聖女のう○こを入手しろ?デイリーミッションがクズ過ぎる世界で僕は生きています

カズサノスケ

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第1話

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 僕がプレイしているVRMMO『ヒーリングワールド~七色に輝く世界樹の果実』は、プレイヤー毎に全く異なるデイリーミッションがあたえらる事で人気となったゲームだ。

 それにより、異なる目的を持った者同士が協力し合ったり、最後の最後で裏切り合いになったり。様々な打算や駆け引きが生まれるお陰で気が抜けない世界でもあり、それが絶妙な面白さを生み出していた。

 そんなデイリーミッションの名称こそが七色に輝く世界樹の果実だった。毎日同じ様な目的を繰り返すだけのありふれた仕様とは違いログインする度に新鮮な気持ちで本日のプレイ予定を組み立てるのが心地良かった。

 ヒーリングワールドにどっぷりと浸った僕はプレイ動画を配信し、いつの間にか全プレイヤーから羨望の眼差しを受けるスタープレイヤーになっていた。そして、プレイ動画の広告収入だけで食っていける様になった頃にはバイトを辞めてますますこの世界にのめり込む様になっていた。

 そんな時、ヒーリングワールドの運営会社は買収された。そして、新たな運営が発足した時からログイン直後にリアルの方の僕がフリーズする様になった。毎日変わるデイリーミッションが安定してクズ過ぎるーーーー!!


『聖女のう○こを入手しましょう。今日もヒーリングワールドの冒険を楽しんで下さいね♪』、今日インして初めて表示されたメッセージだった。

 デイリー報酬獲得はプレイの基本、攻略動画でそう宣言してしまっている僕がスルーなんてするわけにはいかない。それに、僕の生活はこのゲームに完全依存している。この世界で落ちぶれる事はリアル没落をも意味するのだ……。


 とにかく、他のプレイヤーが操作している聖女とパーティを組もうと冒険者ギルドへやって来た。僕の聖騎士と同じで難易度の高い上級職クエストをクリアした者だけがなれるジョブ、そんなに多く存在しているわけではない希少な存在だ。

『聖女フロレス』、意外とあっさり見付かった彼女もパーティメンバーを探している様だ。さて、何か適当な攻略目標でもでっち上げて誘ってみる事にしよう。一緒に冒険に出ない事には、彼女に脱糞してもらう機会も得られまい。

 この世界では最低でも1日に1回はキャラクターに大の方の便意アラートが出る。出てから30分以内に済ませなければ徐々にHPが減り始め最悪は死に至る。しかも、キャラが死んだ瞬間にお漏らしをした上で1時間はその場に死体が放置される。つまり、通りすがりの他プレイヤーにそんな惨めな姿を晒す事になってしまうのだ。

 フロレスさんはあまりにも可憐なキャラクターヴィジュアル、中の人的には絶対にう〇こを漏らしながら死亡する様を誰かに見られたくあるまい!だから便意アラートが出たら必ずう〇こを出す。

 だが、フロレスさんの笑顔に触れる度に彼女のう〇こ狙いである僕が必要以上に罪深い存在に思えて胸が苦しくなってきた……。中の人も本当に可愛かったらどうしよう、罪悪感は更につのるばかりだ。

 いっそ中の人がおっさんだと思い込む事で罪を薄めてみるか?中の人おっさんのう〇こを欲しがる僕、何だか気持ちが悪くなってきて逆効果だ……。気を取り直して声をかける。

「お嬢さん、今月のレイドボス討伐はお済みですか?」

「えぇ~~と、まだですわ。あれ? あなたは聖騎士ロスティ様では?」

「えぇ、一応そうです」

「すごーーい! 攻略動画をいつも拝見しておりますわ」

「もしよろしければこれから一緒にどうでしょう?」

「是非! ご一緒出来るなんてとても光栄ですわ」

 これも日頃の生活費稼ぎの賜物。この世界の有名人である僕は対象を冒険へ釣り出す事に成功した。ただし、僕はとっくに討伐済みなのでMP回復薬等を恐ろしく消耗してしまう赤字確定のバトルを改めて経験する意味はない。

 大事なのはボスがいる場所、やたら標高の高い山の頂に辿り着くまでには相当に時間がかかる、その間に便意アラートが鳴って欲しいと切に願う。


 聖騎士と聖女ならば2人でも戦えるボスだが僕は3人目として賢者ルウェルを加えた。ポイントは女性である事のみ。賢者ルウェルがもよおした際、ついでに感覚で連だってう○こをしに藪の奥へ入ってくれるかもしれない、それを期待しての釣りう〇こ人員配置だ。

 山道では雑魚モンスターの襲撃に見舞われた。本来なら聖騎士の僕が全面的にパーティの盾となって進むべきだが、つまづいたふりをして数体を後ろへ抜けさせた。フロレスさんの腹部に打撃が入れば、それをきっかけに便意アラートが出てくれるかもしれないからだ。

「ルウェルさん、ナイス!」

 フロレスさんにタックルを入れる態勢に入ったゴブリンは賢者ルウェルが放った火球に焼かれていた。その様子に、僕は笑顔を浮かべながら一切心にもない賞賛を送っていた。


 昼時。山の中腹辺りまで登っていた僕達は見晴らしのいい崖の上で昼食をとる事にした。

「ロスティさん、すごい! 調理スキルを随分とお上げになっているんですね!!」

「冒険の合間の食事も楽しみの1つですからね。こんなに眺めのいい場所で自分で作った弁当を食べるのが趣味なんですよ!」

「へぇ~~! 私なんて賢者としての戦闘力を上げる事ばかりで魔法スキルしか磨いてない……。ロスティさんって本当にこの世界を楽しみ尽しているんですね!」

 いや、違う。毎日出されるわけのわからないデイリーミッションに対する攻略法として採用しただけだ。美味しい物は人の心を和ませる、つまり、調理スキルを上げる事で他人を心理的な罠にはめやすくなる。

 ただ、今回はもっと直接的な方法で罠にハメようとしている。食べてから少々時間が経てばお腹の具合が悪くなり、ほぼ強制的に便意アラートが発動する為の弁当だった。


 そろそろ頃合いだ。

「ちょっ、ちょっと、お花を摘みに行ってくるわね……」

 賢者ルウェルは慌てて藪の方へと駆け込んで行った。しかし、聖女フロレスに変わった様子は表れていない。レベルの高い調理スキルを悪用した遅効性の腹痛トラップが効かないとは……。確か、これを利用して動きを鈍らせたドラゴンを葬った記憶もあるのだが……。

「ルウェルさん、大丈夫かしら……。ロスティ様の様な高名で、高い調理スキルを持った方が食あたりを起こさせるお弁当を作るはずがありませんから不思議ですわね」

「えぇ……。もし、そんな弁当をうっかり作ってしまったら僕は引退ものですよ」

 うっかりではない、明確な意図を持って故意に作った。今やスタープレイヤーとしてのイメージを守り、この世界をリードし続ける事で多くのプレイヤーに希望を与えるのが僕のロールだ。その為に聖女フロレスを脱糞させる、崇高な目的の前に躊躇は許されなかった。

 取り敢えず、ルウェルの身に起こった腹痛の適当な原因でもでっち上げておくとしよう。

「そろそろボスが放つ邪気が巡っているエリアですからそれを吸い込んでしまったたのでしょう」

「あっ、そうなんですね。私は聖女ですから【オート浄化】を身に付けています、毒や邪気程度でしたら即座に打ち消されるので大丈夫ですわ」

「それはよかった!」

 少しもよくはなかった……。僕にとってもう用済みのボス戦を回避しようと思った瞬間に閃いた作戦、それがそもそも通用しない相手だったとこのタイミングで知る事になるとは……。


 結局、賢者ルウェルが藪の奥から戻ってくる事はなかった。2人でボスの居場所まで向かう道中、少しでも時間を稼いで彼女の便意アラートが鳴るのを期待したがその様子は見られない。

 ついに、MP回復薬などを浪費するだけのボス戦が始まった……。しかも、聖女フロレスの便意アラートを待つ為にあえて戦いを長引かせなければならなかった。パーティの目的達成を少しでも先に延ばし解散のタイミングを後ろ倒しにする。そうして聖女フロレスのう〇こを入手しなければ今日1日が全て無駄になってしまうのだ。

 戦いの最中、便意アラートが鳴った!僕のアラートが……。急いでボスを倒してう〇こをしなければ、漏らして死亡の姿を1時間晒すデスペナが発生してしまう。僕は一気にボスを仕留めにかかる!


「ボスを倒したぞ!」

 聖女フロレスと握手を交わすと僕は急いで藪の中へ駆け込んだ。お腹の辺りがスーッと軽くなり始め、清々しい気持ちになり始めた時、背中の方に人の気配を感じた。

「あっ! フロレスさん……」

 まだ出切っていない為、立ち上がる事も出来なければパンツを上げる事も出来ない……。

「聖騎士ロスティ様、実はお願いが……。あのーー、言いにくいのですが、それを私に下さいませんか? 聖騎士のそれを入手するのがデイリーミッションでして……」


 その後、聖女フロレスさんも藪に入った。僕は彼女のそれを手に、彼女は僕のそれを手に取ると街へ戻る事になった。

 運営が変わってから傾向が変わってしまった頭のイカれたクズ過ぎるデイリーミッション。運営のミスかもしれないが、それが被っている事もあるのだな。つまり、フロレスさんも同じ様な苦悩を抱えて今日という日を過ごしていたのだ。

 毎度どうやってクリアしようかと考え他人を陥れ続けていた自分が恥ずかしくなった。僕だけじゃない、このゲームをプレイしているみんなが毎日おかしなミッションを抱えている。同じゲームを楽しんでいる仲間なのだから正直に声に出して頼めばよかったのだ。

 仲間と協力して冒険を楽しむ。それこそがMMOの本来の楽しみであるとずっと忘れていた気がする……。その世界の中で選ばれた存在になるのは本来の目的ではない、楽しんだ結果の1つのはずだ。


 翌日。

「そこの女戦士さん! あなたのパンツと僕のパンツを交換して履いてもらえませんか?」

 女戦士さんの放った戦斧の一撃は僕のHPを完全に奪っていた……。
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