魔導姫戦記

森乃守人

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本編 第一部

ep.11 開戦

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アースガルド官邸・議長室にて…

騎士「オーディン様、ヨトゥンヘイム議長・ソール侯がおいでです。」
「来たか…通してくれ。」
オーディンは億劫そうに指示する。
程なくしてソールが入室した。

オーディン「私は忙しいのだ、手短に頼む。」
ソール「せがれが来とったぞ、ミシェルという娘と一緒に。」
オーディン「何⁉︎
…して、今どこに?」
ソール「それは教えられん。
聞けば、その娘が帝国の姫ではないと知って尚、捕らえたそうではないか。
一体どう言うつもりじゃ?」
オーディン「帝国の姫ではない…か…
ソール、娘の傍らに居た生き物を見たか?」
ソール「?
…そう言えば、犬とも猫ともつかぬ動物を連れておったな…
それがどうしたんじゃ?」
オーディン「あれは聖獣カーバンクル…
王族にのみ従う、魔法の力を持った生き物だ。」
ソール「何と⁉︎
では、自ら姫を名乗っておる方は偽物だと?」
オーディン「いや…
その娘も、王族しか持てぬ筈の聖剣を持ち去った。」
ソール「では、皇帝にもう1人娘がおったと言う事か?」
オーディン「…我々の知る限り、そのような者は居なかったはずだが…
いずれにせよ、彼女らの持つ力は、独裁国やテロリストに渡れば危険なものだ。」
ソール「魔法の力…か…
それは、儂らの手にも余るのではないか?
聞けば、塔の魔導師が異形化奇病メタモルフ化したそうではないか。」
オーディン「‼︎
…どこから聞いた?」
ソール「お主のせがれと、儂の孫も見たと言っておる。」
オーディン「…それは、何かの見間違いか、子供の戯れ言だ。
信じるに値しない。」
ソール「…オーディン、お主…何を企んどる?」
オーディン「話は終わりだ。
私は予定があるので失礼する。」









グレゴリウス領・旧ヒノモト…

「反逆者達が革命と偽って起こした戦乱によって…
また、その後の世界に蔓延はびこ異形化奇病メタモルフによって…
家族を、愛する者を奪われし者達よ!

そして、おぞましき実験によって、異形化奇病メタモルフと化す宿命を背負わされし者達よ!

今こそ復讐の時である!
悲しみと絶望を怒りに変えて、偽りの革命家達に知らしめようぞ!」
近衛兵長ザハークの訓示に、帝国兵達が歓声を上げた。










一方その頃…

帝国の動向など知る由もなく、ラグナとシャールヴィはミシェルの道案内でラン・リンのアジトに辿り着く。



ラン「シッ、誰か来る!」

アジトに近づく気配に気付き、素早く入口の扉の横に移動し、身構える2人。

リン「⁉︎(賢者様じゃないの?)」
ラン「(賢者様なら伝話鳥アルキュオネに連絡あるはずよ。)」

ドアをノックする音がした。

ミシェル「ランさん、リンさん、いらっしゃいますか?
ミシェルです。」
リン「ミシェルちゃん⁉︎」

ほっ…と緊張感を解き、ドアを開ける。

リン「心配してたんだよ。
大変だったね。」


確かに大変だった事は間違いないが、あの後ミシェル達の身に何が起きたか、2人は知らない筈…どう言う事だ?

ラン「……
アンタ達、陸路を来たのかい?」
ミシェル「えぇ。」
ラン「だとしたら、アンタ達が発った時点では、まだアースガルドは平和だった筈…」
ラグナ「アースガルドが平和だったって…いったい何の話です?」
リン「えぇ~、知らないの⁉︎
大変な事になってるんだよ⁉︎」

そう言うと、伝話鳥アルキュオネに合図した。
「皆さんこんにちは。
世界のニュースをお伝えするアルキュオネ情報局です。

さて、グレゴリウス帝国を名乗る武装集団によるアースガルドへの攻撃ですが、アースガルド騎士団の奮闘により、依然膠着状態が続いており…」

ラグナ「何だって⁉︎」
ラン「…聴いての通り、あんた達の国は今や戦場なのよ?」
「そんな…くっ!」
ラグナは矢も盾もたまらずアースガルドに戻ろうとした。

ラン「待ちなよ!
アースガルドからここまで、歩いてどんだけ掛かった?
今更引き返したところで、間に合やしないって事くらいわかるでしょ?」
「でも…!」
不安と焦りで苛立ちを隠せないラグナ。

リン「歩いて遅いんなら、飛べばいいじゃん♪」
シャールヴィ「飛ぶ?」
ミシェル「それって、もしかして…」

その時、伝話鳥アルキュオネが鳴き出す。

ラン「ナイスタイミングだよ、賢者様。
ちょっとお客さんをアースガルドまで連れて行って欲しいんだ。
……
……
……
マジ⁉︎
それなら丁度良かった。

ラグナ、アースガルドに連れてったげるよ。
アンタにとっては心強い味方も一緒にね。」
ラグナ「心強い味方?」
「おいで。」
ランに促されアジトの外に出ると、そこへドラゴンが舞い降りた。

シャールヴィ「何だアレ⁉︎
異形化奇病メタモルフ?…の背に…え?シグルズ⁉︎」
ラグナ「シグルズさん‼︎」

そう、ドラゴンの背にはシグルズが乗っていたのだ。
「コイツは異形化奇病メタモルフじゃねぇぜ、シャールヴィ。
ドラゴンだ。」
シャールヴィ「うはー、スゲェ!」
ラグナ「シグルズさん、無事だったんですね‼︎」
シグルズ「あたりめーだ、俺様は不死身よ。
お前も、見ない間にちったぁ逞しくなったな、ラグナ。」
ラン「はいはい、再会を喜ぶのも良いけど、大事な事を忘れてない?」
ラグナ「そうだ、シグルズさん!
アースガルドが大変なんです!」
「あぁ、わかってる。
メリュジーヌ、頼むぜ。」
シグルズの言葉にドラゴンが頷く。

ラン「言っとくけど、アタシらは戦争に加担する訳にゃいかないから、運んであげるだけだからね。」
シグルズ「わかってるよ。」
ラグナ「ミシェルさんの事、お願い出来ますか?」
リン「任せて♪」
シャールヴィ「オイラは一緒に行くぜ!」
ミシェル「皆さん、気を付けて…
無事に帰って来てください!」
ラグナ「えぇ、行って来ます!」

ラグナ・シグルズ・シャールヴィは竜の背に乗り、アースガルドに向けて飛び立った。










アースガルド領空…

翼ある牛ザガンに騎乗した帝国兵の一団と遭遇する。

帝国兵「な…何だ、その生き物は⁉︎」
シグルズ「お前らこそ、そりゃ何だよ?」
帝国兵「むぅ…何者だろうと、友軍でないなら排除するまで!」
メリュジーヌ「やれやれ…
我は戦には加担せぬのだが…
降りかかる火の粉は払わねばなるまい。」

帝国兵との空中戦を制し地上に降りると、メリュジーヌは竜から幼女へと姿を変えた。

シャールヴィ「うわっ、人間になった⁉︎」
メリュジーヌ「力と姿を封印したのじゃ、目立つからの。
さて、我の役目はこれまでじゃ。」
シグルズ「あぁ、ありがとよ。」
メリュジーヌ「心して行くがよい。」



帝国軍による地上からの攻撃は、アースガルド騎士団の活躍により、未だ膠着状態にあった。
だが、翼ある獣に騎乗した兵により、官邸は直接攻撃に晒されている。

「官邸には父さんが居るはず…!」
確執があれど実の父…
オーディンの身を案じ、焦るラグナ。

シグルズ「心配すんな。
そう簡単にくたばりゃしねぇよ、あのタヌキ親父は。」

帝国兵達を薙ぎ払い、街の入口に辿り着く。

アースガルド騎士「ご無事でしたか、シグルズ卿!
ここは我々が食い止めますので、官邸の方を頼みます!」
シグルズ「あぁ、任せろ!」










官邸上空…

アースガルド騎士団の抵抗は激しく、帝国の近衛兵団は攻めあぐねていた。
「止むを得ん、アッシュ。
私が魔法攻撃で活路を開く。」
アッシュ「いいのか?ゼル。
土壇場まで魔法は御法度だろ?」
ゼル「今がその土壇場だ。」
アッシュ「やれやれ…長生きできねーぞ?」

ゼルが念じると剣先から巨大な火球が生み出され、アースガルド騎士団も怯んだ。
その時である。
近衛兵達の背後から高圧の水流が放たれた。
それは、アースガルド騎士団を押し流し、もろともに火球も消し去る。
それは、ルーシェが召喚した王家の聖獣・ウンディーネによるものだった。
「魔法は控えよと言ったはずですわよ?」
ゼル「姫様⁉︎
前線に出られては危険です!」
ルーシェ「ならば全力でわたくしを守りなさい。
故にまだ、異形化奇病メタモルフと化す事は許しません。」
ゼル「…はっ!」



近衛兵達と共に官邸屋上に降り立ったルーシェ。
「ここの何処かに、父の仇が居りますのね…?」










官邸の議長室を目前にしたラグナ達。
そこに、屋上への階段から大量の水と共に騎士達が流されて来た。
「くっ、不覚…!
すまん、シグルズ卿、屋上に帝国軍が…」
シグルズ「あぁ、任せろ!
ラグナ、お前は親父ンとこに行ってやれ。」
ラグナ「で、でも…!」
シャールヴィ「オイラ達なら大丈夫さ!」

そう言うと、シグルズとシャールヴィは階段を登って行った。

「くっ…父さん!」
議長室に入るラグナ。

「…⁉︎
ラグナ、何故ここに?
…例の娘はどうした?」
この状況の中、オーディンは冷静だった。

ラグナ「そんな事より帝国が…!」
「案ずる事は無い。
手は打ってある。」
オーディンは、不敵な笑みを浮かべて窓の外を眺めた。










一方、屋上では帝国軍とシグルズ・シャールヴィが対峙していた。

シグルズ「あれが帝国の姫様かぁ…
確かにミシェルに似てんなぁ。」
シャールヴィ「だろ?」

アッシュ「ガキは頭数に入らねぇ…
1人で何余裕こいてやがる。」
シグルズ「俺様はシグルズ=ヴォルスング。
名前ぐらい聞いた事あんだろ?
まとめてかかって来ていいぜ。」
ゼル「噂に名高い革命戦の英雄か…
いずれにせよ、多勢に無勢というのは好かん。
グレゴリウス帝国軍・近衛魔導兵団ウィザード所属、ゼル=べールが手合わせ願う。」
シグルズ「タイマンか…いい心がけだ。
その名前、覚えといてやる。」



ゼルの右腕によって描かれる無数の剣閃。
巨大な両手剣で受けるシグルズは、はた目には防戦一方に見えた。
だが、より重量のある剣で全ての剣撃を受け止める…それはすなわち、より重い剣を同じ速さで振るう事が出来るという事だ。

シグルズ「なかなかやるねぇ…
じゃあ、今度はこっちの番だぜ。」

シグルズの剣撃を全て受け止めるゼル。
それは先程と同じ事…では全く無い。
一撃一撃から受ける衝撃の重さがまるで違う。
たまらずゼルは間合いを取る。

ゼル「くっ…英雄の二つ名は伊達じゃないな…
ならば…!」
ルーシェ「…⁉︎
お止めなさい、ゼル‼︎」

姫の言葉も聞かず、ゼルは念じて剣先から生み出した火球を放った。
「焼き尽くせ、火炎魔法剣レーヴァテイン!」
「魔法ってやつか…
食らわなきゃどうって事ねぇぜ。」
シグルズは、自分に向かって飛んで来る火球めがけて走り、大剣を振る風圧でそれを斬り払った。
そのまま一気に間合いを詰める。
シグルズの強烈な一撃に、ゼルは受け止めた剣ごと弾き飛ばされた。

シグルズ「飛び道具なんぞに頼ってちゃ、剣が鈍るぜ。」
ゼル「…くっ!」

その時、帝国軍が連れていた伝話鳥アルキュオネが、大声で喋り出した。
「こちら地上部隊のザハーク!
敵が魔導師の大部隊を投入して来た!
このままでは囲まれる!
全軍撤退せよ!」

アッシュ「魔導師だって?」
シグルズ「オーディンの野郎…
そう言う事か…!」
ルーシェ「…聞いての通りですわ。
皆さん、引きますわよ!」

ゼルは、悔しさと怒りの入り混じった視線でシグルズを睨み付けた。

シグルズ「また会おうぜ、ゼル。」
「シグルズ…次は…殺す…!」
ゼルはそう言い残し、翼ある獅子ヴァピュラに乗って、他の帝国兵達と共に撤退する。









議長室…

ラグナ「…ま、魔導師部隊…だって…⁉︎
…父さん!
僕は、魔導師が異形化奇病メタモルフになるのをこの目で見たんだ!」
オーディン「アリハマ博士の研究によれば、魔法と異形化奇病メタモルフの因果関係は無い。
それは偶然だ。」
ラグナ「じゃあ、なんで貴族は魔導師になっちゃいけないんですか⁉︎
危険だから差別してるんじゃないんですか?」
オーディン「……
…そんな事より、例の娘は何処だ?」
「…僕の質問に…答えろッ‼︎」
怒りに任せて、これまでに無い口調が出るラグナ。

オーディン「…聞き分けの無い子供ならば仕方ない…」

そう言うと、兵士が2人議長室に入室し、ラグナを捕らえようとした。
その時である。

「漢ってのはよォ、親父に逆らって成長するもんだよな。
ラグナ君の成長に協力しようじゃないの。」
そう言って、兵士達を一撃で気絶させたシグルズ。

「…シグルズ、貴様…!」
オーディンの怒りの表情は、シグルズ以外のその場に居る全員が、戦慄を覚える程のものだった。

シグルズ「反抗期の少年は家出する…
許されぬ恋なら駆け落ちするってなモンだろ。」
シャールヴィ「行こう、ラグ兄!」

ラグナは何も言わずオーディンを睨み、その場を去った。





続く
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