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本編 第一部
ep.13 哀しき魔女
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「皆さんこんにちは。
世界のニュースをお伝えする伝話鳥情報局です。
さて、先日のアースガルド紛争における魔導師達の活躍を受けまして、世界各国では、魔法の力の軍事利用が注目されています。」
「馬鹿野郎どもが!
まだバケモノを増やしてぇのか⁉︎」
放送を伝える伝話鳥にアッシュが怒鳴る。
「呪われし宿命…
背負うのは私達だけでいい。」
ゼルは静かに呟いて立ち上がった。
アースガルド官邸・議長室…
アリハマ博士「君の思惑通りに事は運んでいる様だね。」
オーディン「…まるで私1人の一存であるかの様な物言いだな。」
アリハマ博士「ククク…
私は研究と実験さえ出来れば良いからね。」
オーディン「利害は一致するだろう?」
アリハマ博士「まぁね。
では行ってくるよ、ムスペルヘイム国に。」
ウロボロス団アジト…
ラン「みんな聞いて!
ムスペルヘイムで鉱夫を急募してるらしくて、ちょっと調べたんだけどね…
どうやら、魔法石の鉱脈が見つかったみたいよ。」
メリュジーヌ「ふむ…今の風潮では、国家の手に渡れば、魔導師の量産は必至であろうな。」
ラグナ「そんな…!
止めないと!」
メリュジーヌ「ならば、先んじて奪うより他あるまい。」
シャールヴィ「おっ⁉︎初仕事か!」
リン「ドジんないでよ?」
シャールヴィ「そっちこそ!」
ラン「はいはい、イチャイチャしない!
…聖獣絡みでないなら、ミシェルは留守番してた方がいいね。
敵がここを嗅ぎ付けないとも限んないから、あたしも残るよ。」
ミシェル「…わかりました。
皆さん、お気をつけて…!」
アジトを出て、翼竜の姿となったメリュジーヌの背に乗り飛び立つ。
ムスペルヘイム国…
南方に位置し、ヨトゥンヘイム同様、巨人の末裔が住民の多くを占める国家である。
人目を避け、都市部から離れた場所に降り立った。
魔法石採掘場まで陸路を、異形化奇病を討伐しながら進む。
一方その頃、ゼル・アッシュら帝国魔導師達が、一足先に採掘場に辿り着いていた。
警備するムスペルヘイム兵を倒し、洞窟内に潜入する。
内部は迷路の様に入り組んでおり、帝国魔導師達は複数のチームに分かれて探索する。
一足遅れてラグナ達も採掘場に辿り着いた。
シャールヴィ「何だこりゃ?」
メリュジーヌ「先客が居るようだな。」
シグルズ「…屈強な巨人の兵士が、ロクに抵抗した痕跡も無く倒されている…
こんな芸当が出来るのは…帝国魔導師か?」
採掘場最深部…
技術支援のため派遣されたアリハマ博士によって、兵士が魔導師化させられていた。
アリハマ博士「…ふむ。
このサイズの結晶では、そう何人も魔導師にはなれないねぇ…」
兵士「洞窟内には未だ発掘途中の鉱脈もありますので…」
そこへ、伝令が入った。
兵士「…何、侵入者?
帝国魔導師だと⁉︎」
アリハマ博士「⁉︎
…(妙だな、彼らが何故ここに?)…」
兵士「面白い…魔法の力、早速試してくれる。」
洞窟内に潜入したラグナ達一行…
メリュジーヌ「魔法石の気配は複数ある…
杞憂だが、手分けせねばなるまい。」
シグルズ「戦力を均等に分散すんなら、俺とメリュジーヌは単独。
お前らは3人1組ってとこだろうな。」
リン「えぇ~、コイツとぉ~⁉︎」
シャールヴィ「こっちのセリフだ!」
ラグナ「まぁまぁ…
それで行きましょう。」
かくして、3チームに分かれて探索する。
1人奥へと進んだシグルズは、帝国魔導師のゼル・アッシュと遭遇した。
シグルズ「よぅ、こんな所で会うたぁ奇遇だねぇ。」
アッシュ「ふざけ…
「言ったはずだ、次は殺すと…!」
ゼルはそう言うとすかさず剣を抜き、斬りかかったが、次の瞬間…
「侵入者発見!」
ムスペルヘイム兵に発見され、3人は奇しくも共闘してこれを退ける。
アッシュ「騒ぎになっちまった…
シグルズさん、ここはひとまず停戦して、脱出する事を提案する。」
ゼル「…アッシュ、貴様…!」
アッシュ「元々お前のせいだぜ。
それに、これは上からの任務じゃない、俺達の独断行動だしな。」
シグルズ「俺は構わねぇよ。」
共闘するも、ゼルは殺気立っている。
アッシュは空気を和ませようと雑談する。
「なぁ、シグルズさんよ。
あんた、何だって、こんな所に忍び込んでんの?
アースガルドとムスペルヘイムって、同盟国じゃなかったっけ?」
シグルズ「俺は騎士団を辞めてトレジャーハンターになったのさ…貴族ってガラでもねェしな。
ここに来た目的はあんたらと一緒なんじゃねぇかな?」
ゼル「…魔法石か…それ程の実力があって尚、力を欲するのか?」
シグルズ「まさか、逆だよ。
魔法なんぞに頼って弱くなった人間の世界なんざ、見たくないのさ。」
ゼル「…貴様…!
アッシュ「まぁまぁ…
俺らだって魔法なんざ欲しくなかったさ。
でも…だからかな?
自分達が贅沢する為に、俺らにこんな呪いを押し付けた連中に、この力で復讐する…
その為に集まったのがウィザードなのさ。」
シグルズ「…ふーん…」
3人は追手をなぎ払いながら、採掘場を脱出した。
結果として、この行動が他のチームにとって陽動効果を発揮する。
ゼル「…次はこうは行かん。」
シグルズ「期待してるぜ。」
アッシュ「俺は出来れば会いたくないよ…」
シグルズ「…ま、達者でな。」
ラグナ・リン・シャールヴィは衛兵の姿を見つけ、物陰で息を潜めていた。
そこへ、商人らしき者が訪れる。
手には鎖を持ち、その先には拘束された貧困層と思しき人々が繋がれていた。
「まいどあり。」
商人はそう言うと、繋がれた人々を兵士に引き渡した。
どうやら奴隷商人のようだ。
「こンの、人でなし!」
シャールヴィは怒りに駆られ飛び出し、商人を殴りつけて気絶させた。
リン「あッ、バカ!」
兵士「何だ、お前達は⁉︎」
ラグナ「まずい!」
すかさず兵士を倒し黙らせる。
リン「あんたねぇ…!
騒ぎにでもなったら、魔法石探しどころじゃなくなるんだよ⁉︎
そしたら、異形化奇病にされる人はもっと増えるの、わかる⁉︎」
ラグナ「…リン。
シャールヴィは妹さんを魔導師にされかけた事があるんだ。
そしてその時、魔導師の末路…人が異形化奇病になる瞬間を見た…
彼の怒りは、魔導師にされそうな人を思いやっての事なんだ。
許してあげて欲しい…」
シャールヴィ「ラグ兄…」
リンにもその気持ちはわかるのだろう。
気まずさを感じたのか、無言になった。
「…あ!
これ、使えるんじゃないか?」
ラグナは、その場の空気を払うように言うと、気絶している奴隷商人から服を奪って自ら着る。
リン「なるほど!
って…じゃあ、あたし達は奴隷約⁉︎」
ラグナ「頼むよ。
これで、怪しまれずに探索できる。」
シャールヴィ「怪我の功名だな!」
リン「あんたが言うな!」
奴隷商人と奴隷に扮して探索していると、交戦中の帝国兵とムスペルヘイム兵に出くわした。
ムスペルヘイム側は複数の兵と、リーダーらしき女魔導師が1人。
対する帝国側は女魔導師が2人。
帝国魔導師「魔法なんか使んなくても楽勝だね、アイシス♪」
アイシス「…油断は禁物よ…リリィ…」
ムスペルヘイムの女魔導師は魔法を乱発するが、軽くあしらわれ、息が上がっている。
ムスペルヘイム兵「だ…大丈夫ですか?メデューサ様!」
メデューサ「黙れ…私は無傷だ…!」
ムスペルヘイム兵「し…しかし、顔色が…」
アイシス「…あの魔導師、もしかして…前兆…?
私達と同じ呪われた宿命を、これ以上誰にも背負わせない…その為にここに来たのに…」
リリィ「あのコは多分、もう手遅れだよ。
それならいっそ、目の前で見せてあげた方がわかりやすいんじゃない?
魔法を使うって事の怖さが…」
アイシス「…仕方ない…」
その様子を見ていたラグナは直感した。
ムスペルヘイムの女魔導師は異形化奇病になると…
ラグナ「…リン、ごめん。
シャールヴィを頼む。」
リン「!」
ラグナは両軍の間に割って入り、叫んだ。
「もう、止めるんだ!」
リリィ「?
アンタどっかで…
奴隷商人の知り合いなんか居る訳ないんだけど…?」
アイシス「…知ってる…
ヒノモトで捕まえた、ヴァルホル家の…ラグナ…」
リリィ「あぁ!
…って、なんでヴァルホル家のボンボンが、そんなカッコでこんなトコに居るワケ?」
メデューサ「ヴァルホル家…?
同盟国である筈のアースガルドの者が、何故邪魔をする?」
ラグナはメデューサに向かって訴える。
「貴女はもう魔法を使っては駄目だ!
異形化奇病になってしまう!」
メデューサ「…異形化奇病になるだと?
何を馬鹿な事を…」
ラグナ「本当なんだ!
僕は魔導師が異形化奇病になる瞬間をこの目で見た!
それを父に訴えても聞き入れられなかったから、袂を別って来たんだ!」
アイシス「…敵の注意が逸れた…
…私達の目的はあくまで、戦闘じゃなくて魔法石の奪取…」
リリィ「グッジョブ、ヴァルホル家のお坊ちゃん♪」
メデューサ「…‼︎
逃がさん!」
ラグナ「やめろッ‼︎」
魔法を発動すべく念じるメデューサの身体が光を放つ。
いや、光が弾けたとでも表現すべきか…
光の中、メデューサは2人の幼女の姿を見出し、語りかけた。
「良い子で待ってるのよ、ステノー・エウリュアレ…
お姉ちゃんが、美味しい御飯を食べさせてあげるからね…
綺麗なお洋服も買ってあげる…
でも、ちゃんと勉強もしなきゃダメよ?
ふかふかのお布団も…」
次の瞬間、暗転し、男の声が響く。
「この石に触れて念じる…たったそれだけで二階級特進だ。
妹達に楽な暮らしをさせてやりたいんだろう?」
ラグナ「…何だ?今のは…」
魔法は不発に終わり、代わりにその場に居る者達に幻影を見せた。
メデューサは気を失っている。
アイシス「…彼女が軍人に…魔導師になった理由…?」
リリィ「…可哀想だけど、タイムリミットよ。」
2人はそう言うと、それぞれの武器をメデューサに向けて構えた。
ラグナ「‼︎……待って!」
リリィ「どいて、そのコはもう手遅れよ。」
アイシス「…ラグナ=ヴァルホル、どかなければ、もうあの時のように貴方を見逃す理由は無い…」
隠れていたシャールヴィが痺れを切らす。
「もう限界だ、オイラは行くぜ!」
リン「しょーがない、癪だけど、あんたに同意!」
ラグナの危機に2人が飛び出そうとした瞬間、ラグナは背後から魔法攻撃を浴びた。メデューサだ。
正気を失い、敵味方の見境なく魔法を放っている。
それを浴びた者達の身体は、徐々に石に変わっていった。
ラグナ「…な、何だ、こ…れ…⁉︎」
シャールヴィ「ラグ兄‼︎」
リリィ「あーあ…言わんこっちゃない。」
アイシス「…異形化奇病は、駆除…」
リン・シャールヴィと帝国魔導師の2人は図らずも、共闘して異形化奇病化したメデューサを倒す事となる。
戦いが終わった時、ラグナは完全に石化していた。
シャールヴィ「…ラグ兄、ラグ兄‼︎」
リン「…そんな…」
一方その頃…
難無く単身魔法石に辿り着いたメリュジーヌ。
「忌まわしきアグエル文明により封印されし我が眷族よ…
その戒めを今、解き放たん。」
魔法石は砕け散って光の粒子となり、半人半竜の女の姿を形作った。
メリュジーヌ「エキドナ…我と同様、人に擬態せし竜か…」
「美しい…」
突如、背後から声がした。
ムスペルヘイム兵だ。
「眷属よ…
我が魔力に毒されし彼らを滅せよ。
もって我が力を授ける盟約と成さん。」
エキドナはそう言うと、光の粒子となってメリュジーヌに吸収される。
ムスペルヘイム兵「今のは一体何だ⁉︎
魔法石を何処へやった⁉︎」
メリュジーヌ「…我が眷族の魔力に呪われし者達よ…
輪廻に帰するがいい。」
ムスペルヘイム兵「訳のわからん事を…
ガキのオモチャじゃないんだぞ⁉︎」
メリュジーヌ「誠その通り、汝が如き幼き者達の手には余る代物よ。」
メリュジーヌの圧倒的な力を前に、ムスペルヘイム兵・テュフォンとアルゴスは魔法を乱発し、異形化奇病化する。
しかし、それでもメリュジーヌの敵ではなかった。
そこへ、伝話鳥を通じて連絡が入る。
メリュジーヌ「…リンか、どうした?」
リン「賢者様、大変なの!
ラグナっちが…異形化奇病に、石にされちゃった!」
メリュジーヌ「…何だと?
ともかく、すぐ合流しよう。」
続く…
世界のニュースをお伝えする伝話鳥情報局です。
さて、先日のアースガルド紛争における魔導師達の活躍を受けまして、世界各国では、魔法の力の軍事利用が注目されています。」
「馬鹿野郎どもが!
まだバケモノを増やしてぇのか⁉︎」
放送を伝える伝話鳥にアッシュが怒鳴る。
「呪われし宿命…
背負うのは私達だけでいい。」
ゼルは静かに呟いて立ち上がった。
アースガルド官邸・議長室…
アリハマ博士「君の思惑通りに事は運んでいる様だね。」
オーディン「…まるで私1人の一存であるかの様な物言いだな。」
アリハマ博士「ククク…
私は研究と実験さえ出来れば良いからね。」
オーディン「利害は一致するだろう?」
アリハマ博士「まぁね。
では行ってくるよ、ムスペルヘイム国に。」
ウロボロス団アジト…
ラン「みんな聞いて!
ムスペルヘイムで鉱夫を急募してるらしくて、ちょっと調べたんだけどね…
どうやら、魔法石の鉱脈が見つかったみたいよ。」
メリュジーヌ「ふむ…今の風潮では、国家の手に渡れば、魔導師の量産は必至であろうな。」
ラグナ「そんな…!
止めないと!」
メリュジーヌ「ならば、先んじて奪うより他あるまい。」
シャールヴィ「おっ⁉︎初仕事か!」
リン「ドジんないでよ?」
シャールヴィ「そっちこそ!」
ラン「はいはい、イチャイチャしない!
…聖獣絡みでないなら、ミシェルは留守番してた方がいいね。
敵がここを嗅ぎ付けないとも限んないから、あたしも残るよ。」
ミシェル「…わかりました。
皆さん、お気をつけて…!」
アジトを出て、翼竜の姿となったメリュジーヌの背に乗り飛び立つ。
ムスペルヘイム国…
南方に位置し、ヨトゥンヘイム同様、巨人の末裔が住民の多くを占める国家である。
人目を避け、都市部から離れた場所に降り立った。
魔法石採掘場まで陸路を、異形化奇病を討伐しながら進む。
一方その頃、ゼル・アッシュら帝国魔導師達が、一足先に採掘場に辿り着いていた。
警備するムスペルヘイム兵を倒し、洞窟内に潜入する。
内部は迷路の様に入り組んでおり、帝国魔導師達は複数のチームに分かれて探索する。
一足遅れてラグナ達も採掘場に辿り着いた。
シャールヴィ「何だこりゃ?」
メリュジーヌ「先客が居るようだな。」
シグルズ「…屈強な巨人の兵士が、ロクに抵抗した痕跡も無く倒されている…
こんな芸当が出来るのは…帝国魔導師か?」
採掘場最深部…
技術支援のため派遣されたアリハマ博士によって、兵士が魔導師化させられていた。
アリハマ博士「…ふむ。
このサイズの結晶では、そう何人も魔導師にはなれないねぇ…」
兵士「洞窟内には未だ発掘途中の鉱脈もありますので…」
そこへ、伝令が入った。
兵士「…何、侵入者?
帝国魔導師だと⁉︎」
アリハマ博士「⁉︎
…(妙だな、彼らが何故ここに?)…」
兵士「面白い…魔法の力、早速試してくれる。」
洞窟内に潜入したラグナ達一行…
メリュジーヌ「魔法石の気配は複数ある…
杞憂だが、手分けせねばなるまい。」
シグルズ「戦力を均等に分散すんなら、俺とメリュジーヌは単独。
お前らは3人1組ってとこだろうな。」
リン「えぇ~、コイツとぉ~⁉︎」
シャールヴィ「こっちのセリフだ!」
ラグナ「まぁまぁ…
それで行きましょう。」
かくして、3チームに分かれて探索する。
1人奥へと進んだシグルズは、帝国魔導師のゼル・アッシュと遭遇した。
シグルズ「よぅ、こんな所で会うたぁ奇遇だねぇ。」
アッシュ「ふざけ…
「言ったはずだ、次は殺すと…!」
ゼルはそう言うとすかさず剣を抜き、斬りかかったが、次の瞬間…
「侵入者発見!」
ムスペルヘイム兵に発見され、3人は奇しくも共闘してこれを退ける。
アッシュ「騒ぎになっちまった…
シグルズさん、ここはひとまず停戦して、脱出する事を提案する。」
ゼル「…アッシュ、貴様…!」
アッシュ「元々お前のせいだぜ。
それに、これは上からの任務じゃない、俺達の独断行動だしな。」
シグルズ「俺は構わねぇよ。」
共闘するも、ゼルは殺気立っている。
アッシュは空気を和ませようと雑談する。
「なぁ、シグルズさんよ。
あんた、何だって、こんな所に忍び込んでんの?
アースガルドとムスペルヘイムって、同盟国じゃなかったっけ?」
シグルズ「俺は騎士団を辞めてトレジャーハンターになったのさ…貴族ってガラでもねェしな。
ここに来た目的はあんたらと一緒なんじゃねぇかな?」
ゼル「…魔法石か…それ程の実力があって尚、力を欲するのか?」
シグルズ「まさか、逆だよ。
魔法なんぞに頼って弱くなった人間の世界なんざ、見たくないのさ。」
ゼル「…貴様…!
アッシュ「まぁまぁ…
俺らだって魔法なんざ欲しくなかったさ。
でも…だからかな?
自分達が贅沢する為に、俺らにこんな呪いを押し付けた連中に、この力で復讐する…
その為に集まったのがウィザードなのさ。」
シグルズ「…ふーん…」
3人は追手をなぎ払いながら、採掘場を脱出した。
結果として、この行動が他のチームにとって陽動効果を発揮する。
ゼル「…次はこうは行かん。」
シグルズ「期待してるぜ。」
アッシュ「俺は出来れば会いたくないよ…」
シグルズ「…ま、達者でな。」
ラグナ・リン・シャールヴィは衛兵の姿を見つけ、物陰で息を潜めていた。
そこへ、商人らしき者が訪れる。
手には鎖を持ち、その先には拘束された貧困層と思しき人々が繋がれていた。
「まいどあり。」
商人はそう言うと、繋がれた人々を兵士に引き渡した。
どうやら奴隷商人のようだ。
「こンの、人でなし!」
シャールヴィは怒りに駆られ飛び出し、商人を殴りつけて気絶させた。
リン「あッ、バカ!」
兵士「何だ、お前達は⁉︎」
ラグナ「まずい!」
すかさず兵士を倒し黙らせる。
リン「あんたねぇ…!
騒ぎにでもなったら、魔法石探しどころじゃなくなるんだよ⁉︎
そしたら、異形化奇病にされる人はもっと増えるの、わかる⁉︎」
ラグナ「…リン。
シャールヴィは妹さんを魔導師にされかけた事があるんだ。
そしてその時、魔導師の末路…人が異形化奇病になる瞬間を見た…
彼の怒りは、魔導師にされそうな人を思いやっての事なんだ。
許してあげて欲しい…」
シャールヴィ「ラグ兄…」
リンにもその気持ちはわかるのだろう。
気まずさを感じたのか、無言になった。
「…あ!
これ、使えるんじゃないか?」
ラグナは、その場の空気を払うように言うと、気絶している奴隷商人から服を奪って自ら着る。
リン「なるほど!
って…じゃあ、あたし達は奴隷約⁉︎」
ラグナ「頼むよ。
これで、怪しまれずに探索できる。」
シャールヴィ「怪我の功名だな!」
リン「あんたが言うな!」
奴隷商人と奴隷に扮して探索していると、交戦中の帝国兵とムスペルヘイム兵に出くわした。
ムスペルヘイム側は複数の兵と、リーダーらしき女魔導師が1人。
対する帝国側は女魔導師が2人。
帝国魔導師「魔法なんか使んなくても楽勝だね、アイシス♪」
アイシス「…油断は禁物よ…リリィ…」
ムスペルヘイムの女魔導師は魔法を乱発するが、軽くあしらわれ、息が上がっている。
ムスペルヘイム兵「だ…大丈夫ですか?メデューサ様!」
メデューサ「黙れ…私は無傷だ…!」
ムスペルヘイム兵「し…しかし、顔色が…」
アイシス「…あの魔導師、もしかして…前兆…?
私達と同じ呪われた宿命を、これ以上誰にも背負わせない…その為にここに来たのに…」
リリィ「あのコは多分、もう手遅れだよ。
それならいっそ、目の前で見せてあげた方がわかりやすいんじゃない?
魔法を使うって事の怖さが…」
アイシス「…仕方ない…」
その様子を見ていたラグナは直感した。
ムスペルヘイムの女魔導師は異形化奇病になると…
ラグナ「…リン、ごめん。
シャールヴィを頼む。」
リン「!」
ラグナは両軍の間に割って入り、叫んだ。
「もう、止めるんだ!」
リリィ「?
アンタどっかで…
奴隷商人の知り合いなんか居る訳ないんだけど…?」
アイシス「…知ってる…
ヒノモトで捕まえた、ヴァルホル家の…ラグナ…」
リリィ「あぁ!
…って、なんでヴァルホル家のボンボンが、そんなカッコでこんなトコに居るワケ?」
メデューサ「ヴァルホル家…?
同盟国である筈のアースガルドの者が、何故邪魔をする?」
ラグナはメデューサに向かって訴える。
「貴女はもう魔法を使っては駄目だ!
異形化奇病になってしまう!」
メデューサ「…異形化奇病になるだと?
何を馬鹿な事を…」
ラグナ「本当なんだ!
僕は魔導師が異形化奇病になる瞬間をこの目で見た!
それを父に訴えても聞き入れられなかったから、袂を別って来たんだ!」
アイシス「…敵の注意が逸れた…
…私達の目的はあくまで、戦闘じゃなくて魔法石の奪取…」
リリィ「グッジョブ、ヴァルホル家のお坊ちゃん♪」
メデューサ「…‼︎
逃がさん!」
ラグナ「やめろッ‼︎」
魔法を発動すべく念じるメデューサの身体が光を放つ。
いや、光が弾けたとでも表現すべきか…
光の中、メデューサは2人の幼女の姿を見出し、語りかけた。
「良い子で待ってるのよ、ステノー・エウリュアレ…
お姉ちゃんが、美味しい御飯を食べさせてあげるからね…
綺麗なお洋服も買ってあげる…
でも、ちゃんと勉強もしなきゃダメよ?
ふかふかのお布団も…」
次の瞬間、暗転し、男の声が響く。
「この石に触れて念じる…たったそれだけで二階級特進だ。
妹達に楽な暮らしをさせてやりたいんだろう?」
ラグナ「…何だ?今のは…」
魔法は不発に終わり、代わりにその場に居る者達に幻影を見せた。
メデューサは気を失っている。
アイシス「…彼女が軍人に…魔導師になった理由…?」
リリィ「…可哀想だけど、タイムリミットよ。」
2人はそう言うと、それぞれの武器をメデューサに向けて構えた。
ラグナ「‼︎……待って!」
リリィ「どいて、そのコはもう手遅れよ。」
アイシス「…ラグナ=ヴァルホル、どかなければ、もうあの時のように貴方を見逃す理由は無い…」
隠れていたシャールヴィが痺れを切らす。
「もう限界だ、オイラは行くぜ!」
リン「しょーがない、癪だけど、あんたに同意!」
ラグナの危機に2人が飛び出そうとした瞬間、ラグナは背後から魔法攻撃を浴びた。メデューサだ。
正気を失い、敵味方の見境なく魔法を放っている。
それを浴びた者達の身体は、徐々に石に変わっていった。
ラグナ「…な、何だ、こ…れ…⁉︎」
シャールヴィ「ラグ兄‼︎」
リリィ「あーあ…言わんこっちゃない。」
アイシス「…異形化奇病は、駆除…」
リン・シャールヴィと帝国魔導師の2人は図らずも、共闘して異形化奇病化したメデューサを倒す事となる。
戦いが終わった時、ラグナは完全に石化していた。
シャールヴィ「…ラグ兄、ラグ兄‼︎」
リン「…そんな…」
一方その頃…
難無く単身魔法石に辿り着いたメリュジーヌ。
「忌まわしきアグエル文明により封印されし我が眷族よ…
その戒めを今、解き放たん。」
魔法石は砕け散って光の粒子となり、半人半竜の女の姿を形作った。
メリュジーヌ「エキドナ…我と同様、人に擬態せし竜か…」
「美しい…」
突如、背後から声がした。
ムスペルヘイム兵だ。
「眷属よ…
我が魔力に毒されし彼らを滅せよ。
もって我が力を授ける盟約と成さん。」
エキドナはそう言うと、光の粒子となってメリュジーヌに吸収される。
ムスペルヘイム兵「今のは一体何だ⁉︎
魔法石を何処へやった⁉︎」
メリュジーヌ「…我が眷族の魔力に呪われし者達よ…
輪廻に帰するがいい。」
ムスペルヘイム兵「訳のわからん事を…
ガキのオモチャじゃないんだぞ⁉︎」
メリュジーヌ「誠その通り、汝が如き幼き者達の手には余る代物よ。」
メリュジーヌの圧倒的な力を前に、ムスペルヘイム兵・テュフォンとアルゴスは魔法を乱発し、異形化奇病化する。
しかし、それでもメリュジーヌの敵ではなかった。
そこへ、伝話鳥を通じて連絡が入る。
メリュジーヌ「…リンか、どうした?」
リン「賢者様、大変なの!
ラグナっちが…異形化奇病に、石にされちゃった!」
メリュジーヌ「…何だと?
ともかく、すぐ合流しよう。」
続く…
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