魔導姫戦記

森乃守人

文字の大きさ
60 / 67
外典 ドラゴンハンター 第三部

ep.16 一騎討ち

しおりを挟む
人工魔石アトモスの力で意図的異形ネクロマンサー化したエンキドゥは、自身を包囲するドゥエルグヘイム兵に魔法攻撃を放つ。
それを繰り返していると、いつしか標的の姿が、ウルク村でゾンビ化した女性・シータに見えた。
シータは自らが喰い殺した我が子・レバンニを抱き抱え、2人は恨めしそうにエンキドゥを睨みながら近づいて来る。

「な…なぜ貴方がここに…?
貴方は私が殺…い、いや…あのとき死んだ筈…!」
エンキドゥは魔法で2人を吹き飛ばす。
辺りを見渡すと彼を包囲していた筈の兵士が皆、ウルク村で死んだ者達の姿へと変わっていた。
「そ…そんな筈はない…
く…来るな…来るなぁ!」
絶叫しながら魔法で次々に吹き飛ばしていると、亡者の1人がエンキドゥに語りかけた。
「エンキドゥ…てめぇ…
俺達だけでは飽き足らず、まだ犠牲者を増やすつもりかぁァァァ…⁉︎」
それは、シータの夫にしてレバンニの父、そして2人の死に自暴自棄となって異形化奇病メタモルフ化したハンババだった。
「ち…違う!
私は、アルーヴヘイムの発展を願って…
こんな事になるなんて思ってなかったんだ!」



ギルガメシュ「な…何を言っている?
エンキドゥ…一体どうしたんだ⁉︎」

側から見れば、エンキドゥが対峙しているのはウルクの犠牲者などではなく、紛れもなくドゥエルグヘイム兵だった。
エンキドゥには幻覚が見えていたのだ。

シグルズ「…おい、アイツもうヤベェんじゃねぇの?」

周囲の者達がエンキドゥの異変に気付き始めた時、上空から声がした。
「あーあ…使えねぇなぁ…
ラマシュトゥの奴、人選ミスってやんの。」
シェイミー「パズズ…!
彼に人工魔石アトモスを渡したのは、やっぱり貴方達ね?」
パズズ「よォ…シェイミー先生。
博士を裏切った挙げ句お尋ね者たぁ、ザマァねぇな。」
シェイミー「…裏切り者って…貴方がそれを言うの?」
「おっと、それもそうだな。
まぁいいや、アンタらとくっちゃべってるヒマはねぇ。
いま用があるのはコイツだ。」
エンキドゥのもとに舞い降りたパズズは、その首根っこを掴むと、再び舞い上がった。
「精製方法が確立したとはいえ、まだまだ希少なんでな。
使えねぇ奴からは返してもらうぜ。
あばよ。」
パズズはそう言って人工魔石アトモスを奪い取ると、人の姿に戻ったエンキドゥを投げ捨てる。

「ぐはっ…!」
地に叩きつけられたエンキドゥに駆け寄るギルガメシュ。
「だ…大丈夫か、エンキドゥ!」

「待ちなさい!」
飛び去るパズズに向かって叫ぶシェイミーに、メリュジーヌが問う。
「…追うか?」
シグルズ「よし、お前らは行け。」
シェイミー「貴方はどうするの?」
シグルズ「客人がまだ遊び足りねえみてぇだからよ…なぁそうだろ⁉︎」
ベーオウルフ「遊び足りぬのは貴公もであろう?…と、思うのは自惚れかな?」
シグルズ「いいや、気が合うと思ってたぜ。」
ベーオウルフ「それは至極光栄…!」
シェイミー「…まったく…呆れた人達ね…」
「ククク…では我らは行くぞ。」
翼竜の姿となったメリュジーヌはシェイミーを乗せ、パズズを追って飛び立つ。

マルガリータ「共に逃げれば良かったものを、この人数を相手に1人残るとは…」
ゲオルギウス「いや、手を出してはならん。」
マルガリータ「えっ⁉︎…で、でも…」
ゲオルギウス「見たまえ、議長のあの楽しそうな顔を…!
悔しいが、我々に稽古をつけている時には見せた事のない表情だ。」



双方ともに身の丈ほどもある大剣を扱いながら、それとは思えぬ速さで連撃を繰り出すシグルズとベーオウルフ。

「流石、英雄の二つ名は伊達じゃないな…!」
そう言いながら、ベーオウルフは何か違和感を感じていた。
(⁉︎……
気のせいか?)



「信じられない…
私など、片手剣での連撃ですら、議長は全て受け止めてしまうのに…!」
2人の打ち合うさまに、マルガリータは驚愕するが…

(また?
…いや…そんな、まさか…)
打ち合いながら、ベーオウルフは先ほど感じた違和感の正体に気付くも、自身の脳がそれを認める事を拒否する。



「議長と同じ大剣を、同じ速さで振るえる者が存在するとは…!」
ゲオルギウスをはじめ、側で見ている者達はその戦いを互角と信じて疑わなかったが、ベーオウルフはそれまでずっと感じていた違和感を…気付いても認めたくなかった事実を、もはや認めざるを得なかった。
(まただ…!
間違いない、この男…乱打と見せかけて数回に一度、こちらの剣の同じ箇所に寸分違わず打ち込んでいる!
この速さで何と正確無比…!
私の剣フルンティングがいかに業物とて、これではいずれ…)
「気付いちまったか?
だが、少し遅かったなぁ!」
シグルズがそう言った次の瞬間、ベーオウルフの剣は真っ二つに折れたのだった。

マルガリータ「なッ…⁉︎」
「議長‼︎」
すかさずゲオルギウスはシグルズとベーオウルフの間に割って入り、兵士達は周囲を取り囲んで武器を構える。

シグルズ「…次の遊び相手はお前か?
それとも全員で来るか?」
ベーオウルフ「やめろ、お前達…!」
ゲオルギウス「しかし議長!」
ベーオウルフ「私に恥をかかすな…!
負けたのだ、私は…完敗だ…!」
マルガリータ「そ…そんな…!」
ベーオウルフ「彼は仲間と共に逃げ果せる事も出来た…にも関わらず、私が挑んだ勝負に付き合い、その上で私を打ち破った。
我が軍はテロリストを取り逃がしたのだ…何処へなりと行くがよい…」
シグルズ「…いいや、取り調べに応じようじゃねぇの。」
ゲオルギウス「何っ⁉︎」
ベーオウルフ「…フッ…フハハハハ…!
どこまでも面白いおとこだ…!」





続く…
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

四人の令嬢と公爵と

オゾン層
恋愛
「貴様らのような田舎娘は性根が腐っている」  ガルシア辺境伯の令嬢である4人の姉妹は、アミーレア国の王太子の婚約候補者として今の今まで王太子に尽くしていた。国王からも認められた有力な婚約候補者であったにも関わらず、無知なロズワート王太子にある日婚約解消を一方的に告げられ、挙げ句の果てに同じく婚約候補者であったクラシウス男爵の令嬢であるアレッサ嬢の企みによって冤罪をかけられ、隣国を治める『化物公爵』の婚約者として輿入という名目の国外追放を受けてしまう。  人間以外の種族で溢れた隣国ベルフェナールにいるとされる化物公爵ことラヴェルト公爵の兄弟はその恐ろしい容姿から他国からも黒い噂が絶えず、ガルシア姉妹は怯えながらも覚悟を決めてベルフェナール国へと足を踏み入れるが…… 「おはよう。よく眠れたかな」 「お前すごく可愛いな!!」 「花がよく似合うね」 「どうか今日も共に過ごしてほしい」  彼らは見た目に反し、誠実で純愛な兄弟だった。  一方追放を告げられたアミーレア王国では、ガルシア辺境伯令嬢との婚約解消を聞きつけた国王がロズワート王太子に対して右ストレートをかましていた。 ※初ジャンルの小説なので不自然な点が多いかもしれませんがご了承ください

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

処理中です...