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幽霊と宝の塔 (2) 故郷
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一方、アトリオは塔の二階にある隊長室へと赴き、異常なしとの報告を上司にいたしました。
「そうか、ご苦労。ゆっくりと、休んでくれ」
髭面をした四十がらみの隊長が、いつものように部下の労をねぎらいます。
「……隊長、お顔の色が優れないようですが」
若輩であるアトリオは、余計なお世話であるとは思いつつ、ここ何日か、具合の悪そうな隊長を気遣います。
「あぁ、少し調子の悪い日が続いてな。だが、単なる風邪か何かだろう」
隊長はアトリオの心配を振り払うかのように、努めて笑顔を作りました。
隊長の執務室を出たアトリオは、別棟にある宿舎へと向かいます。狭い敷地の中からチラリと塔の上を見ると、退屈そうに突っ立っているデルソントのシルエットが、かろうじて見えました。
宿舎の食堂で食事を済ませたアトリオは、そのまま自室へと向かいます。この塔の防衛任務は、肉体的にも精神的にも過酷です。それゆえ兵士には、一人一人個室が与えられ、プライバシーの尊重された良好な住環境が約束されておりました。
隊長は、大丈夫だろうか?
食堂でもらってきたお湯でお茶を入れながら、アトリオは気をもみます。隊長は一騎当千の勇士であると同時に、優れた指揮官でもありました。その隊長の具合が悪くては、防衛任務にも支障をきたす恐れがあると、彼は考えたのです。
そういえば、最近、城からの使者が来ないよなぁ。今までは定期的に、それなりのお偉いさんに見える人が隊長の所へ来ていたみたいなんだが……。
アトリオは、湯気の立つお茶をすすりながら考えます。
その時、カップを持つ右腕に輝く金色のブレスレットが、彼の目に留まりました。
「ホンドレック。お前のくれたブレスレットのおかげで、今までなんとか生き延びる事ができてるよ」
アトリオは、故郷に残してきた偏屈な親友の顔を思い浮かべます。
ホンドレックは同い年の鍛冶屋の息子で、腕前は既に、師匠である父親の域に近づいているものの、大変気難しいところがありました。それゆえ、仕事以外で付き合いのある者といったら、近所に住んでいたアトリオくらいしかおりません。
陽気なアトリオと、変わり者のホンドレック。性格が真逆の二人ですが、妙に気が合い、親友となりました。
アトリオがつけているブレスレットは、彼が王宮の兵士として村を離れる時に、餞別としてホンドレックが送った品なのです。もちろん彼自身が丹精こめて打ったものであり、表面には手の込んだ素晴らしい細工が施されておりました。幸運を呼び込むという迷信があるデザインです。
アトリオは、そのブレスレットをしみじみと眺めながら思います。
「俺はまだまだ半人前だが、いつか必ず”あの時”の借りは返すからな。楽しみに待っていてくれよ」
アトリオは子供の頃の光景を心に浮かべ、ブレスレットの事といい、世話になりっぱなしの親友の存在に思いをはせました。
記憶の中から友の顔を呼び覚まそうと、まぶたを閉じるアトリオ。ですが、目の前が真っ暗になると、恐ろしいほどの睡魔が襲ってきます。ソファはまるで心地よいゆりかごのように感じられ、ベッドに移る間もなく、彼はそのまま眠りの底へと落ちて行きました。意識が薄れる彼の脳裏に、ふと食堂で隣のテーブルから聞こえて来た会話が、ぼんやりと浮かびあがります。
そういえば、デニスの奴。昨日から姿が見えないんだ。いくら探しても見つからない。
確か、そんな話でした。
しかし深く考える間もなく、アトリオの意識は闇の中へと消え去ります。
彼が次に目覚めたのは、パトロールの時間の直前でした。宝物塔の周りに巡らされた壁の外周及び、その周辺の森を巡回するのです。
「しまった。あのまま、寝ちまったか!」
飛び起きたアトリオは、慌てて支度をして食堂へと向かいました。集合時間に遅れそうではありますが、腹が減っては戦が出来ぬ、ではなくパトロールも出来ません。黙って立っているだけの見張り台での仕事とは違い、数時間にわたって歩き続ける任務です。空腹のまま出立すれば、途中で倒れてしまうのは明らかでしたし、獣や魔物と出くわした時、十分な働きが出来ません。
「そうか、ご苦労。ゆっくりと、休んでくれ」
髭面をした四十がらみの隊長が、いつものように部下の労をねぎらいます。
「……隊長、お顔の色が優れないようですが」
若輩であるアトリオは、余計なお世話であるとは思いつつ、ここ何日か、具合の悪そうな隊長を気遣います。
「あぁ、少し調子の悪い日が続いてな。だが、単なる風邪か何かだろう」
隊長はアトリオの心配を振り払うかのように、努めて笑顔を作りました。
隊長の執務室を出たアトリオは、別棟にある宿舎へと向かいます。狭い敷地の中からチラリと塔の上を見ると、退屈そうに突っ立っているデルソントのシルエットが、かろうじて見えました。
宿舎の食堂で食事を済ませたアトリオは、そのまま自室へと向かいます。この塔の防衛任務は、肉体的にも精神的にも過酷です。それゆえ兵士には、一人一人個室が与えられ、プライバシーの尊重された良好な住環境が約束されておりました。
隊長は、大丈夫だろうか?
食堂でもらってきたお湯でお茶を入れながら、アトリオは気をもみます。隊長は一騎当千の勇士であると同時に、優れた指揮官でもありました。その隊長の具合が悪くては、防衛任務にも支障をきたす恐れがあると、彼は考えたのです。
そういえば、最近、城からの使者が来ないよなぁ。今までは定期的に、それなりのお偉いさんに見える人が隊長の所へ来ていたみたいなんだが……。
アトリオは、湯気の立つお茶をすすりながら考えます。
その時、カップを持つ右腕に輝く金色のブレスレットが、彼の目に留まりました。
「ホンドレック。お前のくれたブレスレットのおかげで、今までなんとか生き延びる事ができてるよ」
アトリオは、故郷に残してきた偏屈な親友の顔を思い浮かべます。
ホンドレックは同い年の鍛冶屋の息子で、腕前は既に、師匠である父親の域に近づいているものの、大変気難しいところがありました。それゆえ、仕事以外で付き合いのある者といったら、近所に住んでいたアトリオくらいしかおりません。
陽気なアトリオと、変わり者のホンドレック。性格が真逆の二人ですが、妙に気が合い、親友となりました。
アトリオがつけているブレスレットは、彼が王宮の兵士として村を離れる時に、餞別としてホンドレックが送った品なのです。もちろん彼自身が丹精こめて打ったものであり、表面には手の込んだ素晴らしい細工が施されておりました。幸運を呼び込むという迷信があるデザインです。
アトリオは、そのブレスレットをしみじみと眺めながら思います。
「俺はまだまだ半人前だが、いつか必ず”あの時”の借りは返すからな。楽しみに待っていてくれよ」
アトリオは子供の頃の光景を心に浮かべ、ブレスレットの事といい、世話になりっぱなしの親友の存在に思いをはせました。
記憶の中から友の顔を呼び覚まそうと、まぶたを閉じるアトリオ。ですが、目の前が真っ暗になると、恐ろしいほどの睡魔が襲ってきます。ソファはまるで心地よいゆりかごのように感じられ、ベッドに移る間もなく、彼はそのまま眠りの底へと落ちて行きました。意識が薄れる彼の脳裏に、ふと食堂で隣のテーブルから聞こえて来た会話が、ぼんやりと浮かびあがります。
そういえば、デニスの奴。昨日から姿が見えないんだ。いくら探しても見つからない。
確か、そんな話でした。
しかし深く考える間もなく、アトリオの意識は闇の中へと消え去ります。
彼が次に目覚めたのは、パトロールの時間の直前でした。宝物塔の周りに巡らされた壁の外周及び、その周辺の森を巡回するのです。
「しまった。あのまま、寝ちまったか!」
飛び起きたアトリオは、慌てて支度をして食堂へと向かいました。集合時間に遅れそうではありますが、腹が減っては戦が出来ぬ、ではなくパトロールも出来ません。黙って立っているだけの見張り台での仕事とは違い、数時間にわたって歩き続ける任務です。空腹のまま出立すれば、途中で倒れてしまうのは明らかでしたし、獣や魔物と出くわした時、十分な働きが出来ません。
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