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事業拡大。 その1
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10歩先もはっきりと見えぬ仄暗い迷宮の中で、他と比べると二回りは大きい【引籠もる剣士】が頭を抱えている。
何の感情も持ち合わせていないような、まるで機械を思わせる生命として不気味な存在。そんなダンジョンモンスターにして、有り得ない行動。
それはそうだろう。
その【引籠もる剣士】は、確かにダンジョンモンスターなのだが、中身が特別なのだから。
元は異世界の住人である、負け犬ど底辺社畜の佐藤満博。今は、このダンジョン【黒髪姫の薔薇のお城】のマスターである姫にミッツと命名されたそれなのだ。
元々、運には見放されているのか、やることなすこと上手く行かず、うだつが上がらない生活を送っていたミッツ。
だが、死が目の前にまで迫っている状況で召喚されるという、元の世界でもそこまではなかった不運に見舞われたところから始まった異世界生活。
それでも、目の前の問題に必死に取り組み、なんとか危機を脱する。
その後も、ミッツにしては信じられないくらい順調な毎日を送れていた。
初めは不運だと思われたイケメン冒険者の妨害も終わってみれば、戦力の向上と言った意味でも幸運だったと言える。
なにせ、ミッツが男だと勘違いしてだけで、実際は美少女だった訳だ。
騎士に多大な憧れを持っていたので話し方が堅く、髪が短かった。
なので、そう思い込んでしまっていたという。
最大の要因はどことは言わないが他にある。だが、そのことについてはミッツは今後も触れる気は無い。
触れれば殺される。
セクハラ弾劾で社会的に殺されるのではなく、物理的に。
マリル本人か姫にかは分からないが……。
まぁ、そのような多少の問題はあれども、全体的に見て頭を抱えるような問題は起こっていないように見える。
ここまでは――
「うおぉぉ……。まじかー……。あー、そう来たかー」
マリルに土下座をして、引越しを手伝い、姫とマリルが自分の部屋に帰った後。
マリルの部屋を増築する際に、どれだけの変更を加えようとも、一度の改装で済ませてしまえば消費DEは同じなので纏めて用意した事務室。
そこで1冊のノートを目の前にして、ミッツは頭を抱えていた。
仕事のためなら人殺しにも、死ぬことにだって慣れたサイコパスとしか言いようのないミッツが、今更本気で狼狽えるとは相当なこと。
ちょっとやそっとのことでは、感情がぶれることなんてない。
マリル相手に相当気を揉んでいたようにも見えたが、それこそ、ミッツは姫の為に働くことで人間性を担保しているのかもしれない。
姫の消滅だけは、なんとしても避けると心に誓っている。
そこの矜持が崩れ去ると、それこそただのシリアルキラーと化してしまうからだ。
とはいえ、毎年何人もの過労死を出していた会社で、7年もの間働いて来たミッツは、それだけで十分にサイコパスだと断じて良いかもしれない。
話は戻り、ミッツを唸らせる原因。言わずもがな、ダンジョンエナジーの残量以外に、ミッツを今現在ここまで悩ませることなんてない。
「っかしーな。確かに改装にダンジョンエナジーをごっそり持って行かれるのは分かっていたけど、この状況になるのは想定外だった」
これまで最低限1日に稼がないといけなかったダンジョンエナジーは183DE。
内訳は、ミッツの維持に2DE。フロアの維持費は3階層で60DE。それに、便利な秘宝が120DE。
これが昨日までの支出。実際は、姫のお子様ランチやおやつ、ミッツの復活費用なども上乗せされて200台前半といったところ。
それに対して、毎日300後半から500にぎりぎり届かないくらいは稼いでいた。
なので、ストックされたダンジョンエナジーもミッツが召喚された直後よりも遥かに多い4214DEまで増えていた。
そのはずなのに……。
「また、あの警告が出てくるなんて……」
黄色の斜線に黒の背景のアイコン。そこに描かれたのは禍々しいまでの赤で“緊急”の二文字。
今となっては懐かしい。けれど、絶対に見たくなかったアイコン。
内容も――
――〈ダンジョン消滅まで、残り1日〉
以前の表示は0日だったので、ましなようにも見える。
しかし今回は、不要な設備の撤去などで作れる余裕など一切ない。
紛れもなく、絶体絶命のピンチ。
本日は残り数刻で終わるので、結局明日中に打開出来なければ消滅が待っている。
一体どうしてこうなったのか。
まずは改装費、500DE。これでも残りは3714DEと、まだまだ余裕だったはず。
ミッツもそう思っていたから改装の許可を出した。
だがミッツは失念していた。
マリルを仲間にする為のランクアップに、フロアを2階層増築したことを。
このコストが、400DEと500DE、計900DE。これで残りは2814DE。
そして、そこに想定外の出費が重なる。
マリルをモンスターに変革させるのは、それなりのコストを要した。
1400DE。
これに依り、残りは1414DEとなった訳だが、それでも消滅までのカウントダウンが、残り1日になるのはおかしい。
「しかも、ご丁寧に維持費も爆上がりしているとは……。クソがーーーー――!」
[常設維持コスト・ユニークモンスター累計 142DE
フロア 150DE
秘宝 120DE
基本設備 500DE]
合計913DE。
光の時間を迎えて日付が更新されたら、残り501DE。
あと1DEでキリが良かったのに。そんなことを考えて現実逃避してしまうのも無理からぬこと。
明日は、最低でも412DE稼がないと消滅する。
今までのやり方でも、1日だけなら延命することは出来なくもない。
しかし、それでは意味がない。
稼ぎ方の変革。間違いなく、それに着手するしか生き残る方法はないのだ。
何の感情も持ち合わせていないような、まるで機械を思わせる生命として不気味な存在。そんなダンジョンモンスターにして、有り得ない行動。
それはそうだろう。
その【引籠もる剣士】は、確かにダンジョンモンスターなのだが、中身が特別なのだから。
元は異世界の住人である、負け犬ど底辺社畜の佐藤満博。今は、このダンジョン【黒髪姫の薔薇のお城】のマスターである姫にミッツと命名されたそれなのだ。
元々、運には見放されているのか、やることなすこと上手く行かず、うだつが上がらない生活を送っていたミッツ。
だが、死が目の前にまで迫っている状況で召喚されるという、元の世界でもそこまではなかった不運に見舞われたところから始まった異世界生活。
それでも、目の前の問題に必死に取り組み、なんとか危機を脱する。
その後も、ミッツにしては信じられないくらい順調な毎日を送れていた。
初めは不運だと思われたイケメン冒険者の妨害も終わってみれば、戦力の向上と言った意味でも幸運だったと言える。
なにせ、ミッツが男だと勘違いしてだけで、実際は美少女だった訳だ。
騎士に多大な憧れを持っていたので話し方が堅く、髪が短かった。
なので、そう思い込んでしまっていたという。
最大の要因はどことは言わないが他にある。だが、そのことについてはミッツは今後も触れる気は無い。
触れれば殺される。
セクハラ弾劾で社会的に殺されるのではなく、物理的に。
マリル本人か姫にかは分からないが……。
まぁ、そのような多少の問題はあれども、全体的に見て頭を抱えるような問題は起こっていないように見える。
ここまでは――
「うおぉぉ……。まじかー……。あー、そう来たかー」
マリルに土下座をして、引越しを手伝い、姫とマリルが自分の部屋に帰った後。
マリルの部屋を増築する際に、どれだけの変更を加えようとも、一度の改装で済ませてしまえば消費DEは同じなので纏めて用意した事務室。
そこで1冊のノートを目の前にして、ミッツは頭を抱えていた。
仕事のためなら人殺しにも、死ぬことにだって慣れたサイコパスとしか言いようのないミッツが、今更本気で狼狽えるとは相当なこと。
ちょっとやそっとのことでは、感情がぶれることなんてない。
マリル相手に相当気を揉んでいたようにも見えたが、それこそ、ミッツは姫の為に働くことで人間性を担保しているのかもしれない。
姫の消滅だけは、なんとしても避けると心に誓っている。
そこの矜持が崩れ去ると、それこそただのシリアルキラーと化してしまうからだ。
とはいえ、毎年何人もの過労死を出していた会社で、7年もの間働いて来たミッツは、それだけで十分にサイコパスだと断じて良いかもしれない。
話は戻り、ミッツを唸らせる原因。言わずもがな、ダンジョンエナジーの残量以外に、ミッツを今現在ここまで悩ませることなんてない。
「っかしーな。確かに改装にダンジョンエナジーをごっそり持って行かれるのは分かっていたけど、この状況になるのは想定外だった」
これまで最低限1日に稼がないといけなかったダンジョンエナジーは183DE。
内訳は、ミッツの維持に2DE。フロアの維持費は3階層で60DE。それに、便利な秘宝が120DE。
これが昨日までの支出。実際は、姫のお子様ランチやおやつ、ミッツの復活費用なども上乗せされて200台前半といったところ。
それに対して、毎日300後半から500にぎりぎり届かないくらいは稼いでいた。
なので、ストックされたダンジョンエナジーもミッツが召喚された直後よりも遥かに多い4214DEまで増えていた。
そのはずなのに……。
「また、あの警告が出てくるなんて……」
黄色の斜線に黒の背景のアイコン。そこに描かれたのは禍々しいまでの赤で“緊急”の二文字。
今となっては懐かしい。けれど、絶対に見たくなかったアイコン。
内容も――
――〈ダンジョン消滅まで、残り1日〉
以前の表示は0日だったので、ましなようにも見える。
しかし今回は、不要な設備の撤去などで作れる余裕など一切ない。
紛れもなく、絶体絶命のピンチ。
本日は残り数刻で終わるので、結局明日中に打開出来なければ消滅が待っている。
一体どうしてこうなったのか。
まずは改装費、500DE。これでも残りは3714DEと、まだまだ余裕だったはず。
ミッツもそう思っていたから改装の許可を出した。
だがミッツは失念していた。
マリルを仲間にする為のランクアップに、フロアを2階層増築したことを。
このコストが、400DEと500DE、計900DE。これで残りは2814DE。
そして、そこに想定外の出費が重なる。
マリルをモンスターに変革させるのは、それなりのコストを要した。
1400DE。
これに依り、残りは1414DEとなった訳だが、それでも消滅までのカウントダウンが、残り1日になるのはおかしい。
「しかも、ご丁寧に維持費も爆上がりしているとは……。クソがーーーー――!」
[常設維持コスト・ユニークモンスター累計 142DE
フロア 150DE
秘宝 120DE
基本設備 500DE]
合計913DE。
光の時間を迎えて日付が更新されたら、残り501DE。
あと1DEでキリが良かったのに。そんなことを考えて現実逃避してしまうのも無理からぬこと。
明日は、最低でも412DE稼がないと消滅する。
今までのやり方でも、1日だけなら延命することは出来なくもない。
しかし、それでは意味がない。
稼ぎ方の変革。間違いなく、それに着手するしか生き残る方法はないのだ。
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