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第6話 ♪フィールドBGM【広野に躍る】
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「ルテット殿に私のパーティを紹介致しますわね。薬法師ルイドと鍛冶師バステ。そして、改めまして私は拳闘士のコレットにございます。これから暫くの間、よろしくお願い致しますわね」
「コレット姫様、ルイドさん、バステさん。こちらこそよろしくお願いします!」
「あの、一つよろしいかしら?」
「姫様、何でございましょう?」
「それにございます。此度、私はファーレン王国の王女コレットとして外交に赴くわけでも軍を率いるわけでもありません。勇者アルト様の下に駆け付けてパーティに加わるただの拳闘士、以後はコレットとお呼び下さいまし」
「そ、そうですか。姫、いやコレットさんがそう仰るなら、かしこまりました」
俺はオルザノの町でコレット姫のパーティに合流した。これからしばらくは行動を共にする事になる、まずは町を出て北に向かいビルザの町を目指す事になる。それにしても……、姫のパーティは何とユニークな事か。
『薬法師』ルイド、レベル1。薬法師は主に治癒を得意とし、野に落ちている素材で様々な効果のある薬品を作り出して使う事が出来る。薬品の効果は治癒魔法より高いのだが素材収集がちょっと面倒くさい。ゲームの時、ヒーラーとしては敬遠されがち。治癒は神官で、そんな選択をするプレイヤーの方が多かった。
そして『鍛冶師』バステ、レベル2。一通り武具を扱う事が出来る上、その性能を越えて威力を増す事が出来るのでそこそこ戦える。しかし、あくまでも本分は素材を集めて武具を造る事なので限界はある。普通は戦いの能力に特化した戦士を選ぶ。よほど金を節約しながら進みたい場合に選ぶのが鍛冶師だった。
あまり選ばれない方が選ばれている。行く先々で現地調達出来る物は何でも拾って使う気満々、自給自足パーティとでも呼ぶべきか?
「ルテット殿。このパーティは何か妙だと思ってらっしゃいますね?」
「いえ、そんな事は」
「不思議がる目、そういう目をしております。勇者アルト様もよく見せておられましたから私にはよくわかります」
コレット姫、俺もわかるぞ。勇者アルトが気になってしょうがない、無事でいるだろうか?と心配で仕方のないあなたの気持ちが。まあ、俺が恋愛に明るいからではなくシナリオを知っているからだけだが。
「アルト様の手紙に拠りますと、これから行く町々で満足に補給が受けられるかわからないのです……。町でゆっくり休める環境にあるかもわかりません。ですから魔法力で治癒を施す神官より薬法師、武具の作成と修理が出来る鍛冶師を連れて行った方がよいのです」
「なるほど……」
この前、俺はオルザノの町の壁の上で町BGMを聴いている時に勇者アルトの敗退理由が何となくわかった様な気がした。そして、コレット姫の話を聞いて確信した。アルトが敗れる様な事態に陥った根っ子は……BGMにある。
町に町BGMがあってはじめて魔物の侵入を阻む結界の様な物を発生させる事が出来る。それがないのであれば以前のオルザノの町と同様。度々、町の中が荒らされてしまっているはず。魔物の襲撃が起きている間は迂闊に隊商も近寄れないので物資不足に陥ってしまう。
つまり、勇者アルト達は本来なら手に出来ていたはずの装備品がない状態でより強い魔物が徘徊するエリアに踏み込んでしまった。装備品の性能、その影響をもろに受ける戦士ガルザスが死亡してしまったのもそこいら辺の影響が大きいはず。
「勇者アルト様は新たな戦士を求めおりましたが、代わりに私が赴く事にしたのもそういった理由ですわ。拳闘士の私ならば基本的には装備品に頼らず、体術で対処出来るはず」
『拳闘士』コレット、レベル35。姫が口にした自身の職業、俺が一番気になっていたのはそれだった。王家の腕輪に表れている数字、妙にレベルが高い事よりもゲームの時に登場しなかった職業である事の方が衝撃的だ。
使った事がないので詳しくはわからないが名前だけで想像は出来る。きっと殴って蹴ってはボコるのが得意、リアル化したらとびきり美しくなっていたコレット姫がそんな技の使い手とは何とも複雑な気分。
でも、待てよ。コレット姫が拳闘士だったのをそもそも知っていた様な気もしたが……。おかしいな、そんなはずは。転生する前の記憶の奥底まで手を伸ばしてかき回してみる。
あった!なるほど。それは何かのゲーム誌でFクエ開発陣の対談企画が載った記事に書かれていた。そうだ、コレット姫の職業設定はボツデータだ。
当初のシナリオでは中盤辺りで勇者パーティにコレット姫が一時的にNPCとして加わる展開が用意されていたらしい。その際、ドレスがよく似あう可憐なお姫様ヴィジュアルなのに拳闘士というギャップが面白いんじゃないか?その様に思った開発陣の1人の遊び心でテストプレイ用に仮設定された。もっと言えば悪ふざけ。
そして、冷静に会議の場で精査される機会もないままに容量の関係でイベント自体がカットになってしまい、拳闘士としてのデータは残った。レベル35でスタートなのは物語中盤で仲間になる予定だった名残か。
「コレットさん、一時的にではありますがパーテイに加われる事を嬉しく、いや光栄に思います。一緒に勇者アルトの助けとなりましょう」
「そうですわね。行きましょう、あの方の下へ」
幻のイベント、コレット姫と旅する事が出来る。オリジナルとどこまで同じなのかもはやわからないが、元プレイヤーとして嬉しいのは本音だった。
俺達はオルザノの町を出た。そう言えば歩く時のフォーメーションを決めてなかったと思ったが、まるで当然かの様にコレット姫が先頭へ。
「ビルザの町までは歩きで3日というところですわね。とにかく、魔物の姿を捉えたら私に声をかけて下さいね」
優しく声をかけてくれたコレット姫、その振り向きながらの笑顔が可愛すぎてヤバい。その顔で魔物をボコる姿は見たくない様な気もするが……、ゲームに登場しなかった拳闘士の勇姿を見たい気がしないでもない。
そんな頼もしいコレット姫の後ろで横並びになった俺と薬法師ルイド。それを挟んで後ろに鍛冶師バステが付いた。個々の戦う力を考えれば当然の配置か。
しばらく草原を歩いて旅する事になる。さて、フィールドに出て長い旅路を行くのだからやってみるか。町や城の様に共鳴は期待出来なそうだからずっと魔奏を続ける羽目になるのかな?まあ、それも効果次第か。いまいち微妙だったら適当に。
ティンホイッスルを口に当てフィールドBGM【広野に躍る】を魔奏してみた。ん?こっ、これは!?
その日の夕方頃。俺達はビルザの町にいた。
「あれが父上から聞かされたルテット殿の魔奏なのですね!? 3日はかかるはずの距離を半日ほどで着いてしまうなんて!!」
「ええ。魔奏は曲によって様々な効果がありまして、さきほど奏でたのは【広野に躍る】という曲にございます。その旋律は移動速度を大いに高める効果があるのです」
さも、以前から知っていたかの様な口ぶりで説明してしまったが。俺もついさっき知ったばかりだ。フィールドBGM【広野に躍る】が持つのはその様な効果である、と。
「コレット姫様、ルイドさん、バステさん。こちらこそよろしくお願いします!」
「あの、一つよろしいかしら?」
「姫様、何でございましょう?」
「それにございます。此度、私はファーレン王国の王女コレットとして外交に赴くわけでも軍を率いるわけでもありません。勇者アルト様の下に駆け付けてパーティに加わるただの拳闘士、以後はコレットとお呼び下さいまし」
「そ、そうですか。姫、いやコレットさんがそう仰るなら、かしこまりました」
俺はオルザノの町でコレット姫のパーティに合流した。これからしばらくは行動を共にする事になる、まずは町を出て北に向かいビルザの町を目指す事になる。それにしても……、姫のパーティは何とユニークな事か。
『薬法師』ルイド、レベル1。薬法師は主に治癒を得意とし、野に落ちている素材で様々な効果のある薬品を作り出して使う事が出来る。薬品の効果は治癒魔法より高いのだが素材収集がちょっと面倒くさい。ゲームの時、ヒーラーとしては敬遠されがち。治癒は神官で、そんな選択をするプレイヤーの方が多かった。
そして『鍛冶師』バステ、レベル2。一通り武具を扱う事が出来る上、その性能を越えて威力を増す事が出来るのでそこそこ戦える。しかし、あくまでも本分は素材を集めて武具を造る事なので限界はある。普通は戦いの能力に特化した戦士を選ぶ。よほど金を節約しながら進みたい場合に選ぶのが鍛冶師だった。
あまり選ばれない方が選ばれている。行く先々で現地調達出来る物は何でも拾って使う気満々、自給自足パーティとでも呼ぶべきか?
「ルテット殿。このパーティは何か妙だと思ってらっしゃいますね?」
「いえ、そんな事は」
「不思議がる目、そういう目をしております。勇者アルト様もよく見せておられましたから私にはよくわかります」
コレット姫、俺もわかるぞ。勇者アルトが気になってしょうがない、無事でいるだろうか?と心配で仕方のないあなたの気持ちが。まあ、俺が恋愛に明るいからではなくシナリオを知っているからだけだが。
「アルト様の手紙に拠りますと、これから行く町々で満足に補給が受けられるかわからないのです……。町でゆっくり休める環境にあるかもわかりません。ですから魔法力で治癒を施す神官より薬法師、武具の作成と修理が出来る鍛冶師を連れて行った方がよいのです」
「なるほど……」
この前、俺はオルザノの町の壁の上で町BGMを聴いている時に勇者アルトの敗退理由が何となくわかった様な気がした。そして、コレット姫の話を聞いて確信した。アルトが敗れる様な事態に陥った根っ子は……BGMにある。
町に町BGMがあってはじめて魔物の侵入を阻む結界の様な物を発生させる事が出来る。それがないのであれば以前のオルザノの町と同様。度々、町の中が荒らされてしまっているはず。魔物の襲撃が起きている間は迂闊に隊商も近寄れないので物資不足に陥ってしまう。
つまり、勇者アルト達は本来なら手に出来ていたはずの装備品がない状態でより強い魔物が徘徊するエリアに踏み込んでしまった。装備品の性能、その影響をもろに受ける戦士ガルザスが死亡してしまったのもそこいら辺の影響が大きいはず。
「勇者アルト様は新たな戦士を求めおりましたが、代わりに私が赴く事にしたのもそういった理由ですわ。拳闘士の私ならば基本的には装備品に頼らず、体術で対処出来るはず」
『拳闘士』コレット、レベル35。姫が口にした自身の職業、俺が一番気になっていたのはそれだった。王家の腕輪に表れている数字、妙にレベルが高い事よりもゲームの時に登場しなかった職業である事の方が衝撃的だ。
使った事がないので詳しくはわからないが名前だけで想像は出来る。きっと殴って蹴ってはボコるのが得意、リアル化したらとびきり美しくなっていたコレット姫がそんな技の使い手とは何とも複雑な気分。
でも、待てよ。コレット姫が拳闘士だったのをそもそも知っていた様な気もしたが……。おかしいな、そんなはずは。転生する前の記憶の奥底まで手を伸ばしてかき回してみる。
あった!なるほど。それは何かのゲーム誌でFクエ開発陣の対談企画が載った記事に書かれていた。そうだ、コレット姫の職業設定はボツデータだ。
当初のシナリオでは中盤辺りで勇者パーティにコレット姫が一時的にNPCとして加わる展開が用意されていたらしい。その際、ドレスがよく似あう可憐なお姫様ヴィジュアルなのに拳闘士というギャップが面白いんじゃないか?その様に思った開発陣の1人の遊び心でテストプレイ用に仮設定された。もっと言えば悪ふざけ。
そして、冷静に会議の場で精査される機会もないままに容量の関係でイベント自体がカットになってしまい、拳闘士としてのデータは残った。レベル35でスタートなのは物語中盤で仲間になる予定だった名残か。
「コレットさん、一時的にではありますがパーテイに加われる事を嬉しく、いや光栄に思います。一緒に勇者アルトの助けとなりましょう」
「そうですわね。行きましょう、あの方の下へ」
幻のイベント、コレット姫と旅する事が出来る。オリジナルとどこまで同じなのかもはやわからないが、元プレイヤーとして嬉しいのは本音だった。
俺達はオルザノの町を出た。そう言えば歩く時のフォーメーションを決めてなかったと思ったが、まるで当然かの様にコレット姫が先頭へ。
「ビルザの町までは歩きで3日というところですわね。とにかく、魔物の姿を捉えたら私に声をかけて下さいね」
優しく声をかけてくれたコレット姫、その振り向きながらの笑顔が可愛すぎてヤバい。その顔で魔物をボコる姿は見たくない様な気もするが……、ゲームに登場しなかった拳闘士の勇姿を見たい気がしないでもない。
そんな頼もしいコレット姫の後ろで横並びになった俺と薬法師ルイド。それを挟んで後ろに鍛冶師バステが付いた。個々の戦う力を考えれば当然の配置か。
しばらく草原を歩いて旅する事になる。さて、フィールドに出て長い旅路を行くのだからやってみるか。町や城の様に共鳴は期待出来なそうだからずっと魔奏を続ける羽目になるのかな?まあ、それも効果次第か。いまいち微妙だったら適当に。
ティンホイッスルを口に当てフィールドBGM【広野に躍る】を魔奏してみた。ん?こっ、これは!?
その日の夕方頃。俺達はビルザの町にいた。
「あれが父上から聞かされたルテット殿の魔奏なのですね!? 3日はかかるはずの距離を半日ほどで着いてしまうなんて!!」
「ええ。魔奏は曲によって様々な効果がありまして、さきほど奏でたのは【広野に躍る】という曲にございます。その旋律は移動速度を大いに高める効果があるのです」
さも、以前から知っていたかの様な口ぶりで説明してしまったが。俺もついさっき知ったばかりだ。フィールドBGM【広野に躍る】が持つのはその様な効果である、と。
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