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勇者な恋人
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「ノノ、明日楽しみにしててね」
「うん、期待してる」
明日は俺の仕事が休みなんだ。なので恋人のクロアとデートすることになった。
恋人ってことがまだ照れてしまうけど、クロアが好きだからデートが楽しみだ。
「それじゃあ、離れるのは辛いけど、明日また会えるから、我慢して帰るね」
「わかった。じゃあ明日」
「うん。迎えにくるね」
クロアは様になる動作で俺に軽くキスをして家から出ていき帰っていった。
まだ付き合いはじめて長くないし、お互いの職業上、一緒に住むのは難しい。
一緒に住みたいって、クロアは言ってくれたんだけどね。
俺の仕事は雑貨屋の店番と、ちょっとした小物の製作だ。物を作るのが好きなんだ。
今晩は籠でも作ろう。物作りは仕事だからというより趣味に近いかな。
そう決めて作業机で籠を編む。少し進んだ頃、夜遅いというのに戸を叩く音がした。
こんな時間に訪れるなんてどういうことだと、気分が悪くなったけど、ふと、ある可能性が思い浮かんたので、すぐに誰が来たのか確認にいく。
「ノノロリル殿!夜分に申し訳ありません!」
戸を開けると、いきなりの大声に、勢いよく頭を下げる厳つい人がいた。
その人の後ろにも何人かの人が情けない顔で俺達を見てる。
「えっと、頭を上げてくたさい」
俺はただの庶民である。
「今日はお願いがあってきました」
「そうですか…」
想像通りの展開のようだ。
話を詳しく聞く為に男達に部屋に入ってもらった。
頭を下げた男の人は騎士団の団長さんで、強いと結構有名で見た目は熊っぽい。
他の人は、部下の兵士の人と、見た目は苦労してそうで頭よさそうな、フェミラルク神殿の神官さん。唯一平常な人は美人な男の人で政務官の人だったかな。
「もう分かってると思いますが…」
美人さんが苦笑する。
「はい、この顔ぶれですから」
「すみません…」
まだ本題にも入ってないのに苦労性の神官さんが謝ってきた。神官さんは悪くないと思うのに。
「ノノロリル殿、明日仕事が休みだそうですな」
「あー、はい」
「それで、クロアフィート殿とデートの予定とか」
「それを、キャンセルして欲しいってことですか?」
デートが駄目になる。なんてよくあったりする。
「どんな事情があるんですか?」
「ここから2日ほどかかる所にある町の近くに強力な魔物が現れたんです」
「…そのことが分かったのって…」
「…今日の朝のことです…」
げっそり疲れた顔で言った神官さん。申し訳ありません。俺はちっとも悪くないけど、謝りたくなる。
俺の恋人クロアフィートは、勇者、という特殊な職業だったりする。
お告げというのが5年ほど前にあって勇者になったとか。
それで、どうして魔物の話を恋人とはいえ、ただの庶民の俺に話してるかというと、クロアに問題があるんだ。
そこ以外は完璧な男で勇者らしく強くて優しい。誰にたいしても優しい。
だけど、
クロアにとって一番大事なのは、俺、なんだ。
そのことは悪いとはいえないけど、そこが問題で、クロアは俺を第一優先に考える。
他の誰かよりも俺のほうが大事。
生死に関わることで一番にするならともかく、こうして魔物退治よりも、デートを選ぶんだよ。
おそらく、クロアは魔物退治はデートした後でするよ、とか言ったんだろう。
それで困った人達がこうして相談に来たのが、もう十回越えたな。
「それで、あの…」
「ああ、はい。なんとか説得します。あ、でも朝でいいですか?もう眠いんですけど」
今すぐに説得すべきなんだろうけど、もう瞼が落ちそうだし、クロアがいるところは此処から一時間ほどかかるから会うのもすぐには出来ないんだ。
「ええ、説得していただけるなら、それくらい待ちますとも!」
前に、俺を責めてきた面々だったりするけど、今は俺が悪いというよりクロアが悪いと理解してるし、最終的に俺に頼むしかないから、俺の機嫌をそこねるようなことは言わない。
まあ、今では仲間意識を感じているかな。同情されてるし、同情してるから。
そして朝になり、クロアがうちにやってきた。
「おはよう、ノノ。その顔を見るだけで幸せになれるよ」
さわやかに甘い言葉を言うクロア。
「あ、あの、クロア」
「ん?どうしたの?」
「魔物が現れたって…」
「ああ、また君に頼みにきたの?一般人のノノにそういうこと言うのはダメだって言ってるんだけど。ごめんね?」
そもそもが悪いのクロアだし。
「クロア…、デートなら他の日でいいから、魔物退治とか、人助けのほうを優先してって、いつも言ってるだろ」
「ノノは本当に優しいね」
勇者スマイルで俺を見てくるクロア。だけど騙されないぞ!と睨む。
「でも、いくら僕が勇者だとしても、恋人を最優先にするのは当然だろ?勇者は人々の為に色々犠牲にしなければならないもので、僕で出来ることならいくらでも身を犠牲にもしよう。
だけど、ノノは違う。ノノが世界の為に我慢し、犠牲になることなんてない。僕は、それだけは譲れない」
「うー、だから、別にデートがキャンセルになるくらいで犠牲になっただなんて思わないよ」
仕事を優先にする恋人なんていくらでもいる。
最初の頃は確かにこの事で疲れ苦しみ、クロアからの、犠牲にならなくていいという言葉に安堵して、愛されていることに喜んだけど、
そもそも、
悪いのはクロアなんだよ。
なので今は何度もやってるやりとりが面倒にも感じてる。
「ノノ…、僕は君のような美しい心を持つ恋人がいて、」
「あー、もう、わかったから!早く魔物倒してきなよ!それで早く帰ってくればいいだろ」
甘いセリフはごまかす為でなく本気なんだから、逆に質が悪い。それで何人もの女性を喜ばせたに違いない。けっ。
「うん。そうだね。じゃあすぐに向かうよ。あ、僕がいない間は、」
「いつも通り、護衛がつくんだろ。わかってる」
「じゃあ、いってくるよ」
「…いってらっしゃい」
クロアは何度も振り返りながら魔物退治に向かっていった。見送るのは面倒に感じないので、姿が見えなくなるまで見てる。
「ノノロリル殿ー!!ありがとうございますー」
「い、いえ」
家の影に隠れていた苦労してそうな神官さんが出てきた。
「ノノロリル殿がいなければ勇者はどうなっていたことか…」
「そんなこと…」
苦笑する。なんというか、勇者のワガママ横暴ぶりに振り回されすぎて感覚がおかしくなってるようだ。
クロアが諸悪の根元に違いないけど、
けど、もし俺が恋人でなかったらどうだっただろうか。
この一つ以外はパーフェクトな勇者であるクロアだから、もし恋人が俺以外の人だったら、こんなおかしな事はしなかったかもしれない。
そんなことを考えなきゃならないなんて、クロアの馬鹿野郎ー!!
帰ってきたら色々買わせてやる!
「うん、期待してる」
明日は俺の仕事が休みなんだ。なので恋人のクロアとデートすることになった。
恋人ってことがまだ照れてしまうけど、クロアが好きだからデートが楽しみだ。
「それじゃあ、離れるのは辛いけど、明日また会えるから、我慢して帰るね」
「わかった。じゃあ明日」
「うん。迎えにくるね」
クロアは様になる動作で俺に軽くキスをして家から出ていき帰っていった。
まだ付き合いはじめて長くないし、お互いの職業上、一緒に住むのは難しい。
一緒に住みたいって、クロアは言ってくれたんだけどね。
俺の仕事は雑貨屋の店番と、ちょっとした小物の製作だ。物を作るのが好きなんだ。
今晩は籠でも作ろう。物作りは仕事だからというより趣味に近いかな。
そう決めて作業机で籠を編む。少し進んだ頃、夜遅いというのに戸を叩く音がした。
こんな時間に訪れるなんてどういうことだと、気分が悪くなったけど、ふと、ある可能性が思い浮かんたので、すぐに誰が来たのか確認にいく。
「ノノロリル殿!夜分に申し訳ありません!」
戸を開けると、いきなりの大声に、勢いよく頭を下げる厳つい人がいた。
その人の後ろにも何人かの人が情けない顔で俺達を見てる。
「えっと、頭を上げてくたさい」
俺はただの庶民である。
「今日はお願いがあってきました」
「そうですか…」
想像通りの展開のようだ。
話を詳しく聞く為に男達に部屋に入ってもらった。
頭を下げた男の人は騎士団の団長さんで、強いと結構有名で見た目は熊っぽい。
他の人は、部下の兵士の人と、見た目は苦労してそうで頭よさそうな、フェミラルク神殿の神官さん。唯一平常な人は美人な男の人で政務官の人だったかな。
「もう分かってると思いますが…」
美人さんが苦笑する。
「はい、この顔ぶれですから」
「すみません…」
まだ本題にも入ってないのに苦労性の神官さんが謝ってきた。神官さんは悪くないと思うのに。
「ノノロリル殿、明日仕事が休みだそうですな」
「あー、はい」
「それで、クロアフィート殿とデートの予定とか」
「それを、キャンセルして欲しいってことですか?」
デートが駄目になる。なんてよくあったりする。
「どんな事情があるんですか?」
「ここから2日ほどかかる所にある町の近くに強力な魔物が現れたんです」
「…そのことが分かったのって…」
「…今日の朝のことです…」
げっそり疲れた顔で言った神官さん。申し訳ありません。俺はちっとも悪くないけど、謝りたくなる。
俺の恋人クロアフィートは、勇者、という特殊な職業だったりする。
お告げというのが5年ほど前にあって勇者になったとか。
それで、どうして魔物の話を恋人とはいえ、ただの庶民の俺に話してるかというと、クロアに問題があるんだ。
そこ以外は完璧な男で勇者らしく強くて優しい。誰にたいしても優しい。
だけど、
クロアにとって一番大事なのは、俺、なんだ。
そのことは悪いとはいえないけど、そこが問題で、クロアは俺を第一優先に考える。
他の誰かよりも俺のほうが大事。
生死に関わることで一番にするならともかく、こうして魔物退治よりも、デートを選ぶんだよ。
おそらく、クロアは魔物退治はデートした後でするよ、とか言ったんだろう。
それで困った人達がこうして相談に来たのが、もう十回越えたな。
「それで、あの…」
「ああ、はい。なんとか説得します。あ、でも朝でいいですか?もう眠いんですけど」
今すぐに説得すべきなんだろうけど、もう瞼が落ちそうだし、クロアがいるところは此処から一時間ほどかかるから会うのもすぐには出来ないんだ。
「ええ、説得していただけるなら、それくらい待ちますとも!」
前に、俺を責めてきた面々だったりするけど、今は俺が悪いというよりクロアが悪いと理解してるし、最終的に俺に頼むしかないから、俺の機嫌をそこねるようなことは言わない。
まあ、今では仲間意識を感じているかな。同情されてるし、同情してるから。
そして朝になり、クロアがうちにやってきた。
「おはよう、ノノ。その顔を見るだけで幸せになれるよ」
さわやかに甘い言葉を言うクロア。
「あ、あの、クロア」
「ん?どうしたの?」
「魔物が現れたって…」
「ああ、また君に頼みにきたの?一般人のノノにそういうこと言うのはダメだって言ってるんだけど。ごめんね?」
そもそもが悪いのクロアだし。
「クロア…、デートなら他の日でいいから、魔物退治とか、人助けのほうを優先してって、いつも言ってるだろ」
「ノノは本当に優しいね」
勇者スマイルで俺を見てくるクロア。だけど騙されないぞ!と睨む。
「でも、いくら僕が勇者だとしても、恋人を最優先にするのは当然だろ?勇者は人々の為に色々犠牲にしなければならないもので、僕で出来ることならいくらでも身を犠牲にもしよう。
だけど、ノノは違う。ノノが世界の為に我慢し、犠牲になることなんてない。僕は、それだけは譲れない」
「うー、だから、別にデートがキャンセルになるくらいで犠牲になっただなんて思わないよ」
仕事を優先にする恋人なんていくらでもいる。
最初の頃は確かにこの事で疲れ苦しみ、クロアからの、犠牲にならなくていいという言葉に安堵して、愛されていることに喜んだけど、
そもそも、
悪いのはクロアなんだよ。
なので今は何度もやってるやりとりが面倒にも感じてる。
「ノノ…、僕は君のような美しい心を持つ恋人がいて、」
「あー、もう、わかったから!早く魔物倒してきなよ!それで早く帰ってくればいいだろ」
甘いセリフはごまかす為でなく本気なんだから、逆に質が悪い。それで何人もの女性を喜ばせたに違いない。けっ。
「うん。そうだね。じゃあすぐに向かうよ。あ、僕がいない間は、」
「いつも通り、護衛がつくんだろ。わかってる」
「じゃあ、いってくるよ」
「…いってらっしゃい」
クロアは何度も振り返りながら魔物退治に向かっていった。見送るのは面倒に感じないので、姿が見えなくなるまで見てる。
「ノノロリル殿ー!!ありがとうございますー」
「い、いえ」
家の影に隠れていた苦労してそうな神官さんが出てきた。
「ノノロリル殿がいなければ勇者はどうなっていたことか…」
「そんなこと…」
苦笑する。なんというか、勇者のワガママ横暴ぶりに振り回されすぎて感覚がおかしくなってるようだ。
クロアが諸悪の根元に違いないけど、
けど、もし俺が恋人でなかったらどうだっただろうか。
この一つ以外はパーフェクトな勇者であるクロアだから、もし恋人が俺以外の人だったら、こんなおかしな事はしなかったかもしれない。
そんなことを考えなきゃならないなんて、クロアの馬鹿野郎ー!!
帰ってきたら色々買わせてやる!
応援ありがとうございます!
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