魔導姫戦記

外典 ドラゴンハンター 第三部

ep.14 追跡者

ウルク村の魔法供給施設・エンリル内にて発生した異形化奇病メタモルフの討伐と、生存者の救助を行うシグルズ達の後を追ったエンキドゥは、魔法を使うべく解放されたメリュジーヌの『竜の姿』を目撃する。
「なんだ？アレは…！
アレも異形化奇病メタモルフではないのか…⁉︎
しかし、発症したら自我を失い、2度と人には戻れないと聞いたが…
あの子供は一体…」










ひとしきり討伐と救助を終えたシグルズ達は、依頼者である商人の元へ戻る。

商人「ウルク村の族長から話は聞きました。
異形化奇病メタモルフ化の原因が魔法の使用にあったとは…
魔法の力は便利でしたが、知ってしまった以上、この件からは手を引くより他ありますまい…
…ところで、エンキドゥ君が戻らないのですが、ご存知ありませんか？」
シェイミー「…？
族長さんと一緒に戻られたのではないのですか？」
商人「族長の話では、やるべき事があると言って別れたと…」
シグルズ「…単独行動して野盗か異形化奇病メタモルフに殺やられちまったか…？
そうヤワにも見えなかったが…」










消息を絶ったと思われたエンキドゥは、南方大陸の治安維持を司るドゥエルグヘイム軍駐屯地に来ていた。



ドゥエルグヘイム官邸…

騎士「ベーオウルフ議長。」
ベーオウルフ「どうした？ゲオルギウス。」
ゲオルギウス「ジェラルド商会の従業員と名乗る者からの通報です。
ウルク村に建造した魔法供給施設・エンリルにて異形化奇病メタモルフが発生。
その中に、にわかには信じ難い話ですが、人に飼い慣らされ、人の姿に戻る者が居たとの事です。
塔にあった筈の魔法石フォシルも消失しております。」
ベーオウルフ「ほぅ…
噂では、革命戦の英雄・シグルズが参加しているテロリストが、異形化奇病メタモルフを飼い慣らしていると聞いたな…
ゲオルギウス、すぐに異形化奇病メタモルフ討伐隊を編成してくれ。
お前は副官だ。」
ゲオルギウス「私が副官…と言う事はまさか、議長自ら出撃なさるおつもりで…⁉︎」
ベーオウルフ「あぁ…くだらん野盗狩りばかりで辟易していたが、終戦以来、久々に血がたぎるわ…！」










エンキドゥが駐屯地から商人の元に帰り着く頃、屋敷には黒衣の女が訪れていた。

商人「…そういう訳ですので、申し訳ありませんが、今後あなた方の依頼からは一切手を引かせて頂きます。」
女「そうですか…まぁ、仕方ありませんね…
…それでは、失礼いたします。」

屋敷を後にしようとする女と、玄関先で鉢合わせたエンキドゥ。
「貴女が…エンリル建造の依頼者ですか？」
女「そうですが…それが何か？」
エンキドゥ「社長は何と？」
女「今後、私わたくしどもの依頼からは一切手を引くそうです。」
エンキドゥ「異形化奇病メタモルフ化の原因が、魔法の使用にあるから…と？」
女「真偽はさておき、そのように仰っておりました。」
エンキドゥ「…ひとつ聞きたいのですが…
私は先日、異形化奇病メタモルフから人の姿に戻り、自我も失わない者をこの目で見ました。
それについて何かご存知ありませんか？」
女「…面白い事を仰いますのね。
仮にその様な者が実在するとしたら、何と？」
「私はまだ、魔法がもたらす発展の可能性を捨てたくないのです。」
エンキドゥがそう言うと女は不敵な笑みを浮かべ、淡く光る鉱石を取り出した。

エンキドゥ「それは…魔法石フォシル⁉︎」
女「これは、私わたくしどもの主が人工的に造り出した魔法石フォシル。
主はこれを『アトモス』と名付けました。」
「魔法石フォシルを…人工的に…⁉︎」
女は、驚愕するエンキドゥの言葉にうなずくと、石を握り念じた。
するとその顔は獅子、両腕は鷲の脚の様になり、下半身は馬と化す。

エンキドゥ「メ…異形化奇病メタモルフ…⁉︎」
「申し遅れましたが私わたくしの名はラマシュトゥ。
ご覧の通り、この様な姿になっても自我を保っております。
この状態を私わたくしどもは意図的異形ネクロマンサーと呼称しております。」
ラマシュトゥはそう言うと、もう一つ人工魔石アトモスを取り出した。
「これは貴方に差し上げましょう。
これを持って、ウルク村をはじめ、アルーヴヘイム各地でこの力を流布してくださいな。
賛同者が居れば、その分だけ人工魔石アトモスを差し上げますよ。
…それでは、またお会い出来る事を期待しております。」
ラマシュトゥはエンキドゥに人工魔石アトモスを渡すと、馬の脚力で颯爽と立ち去る。

「これで私も…魔法の力を…？」
暫し呆然と見送ったエンキドゥだったが、気を取り直すと、商人の屋敷には入らず、ウルク村へと向けて歩き出した。


立ち去ったかに見えたラマシュトゥは、エンキドゥがその場から離れるのを確認すると口を開く。
「来てるわね？グレンデル。」
「…はっ。」
返答して姿を現した男もまた、その手には人工魔石アトモスを握っていた。

ラマシュトゥ「ジェラルド社長は休暇が欲しいそうだから、バカンスに招待してあげるといいわ。
片道切符だけどね、ウフフ…」










その頃、再び商人の屋敷に来訪者が…

商人「…⁉︎
貴方は…ベーオウルフ議長⁉︎
議長自らこんな辺境の地に…一体どういった御用向きで…⁉︎」
ベーオウルフ「とつぜん驚かせてすまんな。
御社がウルク村に建造した魔法供給施設・エンリルで異形化奇病メタモルフが発生したと聞いたが、相違ないか？」
商人「…仰る通りです。
事態の収拾に尽力してくださった剣士様一行の話では、異形化奇病メタモルフ発症の原因は魔法を使う事にあると…」
「…⁉︎
魔法が異形化奇病メタモルフ化の原因だと⁉︎
…いや…だが確かに、それが事実なら、これまで南方大陸では殆ど症例が無かったというのも合点がいく…
ところで、その剣士達の一行に、こういう男はいなかったか？」
ベーオウルフはそう言うと商人に、シグルズの顔が描かれた人相書きを見せた。
「……
まさしくこの方です。
…シグルズ=ヴォルスング⁉︎
あの、革命戦の英雄⁉︎
…まさか、あの方が…⁉︎」
ベーオウルフ「やはりそうか…
この男の行先に心当たりはあるか？」
商人「いえ…
…いや、そう言えば…
私わたくしどもが大陸南部に造った地下建造物に興味を持っている様でした。」

その時、周囲に地鳴りが響き渡った。

ベーオウルフ「⁉︎」
商人「な…何だ⁉︎」

屋敷の外に出てみると、人工魔石アトモスによって異形化したグレンデルが姿を現す。

商人「メ…異形化奇病メタモルフ…⁉︎」
ベーオウルフ「ほぅ…これが噂の…」

すかさずベーオウルフが率いて来た兵達は、これを包囲するが…

ベーオウルフ「お前達は手を出すな。」
兵士「しかし、議長…！」
ベーオウルフ「卑しくも革命戦の英雄に挑まんとする我が身なれば、異形相手とは言え、数の利には頼るまい。
それに、北方大陸を震撼させる異形化奇病メタモルフとやらが、いかほどのものか、試してみたい。」
兵士「…承知しました…」



かくして、ベーオウルフはグレンデルに一騎討ちを挑み、これを打ち倒す。
「ふむ…噂ほどでもないな…
(兵士達に向かって)
お前達はここに留まり、異形化奇病メタモルフが現れれば、これを排除せよ！
私はゲオルギウスと合流し、シグルズを追う！」










一方、ウルク村に辿り着いたエンキドゥは、族長・ギルガメシュの元へ…

「族長、これを見てください。」
そう言って人工魔石アトモスを取り出したエンキドゥ。

ギルガメシュ「それは…魔法石フォシルじゃないか！
あんた…あんな事があったのに、まだそんなモノを…！」
「これは魔法石フォシルによく似ていますが、人工魔石アトモスという、全くの別モノ…
何がどう違うのか、よく見ていてください。」
エンキドゥがそう言って人工魔石アトモスを握り念じると、その全身は獣の様な剛毛に覆われ、掌から気流の玉が放たれた。
それを見て斧を構えるギルガメシュ。
「…‼︎
だから言わんこっちゃない…！」
エンキドゥ「落ち着いてください。
私にはちゃんと意識があります。」
ギルガメシュ「しゃ、喋った…⁉︎」
エンキドゥ「言ったでしょう？
魔法石フォシルとは別モノだと…
この力で今度こそ、ウルクに豊かな未来を…！」
ギルガメシュ「し、しかし…本当に大丈夫なのか…？
未知の部分が多すぎるのでは…」
「未知なるものの解明こそが発展に繋がるのです！
それを恐れていては、いつまで経っても…
そう言いかけたエンキドゥは次の瞬間、ゲオルギウス率いるドゥエルグヘイム軍に包囲された。

ゲオルギウス「本当に居た…！
これが…異形化奇病メタモルフ…⁉︎」
エンキドゥ(チッ…通報が仇になったか…)

「待ってくれ、彼にはまだ人としての意識がある！
普通の異形化奇病メタモルフとは違うんだ！」
ギルガメシュがそう言って庇った隙に、エンキドゥは逃走した。

「待てッ！

…チッ…逃げられたか…

…あの者をご存知のようですね…貴方は？」
ゲオルギウスの問い掛けに、ギルガメシュが答える。
「私はここ、ウルク村の族長・ギルガメシュ。
彼は私に、この地にエンリル建造を勧めた男だ。」
ゲオルギウス「…では、ジェラルド商会の？」
ギルガメシュ「あぁ…
私はウルクと、南方大陸の発展を信じて彼の話に乗った。
だがまさか…魔導師達が異形化奇病メタモルフ化するとは…」
ゲオルギウス「魔導師が…異形化奇病メタモルフ化…⁉︎」
ギルガメシュ「そうだ。
異形化奇病メタモルフ化の原因は魔法を使う事にあると、旅の剣士に言われるまで、我々は誰もそんな事、夢にも思わなかったんだ…！
彼がああなった経緯はわからんが、きっとまだ魔法がもたらす発展を信じて…いや、その幻想に囚われている…！」

その時、ゲオルギウスの連れていた伝話鳥アルキュオネが鳴きだした。

「はい、ゲオルギウスです。
……
……
……
承知しました。
(率いて来た兵達に向かって)
私は議長と合流し、テロリストを追う。
第1班は私と共に来い。
残りの者はここに留まり、異形化奇病メタモルフが現れればこれを排除せよ。」





続く…