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悪意再び その4
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漲るミッツの快進撃は続いた。
1対2の戦いでも、勝ちを納める。
力任せの攻撃を活かす〈炎熱の重い大剣〉の存在も大きいが、それだけではなさそうだ。
いつも仕事に全力で取り組んでいるミッツだが、そんな一所懸命な姿とは違う仕事への打ち込みを感じる。
調子に乗って4人組に突っ込み返り討ちにあったり、少年少女冒険者とは戦えなかったりと相変わらずのところもあったが、昨日のように一方的にやられるということもなくダンジョンエナジーを稼いでいく。
途中、ステマを展開した場にいた冒険者に出会い、『そういえば宝箱のことを忘れていた』と急ぎ対応したのもご愛嬌だ。
アイテムが宝物庫に回収されなかった理由は、最後にモンスターであるミッツが触れたアイテムだったため、所有権がダンジョンになっており、“落ちているアイテム”ではなく“設置したアイテム”という扱いになっていたためだったようだ。
理由が分かれば、指定して回収、宝箱への使用を問題なく行う。
お詫びというわけではないが、ミッツに宝箱のことを思い出させた冒険者一行を、大当たりのアイテムが入っている宝箱へと誘導した。
中身は〈硬く軽い鉄の剣〉という特段強い武器ではないが、一人前になるまでは十分使える片手メイン武器。
今晩は大いに【ブレイバロスの酒場】で自慢してくれることだろう。
因みにミッツはこれを【ボッタクル商店】で750Gで購入した。通常の〈鉄の剣〉は120Gなので、装飾詞が付いた武具はそれだけ割高になる希少さなのだ。
このように、商品や情報、サンプル、無料体験を企業から提供し、それを試した消費者やモニターにレビューや商品の紹介をしてもらう方法を“二次的バイラルマーケティング”という。
あまりにあからさまに行うと否定的なイメージを持たれるので、加減が重要ではあるが。
「お疲れ様です」
「お疲れ様でした」
「おつかれー」
営業時間が終り、地下4階で姫、マリル、ミッツが顔を会わせる。
ミッツが毎度口にするので、【黒髪姫の薔薇のお城】ではお馴染みとなった挨拶を交わす。
終礼前に本日増加したダンジョンエナジーを調べると、昨日に比べれば少なかったものの十分な量のダンジョンエナジーを得ることができていた。
「(クエストでブーストさせた集客力を維持できるダンジョンにしないと、このままでは不味そうだな)」
だがミッツは慢心することなく、数字の下りから芳しくない状況を読み取る。
終礼中なのだから姫とマリルにも伝えれば良いのに、ミッツは敢えて口に出さなかった。
喜んでいる姫に、わざわざ不安要素を伝えて失望させる意味はない。
おあつらえ向きに、一切手をつけていない地下3階とダンジョンエナジーがたっぷりとある。
やる気に満ち満ちて漲っているミッツは、当然のように徹夜の前提で計画を立てる。
眠らなくても良いモンスターの体だが、眠れる以上何か意味はあるのかもしれない。しかし、この世界に来てからミッツが眠ったのは片手で数えられるほどしかない。
このまま変調がなければ良いが……。
「ごちそうさまー。おいちかった」
オムライスセットを食べ終え、名残惜しそうにスプーンを咥えている姫。
それを見守ると、そそくさとミッツは立ち上がった。
いつもならほっこりした顔をして余韻も十分に楽しむのに、今のミッツは姫とは違うところを見ている。
それは何か特定のものや人を見ているといった意味ではなく、何か他のことを考えているという顔。
「それでは、残りの仕事を片付けてしまいますね」
「わはっはー。はんはっへね」
綺麗に舐め取られきらきらになったスプーンをまだ咥えたままの姫に見送られ、ミッツは墓石を詰めた袋を担いで出発した。
「はんは、はやひー」
いつもと違うミッツの態度に、姫は疑いの目を向ける。
「先輩、自分も行きます」
「お、おう」
「やっはり、はやひー」
◇◆◇◆◇◆
転送装置から出ると、雨は上がっていた。
「結構降っていたんですね」
「そ、そうだな」
しかし、足元は相当にぬかるんでいた。
急ぐとびちゃびちゃと跳ね、すっかりグリーブが泥に塗れている。
「マリル、その、足元汚れているけど、平気か?」
「え? あっ、そうですね。後で拭かないとダメですね」
「おう、そうだな」
会話終了。
何か仕事以外の会話をしようとして、オーソドックスに天気に纏わる話を選択したが、全く膨らまずあっという間に終わってしまった。
友達のような、仲の良い会話をしたかっただけなのに。
それからは、会話もないまま教会まで辿り着く。
無理に会話を探らなくても、仕事の話であればいくらでも話すことがあるのに、何故かミッツは頑なに仕事の話をしなかった。
まるで思春期の初恋ボーイのような情けなさ。
それは、ミッツ自身も分かっていた。
しかしマリルを見ると緊張して、上手く頭の中が整理出来ないのでどうしようもない。
ミッツは久しぶりに……、もしかしたら、今まで経験して来た以上の本気の恋というものに巡り合ったのかもしれない。
ミッツ本人は社内恋愛で痛い目を見ているので、職場が同じ人には恋愛感情を抱いてはいけないと思い込んでいるので、この気持ちを認めたりはしないが。
それに、マリルは17歳。年の差が一回り以上開いている。
姫ほどではないにしても、ロリコンのレッテルからは逃げられない。
二重の障害が、頭と心を分けさせる。
1対2の戦いでも、勝ちを納める。
力任せの攻撃を活かす〈炎熱の重い大剣〉の存在も大きいが、それだけではなさそうだ。
いつも仕事に全力で取り組んでいるミッツだが、そんな一所懸命な姿とは違う仕事への打ち込みを感じる。
調子に乗って4人組に突っ込み返り討ちにあったり、少年少女冒険者とは戦えなかったりと相変わらずのところもあったが、昨日のように一方的にやられるということもなくダンジョンエナジーを稼いでいく。
途中、ステマを展開した場にいた冒険者に出会い、『そういえば宝箱のことを忘れていた』と急ぎ対応したのもご愛嬌だ。
アイテムが宝物庫に回収されなかった理由は、最後にモンスターであるミッツが触れたアイテムだったため、所有権がダンジョンになっており、“落ちているアイテム”ではなく“設置したアイテム”という扱いになっていたためだったようだ。
理由が分かれば、指定して回収、宝箱への使用を問題なく行う。
お詫びというわけではないが、ミッツに宝箱のことを思い出させた冒険者一行を、大当たりのアイテムが入っている宝箱へと誘導した。
中身は〈硬く軽い鉄の剣〉という特段強い武器ではないが、一人前になるまでは十分使える片手メイン武器。
今晩は大いに【ブレイバロスの酒場】で自慢してくれることだろう。
因みにミッツはこれを【ボッタクル商店】で750Gで購入した。通常の〈鉄の剣〉は120Gなので、装飾詞が付いた武具はそれだけ割高になる希少さなのだ。
このように、商品や情報、サンプル、無料体験を企業から提供し、それを試した消費者やモニターにレビューや商品の紹介をしてもらう方法を“二次的バイラルマーケティング”という。
あまりにあからさまに行うと否定的なイメージを持たれるので、加減が重要ではあるが。
「お疲れ様です」
「お疲れ様でした」
「おつかれー」
営業時間が終り、地下4階で姫、マリル、ミッツが顔を会わせる。
ミッツが毎度口にするので、【黒髪姫の薔薇のお城】ではお馴染みとなった挨拶を交わす。
終礼前に本日増加したダンジョンエナジーを調べると、昨日に比べれば少なかったものの十分な量のダンジョンエナジーを得ることができていた。
「(クエストでブーストさせた集客力を維持できるダンジョンにしないと、このままでは不味そうだな)」
だがミッツは慢心することなく、数字の下りから芳しくない状況を読み取る。
終礼中なのだから姫とマリルにも伝えれば良いのに、ミッツは敢えて口に出さなかった。
喜んでいる姫に、わざわざ不安要素を伝えて失望させる意味はない。
おあつらえ向きに、一切手をつけていない地下3階とダンジョンエナジーがたっぷりとある。
やる気に満ち満ちて漲っているミッツは、当然のように徹夜の前提で計画を立てる。
眠らなくても良いモンスターの体だが、眠れる以上何か意味はあるのかもしれない。しかし、この世界に来てからミッツが眠ったのは片手で数えられるほどしかない。
このまま変調がなければ良いが……。
「ごちそうさまー。おいちかった」
オムライスセットを食べ終え、名残惜しそうにスプーンを咥えている姫。
それを見守ると、そそくさとミッツは立ち上がった。
いつもならほっこりした顔をして余韻も十分に楽しむのに、今のミッツは姫とは違うところを見ている。
それは何か特定のものや人を見ているといった意味ではなく、何か他のことを考えているという顔。
「それでは、残りの仕事を片付けてしまいますね」
「わはっはー。はんはっへね」
綺麗に舐め取られきらきらになったスプーンをまだ咥えたままの姫に見送られ、ミッツは墓石を詰めた袋を担いで出発した。
「はんは、はやひー」
いつもと違うミッツの態度に、姫は疑いの目を向ける。
「先輩、自分も行きます」
「お、おう」
「やっはり、はやひー」
◇◆◇◆◇◆
転送装置から出ると、雨は上がっていた。
「結構降っていたんですね」
「そ、そうだな」
しかし、足元は相当にぬかるんでいた。
急ぐとびちゃびちゃと跳ね、すっかりグリーブが泥に塗れている。
「マリル、その、足元汚れているけど、平気か?」
「え? あっ、そうですね。後で拭かないとダメですね」
「おう、そうだな」
会話終了。
何か仕事以外の会話をしようとして、オーソドックスに天気に纏わる話を選択したが、全く膨らまずあっという間に終わってしまった。
友達のような、仲の良い会話をしたかっただけなのに。
それからは、会話もないまま教会まで辿り着く。
無理に会話を探らなくても、仕事の話であればいくらでも話すことがあるのに、何故かミッツは頑なに仕事の話をしなかった。
まるで思春期の初恋ボーイのような情けなさ。
それは、ミッツ自身も分かっていた。
しかしマリルを見ると緊張して、上手く頭の中が整理出来ないのでどうしようもない。
ミッツは久しぶりに……、もしかしたら、今まで経験して来た以上の本気の恋というものに巡り合ったのかもしれない。
ミッツ本人は社内恋愛で痛い目を見ているので、職場が同じ人には恋愛感情を抱いてはいけないと思い込んでいるので、この気持ちを認めたりはしないが。
それに、マリルは17歳。年の差が一回り以上開いている。
姫ほどではないにしても、ロリコンのレッテルからは逃げられない。
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