チートと神

前平祥吾

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1話

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「それではご希望の力を教えください」

そう言ってくる白髪の老人。

椅子に座っている僕の目の前には大きな事務机に4人の老人が座っていて、白い部屋の中、一人の老人が僕にその質問をしてくる。

「はい。レベル100MAXの力です。」

「レベル100MAXの力ですか。なぜその力が欲しいのか詳しく教えてくれませんか?」

そう質問で返す一人の白髪の老人。そして僕は4人の老若人に向けて話す。
「はい、私は」

 ……俺は生前の記憶を思い出ながら答えようとする。



 俺は坂田真司 さかたしんじ16歳。高校2年生。

 普段から遊びまくっている俺は、いつものように深夜、友達とバイクで夜の街を走り回っていた。

 その日は雨が降っていたけどそんなことはお構い無しにいつものクラブで飲み明かす予定だった。

 雨に濡れたアスファルトの上にあるカーブの道。

 タイヤが滑って俺は身を落としてしまった。

「うわっ!」

これが生前の俺の最期の言葉。

電柱に激しく頭を撃ったあと強烈な眠気のようなものに襲われ俺は意識を失う。

 そして今に至る。

「なるほど、頑丈で強靭な身体になりたいという事ですな。」

そう返した白髪の老人。この人は自称神様で身体を強くさせるのが専門の神様らしい。

 「はい、怪我をするのはもうトラウマです。あんな感覚二度と味わいたくありません。ですので私をモンスターから怪我をしないように硬い防御力を与えてはくれないでしょうか。」

もう痛い思いをしたくない。そんな事を話す少年。

その時、神の一人が吠える。

「貴様ぁ!いい加減にしろ!」

 と言ってきたヤクザっぽい雰囲気の怖い顔の男。

「ええか若造!痛みというのはなぁ!生きていく上で必要な感覚だ!それを一度死んだからといって安易と失わせることは出来ない!ましてやそんな自分勝手な理由でこの力を欲すなど言語道断!天国に転生して仏や菩薩にでも目指しておくのがお前の為だ!」

「ひぃ……ごめんなさい」

彼の脅威的な言圧に俺は身体中を青ざめた。ただでさえ青白く、薄い身体が更に透明度を下げる。

「まぁ、そうした方が彼も良い思いをするという点では天国の転生は一理あり得ますな」

白髪の老人はお茶をすすり、落ち着いた様に呟く。

すると短髪の黒髪の男が一声あげる。

「否、彼は日々夜遊びに明け暮れている親不孝な青年です。モンスターと戦闘するという環境を欲していることからも天国行きというのはいささか問題であるかと、確かに若くして亡くなった以上、仏様や菩薩さんが子供を迎え天国にて修行をするのは義務にあたりますが、彼は親不孝であることを悔いてない。すなわち
修羅道へ転生させるのが道理かと思います」

続いて黒縁眼鏡の黒髭の男が
「然り、なるべく早く亡くなってしまった故に自己責任で粗末に命を失う者には修羅の戦いに勝ち抜くのが青年のこれからの懸命な生き様だといえよう。彼は親不孝でかつ戦闘狂の異常な気質が垣間見えている事によって、人間界への転生は困難。よって修羅道に転生することを求めます!」

そして場が静かなものになった。

「では、判決を言い渡します」

白髪の老人の神が小さな木槌をガンガンと打ちコホンと咳払いをしながら言う。

「主君、坂田真司殿は能力の付与なし!
よって修羅道に転生することになる!」

「地獄じゃないだけ有り難く思うんだな」

「人間界より質は落ちるがな」

強面の男と眼鏡の男が真司を押さえつけ赤い光の紋章が飛び出し、扉が開くとその所へと近づいていくように三人は歩んだ。真司は暴れながら

「やだぁ!行きたくない!南無阿弥陀!南妙法蓮華経ーーー!!!」

と叫ぶと同時、真司の青白い光が黄金に輝く。

「ぐぉ!またか!」

「くそ!これで何度目だ!?」

すると上の空間から裂け目が現れ、中から羽衣を着た神々しい巨人が舞い降りてきた。

「人間の少年よ、よくぞ唱えた。さぁ六道から逸脱し仏教が先立つ極楽浄土まで私が導いて差し上げましょう」

「あなたは?」

「釈迦の使徒です。貴方のこれからは自分を磨くのですよ」

釈迦の使徒と言う人物は真司の手を繋ぎ天空の裂け目に入っていった。やがて空間は修復し何事もなかったように青年は消えていった。4人は揃えてこう言った

「「「「仏教徒になろうかな」」」」

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