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22.相思相愛のカンケイ2
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突然の非常事態に、ルイーゼは己のことを棚に上げ、大暴れをするところだったが、耳元で囁かれた声に動きを止めた。
「静かに」
声の主が、己の婚約者であるエルウィンだと気づいたから。
「驚かせてすみません、エルウィンです」
ルイーゼではなく出入り口付近にいるメイドに向け、エルウィンは少々大きな声でそう返した。依然として、その腕にルイーゼをとらえたまま。
「まあ、エルウィン様でしたか。何かございましたか?」
「何もありません。所用がありますので鍵はそのままでお願いします」
「そうですか……では、これで失礼いたします」
メイドが階段を上っていく足音がその場に響き、やがて、無音になった。
それを確認すると、エルウィンはルイーゼの口を塞いでいた手を放した。彼女を抱き込んでいる腕は、そのままだが。
「行き違いになるところだった……」
エルウィンはルイーゼの首筋に自分の顔を埋めながら、ため息をもらす。
「いっ、行き違い??」
至近距離に感じるエルウィンの吐息に動揺しながら、それでも平静を装いルイーゼはエルウィンに問いかける。動揺しているのはエルウィンにバレバレだが。
「ルイーゼに会いに行こうと思ってた。勝手におかしな話を進められたら、たまらない」
ことのほか弱っているような声を出すエルウィンに、ルイーゼは胸が苦しくなってしまった。
エルウィンが実は寂しがり屋ということは、ルイーゼも分かっていた。
けれど、波瀾万丈な身の上の彼は自分の感情を隠すことも、我慢することも得意だ。そんな彼がここまで戸惑い、弱っている。しかも、自分のことを考えて。
「私、結婚するならエルウィンがいい。エルウィンでなきゃいや。エルウィンは?」
「……当たり前だ」
エルウィンがいつもの元気を取り戻した頃、ルイーゼは念のために彼の意思を確認した。冷静となった彼は、己の意思を改めることなど朝飯前だったから。
エルウィンがそっぽを向きながら、すねたようにそう言いながらも、ルイーゼの髪に触れてその身体を放そうとしない。彼の確かな執着を感じ、ルイーゼは嬉しさと安堵からたまらなくなってしまった。
――こういうのを可愛いというのかしら? こ、これが母性本能……?!
「最終的には、駆け落ちするしかないかしら?」
ルイーゼはなんとか己の胸中を落ち着かせ、自分よりも先にいつもの調子に戻り始めているエルウィンに、そう問いかけてみた。
いつもの調子に戻っているといっても、距離は全然変わっていないのだけれど。
平時であれば、彼は速攻で却下しそうな手段だと、ルイーゼ自身も分かっていた。
それでも、聞きたかった。
もし、自分が何もかもを捨てて、彼について行くと言ったら、彼は自分を受け入れてくれるのだろうか、と。
「ルイーゼは、それに耐えられるか? なるべく、いらない苦労はさせたくないんだけどな」
「実際そこで暮らしている人がいるんだから、人跡未踏の地に行くような言い方をしなくてもいいんじゃ……?」
「……君にとってはそうかもしれないよ?」
「じゃあ……ちゃんと教えてね? 失敗しても怒らないでね!」
背中越しに、エルウィンが笑う気配が伝わる。
ルイーゼは、幸せだった。
その後、メイドがエルウィンを呼びに来たため、エルウィンは応接室へと向かわなければならなくなった。
「ひとまず、君は俺の部屋に隠れているんだ。ソフィア嬢とメーベルト伯が来ている以上、無視をするわけにもいかないからね」
「そう……よね。仕方ないわ」
「静かに」
声の主が、己の婚約者であるエルウィンだと気づいたから。
「驚かせてすみません、エルウィンです」
ルイーゼではなく出入り口付近にいるメイドに向け、エルウィンは少々大きな声でそう返した。依然として、その腕にルイーゼをとらえたまま。
「まあ、エルウィン様でしたか。何かございましたか?」
「何もありません。所用がありますので鍵はそのままでお願いします」
「そうですか……では、これで失礼いたします」
メイドが階段を上っていく足音がその場に響き、やがて、無音になった。
それを確認すると、エルウィンはルイーゼの口を塞いでいた手を放した。彼女を抱き込んでいる腕は、そのままだが。
「行き違いになるところだった……」
エルウィンはルイーゼの首筋に自分の顔を埋めながら、ため息をもらす。
「いっ、行き違い??」
至近距離に感じるエルウィンの吐息に動揺しながら、それでも平静を装いルイーゼはエルウィンに問いかける。動揺しているのはエルウィンにバレバレだが。
「ルイーゼに会いに行こうと思ってた。勝手におかしな話を進められたら、たまらない」
ことのほか弱っているような声を出すエルウィンに、ルイーゼは胸が苦しくなってしまった。
エルウィンが実は寂しがり屋ということは、ルイーゼも分かっていた。
けれど、波瀾万丈な身の上の彼は自分の感情を隠すことも、我慢することも得意だ。そんな彼がここまで戸惑い、弱っている。しかも、自分のことを考えて。
「私、結婚するならエルウィンがいい。エルウィンでなきゃいや。エルウィンは?」
「……当たり前だ」
エルウィンがいつもの元気を取り戻した頃、ルイーゼは念のために彼の意思を確認した。冷静となった彼は、己の意思を改めることなど朝飯前だったから。
エルウィンがそっぽを向きながら、すねたようにそう言いながらも、ルイーゼの髪に触れてその身体を放そうとしない。彼の確かな執着を感じ、ルイーゼは嬉しさと安堵からたまらなくなってしまった。
――こういうのを可愛いというのかしら? こ、これが母性本能……?!
「最終的には、駆け落ちするしかないかしら?」
ルイーゼはなんとか己の胸中を落ち着かせ、自分よりも先にいつもの調子に戻り始めているエルウィンに、そう問いかけてみた。
いつもの調子に戻っているといっても、距離は全然変わっていないのだけれど。
平時であれば、彼は速攻で却下しそうな手段だと、ルイーゼ自身も分かっていた。
それでも、聞きたかった。
もし、自分が何もかもを捨てて、彼について行くと言ったら、彼は自分を受け入れてくれるのだろうか、と。
「ルイーゼは、それに耐えられるか? なるべく、いらない苦労はさせたくないんだけどな」
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ルイーゼは、幸せだった。
その後、メイドがエルウィンを呼びに来たため、エルウィンは応接室へと向かわなければならなくなった。
「ひとまず、君は俺の部屋に隠れているんだ。ソフィア嬢とメーベルト伯が来ている以上、無視をするわけにもいかないからね」
「そう……よね。仕方ないわ」
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