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来るべき憂鬱
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「よし、こやつを地下牢に放り込んでおけ!」
グゴガインが、部下に命ずる。
「お待ちください。それはなりません」
衛兵たちをかき分けて、中年に見える女性悪魔が進み出た。
「おぉ、これは侍女頭のレーフィル殿。突然どうされました。それに、我らの仕事へ口をお出しになられるとは!」
自分の職務にちょっかいを出され、隊長は少々不機嫌そうである。
「アリシアお嬢様の命令です。その者を、今すぐ魔王様の御前へ引き出すようにとの事」
レーフィルは落ち着いた、しかし有無を言わせぬ口調で王女の命令を伝達した。
「お嬢様が……。なるほど、であれば是非もない」
さしもの隊長も、魔王の娘アリシア王女の命令とあれば、従わぬわけには行かない。ネッドは屈強な魔王軍衛兵に両脇を抱えられ、謁見の間に連れて行かれようとする。
「あ、申し訳ありません。その者は謁見の間ではなく、食堂の方へ連れてくるようにとの事です」
レフィールが、慌てて付け加えた。
「なんと、食堂とな? それは面妖な。何故、不埒な侵入者を食堂に?」
「それは分かりませぬが、お嬢様の命である以上、そうお願い致します。あと、私も一緒に来るよう、仰せ使っております」
怪訝な顔をする隊長に、こちらも事情が分からぬとばかりに、伝言のみを伝える侍女頭であった。
「お前、一体なにをやらかしたんだ? まさか食堂で、お前を食ってしまおうという腹づもりでもあるまい」
納得しがたい命令への不満を、ネッドにぶつけるグゴガイン。
だがネッドには、これがアリシアの気まぐれな”イタズラ”である事にすぐに気が付いた。あ~ぁ、食堂に行ったあと、面倒な事になりそうだ。そう思うネッドであったが、今はどうする事も出来ない捕らわれの身である。
やがてグゴガイン隊長、レフィール侍女頭、そして兵隊に拘束された憐れなネッドが、食堂の前に設置された大仰なドアの前にやって来た。
「魔王陛下。王女様の御命令により、侵入者を連行いたしました」
「うむ、入れ」
ドア越しに響く声。ギルマスのガント・ライザーとは、別の意味で重厚な趣がある。
魔法により自然に開くドアをくぐると、大きな食卓には、小規模ながら持て成しの料理が並べられ、既に魔王、王妃、アリシアが席についていた。
「へ、陛下。これは一体……?」
余りにも意外な光景に、屈強の魔戦士グゴガインも呆気にとられた。一方、無邪気に手を振るアリシアを見て、ネッドはため息をつく。それはこれから起きる事に、おおよその見当がついたからだ。
「いい機会だと思ってな。近衛兵隊長グゴガイン、侍女頭レフィール。そこにおられるのが、我が娘アリシアのマスターであり、許嫁のネッド・ライザー殿だ」
一瞬の沈黙が、食堂を支配する。
「えぇっ! こ、こいつが、い、いやこの方が王女様の……!」
「そ、そんな!」
余りの知らせにグゴガイン、レフィール共に思わず声をあげる。
いつからか魔王城の中では、王女が誰かの使い魔になったという話が噂に上ってはいた。だが、あくまで噂である。仮にも魔王の娘が使い魔になるなどとは常識で考えられる事ではない。だが、それは現実だったのだ。しかもマスターが”人間”などとは、魔王の配下にとっては、青天の霹靂という言葉で表す事すら生ぬるいであろう。
さぁ、来るぞ、来るぞ。来ないでほしいけど、確実に来るぞ。ネッドは数秒後に訪れる”凶事”を憂いた。
グゴガインが、部下に命ずる。
「お待ちください。それはなりません」
衛兵たちをかき分けて、中年に見える女性悪魔が進み出た。
「おぉ、これは侍女頭のレーフィル殿。突然どうされました。それに、我らの仕事へ口をお出しになられるとは!」
自分の職務にちょっかいを出され、隊長は少々不機嫌そうである。
「アリシアお嬢様の命令です。その者を、今すぐ魔王様の御前へ引き出すようにとの事」
レーフィルは落ち着いた、しかし有無を言わせぬ口調で王女の命令を伝達した。
「お嬢様が……。なるほど、であれば是非もない」
さしもの隊長も、魔王の娘アリシア王女の命令とあれば、従わぬわけには行かない。ネッドは屈強な魔王軍衛兵に両脇を抱えられ、謁見の間に連れて行かれようとする。
「あ、申し訳ありません。その者は謁見の間ではなく、食堂の方へ連れてくるようにとの事です」
レフィールが、慌てて付け加えた。
「なんと、食堂とな? それは面妖な。何故、不埒な侵入者を食堂に?」
「それは分かりませぬが、お嬢様の命である以上、そうお願い致します。あと、私も一緒に来るよう、仰せ使っております」
怪訝な顔をする隊長に、こちらも事情が分からぬとばかりに、伝言のみを伝える侍女頭であった。
「お前、一体なにをやらかしたんだ? まさか食堂で、お前を食ってしまおうという腹づもりでもあるまい」
納得しがたい命令への不満を、ネッドにぶつけるグゴガイン。
だがネッドには、これがアリシアの気まぐれな”イタズラ”である事にすぐに気が付いた。あ~ぁ、食堂に行ったあと、面倒な事になりそうだ。そう思うネッドであったが、今はどうする事も出来ない捕らわれの身である。
やがてグゴガイン隊長、レフィール侍女頭、そして兵隊に拘束された憐れなネッドが、食堂の前に設置された大仰なドアの前にやって来た。
「魔王陛下。王女様の御命令により、侵入者を連行いたしました」
「うむ、入れ」
ドア越しに響く声。ギルマスのガント・ライザーとは、別の意味で重厚な趣がある。
魔法により自然に開くドアをくぐると、大きな食卓には、小規模ながら持て成しの料理が並べられ、既に魔王、王妃、アリシアが席についていた。
「へ、陛下。これは一体……?」
余りにも意外な光景に、屈強の魔戦士グゴガインも呆気にとられた。一方、無邪気に手を振るアリシアを見て、ネッドはため息をつく。それはこれから起きる事に、おおよその見当がついたからだ。
「いい機会だと思ってな。近衛兵隊長グゴガイン、侍女頭レフィール。そこにおられるのが、我が娘アリシアのマスターであり、許嫁のネッド・ライザー殿だ」
一瞬の沈黙が、食堂を支配する。
「えぇっ! こ、こいつが、い、いやこの方が王女様の……!」
「そ、そんな!」
余りの知らせにグゴガイン、レフィール共に思わず声をあげる。
いつからか魔王城の中では、王女が誰かの使い魔になったという話が噂に上ってはいた。だが、あくまで噂である。仮にも魔王の娘が使い魔になるなどとは常識で考えられる事ではない。だが、それは現実だったのだ。しかもマスターが”人間”などとは、魔王の配下にとっては、青天の霹靂という言葉で表す事すら生ぬるいであろう。
さぁ、来るぞ、来るぞ。来ないでほしいけど、確実に来るぞ。ネッドは数秒後に訪れる”凶事”を憂いた。
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