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一章 修羅場とイラストレーター

第一章一話矢崎さんとの出会いと修羅場の匂い?

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「決まりませんねー。」
矢崎はアイスコーヒーを飲みながらそう呟く。
「決まらないって何が?」
メイドカフェの店長の椿が矢崎に聞き返す。
「イラストレーターですよ~ 書いてくれる人があんまり見つからないんです~面白いから引く手あまたかと思ったんですがね~」
「まぁ、その内いいイラストレーターが見つかるよー 私もあんまり見つからなかったけどいい人と巡り合えたし。」
椿のデビュー作品は変わり物の作品過ぎて誰も書きたがらなかったのだが…
「大作家さんの言葉には説得力がありますねー。でもいつになったら恋の方のいい人が見つかるんですかねー。」
「余計なお世話だよ!!私はみんなのメイドさんでいいの!。」
「ならメイドさん、このラブラブオムライスを一つ。」
「友人にやるのは辛いよー。それにこの後打ち合わせって言ってなかった?」
「あっ、忘れてた!コーヒー代はつけといて!」
矢崎はうっかり忘れていた打ち合わせに間に合うようにダッシュする。

「遅いわね矢崎!!こういうの大体編集が先にいるもんじゃないの?」
「まぁ、矢崎さんに常識を求める方が無理だって。」
夢咲を宥めながら猪瀬は矢崎との出会いを思い起こす。

「どうも初めましてお電話した矢崎です~。」
「は、初めましてい、猪瀬です。よ、よろしくおねがいしましゅ!」
猪瀬は初めての出版社と言うこともあり凄く緊張して話をする。
矢崎はやはり慣れているのかすごく落ち着いている。
「こちらこそよろしくお願いしますねー。それで早速送って頂いた小説の話をしたいんですけど~」
「は、はい。」
猪瀬はどんな感想が帰ってくるのか凄く手が震えていた。
そんな手を見せたくないので猪瀬は机で手を隠す。
悪い評価だったらどうしようと心が心配する。
いや、初めての持ち込みなんだ。
悪い評価でもちゃんと受け入れよう。
そう思い覚悟を決め評価を聞く。
「面白いですね~『少年の旅』 主人公の少年が妹を治すために色んな所を周り旅をするって言うありふれたストーリーなのに、主人公の妹への思いや、各地で合う人達の思いや思想が伝わってきましたよ~ 本当に新人ですか?」
思ったより好印象で猪瀬の心が跳ねる。
「は、はい小説を持ち込むのは初めてです。」
「持ち込むのはって事は書いてはいたんですね?」
「はい、こ、国語の先生が才能があるから書いてみないかって言われて。」
「へぇーじゃあその才能は先生のお陰ですね。」
「は、はい先生には本当に感謝してます。よく小説を読んで批評もしてくれて…」
「凄い先生何ですね~ それで、この小説の書籍化の話何ですけど~」
「え!?書籍化!?」
猪瀬は当たり前のようにいい放たれた言葉に驚愕する。
書籍化?
本になる?本当に?
「えぇそれぐらいいい出来です。その先生に太鼓判を貰って持ち込んだじゃないんですか?」
「いえ、実は先生に内緒で持ち込んで…」
「持ち込みしたくなるほど自信作だったんでしょ?それなら当たり前ですよ~」
猪瀬は矢崎の褒めの言葉に頬が揺らぐ。
「そ、そんな自信があるわけじゃなかったんです。でも記念に一度持ち込みしてみようと...」
「なる程その小説が思ったより高評価で驚いてそんなに緊張してるって訳ですか~
ならメイドカフェでも行きません?」
「へ?」
メイドカフェ?この人は打ち合わせ中に突然メイドカフェに行こうと誘ってきたのか?
編集者ってこんなもんなのか?と驚きながらも猪瀬は同意する。

「お帰りなさいませご主人様~こちらの席へどうぞ~」
メイドさんは二人に向かってお辞儀をし、席へ案内する。
「メイドさん注文いいですか~一つはこのラブラブコーヒーミルクマシマシで~先生もラブラブコーヒーでいいですか?」
ラブラブコーヒー?
よく分からないが猪瀬はそれに同意する。
「は、はいそれで」
「いい店でしょ?私のお気に入りなんです。
いつも担当になった作家さんを連れてくるんです。」
「そうなんですか。編集部の意向とか?」
「いやー私の趣味ですよ~あ!新しいメイドさん!写真いいですか?」
矢崎は自分の担当になる作家の事を忘れたようにメイドさんとの写真を取ろうとする。
「いやーなかなかいいメイドさんでしたね~
先生はどのメイドさんが好みですか?」
「ど、どのって」
猪瀬はトマトのように顔を赤くする。
「軽い気持ちでいいんですよ~」
「あ、あのメイドさんです。」
猪瀬は髪の長い青髪のメイドさんを指差す。
「ほおー いい趣味ですね~どんな所が好きなんですか~」
矢崎はニヤニヤした顔をする。
「そ、そんな事より書籍化の事って何ですか?」
猪瀬は話題を逸らすために書籍化の話をする。
「あ、そうでした~ イラストレーターのお話と直すポイントを伝えようと思ったんです~」
直すポイントはよく分かるがイラストレーターの話はよく分からなかった。
持ち込んだのは先週でこんなに速く決まるわけがない。
「イラストレーターの話ですか?」
「そう。実は私の知り合いに書いてみたいって人が居まして~あ、ちゃんとした人ですよ?」
「で、その人どんな絵を書く人なんですか?」
「いつもは安藤先生の小説とかの絵を書いてる人何ですけど~」
「あ、安藤先生の!?」
あの恋愛小説で有名な安藤仁美本気先生の小説の絵を書いている人。
そんな凄い人がなぜ新人の自分のイラストを書いてくれるのか気になり猪瀬は矢崎に質問する。
「な、なんで俺なんかの作品を!?」
「はいこの前『少年と恋』を見せまして~気に入ったとかなんとか言ってましたよ。」
猪瀬は自分の作品を気に入って書いて貰える。そんなに嬉しいことはないと心の中でガッツポーズをした。
「そ、それなら是非お願いしたいです!」
「それと直すポイント何ですけど~」
これが猪瀬と矢崎さんの出会いだった。
初対面でメイドカフェに連れて行く変人それが矢崎だ。
そんな人に常識を求めるのが間違っている。
と猪瀬は呆れながら夢咲を宥める。
「遅いわよ!」
「いやーすいません~ 電車が遅延してまして~」
嘘だという事が猪瀬にはわかった。矢崎とは長い付き合いなので目を見ただけで猪瀬は嘘が何となくわかるようになってしまった。
嘘だと分かったがそれを指摘すると夢咲がまた怒り出しそうなので心の奥にしまっておくことにした。
「それで呼び出した訳って何よ!?」
夢咲は切れ気味で矢崎に向かって問いかける。
「はい、イラストレーターさんの件なんですけど~誰かいい人知りませんか?」
「いい人ってそういうのは編集部が何とかするもんなんじゃないの?」
当然だ。
それは本来編集者の仕事だ。
「そうなんですけど~それが合う作家さんが見つからなくてですね~すいません~」
矢崎は謝罪をする。
矢崎の謝罪はいつも軽い。
危険があればすぐ切る安牌のような物だ。
猪瀬がそんな事を思っている中二人が考えているようなので猪瀬も考える。
考えていると一人のイラストレーターが頭をよぎった。
「いいイラストレーターさんですか...俺のデビュー作を担当した姫野《ひめの》先生なんてどうですか?」
姫野先生は猪瀬とよく進行がある先生だ。
お願いすれば多分聞いてくれるだろう。
「一番最初に思い付きましたけど姫野先生ですか~きびしいと思うですけどね~」
「何ですか?姫野先生は良くして貰ってますしお願いすれば..」
「相変わらず朴念仁ですねー。姫野先生があなたに惚れてるから良くして貰えてるんですよ。そんな先生に夢咲さんとコンビを組んで小説を書くなんて伝えたら..」
矢崎は小声でそうを呟く。
「何か言いました?」
「いえ、なんでも!とにかくきびしいかと」
「何でよ!お願いしてみましょうよ!何なら私からもお願いしてあげるわ。女性なら少しは気を良くして書いてくれるだろうし。」
「女性ってのが余計不味いんですよね~」
「そうだな、お願いしてみてよう。合ってみたかったし。」
猪瀬は姫野先生とは対面でお会いしたことがない。何でも恥ずかしいから~とかいっていつも断られるが大事なコンビ結成して初めての小説だ。
お願いすればやってくれるだろうと猪瀬は思った。
(姫野先生いつかお会いしてみたいとか言ってたけど二人で行ったらどんな顔をするやら..それも面白そうですね!)
「よし行ってみますか!!なら明日お台場駅集合で早速行きましょう~」
「ええ。」
「はい!」
そんな訳で三人は明日姫野先生を訪問することを決めて編集社を後にする。 

「猪瀬先生がお会いしたいって…駄目よ!恥ずかしいわ!!でも折角の距離を縮めるチャンス..OKするのよ勇気を出して!」
姫野は編集からのメールにOKの返事を出す。
「当日どんな服着ようかしら!!いいのあったかな~ 下着は..まだ早いか」
姫野は恋する高校生みたいにベットに横たわりながら足をジタバタする。
明日になれば大好きな猪瀬先生を写真越しではなくリアルで合えるんだと姫野は心が踊る。
姫野はこの時修羅場を迎えることを想像していなかった。
いや、想像すること事態無理だろう。

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