ヴォルノースの森の なんてことない毎日 《第二部》 (オムニバス短編集)

藻ノかたり

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ニールの目ざめ (16) プリン

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彼は体格も良く、大変おごそかな声であり、おまけに髭まで蓄えているという事もあって、生徒たちには”優しいが、威厳のある先生”として定評がありました。あのドッジですら、素直に言う事を聞くくらいですからね。

「まぁ、今週は色々な先生が来ると言っても、急な話だから、私もこのクラスの授業を割と担当します、よろしくね」

と、メリドルが改めて挨拶をしました。

「先生は、音楽の先生じゃないんですかぁ?」

好奇心旺盛なマリアが尋ねます。

「専門は、音楽なんだけどね。小学校の先生は、基本的に全部の教科を教えられるんだ。私も若い頃は、色々と教えていたよ」

彼の告白は皆にも意外だったようで、そこかしこから”へぇ~”という声が漏れ出しました。

「さぁ、では出欠を取ります」

メリドルがその美声で、一人一人の名前を読み上げて行きます。メロディーこそついていませんが、ちょっとした音楽会の様相でした。姉御肌のシャーロットとは、えらい違いです。やがて出欠を取り終えた音楽家は、生徒たちがその余韻に浸っているのを尻目に、離れ小島を後にしました。

「さぁってと、一時間目の国語の授業、誰が来るか当てっこしないか? 賞品は今日の給食に出る、プリンでどうだ」

献立表を一週間先まで暗記しているドッジが、まわりを誘い込もうとします。彼は、こういうチョットした遊びを考える天才でした。もっとも大人から見れば、眉をひそめる楽しみも多いのですけどね。

「ちょっと、ドッジ。やめなさいよ。それはもう、バクチって話になっちゃうわよ」

耳ざといマリアが、早速、とがめ立てをします。

「バクチって、そんな大げさなもんじゃねぇよ。ヴォルノースっ子は宵越しの銭は持たねぇ、って話さ」

ドッジがよくわからない言い訳をすると、彼のニールとは違う方面の仲間が、やんやんやと喝采を送りました。

「ちょっと、ニール。何とか言ってやってよ」

悪童たちの集団攻撃に怯んだマリアは、クラスの徳の象徴に助けを求めます。

「まぁ、ほどほどにね」

こういう事には余りうるさくないニールが、やんわりとお墨付きを与えました。

「ほうら、ニールさまもお認めだ」

勝ち誇ったように、ドッジがマリアの方へ顎を突き出します。

「もう。男の子は、これだから!」

思わぬニールの言葉に、マリアはプイッと横を向いてしまいました。彼女の打たれ弱い一面が、顔をのぞかせます。

「でもさ、ドッジ。自分が負けたからって”あれは、ウソんこ”とか言って、ごまかすなよ」

マリアがヘソを曲げてしまったのを見て、チョット困った顔になったニールでしたが、気を取り直して、ニヤリと笑いながらガキ大将の旧悪に触れました。

「そうだ、そうだ。ちゃんと、約束は守れよな」

過去の被害者でもある悪仲間たちが、はやし立てます。

「バ、バカ言うな。ヴォ、ヴォルノースっ子に、二言はねぇよ」

マリアを言い負かした勝利の余韻も束の間、思わぬ事態にまごつくドッジ。

そんな他愛もないやり取りが続く中、教室のドアが開きます。どうやら一時間目を受け持つ先生が来たようですね。第一回目の賭けは、これでお流れとなりました。


そして、あっという間に時は流れ、今は給食の時間。

最初の内はドキドキしていた生徒たちも、ここまでくると、今までの日常と違う新鮮さは急速に衰えていきます。もうずっとこんな感じではなかったかと思うくらい、、すっかり慣れっこになってしまいました。

「あれぇ? ドッジ、プリンは、どうしたのぉ?」

お盆に給食を乗せ自分の席に戻るマリアが、ドッジの横を通りがてらに尋ねます。もちろん、皮肉たっぷりの言い方で。
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