ヴォルノースの森の なんてことない毎日

藻ノかたり

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癒しの剣 (15) メタルハート

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「お前、鈍いの。メタルハートは、どういう材質で出来ていると思う?」

「そりゃ、メタルだから文字通り金属でしょ? それもパーパスさまの話だと、あの伝説の金属”ミスリル”で出来ているそうですね。

確か非常に珍しいばかりでなく、軽くて強固、おまけに錆びたり腐食する事もない。わざと壊さない限りは、半永久的にその形を保つと言われている……。

ただその分、加工が非常に難しいと」

カラクリ人形が、自分の体について解説します。

「その通り、よく覚えているの。……なぁ、ここまで言ってわからんかの? ワシはメタルハートに魔法をかけたが、ワシ自身がそれを作ったわけではない。ワシにそんな技術がない事は、お前も知っておろう。

つまりワシは、既にあったメタルハートに、命の魔法を施しただけなのじゃよ」

パーパスは、シュプリン自らが回答を導き出せるように語りました。

「まぁ、あなたはこれまで幾つもの私のボディを作ったのですから、小器用である事に間違いはないんでしょうが、さすがにミスリルを使って繊細な加工をするなんて、まず出来っこありません。

それをするには、よっぽど優秀な鍛冶屋が……」

シュプリンはそこまで言って、ハッと気がつきました。みなさんも、もうわかりましたよね。

「じ、じゃぁ、私の心臓を作ったのは、今の話に出て来たホンドレック!?」

カラクリ人形が、驚きの声を挙げました。

「ようやく気がついたか、バカ者め。その通りじゃよ。護衛官に化けて、ホンドレックの仕事っぷりをつぶさに見ていたワシが、お前を造るに当たって白羽の矢を立てたわけじゃ」

パーパスはアイスクリームを食べ終え、スプーンをアイスグラスに置きました。

「この意味がわかるかの?」

パーパスは、更に続けます。

「意味?」

シュプリンが、怪訝な顔をしました。

「よく聞けよ。ワシが侯爵の謀反を察知しなければ、ホンドレックは本物の護衛官に殺されていたじゃろう。そうなれば、ワシはホンドレックの存在さえ知らなかったわけだ。

当然、あやつほどの腕を持った者はそうはいないから、メタルハートが作られる事もなく、お前がこの世に生まれてくる事もなかった」

「つまり?」

勿体ぶったパーパスの言い様に、シュプリンが少しイラつきます。

「つ、ま、り、ワシが優秀だったからこそ、お前は今ここに居るわけじゃよ。ワシの非凡な能力に感謝しなさい」

パーパスは、ヒゲを撫でつけながら言いました。

「あぁ、また自慢ですか。本当に困ったご主人様だこと」

シュプリンがそう言うと、これは言い過ぎたかなと後悔した大魔法使いは、そそくさと立ち上がり、元気いっぱい、また地下の魔法書庫へと向かいました。

「腰の痛みは、もう治ったようですね」

そう言いながら、シュプリンは自分の左胸、メタルハートのあるところをそっと触ります。そして、自分が生まれ出るのに大切な役割を担ってくれた古の職人に思いをはせるのでした。

そして心の中で、こうつぶやきます。

ありがとう、もう一人のお父さん。


【癒しの剣・終】
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