魔導姫戦記

森乃守人

文字の大きさ
上 下
39 / 67
本編 第二部

ep.30 友

しおりを挟む
幼い少女を突き飛ばし、少年が怒鳴る。
「親が学者かなんか知らないけど、貴族の血を引く僕に向かって生意気なんだよ!」
少女「だって、お父さん言ってたもん!
これからは貴族も平民もない、平等な時代になるって!」
「まだ言うか、この!」
幼女に向かって拳を振り上げた貴族の少年は、突如現れたボロボロな出で立ちの少年にその腕を掴まれ、勢いそのまま投げ飛ばされる。
「何だお前は⁉︎
貴族の血を引く僕に対して無礼だぞ!」
ボロボロの少年「親が貴族ったって、戦争でおっんじまったんだろ?
親の力の無ぇお前は、同じく親のいねぇ俺に勝てるかい?」

そこへ、少女の兄が駆けつけた。
「イリア、大丈夫か⁉︎」
イリア「ゼル兄!」
「ちっ…多勢に無勢とは、卑怯者め!」
貴族の少年はそう言って逃げ去った。

ボロボロの少年「俺しか手ェ出してねぇっつーの。
自分より小さい女の子相手に、どっちが卑怯だよ?
(イリアに向かって)
怪我はないか?」
イリア「う…うん。」
ゼル「あの…妹を助けてくれて、ありがとうございます。」
ボロボロの少年「タメ口でいいって、たぶん同い年くらいだろ?
俺はアッシュ=モーゼス。
お前らの父ちゃんに、マドウシってヤツにしてもらうんだ、ヨロシクな!」










幼き日の追憶からゼルを現実に引き戻した呻き声…それを発した主は、姿形こそアッシュそのものだが、もはや廃人の様だった。

ルーシェ「これは…異形化奇病メタモルフ化の前兆…!」
イリア「なんてこった…
どうしよう?兄貴…」
「…すまない、アッシュ…
…私がお前を信じていれば、こんな事にはならなかった…」
ゼルはそう言うと、静かに剣を抜く。

リリィ「やるしか…ないのね…」
ゼル「アッシュ…一足先に涅槃ねはんへ旅立て。
私もいずれ追いつく。」



アッシュが魔導師として強大である事は、ツーマンセルを組んでいたゼル自身が1番よくわかっていたが、それ以上に迷いがゼルの太刀筋を鈍らせた。
やがて異形化奇病メタモルフ化し、その両肩から牛と山羊の首が生え、下半身は竜の様な姿になる。
ゼルは負い目からか、自暴自棄に魔法を乱発する。

リリィ「あンの馬鹿…!」
ルーシェ「ゼル、おやめなさい!
このままでは貴方まで…!」
イリア「やめろ兄貴‼︎
親父も言ってたろ⁉︎自分の様になるなって!
それに、親父の罪を贖う為にも、アタイらが生き延びて世界を変えるんだろ⁉︎」

再びゼルの脳裏を、幼き日の記憶がよぎる…










「すまない、アッシュ…
父さん達の研究は、お前や…皆を…」
そう言って頭を下げるゼル少年の後ろで、まだ幼かったイリアはひたすら泣いていた。
それを見たアッシュは、自分も泣きたいのを必死に堪え、目を擦って言う。
「…でも、知らなかったから、お前らだって同じ様に魔導師になったんだろ?」
ゼル「……」
アッシュ「それでも責任感じるってんなら、やる事は一つ…!
親父さんの分も生きて、アリハマ博士とクソ汚ねぇ貴族供を止める事だぜ!」










ゼル「……
そうか…
そうだったな…!
アッシュ、すまないが、恨み言を聴いてやれるのはもう少し先だ。
私は生きて、やらねばならん事がある。
お前の分もな…!」

迷いを払拭し、精彩を取り戻したゼルの剣は異形化奇病メタモルフを葬り去る。

ゼル「…アッシュ…別れの言葉は言わん…
だが、少し待たせるぞ…」
イリア「…とうとうアッシュまで…
親父…なんだってこんな事を…⁉︎」










外に出たルーシェ達は、シェイミーの案内で旧グレゴリウス城に辿り着いたラグナ達と出くわす。

ルーシェ「⁉︎
貴方は…
そうですか…この者達と行動を共に…」
シェイミー「…お久しぶりです、殿下。」
ルーシェ「貴方がたもミシェルを助けに来たのですね?」
リリィ「でも、ざ~んねん!
またパズズに連れてかれちゃったわよ?」
わたくし達は後を追いますが…一緒に来ますか?」
ルーシェの問いに、即答したいラグナだったが、ランの判断を伺う。
だが、先に返答を渋ったのはシェイミーだった。
「いえ…私達は…」
ラン「…アテはあるのかい?」
ルーシェ「ケットシーならば、ミシェルの気配を探せますわ。」
「それに、こっちの方が移動も速いぜ。」
イリアがそう言って合図すると、翼ある獣が飛来する。
シェイミー「国家に属して戦争に加担はしないのでしょう?」
ラン「…そうだけど…ミシェルを助ける為に手段は選ばないさ。」
ルーシェ「では、決まりですわね。」

かくして一行は、帝国魔導師ウィザード達の乗騎に同乗し、ケットシーの導きに従いミシェルを追う。



その道中…

ラグナ「…どこに向かってるんでしょう?」
リリィ「シェミ先生、心当たりはあるんでしょ?
でなきゃ、姫様との同行を断ろうとする筈ないもんね?」
シェイミー「……
裁きの鉄槌を携えし天翔ける船・ヴィマーナ…」
ラン「それもアグエル文明の遺物?
裁きの鉄槌とは、また物騒な響きだねぇ。」
ルーシェ「どの様な物かは存じませんが、新興国に渡す訳には参りませんわね。」



やがて地平線の彼方に見えてきたのは、その頂を雪に覆われたミッドガルド山脈。
ケットシーはその更に向こうを指し示しているようだ。



ゼル「…シェイミー女史、私も貴女に聞きたい事がある。
敵側に、父・リモンが居た。
どういう事かわかるか?」
シェイミー「……
リモン博士は、貴方達を逃がす為に追手と刺し違えたと思ったけど…」
ゼル「…間違いないか?」
シェイミー「この目で見た訳じゃないから、わからないわ…」
イリア「だろ?
生きてるよ、アレはぜったい親父だって。」
ゼル(…だとしたら…何故あんな事を…?)





続く…
しおりを挟む

処理中です...