ヴォルノースの森の なんてことない毎日 《第二部》 (オムニバス短編集)

藻ノかたり

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ニールの目ざめ (9) 魔女ポッテル

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ニールは苦笑しながら、頭をククドゥルの方へ向け、

「ククドゥル、もう一つ声を飛ばしてくれないかい?」

彼が真の功労者へ、優しく声を掛けました。

「え? 今のだけじゃダメ?」

意外な申し出に、ニワトリ顔の少女が怪訝な顔をします。彼女自身、手柄うんぬんなんて考えてはいませんでしたが、ちょっとマリアに上手く利用されてしまったなとは感じておりました。

「今の魔法は、それでとても素晴らしいよ。でもさ、もし保健室にポッテル先生がいなかったらどうだろう?」

ニールの的を射た考えに、皆が「あぁ…」と、うなずきます。確かに保健の先生だからといって、いつも必ず保健室にいるとは限りませんからね。

「だから、もう一回、今度は職員室へ声を飛ばしてほしいんだ」

ニールのしごくもっともな意見に納得したックドゥルは、職員室へも先ほどと同じ魔法の泡を差し向けました。そしてニールが自分の魔法を”素晴らしい”と言ってくれたのを思い出し、少し頬を赤らめます。

彼女はどうして、ニールの指示にすぐ従ったのかですって? それは力の象徴であるドッジ、知の象徴であるマリアが、ニールに対して一目置いている事を、皆が知っていたからです。さしずめ、ニールはこのクラスの”徳”の象徴といったところでしょうか。

「さすがは、ニール。良く気がつくよな。マリア、肝心な所が抜けているお前とは大違いだ」

ドッジが新たな材料を得て、得意げにマリアへ詰めよりました。

「何よ、私だって……!」

マリアがそう言いかけた時、

「ほら、静かにして。病人がここにいるんだよ!?」

相変わらず、グッタリとしてるシャーロットを指さして、ニールがきつめの口調で二人をたしなめます。

病人よりも、自分たちの功に熱心だったと気がついた二人は、途端に昼間の朝顔のようにしおれていきました。

「それじゃぁ、ボクは念のため、様子を見に行ってくる。先生たちもここへ来るまでに、少しでも事情が分かった方がいいだろうからね」

ニールはそう言うと、教室の扉の方へと駆け出します。

「おい、ニール。そんなら俺が……!」

反省しきりのドッジが言いかけますが、

「いや、いいよ。君は先生たちが来た時に都合がいいよう、みんなを指揮して教壇とか机をどかしておいてくれ」

と、ニールはガキ大将にも花を持たせようとします。

”せめて……、魔法の使えないボクに、これくらいの事はさせてくれ”

ニールは劣等感とも罪悪感ともつかない感情を抱きながら、心の中でそう呟きました。

未だ喧騒収まらぬ教室を後にした彼は、新校舎へと続く廊下をひた走ります。これが結構長い事、長い事。ようやく半分屋外にある通路の終わりに差し掛かろうとした時、前方から大人の一団がやって来るのがニールの目に入ります。

「ニール!」

先頭を走っているのは、白衣をまとった保健養護のポッテル先生です。三十代半ばの女の先生で、魔女協会から派遣されている第五等級の魔女でした(全 十等級)。ヴォルノースの世界では、魔女は薬づくりのエキスパートであり、薬品に関係のある魔法を使える者がその名で呼ばれます。

「先生、早く! シャーロット先生がお腹を押さえて倒れてます。喋る事も出来ないみたい」

新校舎側の廊下の入り口で、相まみえた二人が会話を交わしました。ニールはクラスの保健委員を務めており、ポッテルとは仲良しです。そんな事もあって、彼女が常に保健室にいるわけではないと、すぐに思いついたのですね。

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