騎士をやめて機能付加職人になったけど、妹が厳しすぎて困ります 【第一部 ホントウ】

藻ノかたり

文字の大きさ
141 / 153

四十年前の真実(4)

しおりを挟む
マリオンは前以上に心臓の鼓動を強く感じながら、リルゴットの森へと向かう。今度は早駆けの靴を履いているので、行きとは雲泥の差で目的地へと突っ走る。

機能付加職人の息子としてさげすまれて来た俺が、いま一世一代の賭けをしているのだ。成功すれば人生を変えられ、失敗すれば破滅が待っている。そう思うと、マリオンの胸はますます高鳴った。

森の入口へと近づいたマリオンは、かたずをのむ。果たして狼の群れは、まだいるだろか。そしてドラゼルは誰にも発見されず、まだあの岩の間にいるだろうか。眠りガスの効き目が切れているとは思えないので、この二つがクリア出来れば俺は成功に大きく近づける。

祈るような気持で、マリオンは平原へ入った。

どうだ?

果たして運命は、マリオンに微笑んだ。ゾラウルフの群れは、セルラビットを狩った後の昼寝の時間を楽しんでいる。彼らに見つからぬよう、慎重に岩場へと戻るマリオン。ドラゼルは、何も知らずにスヤスヤと眠っていた。これが彼の短い一生で、最後の安眠であるとも知らずに。

マリオンは、ドラゼルの顔にミミックの面を押し付けた。見る見る内に面の形がバカ子息の顔へと変わって行く。

「よし、ここまで来れば……」

計画の要をクリアしたマリオンは、ほんの少し安堵した。彼は次に自分の服とドラゼルの服を交換する。そして早駆けの靴を彼に履かせた。

「おい、起きろ!」

マリオンはドラゼルの顔を平手打ちにする。数回殴られた後、何事かと目を覚ますドラゼル。

「ふあぁ、よく眠ったなぁ。あれ、ここは何処だ……」

まだ寝ぼけているのか、ドラゼルは状況が飲み込めていない。だが目の前にいるマリオンが、自分の服を着ているのに気がつき驚いた。

「お前、何で僕の服を着てるんだ。あれっ……? どうして僕がお前の服を……」

ドラゼルの頭の中は、スライムが飛び跳ねているように混乱する。マリオンは、寝ぼけまなこのドラゼルをその場に立たせ、自らはひざまづいた。

「若様、お別れです」

マリオンは、この期に及んでほんの少しドラゼルが気の毒になったが、計画をやめる気などサラサラない。

「ほう! やっと僕のために、狼のところへ突っ込む気になったか!いい心がけだ」

服を入れ替えられている理由も聞かぬまま、ドラゼルは有頂天になった。

「突っ込むのは、あなたですよ、若様」

マリオンは、最後の挨拶を慇懃無礼に行う。

「何? どういう事だ、ふざけるな!」

ドラゼルは激高したが、マリオンがそんな事に耳を傾けるはずもなく、彼はドラセルに履かせた早駆けの靴をポンポンポンと三回たたいて魔力を操作した。”自動走行”モードが最高速度で発動する。疲れている時など、脚が勝手に前へ進む機能である。

「おい、何を?」

ドラゼルが言い終わるのを待たずに、早駆けの靴が動き出した。

「何だ、何だ。足が勝手に……」

ドラゼルは、ゾラウルフが昼寝をしている辺りを目指してゆっくりと走り出す。

「おい、マリオン。これはどういう事だ。何で僕は勝手に走り……」

だが彼にはその時、振り向く余裕すら既になく、狼の群れへとまっしぐらに駆け出した。

「おい、おい!と、止めろ。これは命令だ。さっさと僕を止めろ!」

やっと事態を飲み込み始めたドラゼルが叫ぶ。マリオンは狼たちに見つからぬよう岩陰に隠れ、事態の進展を岩の隙間から覗き見る。

「止めろ! 止めろと言ってるんだ! 僕は侯爵の息子だぞ! 言う事を聞かないと、酷い目に遭わせるぞ!!」

マリオンは冷たい目で、ドラゼルの言葉を楽しんだ。

「い、嫌だ。止めてれ! 止めて! 止めてぇ~!!」

横柄な命令口調から、既に泣きながらの懇願へと変わったドラゼルが、死の平原を全速力で疾走する。

そして昼寝をしていたゾラウルフは、惨めに喚きながら自分たちの方へと迫る人間の子供に気がついた。

おぉ、食後のデザートが、あっちの方から飛び込んで来たぞ!

狼たちが、そう思ったかどうかはわからない。だが最初に気づいた一匹が仲間を起こすと、群れはすぐに狩りの体制を整えた。ドラゼルの叫びは、もう何を言っているのかすらわからない。

憐れな侯爵子息は、狼たちのすぐ横を通り抜け森の方へと突っ走る。狼たちはすぐさま、その”エサ”を追いかけた。早駆けの靴を履いているとはいえ、所詮は子供の足である。ドラゼルは、森の入り口辺りで追いつかれてしまった。か細い声が一声あがると、後は狼どものやりたい放題となる。

マリオンはその様子を、一時も目を離さず見つめていた。まだ、最後の仕上げが残っているからである。二十分あまりが過ぎたろうか。狼たちは満足した様子で、森の奥へと消えて去った。辺りを確認したマリオンは、恐る恐る惨劇の現場へと赴いた。

そこにはもはや、人の原型を留めぬ肉塊が散らばっており、大人でも嘔吐してしまいそうな有様である。だが、既に悪魔のしもべと化したマリオンは動じない。ドラゼルであった残骸に、髪の毛が残っていないかを丹念に確認した。

マリオンとドラゼルの外見上の大きな違い。それは髪の毛の色である。いくらマリオンが着ていた洋服の切れ端が残っていても、肉塊に付着している髪の毛の色がドラゼルのものでは意味がない。

だが、ここでも運命の神はマリオンに味方した。僅かに髪の毛が残されてはいたものの、それは真っ赤な血に染まり、もはや元の色など分からない。

成功だ。

マリオンは、余りの完璧ぶりに身震いをした。後は岩場に戻って誰かが捜しに来るのを待ち、ドラゼルを演じるだけである。何、恐怖のあまり正気を失ったフリをすれば何とかなるさ。この先は運ではなく、自らの才覚だとマリオンは自分自身に言い聞かせた。

全てが、ここから始まるのだ。

マリオンはミミックの面をつけ、その場に横たわる。あれほど激しく脈打っていた彼の心臓は、既に悪魔の静寂さを取り戻していた。

*********************

四十年後のマリオンは、ここで一息ついた。彼の話を驚愕の内に聞いていたネッドとリュランも、つられて大きくため息を漏らす。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~

きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。 前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !

本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。  主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。 その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。  そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。 主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。  ハーレム要素はしばらくありません。

田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした

月神世一
ファンタジー
​「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」 ​ ​ブラック企業で過労死した日本人、カイト。 彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。 ​女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。 ​孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった! ​しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。 ​ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!? ​ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!? ​世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる! ​「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。 これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!

【運命鑑定】で拾った訳あり美少女たち、SSS級に覚醒させたら俺への好感度がカンスト!? ~追放軍師、最強パーティ(全員嫁候補)と甘々ライフ~

月城 友麻
ファンタジー
『お前みたいな無能、最初から要らなかった』 恋人に裏切られ、仲間に陥れられ、家族に見捨てられた。 戦闘力ゼロの鑑定士レオンは、ある日全てを失った――――。 だが、絶望の底で覚醒したのは――未来が視える神スキル【運命鑑定】 導かれるまま向かった路地裏で出会ったのは、世界に見捨てられた四人の少女たち。 「……あんたも、どうせ私を利用するんでしょ」 「誰も本当の私なんて見てくれない」 「私の力は……人を傷つけるだけ」 「ボクは、誰かの『商品』なんかじゃない」 傷だらけで、誰にも才能を認められず、絶望していた彼女たち。 しかしレオンの【運命鑑定】は見抜いていた。 ――彼女たちの潜在能力は、全員SSS級。 「君たちを、大陸最強にプロデュースする」 「「「「……はぁ!?」」」」 落ちこぼれ軍師と、訳あり美少女たちの逆転劇が始まる。 俺を捨てた奴らが土下座してきても――もう遅い。 ◆爽快ざまぁ×美少女育成×成り上がりファンタジー、ここに開幕!

生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。

水定ゆう
ファンタジー
 村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。  異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。  そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。  生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!  ※とりあえず、一時完結いたしました。  今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。  その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

処理中です...