魔導姫戦記

森乃守人

文字の大きさ
37 / 67
本編 第二部

ep.28 シェイミーの素性

しおりを挟む
アースガルド兵「議長、いかがなさいますか?」
オーディン「…市井しせいの目があるうちは従う他あるまい。
隠密部隊に追跡させ、街の外に出た所で捕らえろ。
人質は見殺しにして構わん。」










アリハマ博士の助手・シェイミーを人質にとり、自宅での軟禁状態を脱したラグナ。
街を出て少しした所で、手を緩めて言う。
「…あ、あの…すみません…
ミシェルさんの居場所さえ教えてくれれば、危害は加えませんから…」
「貴方はそのつもりでも、あの人達はどうかしらね?」
そう言うシェイミーの視線の先を見ると、南方大陸でも遭遇した国籍不明兵アサシン達が、2人を取り囲んでいた。

ラグナ「あの人達は…!
やっぱり父さんの差し金だったのか…!
…よ、寄るな‼︎
アリハマ博士の助手がどうなってもいいのか⁉︎」
国籍不明兵アサシン「…構わん、捕らえろ。」
「…⁉︎」
意にも介さず近付いて来る兵に、ラグナは身構える。

「…やっぱりそう来るのね。
まぁ、お互い様だけど。」
シェイミーはそう言うと弓に矢を番え、放った。
それは1人の兵士の眉間を正確に射抜く。
シェイミー「まず1人…
そして…2人目ッ!」

続けて放たれた矢は、辛うじて身を逸らした兵の頬を掠めた。
「貴様…ただの学者ではないな?
だが、残念だったな。」
シェイミー「そう…残念ね。
長らく女1人で放浪してたから、護身術は二重三重に用意してるの。」
「何…?
貴様…一体なにを…⁉︎」
次の瞬間、兵士は脱力感に襲われ膝をつき、その機を逃さず再びシェイミーの矢が眉間を捉える。
 
「毒か?小賢しい…!」
残った兵達は四方から同時に飛び掛かって来た。
正確無比なシェイミーの矢とて、それら全てを同時に捉えきる事は出来ず、撃ち漏らした兵を、ラグナが槍で薙ぎ払うが…
「くっ…手数が足りない…!」
「もらった!」
間合いを詰め、右手の小太刀を振り上げた兵士は次の瞬間、首の無い自分の胴体が視界から遠ざかるのを見る。
そしてその傍らで、黒髪の女が日本刀を鞘に収める姿が、彼の瞳が映した最期の映像となった。

ラグナ「ランさん、リン!」
兵士「くっ…テロリスト共か…!」
リン「野盗を使って人攫いさせてるアンタ達なんかに、テロリスト呼ばわりされたくないよッ!」

駆けつけた仲間と共に、残った兵達を掃討する。



ラン「さて、と…
連れが迷惑かけたわね…と言いたいトコだけど、アンタ、どういうつもり?」
シェイミー「…何の事かしら?」
ラン「今の戦闘で、アンタが只の学者じゃないのはわかった。
でも、じゃあさ、なんでワザと人質になんかなってんの?」
ラグナ「⁉︎」
ラン「実はヴァルホル邸から、野次馬に紛れてずっと見てたんだけどさ、そん時から違和感あったのよね。」
シェイミー「……
流石、あの2人のお仲間ね。」
ラグナ「あの2人…?」
シェイミー「そう…私、少し前まで、貴方達のお仲間と一緒に魔法石フォシルを探す旅をしてたのよ。」
ラグナ「それってもしかして…シグルズさんと、メリュジーヌさん?」
シェイミー「えぇ、そしてそのとき知ったの。
帝国内に内通者が居る事…
そしてラグナ君…キミと、ミシェルさん?アグエルの力を持った子が、その帝国に行ったかもしれないってね。
それで、かつて師事したアリハマ博士の元に取り入った。」
リン「じゃあ、ワザとラグナっちに捕まったのって…」
ラグナ「こうなる事を見越して、僕をミシェルさんの所に導く為…?」
「……」
用心深いランは、怪訝けげんそうな表情を崩さない。

シェイミー「聞いただけじゃ信用できないか…
2人に会わせてくれれば、すぐわかるわ。
今どこに?」
ラン「それが…」

その時、伝話鳥アルキュオネが鳴き出す。

リン「あ、シャールヴィからだ♪」

伝話鳥アルキュオネは、シャールヴィの声を伝えた。
「大変だ!
ユグドラシルが…瓦礫の山になってる!」
リン「どゆこと⁉︎
賢者様たちは⁉︎」
シャールヴィ「どこにも見当たらない…
何があったか知んないけど、まさかこの下なんて事は…」
ラン「連絡つかないと思ったら…」
シェイミー「そんな⁉︎まさか…
(ラグナを見て)
お急ぎのところ悪いけど、ユグドラシルに寄らせてもらっても良いかしら?」
ラグナ「もちろんです!」
シャールヴィ「ん?誰の声?」
リン「いいからアンタはそこで待ってて。
すぐ行くから。」



かくして一行はユグドラシルへ向かう。
その道中…

ラン「…ところで、アンタさっき『かつてアリハマ博士に師事してた』って言ったわね?」
シェイミー「…そうよ。
戦後、私をはじめ数名の学者が彼の元で魔法の研究に携わり、魔導師を造り出した…」
ラン「アンタ達が魔導師を…⁉︎」
シェイミー「あの頃は誰も、魔法のリスクなんて知らなかったのよ。
だから…私達自身も被験者となった…」
ラグナ「‼︎
じゃあ、貴方も魔導師に…?」
シェイミー「えぇ…
…やがて、魔導師達の中から異形化奇病メタモルフを発症する者が現れ、私達はアリハマ博士に魔法の危険性を訴えた。
でも彼は、魔法の利権を欲する貴族達と癒着し、実験を止めようとはしなかった…
だから私達は彼の元から逃げだしたの。
…囚われていた、当時まだ幼かったルーシェ姫を連れ出してね。」
ラグナ「ルーシェ姫と一緒に…⁉︎
という事はもしかして…」
シェイミー「そう…その時の学者や被験者達が最初の帝国魔導師ウィザードとなった…」
ラン「じゃあ、アンタも初代帝国魔導師ウィザードってワケか…
それがなんで賢者様たちと…?」
シェイミー「…帝国魔導師ウィザードなら、少し前に辞めたわ。」
リン「どして?」
シェイミー「それすら、アリハマ博士の掌の上で踊らされてるに過ぎないって気付いたからよ。」
ラグナ「あの帝国がアリハマ博士に…⁉︎
どういう事です?」
シェイミー「軍備増強を名目に魔法の研究を続ける口実と、貴族との格差に対する民の不満を逸らせる矛先として、帝国は利用されたのよ。」
ラグナ「そんな…!」
ラン「…なるほどね。」



やがて一行は、シャールヴィの待つユグドラシルに辿り着く。
シャールヴィが言った通り、塔は崩れ去り、瓦礫の山と化していた。





続く…



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

四人の令嬢と公爵と

オゾン層
恋愛
「貴様らのような田舎娘は性根が腐っている」  ガルシア辺境伯の令嬢である4人の姉妹は、アミーレア国の王太子の婚約候補者として今の今まで王太子に尽くしていた。国王からも認められた有力な婚約候補者であったにも関わらず、無知なロズワート王太子にある日婚約解消を一方的に告げられ、挙げ句の果てに同じく婚約候補者であったクラシウス男爵の令嬢であるアレッサ嬢の企みによって冤罪をかけられ、隣国を治める『化物公爵』の婚約者として輿入という名目の国外追放を受けてしまう。  人間以外の種族で溢れた隣国ベルフェナールにいるとされる化物公爵ことラヴェルト公爵の兄弟はその恐ろしい容姿から他国からも黒い噂が絶えず、ガルシア姉妹は怯えながらも覚悟を決めてベルフェナール国へと足を踏み入れるが…… 「おはよう。よく眠れたかな」 「お前すごく可愛いな!!」 「花がよく似合うね」 「どうか今日も共に過ごしてほしい」  彼らは見た目に反し、誠実で純愛な兄弟だった。  一方追放を告げられたアミーレア王国では、ガルシア辺境伯令嬢との婚約解消を聞きつけた国王がロズワート王太子に対して右ストレートをかましていた。 ※初ジャンルの小説なので不自然な点が多いかもしれませんがご了承ください

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

処理中です...