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第二部
35.聖女の価値
お歴々にマクマが『祝福』を贈ってから、一月が経ちました。
議会も始まり、ジャン様もリシュタンジェル公も忙しそうにされています。ジャン様は、メルセンス子爵位を賜った際に議席を得ていたようです。
私は議会が終わるまでリシュタンジェル邸にお世話になって、閉会と共にメルセンス邸に戻ることになりました。
◇◆◇ ◇◆◇
「司祭様も……憐れだとは思うのよね。無罪放免は難しいにしても……救いのある終わりを迎えられると、よいのだけれど」
お菓子をつまみながら複雑そうな面持ちでそう言ったのは、ベートラ様です。
今はリシュタンジェル邸のお茶室で、一緒にお菓子を食べています。
司祭様というのは、施設長のことです。
彼女にとっては、施設長というよりも元・司祭であるという印象の方が強いようです。彼の処遇については、決議結果次第ですね。
離宮で暴れた連中に関しては、極刑となるでしょうが。
「メルセンス領の方も大変になるわよね。彼って言わば、貧民救済の要でしょう? 更迭は免れないでしょうから、このままだと荒れるでしょうね」
「そう……なんですよね」
新しくジャン様の後見を務めて下さる方が、貧民街の治安改善にどの程度意識を割いて下さるか……憂慮すべき事態ではあるのです。
政に女性が口を挟むのは「はしたない」と言われるのは分かっているのですが、気になってしまいます。
貧民層には『忌み箱』の制作方法が広く伝わっているようですから、何かあればまた、同様の騒ぎが起こる可能性もあります。
しかし、まだ問題は完全に片付いたわけではありません。
――おや? 窓から最近耳慣れてしまった喧噪が伝わってきました……。
「外が騒がしいわね。またあの汚蛆様?」
ベートラ様が忌々しいものを思い出しているかのような顔で、そう口にしました。
――本当にご迷惑をおかけしております。
私がリシュタンジェル邸に戻って来てからというもの、アンデル殿下は何度も何度も、執拗に執拗に訪ねて来るようになりました。
はじめの内は、面食らってひたすら動揺しているだけだったベートラ様。相手を忌々しい愚者と認識するようになるまで一週間もかかりませんでした。
ジャン様やリシュタンジェル公がいらっしゃる時は全力で牽制して下さるのですが、今のように留守の際は――、
「今すぐ追い出して参ります!」
――と、ベートラ様が立ち上がりかけたので「狼が噛み砕きに行ったので、すぐ静かになります」と告げてご納得頂きました。
残っている問題というのは、アンデル殿下のこれです。
今回の一件で、面倒な人間が私の利用価値を確信してしまったようで、何度激しくお断りしても向かってくるのです。
彼があのような状態になっていなければ、聞きたいこともありました。
彼は『忌み箱』……というよりも、『諱箱』を知っているようだったので。
『諱箱』は見つけ次第、精霊たちが人間の思念が届かない清浄な場所に安置してくれることになっています。精霊たちには聖女様の骸を感知することはできません。人に聞くしかないのです。
だから、アンデル殿下がかの国にある『諱箱』の場所を知っているのなら、精霊たちに教えて欲しい。
――のですが、あの異様な執着。
今はちょっと、アンデル殿下に近づきたくないのです。
身の危険を感じるというか。なぜでしょう。
私で、『諱箱』を作ろうとでもしているのでしょうか……?
議会も始まり、ジャン様もリシュタンジェル公も忙しそうにされています。ジャン様は、メルセンス子爵位を賜った際に議席を得ていたようです。
私は議会が終わるまでリシュタンジェル邸にお世話になって、閉会と共にメルセンス邸に戻ることになりました。
◇◆◇ ◇◆◇
「司祭様も……憐れだとは思うのよね。無罪放免は難しいにしても……救いのある終わりを迎えられると、よいのだけれど」
お菓子をつまみながら複雑そうな面持ちでそう言ったのは、ベートラ様です。
今はリシュタンジェル邸のお茶室で、一緒にお菓子を食べています。
司祭様というのは、施設長のことです。
彼女にとっては、施設長というよりも元・司祭であるという印象の方が強いようです。彼の処遇については、決議結果次第ですね。
離宮で暴れた連中に関しては、極刑となるでしょうが。
「メルセンス領の方も大変になるわよね。彼って言わば、貧民救済の要でしょう? 更迭は免れないでしょうから、このままだと荒れるでしょうね」
「そう……なんですよね」
新しくジャン様の後見を務めて下さる方が、貧民街の治安改善にどの程度意識を割いて下さるか……憂慮すべき事態ではあるのです。
政に女性が口を挟むのは「はしたない」と言われるのは分かっているのですが、気になってしまいます。
貧民層には『忌み箱』の制作方法が広く伝わっているようですから、何かあればまた、同様の騒ぎが起こる可能性もあります。
しかし、まだ問題は完全に片付いたわけではありません。
――おや? 窓から最近耳慣れてしまった喧噪が伝わってきました……。
「外が騒がしいわね。またあの汚蛆様?」
ベートラ様が忌々しいものを思い出しているかのような顔で、そう口にしました。
――本当にご迷惑をおかけしております。
私がリシュタンジェル邸に戻って来てからというもの、アンデル殿下は何度も何度も、執拗に執拗に訪ねて来るようになりました。
はじめの内は、面食らってひたすら動揺しているだけだったベートラ様。相手を忌々しい愚者と認識するようになるまで一週間もかかりませんでした。
ジャン様やリシュタンジェル公がいらっしゃる時は全力で牽制して下さるのですが、今のように留守の際は――、
「今すぐ追い出して参ります!」
――と、ベートラ様が立ち上がりかけたので「狼が噛み砕きに行ったので、すぐ静かになります」と告げてご納得頂きました。
残っている問題というのは、アンデル殿下のこれです。
今回の一件で、面倒な人間が私の利用価値を確信してしまったようで、何度激しくお断りしても向かってくるのです。
彼があのような状態になっていなければ、聞きたいこともありました。
彼は『忌み箱』……というよりも、『諱箱』を知っているようだったので。
『諱箱』は見つけ次第、精霊たちが人間の思念が届かない清浄な場所に安置してくれることになっています。精霊たちには聖女様の骸を感知することはできません。人に聞くしかないのです。
だから、アンデル殿下がかの国にある『諱箱』の場所を知っているのなら、精霊たちに教えて欲しい。
――のですが、あの異様な執着。
今はちょっと、アンデル殿下に近づきたくないのです。
身の危険を感じるというか。なぜでしょう。
私で、『諱箱』を作ろうとでもしているのでしょうか……?
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