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ダンジョン突入
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さて、具体的な呼び名をどうするか。パターンは幾つか決まっている。単純に名前を略したり、ファーストネームとファミリーネームのどちらかで短いものがあれば、そちらを使うというものだ。もっとも、元々の名前が短ければそのまま使用し、時には本名とは無関係の普段から使っているニックネームを用いる事もある。
短い話し合いの結果、とりあえずは次の呼び方に落ち着いた。
まずはゲルドーシュ、明らかに咄嗟に呼ぶには長い名前だ。そんな彼の探索ネームは大抵「ゲル」である。この戦士も、意外とその呼ばれ方を気に入っているらしい。
次にポピッカとザレドスであるが、彼らの名前はギリギリOKという事で、そのまま呼ばれる事となる。
そして最後にボクはといえば、ファーストネームの「スタン」に決定した。ただし、ゲルドーシュはボクの事を”旦那”と呼ぶ。まぁ、これくらいの融通は効かせても良いだろう。
やるべき事を終え、探索前の最後のお茶を皆ですする。ラウンジに常備されているルトファッサン小麦で作ったクッキーが、旅立ち前の短い休息を楽しいものにした。
「では、みなさん。そろそろお願い致します」
頃合を見計らったように役人が迎えに来る。
「よっしゃ、行くか!」
ゲルドーシュの掛け声を皮切りに各々が席を立ち、ボクたちは小洒落たラウンジをあとにした。
キャンプモードに変形したビークルから百メートルほど行ったところに、ダンジョンの入り口がある。建設当時からある扉の外側にもう一つ管理用の扉があり、その周りを州兵が物々しく取り囲んでいた。
役人の指示を受けた州兵隊長号令の下、一つ目の扉、そして二つ目の扉が開く。いやが上にも緊張感が高まっていく。あのゲルドーシュでさえ、生唾を飲み込んでいるのがハッキリと分かる。
「では皆さん、よろしくお願い致します。ご武運を」
決まり切った文句を依頼担当者の役人が無機質に発し、州兵が剣を胸中央にまで揚げ”捧げスウォード”の礼式を取った。敬意を表すというよりも、今やお決まりのセレモニーといった感が強いが、それでも”さぁ、出発だ”という意気込みが湧いてくる。
戦士、魔法使い、僧侶、細工師の面々が、一つ目の扉、二つ目の扉をくぐり、ダンジョン入口のロビーとも言える少し広い空間に出る。それと同時に外界との唯一の繋がりである二つの扉が閉ざされ、ここから先は命の保証はないぞと言わんばかりの冷たい音がダンジョン内に響き渡った。
さぁ、これでもう後戻りはできない。今回の任務は単純なダンジョン踏破ではなく、その目的は最深部に関する秘密を解き明かす事にある。力押しだけでは達成できない仕事だ。
決意を新たにした瞬間、ボクはとんでもない事に気が付いた。パーティーのリーダーをまだ決めていなかったのである。仮に何度も同じメンバーで組んだパーティーであっても、やはりリーダーは必要だ。皆が同じ権限を持っていると、状況が深刻になった時ほど判断が遅れたり揉めたりするものである。
ましてや知らない者同士のパーティーならば、尚更はっきりと、しかも皆が納得をするリーダーを決めておかなくてはならないのだ。いや、これは初手から大失敗である。やはり心のどこかで、命を懸ける事のないであろう簡単な任務、真相を解明できなくても前金だけは貰える損のない仕事とタカをくくっていたのだろうか。
しかも四人全員がそれに気づいていなかったとなると、これはかなり深刻な事態である。だが、既にダンジョンへ入ってしまったからには後戻りはできない。早々にリーダーを定めなくては……。
「あ~、皆さん。ボクらは大切な事を決めるのを忘れていたようです。この探索のリーダーを誰にするのか、遅ればせながら早急に決めてしまいましょう」
だがボクの提案に、誰も慌てた様子を見せる様子がない。
「いやぁ、それはもう決まっている事ですよ。ですから私たちは敢えてその話をしなかったのです」
ザレドスが微笑んで返す。
え? ボクのいないところでリーダーを決めていたって事なのか。そりゃ、ちょっと酷いなぁ。少し驚いて周りを見回す。
「……それで、誰に決まったのですか」
皆は少し黙っていた後、一斉にボクの方に顔を向ける。
「あなたですよ、スタン。あなた以外にはない」
ザレドスの言葉に一瞬、目が点になる。
「え、ボク?」
「あなた、見た目はまだ若いが、恐らくはそれをはるかに超える年月を生きていらっしゃるだろうし、経験も知識も私たちの中では群を抜いているでしょう?
あなたと旧知の仲のゲルはもちろんの事、ポピッカと私にも、それくらいの事を察する力量はありますよ」
ザレドスの穏やかな声が、ダンジョンの壁に反響する。
「ま、そういうこったな。頼むぜ、旦那」
「よろしく、お頼み申しますわね」
ゲルドーシュとポピッカが、続けて言葉をかける。
「え? もう決まっていた……。しかし、そんな簡単に決めてしまって良いのですか」
想像もしなかった答えにうろたえるボク。
「もちろん!」
三人の仲間の声が揃う。
「じゃぁ、早速方針を聞こうじゃねぇか、リーダー?」
からかい口調のゲルドーシュが、イタズラっぽくボクに語りかける。
よし……、リーダーを拝命したからには全力を尽くすのみ。ボクは心を決め、探索の第一歩を踏みだした。
短い話し合いの結果、とりあえずは次の呼び方に落ち着いた。
まずはゲルドーシュ、明らかに咄嗟に呼ぶには長い名前だ。そんな彼の探索ネームは大抵「ゲル」である。この戦士も、意外とその呼ばれ方を気に入っているらしい。
次にポピッカとザレドスであるが、彼らの名前はギリギリOKという事で、そのまま呼ばれる事となる。
そして最後にボクはといえば、ファーストネームの「スタン」に決定した。ただし、ゲルドーシュはボクの事を”旦那”と呼ぶ。まぁ、これくらいの融通は効かせても良いだろう。
やるべき事を終え、探索前の最後のお茶を皆ですする。ラウンジに常備されているルトファッサン小麦で作ったクッキーが、旅立ち前の短い休息を楽しいものにした。
「では、みなさん。そろそろお願い致します」
頃合を見計らったように役人が迎えに来る。
「よっしゃ、行くか!」
ゲルドーシュの掛け声を皮切りに各々が席を立ち、ボクたちは小洒落たラウンジをあとにした。
キャンプモードに変形したビークルから百メートルほど行ったところに、ダンジョンの入り口がある。建設当時からある扉の外側にもう一つ管理用の扉があり、その周りを州兵が物々しく取り囲んでいた。
役人の指示を受けた州兵隊長号令の下、一つ目の扉、そして二つ目の扉が開く。いやが上にも緊張感が高まっていく。あのゲルドーシュでさえ、生唾を飲み込んでいるのがハッキリと分かる。
「では皆さん、よろしくお願い致します。ご武運を」
決まり切った文句を依頼担当者の役人が無機質に発し、州兵が剣を胸中央にまで揚げ”捧げスウォード”の礼式を取った。敬意を表すというよりも、今やお決まりのセレモニーといった感が強いが、それでも”さぁ、出発だ”という意気込みが湧いてくる。
戦士、魔法使い、僧侶、細工師の面々が、一つ目の扉、二つ目の扉をくぐり、ダンジョン入口のロビーとも言える少し広い空間に出る。それと同時に外界との唯一の繋がりである二つの扉が閉ざされ、ここから先は命の保証はないぞと言わんばかりの冷たい音がダンジョン内に響き渡った。
さぁ、これでもう後戻りはできない。今回の任務は単純なダンジョン踏破ではなく、その目的は最深部に関する秘密を解き明かす事にある。力押しだけでは達成できない仕事だ。
決意を新たにした瞬間、ボクはとんでもない事に気が付いた。パーティーのリーダーをまだ決めていなかったのである。仮に何度も同じメンバーで組んだパーティーであっても、やはりリーダーは必要だ。皆が同じ権限を持っていると、状況が深刻になった時ほど判断が遅れたり揉めたりするものである。
ましてや知らない者同士のパーティーならば、尚更はっきりと、しかも皆が納得をするリーダーを決めておかなくてはならないのだ。いや、これは初手から大失敗である。やはり心のどこかで、命を懸ける事のないであろう簡単な任務、真相を解明できなくても前金だけは貰える損のない仕事とタカをくくっていたのだろうか。
しかも四人全員がそれに気づいていなかったとなると、これはかなり深刻な事態である。だが、既にダンジョンへ入ってしまったからには後戻りはできない。早々にリーダーを定めなくては……。
「あ~、皆さん。ボクらは大切な事を決めるのを忘れていたようです。この探索のリーダーを誰にするのか、遅ればせながら早急に決めてしまいましょう」
だがボクの提案に、誰も慌てた様子を見せる様子がない。
「いやぁ、それはもう決まっている事ですよ。ですから私たちは敢えてその話をしなかったのです」
ザレドスが微笑んで返す。
え? ボクのいないところでリーダーを決めていたって事なのか。そりゃ、ちょっと酷いなぁ。少し驚いて周りを見回す。
「……それで、誰に決まったのですか」
皆は少し黙っていた後、一斉にボクの方に顔を向ける。
「あなたですよ、スタン。あなた以外にはない」
ザレドスの言葉に一瞬、目が点になる。
「え、ボク?」
「あなた、見た目はまだ若いが、恐らくはそれをはるかに超える年月を生きていらっしゃるだろうし、経験も知識も私たちの中では群を抜いているでしょう?
あなたと旧知の仲のゲルはもちろんの事、ポピッカと私にも、それくらいの事を察する力量はありますよ」
ザレドスの穏やかな声が、ダンジョンの壁に反響する。
「ま、そういうこったな。頼むぜ、旦那」
「よろしく、お頼み申しますわね」
ゲルドーシュとポピッカが、続けて言葉をかける。
「え? もう決まっていた……。しかし、そんな簡単に決めてしまって良いのですか」
想像もしなかった答えにうろたえるボク。
「もちろん!」
三人の仲間の声が揃う。
「じゃぁ、早速方針を聞こうじゃねぇか、リーダー?」
からかい口調のゲルドーシュが、イタズラっぽくボクに語りかける。
よし……、リーダーを拝命したからには全力を尽くすのみ。ボクは心を決め、探索の第一歩を踏みだした。
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