1 / 1
猛将王子モルバンティーの謎
しおりを挟む
モルバンティーは王の息子であると同時に、生まれながらにして猛将の称号を持つ身であった。彼は幼い頃より厳しい訓練に明け暮れ、そして十八歳となった朝、従者と共に魔王討伐の旅に出る。国民も王家の者も、みな彼らに期待をし、盛大な見送りの儀式が行われた。
王子は数々の危機に直面したが、その度に猛将の名に恥じぬ活躍で、困難を果敢に撥ね退けていく。そんな順調に思える旅路ではあったものの、王子には、常に一つの疑問が付きまとっていた。時々、記憶の欠落が起きるのだ。それは大抵、危機に瀕した時であり、意識がなくなったかと思うと、次にはそこより少し時間が経った場面からの記憶しかない。
仲間の一人、異世界よりの召喚者と噂のある魔法使いノイドルに尋ねると、彼は、
「王子よ。それはあなたが絶体絶命の危機に陥った時、特殊能力”神の加護”が発動して、短時間の間、あなたは無敵の強さを誇るのです。しかし、あなたの話を聞く限り、その間の記憶はなくなるらしい」
と、教えてくれた。
納得したようなしないような複雑な気持を抱えつつ、彼らはいよいよ魔王と対決する事になる。激しい攻防の中、王子は幾度も記憶の欠落を覚えるが、激闘の末、魔王を打ち破った。
国へと凱旋する王子一向。しかし王子は、魔王の最後の言葉が気に掛かっていた。
「王子よ。呪われた運命の者!」
その言葉について、仲間は単なる”負け惜しみ”だと口を揃えたが、王子は合点がいかなかった。
猛将王子一行の本懐を知り、国中が沸き立った。城での豪勢な祝勝会の中、年老いた王が中座をする。それを見た魔法使いが後を追った。
ここは城の中でも、ごく一部の者しか知らぬ場所。秘密の会議をする時などに使われる部屋だ。
「魔法使いノイドルよ、ご苦労だった。わかっているとは思うが”あの事”を王子に悟られてはいまいな」
王が、言った。
「はい、王様。ご心配には及びません。それに当初の約束通り、他の仲間の記憶も、後ほど私が消去致します。もちろん皆、国と王子の為ならばと、喜んで承知をしてくれました」
魔法使いが、答える。
「で、一体”何人の王子”が、犠牲になったのだ?」
王が、意外な質問をした。
「はい、全部で十五人です。特に魔王との戦いは予想以上に厳しく、そこで七人が犠牲となりました」
「そうか、つらいな。そしてもっとつらいのは、今、祝勝会で栄光の真っただ中にいる王子が十六人目の犠牲となる事だ」
王の口が重くなる。
「どうか、お心を痛めぬように……。幸いにもと言っては何ですが、十六人目の王子に関しては、しかるべき時に眠っている所を処置致します」
魔法使いが、王を気遣った。
数日間にわたる宴も幕を閉じ、静まり返った城の中。地下深くにある実験室のベッドの上に、二人の王子が意識なく横たわっている。その前に立つ魔法使いノイドル。彼の後ろには数名の家来がいた。
「では、これから記憶の書き換えを始める」
ノイドルは、十六人目の王子の記憶を”オリジナル”の王子へと移し替えた。
魔法処置が終わり、本物の王子は自室のベッドへと運ばれる。
「すまないな。でも祝勝会は、楽しかっただろう?」
ノイドルはそう呟くと、残された十六人目の王子に消滅の魔法をかけた。煙のように消えうせる王子の姿。
バイオ科学における若き天才、ノイドル・ヘラングッドがこちらの世界に召喚されて十年。彼は持ち前の知識とこの世界の魔法を融合し、完璧なクローン技術を確立させた。そして王子が旅立つ直前、彼のクローンを複数体作り出し、それを縮小魔法で親指程度の大きさに小型化したのである。もとよりオリジナルの王子には眠りの魔法をかけ、城の中へ留めおいた。
もう、おわかりであろう。
旅に出た王子は全てクローンであり、危機に瀕して王子が死亡するたびに、元の大きさに戻した新たなクローンに記憶を引き継ぎ旅を続ける。その過程で死亡から復活までのわずかな時間、王子は何も経験していないので、その分、記憶の欠落が生じたのであった。
魔法使いノイドルは思う。
良心が痛まないと言えば嘘になる。元いた世界では、倫理的に絶対許されない行為であろう。だが私の技術が”安全に”世界を救ったのだ。これは科学者冥利に尽きると言っても過言でない。
ノイドルはこれまで病死を繰り返し、今では四番目になるクローンの王の元へと報告に赴いた。
【猛将王子の謎・終】
王子は数々の危機に直面したが、その度に猛将の名に恥じぬ活躍で、困難を果敢に撥ね退けていく。そんな順調に思える旅路ではあったものの、王子には、常に一つの疑問が付きまとっていた。時々、記憶の欠落が起きるのだ。それは大抵、危機に瀕した時であり、意識がなくなったかと思うと、次にはそこより少し時間が経った場面からの記憶しかない。
仲間の一人、異世界よりの召喚者と噂のある魔法使いノイドルに尋ねると、彼は、
「王子よ。それはあなたが絶体絶命の危機に陥った時、特殊能力”神の加護”が発動して、短時間の間、あなたは無敵の強さを誇るのです。しかし、あなたの話を聞く限り、その間の記憶はなくなるらしい」
と、教えてくれた。
納得したようなしないような複雑な気持を抱えつつ、彼らはいよいよ魔王と対決する事になる。激しい攻防の中、王子は幾度も記憶の欠落を覚えるが、激闘の末、魔王を打ち破った。
国へと凱旋する王子一向。しかし王子は、魔王の最後の言葉が気に掛かっていた。
「王子よ。呪われた運命の者!」
その言葉について、仲間は単なる”負け惜しみ”だと口を揃えたが、王子は合点がいかなかった。
猛将王子一行の本懐を知り、国中が沸き立った。城での豪勢な祝勝会の中、年老いた王が中座をする。それを見た魔法使いが後を追った。
ここは城の中でも、ごく一部の者しか知らぬ場所。秘密の会議をする時などに使われる部屋だ。
「魔法使いノイドルよ、ご苦労だった。わかっているとは思うが”あの事”を王子に悟られてはいまいな」
王が、言った。
「はい、王様。ご心配には及びません。それに当初の約束通り、他の仲間の記憶も、後ほど私が消去致します。もちろん皆、国と王子の為ならばと、喜んで承知をしてくれました」
魔法使いが、答える。
「で、一体”何人の王子”が、犠牲になったのだ?」
王が、意外な質問をした。
「はい、全部で十五人です。特に魔王との戦いは予想以上に厳しく、そこで七人が犠牲となりました」
「そうか、つらいな。そしてもっとつらいのは、今、祝勝会で栄光の真っただ中にいる王子が十六人目の犠牲となる事だ」
王の口が重くなる。
「どうか、お心を痛めぬように……。幸いにもと言っては何ですが、十六人目の王子に関しては、しかるべき時に眠っている所を処置致します」
魔法使いが、王を気遣った。
数日間にわたる宴も幕を閉じ、静まり返った城の中。地下深くにある実験室のベッドの上に、二人の王子が意識なく横たわっている。その前に立つ魔法使いノイドル。彼の後ろには数名の家来がいた。
「では、これから記憶の書き換えを始める」
ノイドルは、十六人目の王子の記憶を”オリジナル”の王子へと移し替えた。
魔法処置が終わり、本物の王子は自室のベッドへと運ばれる。
「すまないな。でも祝勝会は、楽しかっただろう?」
ノイドルはそう呟くと、残された十六人目の王子に消滅の魔法をかけた。煙のように消えうせる王子の姿。
バイオ科学における若き天才、ノイドル・ヘラングッドがこちらの世界に召喚されて十年。彼は持ち前の知識とこの世界の魔法を融合し、完璧なクローン技術を確立させた。そして王子が旅立つ直前、彼のクローンを複数体作り出し、それを縮小魔法で親指程度の大きさに小型化したのである。もとよりオリジナルの王子には眠りの魔法をかけ、城の中へ留めおいた。
もう、おわかりであろう。
旅に出た王子は全てクローンであり、危機に瀕して王子が死亡するたびに、元の大きさに戻した新たなクローンに記憶を引き継ぎ旅を続ける。その過程で死亡から復活までのわずかな時間、王子は何も経験していないので、その分、記憶の欠落が生じたのであった。
魔法使いノイドルは思う。
良心が痛まないと言えば嘘になる。元いた世界では、倫理的に絶対許されない行為であろう。だが私の技術が”安全に”世界を救ったのだ。これは科学者冥利に尽きると言っても過言でない。
ノイドルはこれまで病死を繰り返し、今では四番目になるクローンの王の元へと報告に赴いた。
【猛将王子の謎・終】
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
婚約破棄から50年後
あんど もあ
ファンタジー
王立学園の卒業パーティーで、王子が婚約者に婚約破棄を宣言した。王子は真に愛する女性と結ばれ、めでたしめでたし。
そして50年後、王子の孫の王子は、婚約破棄された女性の孫と婚約する事に。そこで明かされた婚約破棄の真実とは。
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる