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少年忍者、鎖鎌の刺客に敗北。
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僕の名前は音無ユイト。小学3年生。
お父さんとお母さんと僕の、ごくふつうの3人家族なんだけどーー
ことの発端はクリスマスイブの日、急にお母さんが入院することになったんだ。僕はお父さんに連れられて、おじいちゃんの家に向かっていた。お父さんが大晦日まで仕事だから、預かってもらえることになったんだって。
初めて会うおじいちゃん。ちょっと緊張するな……
自宅から高速を使い車で一時間。千石道場という看板のかかった門の前に車をとめて、僕とお父さんは門をくぐりおじいちゃんを訪ねた。
「椿お嬢様のご亭主ですね。わたしは千石先生の内弟子・蘭之と申します。……お嬢様から君のことは聞いているよ。よろしくね、ユイトくん」
「よろしく、おねがいします」
お母さんのことをお嬢様と呼ぶおじいちゃんのお弟子さんに、僕はぺこりと頭を下げた。20歳くらいだと思うけど、身体がとても大きくて強そうなお兄さん。
「ユイトのことをよろしくお願いします」
今日もお父さんは午後からお仕事。不在にしていたおじいちゃんに会わずに行くことを丁重にわびてから、門をくぐり出て行った。
仕事が忙しいのはわかってるけど、ちょっとくらい一緒にいてほしかったな……
「それじゃあ行こうか、ユイトくん」
「あの、ここって何の道場なんですか?」
「……お嬢様からはなにも?」
何気なく聞いたつもりだったけど、突然探るように聞かれ僕はドキッとする。何か、門外不出の秘密の道場というような気がしてくる。
「お母さんからは、おじいちゃんがいるなんて聞いたこともなくて。昨日、お父さんに言われて、だからおじいちゃんのことはなにも知りません」
「そうか、それじゃあユイトくんはこの道場に、おじいちゃんに会いに来たんだね」
他に何があるというんだろう。道場に修行に来たとでも思っていたんだろうか。それにしても質問に答えてくれない蘭之さんに、僕はどことなく不気味なものを感じていた。
ーー助けて……!
どこかから聞こえた声に、僕は思わず振り返る。
椿の咲いた、藪の中。あの奥から、誰かが助けを呼んでいる……!?
僕の名前は千石アヤト、12歳。修行の厳しい千石道場には、15歳より小さな子供は僕一人だけ。
千石という名字だけど、先生と血のつながりがあるのかはわからない。お母さんは街に住んでいるけど、先生との関係は謎だ。
まさか、恋人同士だった、とかではないよね……?
忍者としてまだまだ未熟な僕は、忍者装束を身に着け単独で山での修行をしていた。
険しい山奥と違い山のふもとは子どもの修行に適しているのだという。
あまり危険がなく、道に迷ったりけがをしても、笛を吹けば迎えに来てくれる。
ーーっ!! ほんの一瞬。少しの気配もなく背後を取られた僕は、鳥のようにも見える正体不明の黒いソレから2メートルほど間合いをとって様子を窺う。
「のろのろ歩いて何をしているかと思えば。人手が足りずにこんな小さな門下生まで入れるようになったのか? 千石道場は」
「水澤流の連中だ……!」
先生の代で千石道場から分かれた水澤流は、粘着術という得体のしれない術を使うという。小さな僕ではとても太刀打ちできない。
僕はすぐ人を呼ぼうと、胸元にあるはずの笛をさがす。
「フン、紐を切られたのにも気づかないか?」
「あっ」
僕は戦慄した。首もとに垂れた紐を切れるのなら、僕を殺すことだってできたはずだ。それをしなかったのは、僕がまだ幼いから? いや、そんな優しい連中じゃない。
多分、笛はすぐそばの足下に転がっているはず。でもそれを探したりすれば、また何かされるのが本能でわかる。
「あのっ、何か御用ですか……?」
ここは下手に出て、なんとか逃がしてはもらえないだろうか。
悔しいけど、僕はまだ戦力じゃないし正式な門下生でもない。僕を倒したところでこけおどしにもならないというもの。
「御本家様への宣戦布告だ。内弟子の蘭乃を探していたんだが……悪いが貴様には死んでもらう」
言い終わるや否や、刺客の手から放たれる鎖鎌。
「う、うわぁぁぁーー!!」
僕は間一髪、鎖と刃を転びながら避け、後ろずさりしながら鎌を避けつつ逃げに徹した。
幸い足は遅いほうじゃない。この坂を一気に上って、蘭乃さんのいる屋敷に逃げ込めば僕の勝ちだ。
重い鎖鎌を振り回す刺客を引き離すことができた僕は、刺客に背を向け逃げ続ける。
「なるほど悪くない手だがーー詰めが甘いぞ!」
鎖鎌の届かないくらいには、刺客との距離はあった。
「あっ」
だが僕の誤算は、刺客にしてみれば接近戦にさえしてしまえば、僕に勝てることを失念していたこと。
刺客の放った飛距離の長い鎖に右足首を絡め取られた僕は、
「くっ、やめて! ああああっ!!」
転ばされた僕は命乞いも空しく、冬の乾いた土の上を引きずられていく。爪を立て両足でふんばっても止まらない、僕は坂道を刺客のところまで引きずりおろされてしまった。
どこまでも僕は非力だ。黄土色に汚れた手のひらから力は抜けて、ひどい疲労感に両足も動かない。もし今背後の敵に尋常に勝負を挑まれたとして、僕は立ち上がって構えることさえできないだろう。
「……力尽きたか。まあいい」
「うっ、うぅ……」
勝負する前に負けた。僕は勝負から逃げたんだ。こんな奴に泣いてるところなんて見られたくないのに、悔し涙が止まらない。
首の後ろを引っ張られて、無理矢理刺客に顔を向けさせられる。
「将来、確実に千石道場の戦力になっていくお前を生かして帰すことはできない。なるべく痛くないようにしてやる。俺の一太刀で一思いに死ぬか、仲間の救援を待ちながら凍え死ぬか選ばせてやる」
本当に……? 僕、みんなの役に立てる日が来るのかな……?
「死にたくないよ……もっと強くなりたい……!」
お父さんとお母さんと僕の、ごくふつうの3人家族なんだけどーー
ことの発端はクリスマスイブの日、急にお母さんが入院することになったんだ。僕はお父さんに連れられて、おじいちゃんの家に向かっていた。お父さんが大晦日まで仕事だから、預かってもらえることになったんだって。
初めて会うおじいちゃん。ちょっと緊張するな……
自宅から高速を使い車で一時間。千石道場という看板のかかった門の前に車をとめて、僕とお父さんは門をくぐりおじいちゃんを訪ねた。
「椿お嬢様のご亭主ですね。わたしは千石先生の内弟子・蘭之と申します。……お嬢様から君のことは聞いているよ。よろしくね、ユイトくん」
「よろしく、おねがいします」
お母さんのことをお嬢様と呼ぶおじいちゃんのお弟子さんに、僕はぺこりと頭を下げた。20歳くらいだと思うけど、身体がとても大きくて強そうなお兄さん。
「ユイトのことをよろしくお願いします」
今日もお父さんは午後からお仕事。不在にしていたおじいちゃんに会わずに行くことを丁重にわびてから、門をくぐり出て行った。
仕事が忙しいのはわかってるけど、ちょっとくらい一緒にいてほしかったな……
「それじゃあ行こうか、ユイトくん」
「あの、ここって何の道場なんですか?」
「……お嬢様からはなにも?」
何気なく聞いたつもりだったけど、突然探るように聞かれ僕はドキッとする。何か、門外不出の秘密の道場というような気がしてくる。
「お母さんからは、おじいちゃんがいるなんて聞いたこともなくて。昨日、お父さんに言われて、だからおじいちゃんのことはなにも知りません」
「そうか、それじゃあユイトくんはこの道場に、おじいちゃんに会いに来たんだね」
他に何があるというんだろう。道場に修行に来たとでも思っていたんだろうか。それにしても質問に答えてくれない蘭之さんに、僕はどことなく不気味なものを感じていた。
ーー助けて……!
どこかから聞こえた声に、僕は思わず振り返る。
椿の咲いた、藪の中。あの奥から、誰かが助けを呼んでいる……!?
僕の名前は千石アヤト、12歳。修行の厳しい千石道場には、15歳より小さな子供は僕一人だけ。
千石という名字だけど、先生と血のつながりがあるのかはわからない。お母さんは街に住んでいるけど、先生との関係は謎だ。
まさか、恋人同士だった、とかではないよね……?
忍者としてまだまだ未熟な僕は、忍者装束を身に着け単独で山での修行をしていた。
険しい山奥と違い山のふもとは子どもの修行に適しているのだという。
あまり危険がなく、道に迷ったりけがをしても、笛を吹けば迎えに来てくれる。
ーーっ!! ほんの一瞬。少しの気配もなく背後を取られた僕は、鳥のようにも見える正体不明の黒いソレから2メートルほど間合いをとって様子を窺う。
「のろのろ歩いて何をしているかと思えば。人手が足りずにこんな小さな門下生まで入れるようになったのか? 千石道場は」
「水澤流の連中だ……!」
先生の代で千石道場から分かれた水澤流は、粘着術という得体のしれない術を使うという。小さな僕ではとても太刀打ちできない。
僕はすぐ人を呼ぼうと、胸元にあるはずの笛をさがす。
「フン、紐を切られたのにも気づかないか?」
「あっ」
僕は戦慄した。首もとに垂れた紐を切れるのなら、僕を殺すことだってできたはずだ。それをしなかったのは、僕がまだ幼いから? いや、そんな優しい連中じゃない。
多分、笛はすぐそばの足下に転がっているはず。でもそれを探したりすれば、また何かされるのが本能でわかる。
「あのっ、何か御用ですか……?」
ここは下手に出て、なんとか逃がしてはもらえないだろうか。
悔しいけど、僕はまだ戦力じゃないし正式な門下生でもない。僕を倒したところでこけおどしにもならないというもの。
「御本家様への宣戦布告だ。内弟子の蘭乃を探していたんだが……悪いが貴様には死んでもらう」
言い終わるや否や、刺客の手から放たれる鎖鎌。
「う、うわぁぁぁーー!!」
僕は間一髪、鎖と刃を転びながら避け、後ろずさりしながら鎌を避けつつ逃げに徹した。
幸い足は遅いほうじゃない。この坂を一気に上って、蘭乃さんのいる屋敷に逃げ込めば僕の勝ちだ。
重い鎖鎌を振り回す刺客を引き離すことができた僕は、刺客に背を向け逃げ続ける。
「なるほど悪くない手だがーー詰めが甘いぞ!」
鎖鎌の届かないくらいには、刺客との距離はあった。
「あっ」
だが僕の誤算は、刺客にしてみれば接近戦にさえしてしまえば、僕に勝てることを失念していたこと。
刺客の放った飛距離の長い鎖に右足首を絡め取られた僕は、
「くっ、やめて! ああああっ!!」
転ばされた僕は命乞いも空しく、冬の乾いた土の上を引きずられていく。爪を立て両足でふんばっても止まらない、僕は坂道を刺客のところまで引きずりおろされてしまった。
どこまでも僕は非力だ。黄土色に汚れた手のひらから力は抜けて、ひどい疲労感に両足も動かない。もし今背後の敵に尋常に勝負を挑まれたとして、僕は立ち上がって構えることさえできないだろう。
「……力尽きたか。まあいい」
「うっ、うぅ……」
勝負する前に負けた。僕は勝負から逃げたんだ。こんな奴に泣いてるところなんて見られたくないのに、悔し涙が止まらない。
首の後ろを引っ張られて、無理矢理刺客に顔を向けさせられる。
「将来、確実に千石道場の戦力になっていくお前を生かして帰すことはできない。なるべく痛くないようにしてやる。俺の一太刀で一思いに死ぬか、仲間の救援を待ちながら凍え死ぬか選ばせてやる」
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