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バルファ旅行記すりー前編
すりー前編10
しおりを挟む「足が楽になってきたら腹減った…」
街中の荒れた空気に緊張していたようで、部屋に入って身体の力がずいぶん抜けると忘れていた欲求を思い出す。
「下に食べにいくか? ここに運んでもらうことも出来そうだが」
「下に行く。バルファの人達の談話を聞きながら食事とか、そこらのテーマパークのショーよりすごいだろ」
「…いつでもポジティブなのは、いいことだな」
ちげえよ?
考えの方向性を変えればいいだけだ。誠那は現地人だから難しいかもしれないが。
俺も日本の普通のレストランでこの発想は無理だ。
下に行く前に、誠那が部屋に防御用の魔法をかけていた。簡単な侵入をふせぐものらしい。結界とか完全に拒絶するとか強力なものではないらしいが格好いい。
下に降りると食事処は変わらず賑わっていた。一見して空いてる場所は見つからないので、奥に進み探す。
「うおっすげー美人が2人!」
美人?
後ろを見てみる。誠那がいる。近くには他に移動している人はいない。俺達は2人連れ。
…いや、まさか俺達なわけないよな。男だし、学園のちびこいのと違うし。ルーバルトは変わってるだけで。
「2人ともキレーな黒髪だな。同郷か?」
…やっぱり俺達のことらしい…。誠那も美人に入るんだな…。まあ、荒くれむさい男達からするとそうなるのか?
俺達をからかってきてる奴らはいかにもな荒くれた男達だ。盗賊か鉱山とかで働いてそう。肌もがっつり日に焼けてるようだ。俺達なんてなまっちょろいな。
「坊ちゃん達が目を丸くしてんじゃないか。怖がらせんなよ?」
…怖がってるように見えるのだろうか。誠那なんて眉間に深い皺作って、心底嫌そうって顔だが。美人なんて言われたら男としてはそりゃ嫌だろう。その気持ちも分かるが、俺はとくに気にならない。
嫌ではあるが、学園でもそういう目で見てくる生徒は少ないがいたからな。いちいち腹立てるのも面倒だろう。
「なあ、お酌してくんね? メシ食いにきたなら奢るしよ」
「それいー。俺の隣来なよー」
男達は下品に笑って酒を飲んでいるのでかなり酔ってるのだろう。
その中のリーダーっぽい男が俺の手首を掴もうとしたので避けた。そこまで鈍くはない。いくらバルファの荒くれ達とはいえ、相手をしている暇はない。
さっさっと離れて席を探そうと考えたが、俺の前に鞘に収まったままとはいえ、剣が行く手を塞ぐ。
「…どけてもらえないか?」
「ひゅー。いい声。その冷たい感じもそそるねえ。いいじゃねえか。ちょっと酌してくれればいいんだよ。どんな目的でここにいるか知らんが、目的地まで連れてってやるよ? この宿に入ってきた時から2人だし、他に連れはいないんだろう? 美人2人なんて襲ってくださいって歩いてたら、誰だって襲いたくなる。な?」
再び俺の手首を取ろうとしたので当然避けた。
そのリーダーっぽい奴の手を後ろにいた誠那が取り、捻ってテーブルに叩きつける。
「いってえっ」
「…お気遣いありがたいが、こうして自分で対処できるんでな。お構いなく」
誠那の行動にさっきまで楽しそうにしていた他の荒くれ達が殺気だつ。そっちが悪いだろうに。あれだな。不良に似てる。無視しても怒るし、ちょっと相手しても怒る。
そんな空気にも誠那は怯むなんてなく、周囲を見渡す。リーダーっぽいのがもがいても動けない状態なので誠那に向かっていくことができないでいる。
誠那はゆっくりとリーダー、いや、ボスっぽい奴の腕を離そうとしたが、その前に思わぬ存在が誠那を襲う。
「な…!」
誠那はすぐに離れたので、攻撃を受けることはなかったが、驚きにその存在を凝視する。俺もだ。
「…ラルクス?」
「キュイイー!」
ラルクスに俺達は睨まれている。理由がどうあれショックすぎる!
「ジェス、いい子だ。こいつらは美人だから、傷つけちゃなんねえよ?」
威嚇しているラルクスをボスっぽい男が撫でて手元に引き寄せた。
「…なんだ? ラルクスを見たことないか? 人に懐くもんじゃないがな」
「…そのラルクスをどうした…」
憎しみこもったような顔で誠那がラルクスのことを聞く。俺だって睨んでいるが同族となるとまた違うだろう。
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