私を溺愛している婚約者を聖女(妹)が奪おうとしてくるのですが、何をしても無駄だと思います

***あかしえ

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37.無価値な奇跡2

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 ◇◆◇


「お嬢様ーっ! お嬢様、どちらですーっ?!」

 その日珍しく、朝からジェヒュー・メーベルト別邸内には、騒々しい足音が響き渡っていた。職種も性別もバラバラな使用人たちが、足早に屋敷内を駆け回る。皆、一応にその顔に焦りを浮かべていた。
 別邸に勤務している使用人は総勢三十名を超える。そのうちの三分の二が、『お嬢様』の捜索にかり出されていた。

「ルイーゼは、まだ見つからないの?!」

 娘の捜索を使用人に任せ、自身は別邸内の執務室で長男ジェヒュー・メーベルトと対峙していた。執務室にいるのは、メーベルト伯夫人、メーベルト伯、ジェヒュー、ヘルタ夫人、そして――ソフィアの計五名。

 メーベルト伯夫人が娘の不在に気づいたのは朝食時だ。

 定刻を過ぎても姿を現さない娘のことを、ジェヒューとヘルタ夫人へ問い質すが――ジェヒューはのらりくらりと躱すばかり、ヘルタは……聞くまでもないだろうとメーベルト伯夫人は見切りを付け、使用人達に捜索を命じたのが数十分前のこと。

 本邸で食事をとっていたメーベルト伯とソフィアの元へ、別荘の騒ぎが風に乗って届き、慌てて駆けつけた次第だ。メーベルト伯はソフィアまで連れてくるつもりはなかったが、彼女は持ち前の好ましくない天真爛漫さを発揮して、ついてきてしまった。そしてメーベルト伯も、彼女を無理に本邸へ置いておく必要性も感じてはいなかった。
 しかし、実際に連れてくると――メーベルト伯夫人のヒステリックな物言いに慣れていないソフィアが、メーベルト伯夫人の叫び声に動揺した様子を見せる。保護を求めるようにメーベルト伯に視線を送るが、メーベルト伯が気づいている様子はない。

「お姉様が見つからないって……どういうことですか?!」
 ソフィアが驚きの声を上げる。
「お姉さまは病気だから……こちらで療養しているんですよね?! わたし、そう聞いてたのに!」

 驚きから非難へと態度を変化させて、ソフィアは尚も言葉を繋げる。純粋に心配しているようにも思える態度。
 だが、メーベルト伯夫人はソフィアの気遣いを信じない。そうする価値を、ソフィアに認めていない。

 メーベルト伯夫人が優しく接するのは、ソフィアに利用価値があるからだ。忌ま忌ましい妾腹の子供を息子から引き離すための道具として、彼女には都合よく動いてもらわねばならない。昨日だって、彼女がもっとうまくあの男を惹きつけておいてくれれば……時間稼ぎすらできないのかと、軽く失望さえ覚える。
 
「ジェヒュー、本当に何も知らないのですね?」
 メーベルト伯夫人はソフィアの言葉を聞き流し、ジェヒューへ鋭い視線を送る。
「ええ」対するジェヒューは目を伏せたまま、母の視線を受け流している。

「あ、あの……お兄様……?」
 ソフィアは義兄であるジェヒューと会うのは初めてだ。満足に挨拶をする間もなかった。
 ソフィアに礼儀作法が身についてないこともあり、メーベルト伯夫人は積極的にソフィアを他人に紹介しようとはしなかった。それはメーベルト伯も同じ。ジェヒューに紹介をしなかったのは、彼の妻ヘルタの親族へ、悪い評判が広まるのを恐れてのことだ。
 
「君は何も心配しなくていいよ。今まで通り……」
 ソフィアの言葉を遮り、ジェヒューは優しげな仕草でソフィアに語りかけた。決して目を合わせることなく、言外にソフィアに口を出すなど示した。

「ダメよ、そんな! お姉さまの婚約者様は、今日もいらっしゃるんでしょう? 相手にご迷惑をおかけしてしまうわ!」

 純粋なソフィアは、隣のジェヒューが纏う雰囲気が変わったことに気づかない。 ジェヒューの更に隣に控えているヘルタ夫人は、瞼を伏せて表情を表に出さないまま聞き耳を立てる。

「母上! 貴女はまだ懲りていないのですか!」

 ジェヒューが母親を怒鳴りつけるのを見て、ソフィアが怯えたように父親の背後に隠れながら、それでもジェヒューに異を唱える。
「なぜ怒るんです?!」
 反射的にジェヒューが怒りを込めてソフィアを睨みつけるが、直ぐに我に返り彼女から視線を逸らした。

 睨みつけられた一瞬の出来事をソフィアは父親に視線で訴える。
「……ジェヒュー……」
 ソフィアの無言の視線に耐えかねた父が、厳しい顔をジェヒューに向けるが、ジェヒューの視線の先にいるのは母だけだ。

「ジェヒュー!」
 完全に蚊帳の外に置かれかけていることに激昂し、父が声を荒らげるその更に上をいく怒りをジェヒューは父親にぶつけた。
「なんです?! 父上は事の深刻さが分かっていないのですか?! 嘗められているんですよ! 他国の貴族に!」

 怒りをぶつけ合うジェヒューとメーベルト伯を前におろおろとするソフィア。夫と義子に興味を見せず、息子にばかり疑問の目を向けるメーベルト伯夫人……そんな面々を盗み見ながら、ヘルタ夫人は小さく溜め息をついた。




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