キャンピングカーで、異世界キャンプ旅

風来坊

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第11章 地球編

地球滅亡まで残り6日

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午前7時 ― アルカディア・中枢塔

 再生の夜明けが訪れた。
 昨日までの暗雲は消え、光に満ちた朝が世界を包んでいる。
 アルカディアの街並みは穏やかで、空には鳥の群れが舞っていた。
 しかし、翔の胸にはまだわずかなざわめきが残っていた。

「……なあ、忍。何かおかしくないか?」

 中枢塔のテラスで、翔は風を感じながら呟く。
 忍は隣でコーヒーを飲み、穏やかな笑みを浮かべた。

「風が優しいじゃない。やっと……地球が息をしてるのよ。」

「そうだな。でも――」
 翔は目を細め、遠くの空を見上げた。
「この風、どこか“歪んでる”。
 癒えてるはずなのに、どこか苦しそうなんだ。」

 亮がゆっくりと後ろから歩み寄る。
 手にしたホロパネルには、膨大なエネルギー波形が表示されていた。

「翔の勘は正しい。理層の流れが二重化している。」

「二重化?」

「理の再生に伴い、“もう一つの理”が動き始めた。
 光龍が創った“光の理”ではない――もっと古い、破壊の理だ。」

 忍の表情がこわばった。
「それって……“闇の理”?」

 亮は頷く。
「千年前、光龍がこの大陸を切り離したとき、
 人の憎悪、嫉妬、支配への欲望が凝り固まって生まれた残滓だ。
 あれが今――理の再統合で、目を覚ました。」



午前10時 ― 地球上空・衛星軌道

 JAXAとNASAの共同観測衛星が、異常なエネルギーを捉えた。
 アルカディア大陸の直下、深度一万五千メートル地点。
 海底ではなく、まるで“空間の亀裂”のような穴が開いている。

『アルカディアの直下で、黒い渦が発生しています!
 磁場が逆転、地球全体の共鳴反応を引き起こしています!』

 指令室が騒然とした。
 モニターに映るその“黒渦”は、まるで生き物のように蠢いていた。
 記録波形の中から、わずかに人の声のような波動が拾われる。

『奪え……欲せよ……壊せ……』

 それは、地球人自身の欲望の反響だった。



午後1時 ― アルカディア・ブレイザー艦橋

《報告。アルカディア下層の魔力流が反転。
 闇属性エネルギーの発生を確認。推定規模、世界樹クラス。》

 翔が立ち上がる。
「下層……世界樹の根のさらに下ってことか!」

 亮が眉をひそめる。
「地球の核影(コア・シェイド)だ。光龍が切り離した“闇”が眠る場所。」

「つまり、俺たちが地球を救ったことで、それも目覚めたってことか。」

「理は常に表裏一体だ。
 光が強くなれば、影も濃くなる。」

 忍が決意を込めて言った。
「……じゃあ行こう。見届けなきゃいけない。」



午後3時半 ― 闇の理の眠る地

 ブレイザー号は深海を超え、さらに下へと進む。
 そこは海ではなかった。
 時間も重力も意味を失った、漆黒の空間。

 翔は息を呑んだ。
「まるで……宇宙みたいだ。」

 その中心に、太陽のように巨大な黒い球体が浮かんでいた。
 表面には、無数の人影が浮かび、呻き声をあげている。

『奪え……欲せよ……殺せ……守れ……滅ぼせ……』

 それは人類の心そのものだった。
 亮が静かに呟く。
「これが、“闇の理”……人類の負の記憶が凝縮した意識体。」

 忍が目を覆う。
「これが……私たち……?」

 翔が叫んだ。
「なら――浄化してやる!」

 だが亮が制止する。
「翔、違う。これは戦う敵じゃない。
 ――俺たちが受け入れる“もう一つの真実”だ。」

「受け入れる?」

「闇を拒めば、光もまた滅ぶ。
 理とは均衡。どちらかだけでは存在できない。」



午後6時 ― 闇龍、覚醒

 球体が割れ、漆黒の龍が姿を現した。
 その目は紅蓮に燃え、声は雷鳴のように響く。

「光よ……偽りの理よ。
お前たちは奪い、支配し、正義を語る。
だが我は問う。――奪わぬ者が、生きられるのか?」

 翔は歯を食いしばる。
「……確かに、俺たちは奪ってきた。
 けど、それを繰り返さないために今がある!」

「理想など風の泡。
奪うことを否定するな。それが“生”だ!」

 龍が吼え、空間が砕けた。
 翔たちは衝撃に飲み込まれ、闇の奔流に包まれた。



午後10時 ― 世界各地

 その瞬間、地球各地で“選別”が始まった。
 アルカディアへの転送ゲートが、光のように輝く。
 しかし、一部の者は――その光に拒絶された。

 兵器を抱えた兵士たち、戦争を煽る政治家、
 利益を守るために自然を破壊してきた者たち。
 彼らの身体が光の前で弾かれ、煙のように消えていく。

『な……なんだ、これはっ!?』
『やめろ!俺たちは権利を――』

 叫びは虚空に消えた。
 理は裁いた。奪うことしか選べなかった者たちを。



午後11時 ― アルカディア中枢塔

《報告。最終避難完了。
 地球総人口八十億のうち、五十二億七千万人が転送完了。
 残る二十七億――理の拒絶反応により存在位相から消滅を確認。》

 沈黙の中、翔はその報告を聞いていた。
 拳を握りしめ、唇を噛む。

「……多すぎる。こんなにも。」

 亮が静かに言った。
「選ばれなかったのではない。
 ――彼らが“奪うこと”を選んだんだ。」

 忍が涙をこぼしながら呟く。
「それでも……きっと誰かは気づいたはず。
 遅すぎたとしても、争う愚かさに。」

 翔は深く息を吸い、空を仰いだ。
 アルカディアの夜空は、青と金の光で満ちていた。



深夜0時 ― 世界樹中枢

 翔、忍、亮の三人は、再び世界樹の前に立っていた。
 その根元には光龍が佇み、静かに三人を見つめている。

「見ただろう、もう一つの理を。」

 翔は頷いた。
「はい。……あれは、俺たち人間の影です。」

「では問う。お前たちは、闇をも愛せるか?」

 三人は顔を見合わせ、同時に答えた。
「――はい。」

 光龍が微笑んだ。

「それが“創世”の答えだ。」

 世界樹の光が闇を包み、
 空と地がひとつになった瞬間、
 地球の鼓動が再び打ち始めた。



深夜2時 ― 終焉と再生

《報告。地球魔力循環、完全安定化。
 光層・闇層、均衡成立。
 地球新名称――“アーク・テラ”。》

 ブレイザーの声が穏やかに響く。

 翔は静かに言った。
「……これが、俺たちの地球か。」

 忍が微笑む。
「光と闇、両方がある。
 まるで人間そのものね。」

 亮が頷いた。
「それでいい。
 闇を知り、それでも歩むことこそが、人の理だ。」

 光龍の声が響く。

「風の半神、水の半神、理の半神よ。
この星の理は、お前たちに託された。
奪わず、守り、導け。
そして、忘れるな。人とは――“選び続ける存在”だ。」



深夜3時 ― 新しき夜明け

 アルカディアの空に、三本の光柱が立った。
 風、水、理。
 その光はゆっくりと収束し、新しい朝を迎える。

 アンドロイドたちが動き始め、人々が外に出る。
 泣き、笑い、手を取り合う。
 街のスピーカーから、ブレイザーの穏やかな声が流れた。

《アルカディア人口、五十二億七千万人。
 アンドロイド総数、五億体。支援ドローン稼働数、五億機。
 理層安定化――完了。》

 翔は街を見下ろしながら呟いた。
「……これが、やり直すための世界。」

 忍が小さく笑った。
「アルカディアが、地球とひとつになった。
 ここから、“アーク・テラ”が始まるんだね。」

 亮が空を見上げ、静かに言った。
「人類よ。もう二度と、忘れるな。
 奪うより、与える方が――永く生きられる。」



 夜が明ける。
 その光は、かつての太陽よりも柔らかく、
 しかし確かに――温かかった。

地球滅亡まで――残り0日。
理の均衡、完全成立。
再生完了。新世界 “アーク・テラ” 起動。
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