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呼び出しは突然に
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そんなある日の放課後。
何気なくスマホを見ると、メールが来ていた。驚くべきことに、高木先輩からだった。珍しい。
慌てて中身を確認する。
『放課後、生徒会室に来て』
いつの放課後、とは書かれてないけど、今日の昼休みに来たメールのようだったから、今日の放課後、つまりナウの事だろうか。
さぁーっと顔から血の気が引いた。このまま帰らなくて良かった。
オレは、慌てて鞄を置いたままスマホだけ持って生徒会室に速足で向かった。
職員室からは遠いが、オレの教室からはそんなに遠く無いので、すぐに生徒会室の前に着いた。
運動だけじゃない胸のドキドキを抑えて、控えめに扉をノックする。
すると中から、
「どうぞー」
高木先輩の声が聞こえた。怒っては、なさそう? っていうか、オレ、なんで呼び出されたんだろう。わけもわからず、生徒会室の扉をくぐった。
「良くきたね、早乙女。とりあえず、そこに座れ」
中に入った瞬間聞こえたのは、高木先輩の高圧的なともすればお怒りのような、声。
ビクッとして当人を見ると、はじめて見た時のような冷たい美貌がオレを見下ろしていた。横にいる会長は、眼鏡をクイッと上げてやれやれという顔をしている。
なにこれ、どういう状況?
今日も、生徒会室には二人しかいない。他の役員どうしたんだ、と思う余裕もなく、言われた通りすごすごと一番近い椅子に座る。
一体、何がこの人の機嫌を損ねてしまったのか全くわからないし、身に覚えがない。ので、黙って縮こまる。
そんなオレの前に来て、高木先輩は怒ったように眦を上げて、
「早乙女! お前、ちゃんと土岐を捕まえておけ!」
そう、怒ったように口を開いた。
な、なんで今ここで司の名前が出てくるんだ?
わけがわからなさ過ぎて、思わずポカンと口を開けて高木先輩を見てしまった。
「はる、落ち着け。早乙女に落ち度は無いだろ」
見かねた会長が口を挟む。オレの味方だ、と直感して助けを求めるように会長の方を見てしまった。のを、その白くて細い手に顎を掴まれ、ぐいっと無理矢理高木先輩の方に向けられた。こ、これはかなりご立腹だぞ。なんでかわからないけど。
「そうだけど、それが余計腹立つんだよっ。早乙女、お前なに土岐に好き勝手にさせてるんだよ!いいのか、本当に土岐は、いつか別のオメガを選ぶかもしれないぞ!」
高木先輩が、何を言っているのか、わからない。
オレが反応できずにいると、先輩の手がパッと離れた。はぁー、とクソでかい溜息が先輩の薄い唇からもれる。
「彼も、フリーのアルファだからな」
会長から、冷静な声が聞こえる。
そんなの、オレが一番良くわかってる。
なおも黙りこくっているオレの前に、多少冷静さを取り戻した高木先輩が座る。そして頬杖をついて、ジッと真剣な目で見られた。
「本当に良いの、早乙女。土岐、僕に連絡とってきたぞ。しかも、試させてほしいっていう最低発言付きでだ」
瞬間、目線がブレた、気がした。頭を思いっきり殴られたような気分だった。
うまく、言葉が出ない。胸でつっかえている。あ、とか、う、とかいう言葉しかでない。
「そ、れは、すみません……」
ようやくでた言葉は、謝罪。なぜ出たのかよくわからない言葉。
高木先輩が、もう一度大きく息を吐いた。
「もちろん、速攻で断ったし説教もくれてやったけどさ。お前、どうすんの。そんな顔して、本当にこの先やっていくの」
次にかけられた言葉は、予想以上に優しくて。
ここで、ダメだった。目頭と鼻の奥がツーンと痛くなる。胸から、目から、なにかが溢れる。
「おれ、は」
言葉と一緒に目から流れ落ちたのは、水。
改めて突きつけられた、現実。
司がアルファで、別の人間を選ぶという、事実。
オレの知らない人なら良かった。見た事無い美女なら、まだ受け入れたはずだ。
だけど、高木先輩は。
同じ、オメガだ。
同じ学校にいて、顔を知っている、美しいオメガだ。オレは番がいるのを知っているけど、司はおそらく知らない。だから、一番身近な高木先輩に言った。
事実だけで、こんなにも胸をえぐられるなんて、思いもしなかった。
「大丈夫、です」
そう。そうだ、高木先輩に断られたなら、今度こそオレの見も知らない人と、知らないうちに付き合って、結婚し……。
涙が、止まらない。スッと差し出されたハンカチが誰のものかなんてわからなかったけど、思わず受け取って目に当ててしまった。
「そうは見えないけどね」
俯いていてもわかる、高木先輩の呆れたような声。
「僕もちょっと言い過ぎたよ、ごめん。でもさ、今なんで涙が止まらないか、ちゃんと理由は考えなよ」
先輩の言葉に、俯いていることしかできない。
「で、行動しろとは言わないけどさ。自分を、大事にしてやれよ。オメガとか関係ない、お前自身を」
僕はできなかったから、と自嘲のように言葉を吐き捨てる先輩。
ようやく、落ち着いてきた。
目元にあてていたハンカチは、ずぶ濡れだった。
そっと目線を上げると、呆れた顔も美しい先輩と、心配そうな顔の会長が、オレの方を向いていた。
ああ、よくわからないけど、心配かけているんだろうな。申し訳なさで、また胸がいっぱいになる。
オレは、覚悟したんだ。
オレの覚悟が足りないせいで、二人を巻き込んで心配させてしまったのだ。
オレはずずっと鼻をすすり、目元を乱暴に拭った。目の水なんて、すぐ乾く。
「大丈夫です、先輩。オレ、決めたんです。あいつの幸せを、一番に祝ってやるのは、オレだって」
「早乙女お前……はぁ」
オレの決意に、何故か高木先輩が頭痛そうに俯いた。ちらりと、会長と目配せし合う。そして、げんなりしたように頭を振った。
「まあいいや、出血大サービスだ。話ぐらいなら聞いてやるから、いつでもメールしていいよ。優しい言葉が欲しいわけじゃないだろ」
ふんっといつもの調子に戻って、高木先輩が言う。
女王様気質だし、優しい言葉は確かに無いかもしれないけれど、この人も思ったよりは優しい人なのかもしれない。
「ありがとうございます」
心からの感謝が、素直に落ちてきた。くすぐったそうな顔をする先輩。言われ慣れてなさそうだ、なんて。
「とりあえず、そのハンカチはやるから、さっさと帰って目元冷やしなよ。間違っても、僕に泣かされたとか噂広めないでよ」
照れ隠しなのか何なのかわからないけど、素っ気なくそんな事を言う高木先輩。誰に言う事があるんだろうか。思わず、苦笑してしまった。
「はい」
「気を付けて帰れよ。だいぶ暗くなるのが早くなってきたから」
そして、普通に優しい言葉をかけてくれる会長。その言葉に、頷く。
泣いて、ちょっと疲れてしまった。早く、家に帰ろう。
椅子から立ち上がる。
「目ぇ、ちゃんと見えてる?」
「見えてますよ。大丈夫です。……さようなら」
「ああ」
「じゃあね」
先輩のわかりにくい優しさに苦笑しながら、振り返る事なく、生徒会室を出た。
まだ、余波があるのか、ふとした瞬間に涙が溢れる。目と心が切り離されたように、自動的に出ているようにすら感じる。
教室につくと、電気がついていた。最後の人、消さずに部活行ったのかな。それとも、オレの鞄がある事に気づいて、点けていてくれたのだろうか。
そんな事を考えながら何も気にせず扉を開けると、
「やま、と!?」
オレの席に、見慣れたでかい図体が座っていた。
ああ、いま、一番会いたくなかったのに。思わず、扉の取っ手を握っている手に力が入る。
「どうしたのっ、誰かに虐められた? どっか痛い? 近くにいるならやり返してくるからオレに教えて」
慌てたように立ち上がりこちらに向かってくる司から、一瞬逃げようとしてしまった。でもそれは、動かない足に阻止された。
「ちがっ、うん、だ」
オレの肩を支えるようにして掴み、廊下の向こうをオレの頭越しに見つめる司。
近い。体温や鼓動すら聞こえてしまいそうな距離。肩の掌が熱い。離れないと。
「ちょっと……高木先輩に、怒られてた」
「高木先輩?!」
そう言いながら身を捩ると、簡単に司から距離を取れた。ごめん、高木先輩。さっそく言ってしまいました。
言われた司の方は、驚きすぎて、固まっているようだった。そうだろう。身に覚えがありすぎるだろう。
「なん、で、高木先輩が、大和に?」
頬をひくっとさせながら、司が取り繕うように聞いてくる。オレは、もう一回目元をぬぐうと、キッと司を見上げる。
「司っ。話がある。明日の放課後、あけておいて」
オレも、親友からも、司に一言言っておかないといけないだろう。オメガだからって、やり捨てするような人間になるな、って。これからの司の周りに群がる女子やオメガの為にも。そう、自分に言い聞かせながら。
キッと睨むように司を見ていると、司は視線をさ迷わせながら、困っているようだった。身に覚えがあるからだろう。そして、
「……わかった。でも大和、オレも、話があるんだ。聞いて、くれる?」
そう、恐る恐るといった風にオレを困ったレトリーバーの顔で見つめて来た。反省しているのかな?
「わかった。じゃあ、明日の放課後だな」
「うん」
鼻をずずっと鳴らしながらそう言うと、司はあからさまにホッとした顔をした。オレから怒られるってわかっているのかこいつ?
そう思いながらも、自分の机に向かい、鞄を取る。
「大和、大丈夫か?」
困ったレトリーバーの顔のまま、司がオレの後ろからおずおずと聞いてくる。
「大丈夫」
今更になって、司に苛立ちを覚える。こいつが高木先輩に最低発言なんてしなければ、呼び出されることも、泣かされることも……オレの覚悟が揺らぐことも無かった。
ちょっとキツイ言い方になったのも、仕方ない事だろう。
「かえろ」
「うん……」
一緒に教室を出て、いつものように一緒に帰るが、口数は少ない。
お互いに、何を思っているのかわからない帰り道。
一緒に帰るがしんどいなんて、はじめて思った。
夕日が、沈む。
辺りは、夜に覆われていく。
何気なくスマホを見ると、メールが来ていた。驚くべきことに、高木先輩からだった。珍しい。
慌てて中身を確認する。
『放課後、生徒会室に来て』
いつの放課後、とは書かれてないけど、今日の昼休みに来たメールのようだったから、今日の放課後、つまりナウの事だろうか。
さぁーっと顔から血の気が引いた。このまま帰らなくて良かった。
オレは、慌てて鞄を置いたままスマホだけ持って生徒会室に速足で向かった。
職員室からは遠いが、オレの教室からはそんなに遠く無いので、すぐに生徒会室の前に着いた。
運動だけじゃない胸のドキドキを抑えて、控えめに扉をノックする。
すると中から、
「どうぞー」
高木先輩の声が聞こえた。怒っては、なさそう? っていうか、オレ、なんで呼び出されたんだろう。わけもわからず、生徒会室の扉をくぐった。
「良くきたね、早乙女。とりあえず、そこに座れ」
中に入った瞬間聞こえたのは、高木先輩の高圧的なともすればお怒りのような、声。
ビクッとして当人を見ると、はじめて見た時のような冷たい美貌がオレを見下ろしていた。横にいる会長は、眼鏡をクイッと上げてやれやれという顔をしている。
なにこれ、どういう状況?
今日も、生徒会室には二人しかいない。他の役員どうしたんだ、と思う余裕もなく、言われた通りすごすごと一番近い椅子に座る。
一体、何がこの人の機嫌を損ねてしまったのか全くわからないし、身に覚えがない。ので、黙って縮こまる。
そんなオレの前に来て、高木先輩は怒ったように眦を上げて、
「早乙女! お前、ちゃんと土岐を捕まえておけ!」
そう、怒ったように口を開いた。
な、なんで今ここで司の名前が出てくるんだ?
わけがわからなさ過ぎて、思わずポカンと口を開けて高木先輩を見てしまった。
「はる、落ち着け。早乙女に落ち度は無いだろ」
見かねた会長が口を挟む。オレの味方だ、と直感して助けを求めるように会長の方を見てしまった。のを、その白くて細い手に顎を掴まれ、ぐいっと無理矢理高木先輩の方に向けられた。こ、これはかなりご立腹だぞ。なんでかわからないけど。
「そうだけど、それが余計腹立つんだよっ。早乙女、お前なに土岐に好き勝手にさせてるんだよ!いいのか、本当に土岐は、いつか別のオメガを選ぶかもしれないぞ!」
高木先輩が、何を言っているのか、わからない。
オレが反応できずにいると、先輩の手がパッと離れた。はぁー、とクソでかい溜息が先輩の薄い唇からもれる。
「彼も、フリーのアルファだからな」
会長から、冷静な声が聞こえる。
そんなの、オレが一番良くわかってる。
なおも黙りこくっているオレの前に、多少冷静さを取り戻した高木先輩が座る。そして頬杖をついて、ジッと真剣な目で見られた。
「本当に良いの、早乙女。土岐、僕に連絡とってきたぞ。しかも、試させてほしいっていう最低発言付きでだ」
瞬間、目線がブレた、気がした。頭を思いっきり殴られたような気分だった。
うまく、言葉が出ない。胸でつっかえている。あ、とか、う、とかいう言葉しかでない。
「そ、れは、すみません……」
ようやくでた言葉は、謝罪。なぜ出たのかよくわからない言葉。
高木先輩が、もう一度大きく息を吐いた。
「もちろん、速攻で断ったし説教もくれてやったけどさ。お前、どうすんの。そんな顔して、本当にこの先やっていくの」
次にかけられた言葉は、予想以上に優しくて。
ここで、ダメだった。目頭と鼻の奥がツーンと痛くなる。胸から、目から、なにかが溢れる。
「おれ、は」
言葉と一緒に目から流れ落ちたのは、水。
改めて突きつけられた、現実。
司がアルファで、別の人間を選ぶという、事実。
オレの知らない人なら良かった。見た事無い美女なら、まだ受け入れたはずだ。
だけど、高木先輩は。
同じ、オメガだ。
同じ学校にいて、顔を知っている、美しいオメガだ。オレは番がいるのを知っているけど、司はおそらく知らない。だから、一番身近な高木先輩に言った。
事実だけで、こんなにも胸をえぐられるなんて、思いもしなかった。
「大丈夫、です」
そう。そうだ、高木先輩に断られたなら、今度こそオレの見も知らない人と、知らないうちに付き合って、結婚し……。
涙が、止まらない。スッと差し出されたハンカチが誰のものかなんてわからなかったけど、思わず受け取って目に当ててしまった。
「そうは見えないけどね」
俯いていてもわかる、高木先輩の呆れたような声。
「僕もちょっと言い過ぎたよ、ごめん。でもさ、今なんで涙が止まらないか、ちゃんと理由は考えなよ」
先輩の言葉に、俯いていることしかできない。
「で、行動しろとは言わないけどさ。自分を、大事にしてやれよ。オメガとか関係ない、お前自身を」
僕はできなかったから、と自嘲のように言葉を吐き捨てる先輩。
ようやく、落ち着いてきた。
目元にあてていたハンカチは、ずぶ濡れだった。
そっと目線を上げると、呆れた顔も美しい先輩と、心配そうな顔の会長が、オレの方を向いていた。
ああ、よくわからないけど、心配かけているんだろうな。申し訳なさで、また胸がいっぱいになる。
オレは、覚悟したんだ。
オレの覚悟が足りないせいで、二人を巻き込んで心配させてしまったのだ。
オレはずずっと鼻をすすり、目元を乱暴に拭った。目の水なんて、すぐ乾く。
「大丈夫です、先輩。オレ、決めたんです。あいつの幸せを、一番に祝ってやるのは、オレだって」
「早乙女お前……はぁ」
オレの決意に、何故か高木先輩が頭痛そうに俯いた。ちらりと、会長と目配せし合う。そして、げんなりしたように頭を振った。
「まあいいや、出血大サービスだ。話ぐらいなら聞いてやるから、いつでもメールしていいよ。優しい言葉が欲しいわけじゃないだろ」
ふんっといつもの調子に戻って、高木先輩が言う。
女王様気質だし、優しい言葉は確かに無いかもしれないけれど、この人も思ったよりは優しい人なのかもしれない。
「ありがとうございます」
心からの感謝が、素直に落ちてきた。くすぐったそうな顔をする先輩。言われ慣れてなさそうだ、なんて。
「とりあえず、そのハンカチはやるから、さっさと帰って目元冷やしなよ。間違っても、僕に泣かされたとか噂広めないでよ」
照れ隠しなのか何なのかわからないけど、素っ気なくそんな事を言う高木先輩。誰に言う事があるんだろうか。思わず、苦笑してしまった。
「はい」
「気を付けて帰れよ。だいぶ暗くなるのが早くなってきたから」
そして、普通に優しい言葉をかけてくれる会長。その言葉に、頷く。
泣いて、ちょっと疲れてしまった。早く、家に帰ろう。
椅子から立ち上がる。
「目ぇ、ちゃんと見えてる?」
「見えてますよ。大丈夫です。……さようなら」
「ああ」
「じゃあね」
先輩のわかりにくい優しさに苦笑しながら、振り返る事なく、生徒会室を出た。
まだ、余波があるのか、ふとした瞬間に涙が溢れる。目と心が切り離されたように、自動的に出ているようにすら感じる。
教室につくと、電気がついていた。最後の人、消さずに部活行ったのかな。それとも、オレの鞄がある事に気づいて、点けていてくれたのだろうか。
そんな事を考えながら何も気にせず扉を開けると、
「やま、と!?」
オレの席に、見慣れたでかい図体が座っていた。
ああ、いま、一番会いたくなかったのに。思わず、扉の取っ手を握っている手に力が入る。
「どうしたのっ、誰かに虐められた? どっか痛い? 近くにいるならやり返してくるからオレに教えて」
慌てたように立ち上がりこちらに向かってくる司から、一瞬逃げようとしてしまった。でもそれは、動かない足に阻止された。
「ちがっ、うん、だ」
オレの肩を支えるようにして掴み、廊下の向こうをオレの頭越しに見つめる司。
近い。体温や鼓動すら聞こえてしまいそうな距離。肩の掌が熱い。離れないと。
「ちょっと……高木先輩に、怒られてた」
「高木先輩?!」
そう言いながら身を捩ると、簡単に司から距離を取れた。ごめん、高木先輩。さっそく言ってしまいました。
言われた司の方は、驚きすぎて、固まっているようだった。そうだろう。身に覚えがありすぎるだろう。
「なん、で、高木先輩が、大和に?」
頬をひくっとさせながら、司が取り繕うように聞いてくる。オレは、もう一回目元をぬぐうと、キッと司を見上げる。
「司っ。話がある。明日の放課後、あけておいて」
オレも、親友からも、司に一言言っておかないといけないだろう。オメガだからって、やり捨てするような人間になるな、って。これからの司の周りに群がる女子やオメガの為にも。そう、自分に言い聞かせながら。
キッと睨むように司を見ていると、司は視線をさ迷わせながら、困っているようだった。身に覚えがあるからだろう。そして、
「……わかった。でも大和、オレも、話があるんだ。聞いて、くれる?」
そう、恐る恐るといった風にオレを困ったレトリーバーの顔で見つめて来た。反省しているのかな?
「わかった。じゃあ、明日の放課後だな」
「うん」
鼻をずずっと鳴らしながらそう言うと、司はあからさまにホッとした顔をした。オレから怒られるってわかっているのかこいつ?
そう思いながらも、自分の机に向かい、鞄を取る。
「大和、大丈夫か?」
困ったレトリーバーの顔のまま、司がオレの後ろからおずおずと聞いてくる。
「大丈夫」
今更になって、司に苛立ちを覚える。こいつが高木先輩に最低発言なんてしなければ、呼び出されることも、泣かされることも……オレの覚悟が揺らぐことも無かった。
ちょっとキツイ言い方になったのも、仕方ない事だろう。
「かえろ」
「うん……」
一緒に教室を出て、いつものように一緒に帰るが、口数は少ない。
お互いに、何を思っているのかわからない帰り道。
一緒に帰るがしんどいなんて、はじめて思った。
夕日が、沈む。
辺りは、夜に覆われていく。
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