猛将王子 モルバンティーの謎

藻ノかたり

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猛将王子モルバンティーの謎

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モルバンティーは王の息子であると同時に、生まれながらにして猛将の称号を持つ身であった。彼は幼い頃より厳しい訓練に明け暮れ、そして十八歳となった朝、従者と共に魔王討伐の旅に出る。国民も王家の者も、みな彼らに期待をし、盛大な見送りの儀式が行われた。

王子は数々の危機に直面したが、その度に猛将の名に恥じぬ活躍で、困難を果敢に撥ね退けていく。そんな順調に思える旅路ではあったものの、王子には、常に一つの疑問が付きまとっていた。時々、記憶の欠落が起きるのだ。それは大抵、危機に瀕した時であり、意識がなくなったかと思うと、次にはそこより少し時間が経った場面からの記憶しかない。

仲間の一人、異世界よりの召喚者と噂のある魔法使いノイドルに尋ねると、彼は、

「王子よ。それはあなたが絶体絶命の危機に陥った時、特殊能力”神の加護”が発動して、短時間の間、あなたは無敵の強さを誇るのです。しかし、あなたの話を聞く限り、その間の記憶はなくなるらしい」

と、教えてくれた。

納得したようなしないような複雑な気持を抱えつつ、彼らはいよいよ魔王と対決する事になる。激しい攻防の中、王子は幾度も記憶の欠落を覚えるが、激闘の末、魔王を打ち破った。

国へと凱旋する王子一向。しかし王子は、魔王の最後の言葉が気に掛かっていた。

「王子よ。呪われた運命の者!」

その言葉について、仲間は単なる”負け惜しみ”だと口を揃えたが、王子は合点がいかなかった。

猛将王子一行の本懐を知り、国中が沸き立った。城での豪勢な祝勝会の中、年老いた王が中座をする。それを見た魔法使いが後を追った。

ここは城の中でも、ごく一部の者しか知らぬ場所。秘密の会議をする時などに使われる部屋だ。

「魔法使いノイドルよ、ご苦労だった。わかっているとは思うが”あの事”を王子に悟られてはいまいな」

王が、言った。

「はい、王様。ご心配には及びません。それに当初の約束通り、他の仲間の記憶も、後ほど私が消去致します。もちろん皆、国と王子の為ならばと、喜んで承知をしてくれました」

魔法使いが、答える。

「で、一体”何人の王子”が、犠牲になったのだ?」

王が、意外な質問をした。

「はい、全部で十五人です。特に魔王との戦いは予想以上に厳しく、そこで七人が犠牲となりました」

「そうか、つらいな。そしてもっとつらいのは、今、祝勝会で栄光の真っただ中にいる王子が十六人目の犠牲となる事だ」

王の口が重くなる。

「どうか、お心を痛めぬように……。幸いにもと言っては何ですが、十六人目の王子に関しては、しかるべき時に眠っている所を処置致します」

魔法使いが、王を気遣った。

数日間にわたる宴も幕を閉じ、静まり返った城の中。地下深くにある実験室のベッドの上に、二人の王子が意識なく横たわっている。その前に立つ魔法使いノイドル。彼の後ろには数名の家来がいた。

「では、これから記憶の書き換えを始める」

ノイドルは、十六人目の王子の記憶を”オリジナル”の王子へと移し替えた。

魔法処置が終わり、本物の王子は自室のベッドへと運ばれる。

「すまないな。でも祝勝会は、楽しかっただろう?」

ノイドルはそう呟くと、残された十六人目の王子に消滅の魔法をかけた。煙のように消えうせる王子の姿。

バイオ科学における若き天才、ノイドル・ヘラングッドがこちらの世界に召喚されて十年。彼は持ち前の知識とこの世界の魔法を融合し、完璧なクローン技術を確立させた。そして王子が旅立つ直前、彼のクローンを複数体作り出し、それを縮小魔法で親指程度の大きさに小型化したのである。もとよりオリジナルの王子には眠りの魔法をかけ、城の中へ留めおいた。

もう、おわかりであろう。

旅に出た王子は全てクローンであり、危機に瀕して王子が死亡するたびに、元の大きさに戻した新たなクローンに記憶を引き継ぎ旅を続ける。その過程で死亡から復活までのわずかな時間、王子は何も経験していないので、その分、記憶の欠落が生じたのであった。

魔法使いノイドルは思う。

良心が痛まないと言えば嘘になる。元いた世界では、倫理的に絶対許されない行為であろう。だが私の技術が”安全に”世界を救ったのだ。これは科学者冥利に尽きると言っても過言でない。

ノイドルはこれまで病死を繰り返し、今では四番目になるクローンの王の元へと報告に赴いた。


【猛将王子の謎・終】
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