36 / 153
来るべき憂鬱
しおりを挟む
「よし、こやつを地下牢に放り込んでおけ!」
グゴガインが、部下に命ずる。
「お待ちください。それはなりません」
衛兵たちをかき分けて、中年に見える女性悪魔が進み出た。
「おぉ、これは侍女頭のレーフィル殿。突然どうされました。それに、我らの仕事へ口をお出しになられるとは!」
自分の職務にちょっかいを出され、隊長は少々不機嫌そうである。
「アリシアお嬢様の命令です。その者を、今すぐ魔王様の御前へ引き出すようにとの事」
レーフィルは落ち着いた、しかし有無を言わせぬ口調で王女の命令を伝達した。
「お嬢様が……。なるほど、であれば是非もない」
さしもの隊長も、魔王の娘アリシア王女の命令とあれば、従わぬわけには行かない。ネッドは屈強な魔王軍衛兵に両脇を抱えられ、謁見の間に連れて行かれようとする。
「あ、申し訳ありません。その者は謁見の間ではなく、食堂の方へ連れてくるようにとの事です」
レフィールが、慌てて付け加えた。
「なんと、食堂とな? それは面妖な。何故、不埒な侵入者を食堂に?」
「それは分かりませぬが、お嬢様の命である以上、そうお願い致します。あと、私も一緒に来るよう、仰せ使っております」
怪訝な顔をする隊長に、こちらも事情が分からぬとばかりに、伝言のみを伝える侍女頭であった。
「お前、一体なにをやらかしたんだ? まさか食堂で、お前を食ってしまおうという腹づもりでもあるまい」
納得しがたい命令への不満を、ネッドにぶつけるグゴガイン。
だがネッドには、これがアリシアの気まぐれな”イタズラ”である事にすぐに気が付いた。あ~ぁ、食堂に行ったあと、面倒な事になりそうだ。そう思うネッドであったが、今はどうする事も出来ない捕らわれの身である。
やがてグゴガイン隊長、レフィール侍女頭、そして兵隊に拘束された憐れなネッドが、食堂の前に設置された大仰なドアの前にやって来た。
「魔王陛下。王女様の御命令により、侵入者を連行いたしました」
「うむ、入れ」
ドア越しに響く声。ギルマスのガント・ライザーとは、別の意味で重厚な趣がある。
魔法により自然に開くドアをくぐると、大きな食卓には、小規模ながら持て成しの料理が並べられ、既に魔王、王妃、アリシアが席についていた。
「へ、陛下。これは一体……?」
余りにも意外な光景に、屈強の魔戦士グゴガインも呆気にとられた。一方、無邪気に手を振るアリシアを見て、ネッドはため息をつく。それはこれから起きる事に、おおよその見当がついたからだ。
「いい機会だと思ってな。近衛兵隊長グゴガイン、侍女頭レフィール。そこにおられるのが、我が娘アリシアのマスターであり、許嫁のネッド・ライザー殿だ」
一瞬の沈黙が、食堂を支配する。
「えぇっ! こ、こいつが、い、いやこの方が王女様の……!」
「そ、そんな!」
余りの知らせにグゴガイン、レフィール共に思わず声をあげる。
いつからか魔王城の中では、王女が誰かの使い魔になったという話が噂に上ってはいた。だが、あくまで噂である。仮にも魔王の娘が使い魔になるなどとは常識で考えられる事ではない。だが、それは現実だったのだ。しかもマスターが”人間”などとは、魔王の配下にとっては、青天の霹靂という言葉で表す事すら生ぬるいであろう。
さぁ、来るぞ、来るぞ。来ないでほしいけど、確実に来るぞ。ネッドは数秒後に訪れる”凶事”を憂いた。
グゴガインが、部下に命ずる。
「お待ちください。それはなりません」
衛兵たちをかき分けて、中年に見える女性悪魔が進み出た。
「おぉ、これは侍女頭のレーフィル殿。突然どうされました。それに、我らの仕事へ口をお出しになられるとは!」
自分の職務にちょっかいを出され、隊長は少々不機嫌そうである。
「アリシアお嬢様の命令です。その者を、今すぐ魔王様の御前へ引き出すようにとの事」
レーフィルは落ち着いた、しかし有無を言わせぬ口調で王女の命令を伝達した。
「お嬢様が……。なるほど、であれば是非もない」
さしもの隊長も、魔王の娘アリシア王女の命令とあれば、従わぬわけには行かない。ネッドは屈強な魔王軍衛兵に両脇を抱えられ、謁見の間に連れて行かれようとする。
「あ、申し訳ありません。その者は謁見の間ではなく、食堂の方へ連れてくるようにとの事です」
レフィールが、慌てて付け加えた。
「なんと、食堂とな? それは面妖な。何故、不埒な侵入者を食堂に?」
「それは分かりませぬが、お嬢様の命である以上、そうお願い致します。あと、私も一緒に来るよう、仰せ使っております」
怪訝な顔をする隊長に、こちらも事情が分からぬとばかりに、伝言のみを伝える侍女頭であった。
「お前、一体なにをやらかしたんだ? まさか食堂で、お前を食ってしまおうという腹づもりでもあるまい」
納得しがたい命令への不満を、ネッドにぶつけるグゴガイン。
だがネッドには、これがアリシアの気まぐれな”イタズラ”である事にすぐに気が付いた。あ~ぁ、食堂に行ったあと、面倒な事になりそうだ。そう思うネッドであったが、今はどうする事も出来ない捕らわれの身である。
やがてグゴガイン隊長、レフィール侍女頭、そして兵隊に拘束された憐れなネッドが、食堂の前に設置された大仰なドアの前にやって来た。
「魔王陛下。王女様の御命令により、侵入者を連行いたしました」
「うむ、入れ」
ドア越しに響く声。ギルマスのガント・ライザーとは、別の意味で重厚な趣がある。
魔法により自然に開くドアをくぐると、大きな食卓には、小規模ながら持て成しの料理が並べられ、既に魔王、王妃、アリシアが席についていた。
「へ、陛下。これは一体……?」
余りにも意外な光景に、屈強の魔戦士グゴガインも呆気にとられた。一方、無邪気に手を振るアリシアを見て、ネッドはため息をつく。それはこれから起きる事に、おおよその見当がついたからだ。
「いい機会だと思ってな。近衛兵隊長グゴガイン、侍女頭レフィール。そこにおられるのが、我が娘アリシアのマスターであり、許嫁のネッド・ライザー殿だ」
一瞬の沈黙が、食堂を支配する。
「えぇっ! こ、こいつが、い、いやこの方が王女様の……!」
「そ、そんな!」
余りの知らせにグゴガイン、レフィール共に思わず声をあげる。
いつからか魔王城の中では、王女が誰かの使い魔になったという話が噂に上ってはいた。だが、あくまで噂である。仮にも魔王の娘が使い魔になるなどとは常識で考えられる事ではない。だが、それは現実だったのだ。しかもマスターが”人間”などとは、魔王の配下にとっては、青天の霹靂という言葉で表す事すら生ぬるいであろう。
さぁ、来るぞ、来るぞ。来ないでほしいけど、確実に来るぞ。ネッドは数秒後に訪れる”凶事”を憂いた。
0
あなたにおすすめの小説
真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます
難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』"
ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。
社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー……
……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!?
ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。
「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」
「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族!
「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」
かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、
竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。
「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」
人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、
やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。
——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、
「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。
世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、
最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕!
※小説家になろう様にも掲載しています。
【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~
きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。
前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。
異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる
役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !
本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。
主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。
その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。
そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。
主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。
ハーレム要素はしばらくありません。
田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした
月神世一
ファンタジー
「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」
ブラック企業で過労死した日本人、カイト。
彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。
女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。
孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった!
しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。
ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!?
ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!?
世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる!
「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。
これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!
【運命鑑定】で拾った訳あり美少女たち、SSS級に覚醒させたら俺への好感度がカンスト!? ~追放軍師、最強パーティ(全員嫁候補)と甘々ライフ~
月城 友麻
ファンタジー
『お前みたいな無能、最初から要らなかった』
恋人に裏切られ、仲間に陥れられ、家族に見捨てられた。
戦闘力ゼロの鑑定士レオンは、ある日全てを失った――――。
だが、絶望の底で覚醒したのは――未来が視える神スキル【運命鑑定】
導かれるまま向かった路地裏で出会ったのは、世界に見捨てられた四人の少女たち。
「……あんたも、どうせ私を利用するんでしょ」
「誰も本当の私なんて見てくれない」
「私の力は……人を傷つけるだけ」
「ボクは、誰かの『商品』なんかじゃない」
傷だらけで、誰にも才能を認められず、絶望していた彼女たち。
しかしレオンの【運命鑑定】は見抜いていた。
――彼女たちの潜在能力は、全員SSS級。
「君たちを、大陸最強にプロデュースする」
「「「「……はぁ!?」」」」
落ちこぼれ軍師と、訳あり美少女たちの逆転劇が始まる。
俺を捨てた奴らが土下座してきても――もう遅い。
◆爽快ざまぁ×美少女育成×成り上がりファンタジー、ここに開幕!
生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。
水定ゆう
ファンタジー
村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。
異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。
そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。
生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!
※とりあえず、一時完結いたしました。
今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。
その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
12/23 HOT男性向け1位
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる