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レジェドラと謎の美少女

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「...であるからして彼は考古学界の恥さらしと言われ...」

むしっとした講堂の中で、
つまらない教授の講義中、誰もが地獄だと感じるだろう俺もだ。
その気持ちを感じ取ったのか、
やっと天からの救いのチャイムが鳴り響く。

「今日はここまで、明日はこれの続きをやるから忘れないように。」

 教授は額の汗を拭きながら、そう言いながら足早に去っていく。
そんなに暑いのなら冷房をつければいいと思うのだが、何のこだわりかあの教授は冷房をつけない。
年だから身体を壊しやすいのか、それとも電気代の節約なのかは謎だ。
 そんな事を考えていると次の授業を受けるためみんな移動し始める。

「相変わらずつまらそうな顔してんなー ほい隆一。」

 そんな中俺の友人である那珂川 彰が俺にコーラをほっぺに当ててくる。
 

「ありがとよ、しょうがねぇだろだってあの戸坂だぜ?」
「まぁ、あの戸坂教授の講義だもんなでも単位は取れるしなぁ。」
 
 俺と彰はコーラを開ける。

 戸塚教授は授業はつまらないが出ているだけで単位を取れると人気?がある教授だ。
 
「だな。単位さえ取れればMMOの時間も増えるし。」

 俺はMMORPGのレジェンダリー・ドラゴンズにはまっていた。
レジェドラは総プレイヤー百万人を越える大手MMORPGだ。
 レジェドラは俺の人生といっても過言ではなかった。
様々なキャラや、戦略を楽しめるゲーム。
それにどっぷりはまってしまったのが俺だ。

「お前いつもそうだよなぁ。もういい年なんだからMMO卒業しろよ。」
「いい年ってまだ22だろ?」
「いやいや、世間的に見たら22はいい年だって。」
  
  友達は口々にそう言うが俺は止める気がなかった。
折角ここまで続けたのに止めるなんて俺にはとても出来なかった。

「まぁ、趣味は人それぞれだから無理にとは言わないけど、あのゲームもうやばいって噂だぜ?」
「やばい?」

  俺はその噂について聞いたことが無かった。
長年レジェドラを続けているが、人気の低迷や、大炎上など聞いたことが無かった。
それなのにやばい?

「あぁ、なんでもレジェドラをやっていた奴がどんどん殺されてるらしい。」
「そんなまさか。俺の友人でそんなやつ。」
「それがよ。後輩の椿ってやつ居ただろ?」
椿...あぁ、バスケの子か
「その椿がどうしたんだよ?」
「行方不明なんだよ。レジェドラの呪いで死んじまったらしい。噂だがな。」
「えっ!?そんな噂聞いたことないぞ!」
「まぁ、嘘だとおもうけど。とにかくお前も気を付けろよ。」
「あぁ、分かったよ。」
 
 レジェドラで死者が...まさかな。
俺は彰と駄弁ったあと次の講義へと向かった。

 俺の今日の講義は終わり、帰るべく、電車に乗るために駅に向かっていた。

「今日も遅くなったなぁ。柳教授の講義なげぇし、雑用も頼まれるし大変な1日だったな。
帰ってレジェドラやろ。」

 今日も授業が終わり、あまりの暑さにアイスを加えながら帰っていたが。

『アソバナイ?』

 そんな声が聞こえて、俺の世界が歪む。
目はよく見えなくなり、地面が俺を包み込んで
いるような感覚までした。
 
「レジェドラの呪いで死んじまったらしい。」

 俺は彰の言っていた話を思い出す。

「そんな死にかたってあるかよ...」
 たかがゲームのために死ぬ。
  誰かを守るのでもなく、呪いという理不尽に死ぬ。
それもネットゲームの呪いで...そんな理不尽認められるかよ! 
 抵抗しようとしても意識がどんどん薄れていく。
 そして俺は完全に地面に飲み込まれてしまった。

 カツーンカツーン

 闇の中から何かを叩く音が響き渡る。
その音はどこか歪で、聞いたことも無いような音だった。
 俺の目も慣れてきて、風景が見えるようになってきた。
 俺の目が慣れ、初めて見た光景は...地獄だった。
 小さな醜い何かが、何かの頭部を使い、音を鳴らし遊んでいる。
その姿、形はゴブリンのようだった。
 俺はそのあまりに非現実的で狂気の世界に耐えられず、胃の中の全てをぶちまける。
 奴はそんな俺を見ながら笑いながら遊びを続ける。
  
「何なんだよ!これ!」
 俺はあまりのことに足が動かず、声をあげるしか無かった。
 
「ケケケケ!!」
 その小さなゴブリンのような化け物は俺に刃物を持って近づく。
 俺も玩具にするらしい。
(逃げろ!俺!動け足!)
 
 だが恐怖で足も動かない。
そんな時。

「それは私の玩具だ小さき者よ。」

 どこからかそんな声が聞こえ、ゴブリンのような何かは吹き飛ぶ。
 吹き飛んだそれはもう原形を留めてすらいなかった。
 俺は助かった事の喜びでは無く、恐怖を感じていた。
 あれを跡形もなくする化け物。
それが俺を玩具と言った。
 そんな絶望を前に心臓が速くなる。
そこで俺はまだ生きているのだと実感できた。
 だが、それは希望では無く、絶望だ。
死んでいたのなら痛みすら無かったのだろうとおもえてしまう。
 俺はあまりの恐怖に気を失う。
 最後に見えたのはピンクの髪の少女だった。

『恐怖とは生の証である。』
                          エドワウ・ジョン
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