏡だよ、こんな状況になっても正義を、力を片方に片寄らせたりはしない」

ならやはり、他二勢力を黙らせ、妥協案として生徒側にもあらゆる権利を残し、そして立場上優位に立て、ブラフとしても有効なそんな都合のよすぎるものは一つだ。

「……情報ですね」

「その通りだ。件の出来事の前まで情報の変わりとして使えたものはなんだと思う」

「金ですね」

「そうだ。人間を都合よく動かすには金だ、世の中は金で回っているとも言うぐらいだ、前はそれほどの力が金にはあった」

だが、それは世界が一変した五月十日午後二時三十分三十三秒で終わりを迎えた。そうして意味を失った金や弱味、かなわない力を除いたら残る最優の力が情報なのだ。

「君も求めているように我々生き残りは皆、なによりも情報を求めている。他に生き残りがいないのかという情報を、自分たちはもう安全なのだという情報を、そして天鳴地動や消滅に関する情報を。特に最後のは特大サイズのケーキの様に喉から手が出るほど欲しがっている情報だろうね、君がそうであったように。もしかしたらその情報が、天鳴地動や消滅のことがすべてわかった時、初めて生き残りは自分を戒め、過去と向き合うのかもしれないよ。それほど大きなものなんだよ、今この世界での情報というのは」

自分への戒め、それは今世界が許していることを自ら許さんとすることだろう。そうして初めて人は真の意味で消えた人を弔い、嘆き、悲しむのだ。

「だから主導権を握りたいのなら、天鳴地動や消滅に関するをすべてでなくていい、少しでもいいから手に入れることだ。それができれば、情報を金のように使い、売り買いできるようになる。情報が金になるんだよ」

情報が金になる。ならば暴力的力も同じで金になるのだ。やはり結局のところ、究極的に人間の社会を効率よく、他者と対等に回すには金がいる。技能や才能ももちろんいるが、やはり金なのだ。
技能も独学で猛勉強し身につけるよりも、金を使い猛勉強したほうが身につく確率は高い。
才能は金では買えないが、金持ちの家に生まれることさえもやはり才能なのだろう。
この世は金だと、その時柊は真に理解した。

「件の出来事に関する情報は三つの側すべてがやっきになって集めていますが、まだ何一つない状況です。しかも情報の価値はやはり証拠があってこそです。もしかりに情報が手にはいったとしても、証言や映像なんかの証拠では完全な情報とは言えない。物的証拠が必要ですね」

「そうだね。見せ、聞かせ、触らせ、証明する。それが一番いい、仮にどれかが抜けていたとしたらそれは情報としての価値が一回り二回り下がるね」

要するに完璧な情報とするには、宇宙人がやったなら宇宙人を、神がやったなら神を引きずって連れてこいという、簡単明瞭、simple is bestというわけだ。

「なにか俺たちは突拍子のないことを目指している気がしてしまいましたよ」

「天鳴地動や消滅という出来事事態がもうすでに突拍子のないことだろう」

「それもそうですね」

非日常が日常で、当たり前が突拍子もないことで 、宇宙人なんてものを信じるのが都合のいい世界が柊が暮らす世界なんだと改めて実感する。ここに来てから実感することや理解させられたことが多い、柊はそう思った。

『生徒会所属、柊助さん。至急視聴覚室まで来てください』

学校中にその放送は響いた。それはよほど慌てているのか急いでいるのか、放送の前に入れるチャイムを飛ばし、聞き取りにくいかなりの早口で要件を告げられた。

「呼ばれているみたいだね。声から察するに早く行ってあげたほうがいい」

「……はい」

言葉が濁ったのはもう少しこの男と話していたいと、そう思ったからだ。

「長話もすぎたな、もう一時間以上もしゃべっているじゃあないか。こんな老いぼれの話に付き合ってもらってありがとう柊くん」

「い、いえとんでもない。今日俺は話を聞いてもらうばかりで、気づかされるばかりでした。今日は本当にありがとうございました」

「実を言うとね、途中からカウンセリングではなく、原和という一個人として君の話を聞き、返し、この一時間と少しの時間を楽しんでいた。だから君にお礼をいわれるほどのことはしていないよ。もし、君が良ければまた来てはくれないかい?この老いぼれと話てくれないか」

その言葉は柊にとって嬉しいものだった。カウンセラーとしての原和ではなく、一個人としての原和と話ができていたことが、柊にとってとても新鮮で嬉しいことだった。それは生徒会長である新倉進以来の自分の理解者の誕生の瞬間だった。

「では、あまり待たせるといけないので俺はこれで」

「ああ、また今度」

「はい、また今度」

◆◆◆

視聴覚室には総勢二十名の生徒会全メンバーが揃っていた。

暗くされた室内にはスクリーンに当てられたプロジェクターの放つ光だけが足下を照らす頼りだった。

「どうした、揃いも揃って。放送もかなり急いでいたようだけど」

二十名中半分以上が柊と同じような顔をしているとこからするに、まだ集められた事情は説明されていないのだろう。
プロジェクターに照らされた進の険しい顔がすごく目立った。

それから柊が席につくと進は話始めた。

「我々生徒側から町に調査班を送っていることは知っているな」

「そんな大層なもんじゃないけどな、写真部と映像部それからバスケ部の合同班なんて」

生徒会は班分けされており、その中の実働担当の柔道部主将三年、剛野手堅は不自然な前降りだと感じたのか訝しむ表情で進を見た。

「その合同班が今朝三日ぶりに校舎へ帰還した、それも事態をひっくり返しかねない重大な情報を持って帰ってな」

「重大な情報?」

情報という言葉に少し過剰に柊は反応してしまい、無意識に声が大きくなってしまっていた。

「今彼ら班全てのメンバーに事情を聞いている最中だから核心に迫ることは言えんが、まずはこれを見てくれ」

そう言って進はプロジェクターに繋がれたパソコンのエンターキーを叩いた。

「これは……」

一同は同時に息を飲んだ。それは柊も同じだった。それぞれ理解はできていなくとも目の前に出されたスクリーンに写る異形な物に息を飲んだのだ。そして柊はそれを直感的に悟る。

それが今の今まで原和と話ていたことだと、仮の天鳴地動や消滅を起こした犯人、ないしは関係者として扱われ、話ていたものなのだと、それを理解したとき柊は震えた。恐怖に震えた。

なぜなら先までに話ていたことの全てが真実かもしれないという可能性が手できたのだ。不確実であった筈の事実が音を立てて崩れ落ち、とってかわって確実的な真実が姿が現れ始める。

「原先生に言わないと……」

そこに写るは緑の異形、頭部が長く足は六本ある。そこまでわかるほどに鮮明に一切のぶれもなく、それが道路を歩く姿が写っていた。

「これは学校から二十キロ先で撮られた写真だ。一応言っておくがこれは合成写真ではない。全てが現実だ」

そこに写っていたのは紛れもなく"宇宙人"のそれだった。

その時初めて柊に受け入れがたい現実が現れたのだった。
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