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四十年前の真実(4)
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マリオンは前以上に心臓の鼓動を強く感じながら、リルゴットの森へと向かう。今度は早駆けの靴を履いているので、行きとは雲泥の差で目的地へと突っ走る。
機能付加職人の息子としてさげすまれて来た俺が、いま一世一代の賭けをしているのだ。成功すれば人生を変えられ、失敗すれば破滅が待っている。そう思うと、マリオンの胸はますます高鳴った。
森の入口へと近づいたマリオンは、かたずをのむ。果たして狼の群れは、まだいるだろか。そしてドラゼルは誰にも発見されず、まだあの岩の間にいるだろうか。眠りガスの効き目が切れているとは思えないので、この二つがクリア出来れば俺は成功に大きく近づける。
祈るような気持で、マリオンは平原へ入った。
どうだ?
果たして運命は、マリオンに微笑んだ。ゾラウルフの群れは、セルラビットを狩った後の昼寝の時間を楽しんでいる。彼らに見つからぬよう、慎重に岩場へと戻るマリオン。ドラゼルは、何も知らずにスヤスヤと眠っていた。これが彼の短い一生で、最後の安眠であるとも知らずに。
マリオンは、ドラゼルの顔にミミックの面を押し付けた。見る見る内に面の形がバカ子息の顔へと変わって行く。
「よし、ここまで来れば……」
計画の要をクリアしたマリオンは、ほんの少し安堵した。彼は次に自分の服とドラゼルの服を交換する。そして早駆けの靴を彼に履かせた。
「おい、起きろ!」
マリオンはドラゼルの顔を平手打ちにする。数回殴られた後、何事かと目を覚ますドラゼル。
「ふあぁ、よく眠ったなぁ。あれ、ここは何処だ……」
まだ寝ぼけているのか、ドラゼルは状況が飲み込めていない。だが目の前にいるマリオンが、自分の服を着ているのに気がつき驚いた。
「お前、何で僕の服を着てるんだ。あれっ……? どうして僕がお前の服を……」
ドラゼルの頭の中は、スライムが飛び跳ねているように混乱する。マリオンは、寝ぼけまなこのドラゼルをその場に立たせ、自らはひざまづいた。
「若様、お別れです」
マリオンは、この期に及んでほんの少しドラゼルが気の毒になったが、計画をやめる気などサラサラない。
「ほう! やっと僕のために、狼のところへ突っ込む気になったか!いい心がけだ」
服を入れ替えられている理由も聞かぬまま、ドラゼルは有頂天になった。
「突っ込むのは、あなたですよ、若様」
マリオンは、最後の挨拶を慇懃無礼に行う。
「何? どういう事だ、ふざけるな!」
ドラゼルは激高したが、マリオンがそんな事に耳を傾けるはずもなく、彼はドラセルに履かせた早駆けの靴をポンポンポンと三回たたいて魔力を操作した。”自動走行”モードが最高速度で発動する。疲れている時など、脚が勝手に前へ進む機能である。
「おい、何を?」
ドラゼルが言い終わるのを待たずに、早駆けの靴が動き出した。
「何だ、何だ。足が勝手に……」
ドラゼルは、ゾラウルフが昼寝をしている辺りを目指してゆっくりと走り出す。
「おい、マリオン。これはどういう事だ。何で僕は勝手に走り……」
だが彼にはその時、振り向く余裕すら既になく、狼の群れへとまっしぐらに駆け出した。
「おい、おい!と、止めろ。これは命令だ。さっさと僕を止めろ!」
やっと事態を飲み込み始めたドラゼルが叫ぶ。マリオンは狼たちに見つからぬよう岩陰に隠れ、事態の進展を岩の隙間から覗き見る。
「止めろ! 止めろと言ってるんだ! 僕は侯爵の息子だぞ! 言う事を聞かないと、酷い目に遭わせるぞ!!」
マリオンは冷たい目で、ドラゼルの言葉を楽しんだ。
「い、嫌だ。止めてれ! 止めて! 止めてぇ~!!」
横柄な命令口調から、既に泣きながらの懇願へと変わったドラゼルが、死の平原を全速力で疾走する。
そして昼寝をしていたゾラウルフは、惨めに喚きながら自分たちの方へと迫る人間の子供に気がついた。
おぉ、食後のデザートが、あっちの方から飛び込んで来たぞ!
狼たちが、そう思ったかどうかはわからない。だが最初に気づいた一匹が仲間を起こすと、群れはすぐに狩りの体制を整えた。ドラゼルの叫びは、もう何を言っているのかすらわからない。
憐れな侯爵子息は、狼たちのすぐ横を通り抜け森の方へと突っ走る。狼たちはすぐさま、その”エサ”を追いかけた。早駆けの靴を履いているとはいえ、所詮は子供の足である。ドラゼルは、森の入り口辺りで追いつかれてしまった。か細い声が一声あがると、後は狼どものやりたい放題となる。
マリオンはその様子を、一時も目を離さず見つめていた。まだ、最後の仕上げが残っているからである。二十分あまりが過ぎたろうか。狼たちは満足した様子で、森の奥へと消えて去った。辺りを確認したマリオンは、恐る恐る惨劇の現場へと赴いた。
そこにはもはや、人の原型を留めぬ肉塊が散らばっており、大人でも嘔吐してしまいそうな有様である。だが、既に悪魔のしもべと化したマリオンは動じない。ドラゼルであった残骸に、髪の毛が残っていないかを丹念に確認した。
マリオンとドラゼルの外見上の大きな違い。それは髪の毛の色である。いくらマリオンが着ていた洋服の切れ端が残っていても、肉塊に付着している髪の毛の色がドラゼルのものでは意味がない。
だが、ここでも運命の神はマリオンに味方した。僅かに髪の毛が残されてはいたものの、それは真っ赤な血に染まり、もはや元の色など分からない。
成功だ。
マリオンは、余りの完璧ぶりに身震いをした。後は岩場に戻って誰かが捜しに来るのを待ち、ドラゼルを演じるだけである。何、恐怖のあまり正気を失ったフリをすれば何とかなるさ。この先は運ではなく、自らの才覚だとマリオンは自分自身に言い聞かせた。
全てが、ここから始まるのだ。
マリオンはミミックの面をつけ、その場に横たわる。あれほど激しく脈打っていた彼の心臓は、既に悪魔の静寂さを取り戻していた。
*********************
四十年後のマリオンは、ここで一息ついた。彼の話を驚愕の内に聞いていたネッドとリュランも、つられて大きくため息を漏らす。
機能付加職人の息子としてさげすまれて来た俺が、いま一世一代の賭けをしているのだ。成功すれば人生を変えられ、失敗すれば破滅が待っている。そう思うと、マリオンの胸はますます高鳴った。
森の入口へと近づいたマリオンは、かたずをのむ。果たして狼の群れは、まだいるだろか。そしてドラゼルは誰にも発見されず、まだあの岩の間にいるだろうか。眠りガスの効き目が切れているとは思えないので、この二つがクリア出来れば俺は成功に大きく近づける。
祈るような気持で、マリオンは平原へ入った。
どうだ?
果たして運命は、マリオンに微笑んだ。ゾラウルフの群れは、セルラビットを狩った後の昼寝の時間を楽しんでいる。彼らに見つからぬよう、慎重に岩場へと戻るマリオン。ドラゼルは、何も知らずにスヤスヤと眠っていた。これが彼の短い一生で、最後の安眠であるとも知らずに。
マリオンは、ドラゼルの顔にミミックの面を押し付けた。見る見る内に面の形がバカ子息の顔へと変わって行く。
「よし、ここまで来れば……」
計画の要をクリアしたマリオンは、ほんの少し安堵した。彼は次に自分の服とドラゼルの服を交換する。そして早駆けの靴を彼に履かせた。
「おい、起きろ!」
マリオンはドラゼルの顔を平手打ちにする。数回殴られた後、何事かと目を覚ますドラゼル。
「ふあぁ、よく眠ったなぁ。あれ、ここは何処だ……」
まだ寝ぼけているのか、ドラゼルは状況が飲み込めていない。だが目の前にいるマリオンが、自分の服を着ているのに気がつき驚いた。
「お前、何で僕の服を着てるんだ。あれっ……? どうして僕がお前の服を……」
ドラゼルの頭の中は、スライムが飛び跳ねているように混乱する。マリオンは、寝ぼけまなこのドラゼルをその場に立たせ、自らはひざまづいた。
「若様、お別れです」
マリオンは、この期に及んでほんの少しドラゼルが気の毒になったが、計画をやめる気などサラサラない。
「ほう! やっと僕のために、狼のところへ突っ込む気になったか!いい心がけだ」
服を入れ替えられている理由も聞かぬまま、ドラゼルは有頂天になった。
「突っ込むのは、あなたですよ、若様」
マリオンは、最後の挨拶を慇懃無礼に行う。
「何? どういう事だ、ふざけるな!」
ドラゼルは激高したが、マリオンがそんな事に耳を傾けるはずもなく、彼はドラセルに履かせた早駆けの靴をポンポンポンと三回たたいて魔力を操作した。”自動走行”モードが最高速度で発動する。疲れている時など、脚が勝手に前へ進む機能である。
「おい、何を?」
ドラゼルが言い終わるのを待たずに、早駆けの靴が動き出した。
「何だ、何だ。足が勝手に……」
ドラゼルは、ゾラウルフが昼寝をしている辺りを目指してゆっくりと走り出す。
「おい、マリオン。これはどういう事だ。何で僕は勝手に走り……」
だが彼にはその時、振り向く余裕すら既になく、狼の群れへとまっしぐらに駆け出した。
「おい、おい!と、止めろ。これは命令だ。さっさと僕を止めろ!」
やっと事態を飲み込み始めたドラゼルが叫ぶ。マリオンは狼たちに見つからぬよう岩陰に隠れ、事態の進展を岩の隙間から覗き見る。
「止めろ! 止めろと言ってるんだ! 僕は侯爵の息子だぞ! 言う事を聞かないと、酷い目に遭わせるぞ!!」
マリオンは冷たい目で、ドラゼルの言葉を楽しんだ。
「い、嫌だ。止めてれ! 止めて! 止めてぇ~!!」
横柄な命令口調から、既に泣きながらの懇願へと変わったドラゼルが、死の平原を全速力で疾走する。
そして昼寝をしていたゾラウルフは、惨めに喚きながら自分たちの方へと迫る人間の子供に気がついた。
おぉ、食後のデザートが、あっちの方から飛び込んで来たぞ!
狼たちが、そう思ったかどうかはわからない。だが最初に気づいた一匹が仲間を起こすと、群れはすぐに狩りの体制を整えた。ドラゼルの叫びは、もう何を言っているのかすらわからない。
憐れな侯爵子息は、狼たちのすぐ横を通り抜け森の方へと突っ走る。狼たちはすぐさま、その”エサ”を追いかけた。早駆けの靴を履いているとはいえ、所詮は子供の足である。ドラゼルは、森の入り口辺りで追いつかれてしまった。か細い声が一声あがると、後は狼どものやりたい放題となる。
マリオンはその様子を、一時も目を離さず見つめていた。まだ、最後の仕上げが残っているからである。二十分あまりが過ぎたろうか。狼たちは満足した様子で、森の奥へと消えて去った。辺りを確認したマリオンは、恐る恐る惨劇の現場へと赴いた。
そこにはもはや、人の原型を留めぬ肉塊が散らばっており、大人でも嘔吐してしまいそうな有様である。だが、既に悪魔のしもべと化したマリオンは動じない。ドラゼルであった残骸に、髪の毛が残っていないかを丹念に確認した。
マリオンとドラゼルの外見上の大きな違い。それは髪の毛の色である。いくらマリオンが着ていた洋服の切れ端が残っていても、肉塊に付着している髪の毛の色がドラゼルのものでは意味がない。
だが、ここでも運命の神はマリオンに味方した。僅かに髪の毛が残されてはいたものの、それは真っ赤な血に染まり、もはや元の色など分からない。
成功だ。
マリオンは、余りの完璧ぶりに身震いをした。後は岩場に戻って誰かが捜しに来るのを待ち、ドラゼルを演じるだけである。何、恐怖のあまり正気を失ったフリをすれば何とかなるさ。この先は運ではなく、自らの才覚だとマリオンは自分自身に言い聞かせた。
全てが、ここから始まるのだ。
マリオンはミミックの面をつけ、その場に横たわる。あれほど激しく脈打っていた彼の心臓は、既に悪魔の静寂さを取り戻していた。
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